SNSに流れてきた画像を見て、「指の数がおかしいからAI生成の画像だ」と判断した経験はないだろうか。私たちが何気なく楽しんでいるその無自覚な行為は、AIに暴力的な「正しさ」を教えてしまっているかもしれない。

7月8日(水)にWACA(一般社団法人ウェブ解析士協会)主催によるオンラインセミナーにて、現代美術家・窪田望のドキュメンタリー映像作品『AIが消し去る声』の上映会とディスカッションが開催される。
同作は、生まれつき手や指の形や本数が異なる「裂手症」の当事者や医療従事者との対話を通じて制作され、世界最高峰のデジタルアートの国際賞『プリ・アルス・エレクトロニカ2026』のデジタルヒューマニティ部門で栄誉賞を受賞したばかりの注目作。AIが出力する「5本指ではない手」を、単なる技術的な欠陥として片付けることはせずに、現実社会に存在する多様な手の形と向き合う中で、画像生成AIで人物の画像を作成したとき、果たしてどの身体が「正常」として選択され、どの身体が「エラー」として排除されていくのかという基準について問いかけている。

これは決して遠い開発者の話ではなく、日々スマホやPCでAIを操作している私たち自身の問題。
現在、SNSでは「手の指がおかしい=AI生成のフェイク画像」と見破る行為が、ひとつのネットミームとしてカジュアルに行われている。さらに、画像生成AIに対し、「サイバーパンクな江戸時代」のように歴史を無視した世界観を描かせ、それを「想像力が豊かだ」と大喜びで消費していく。しかし私たちは、AIがその枠をはみ出し、指の数が異なったり関節が多い手を出力した途端、パニックを起こし「エラー」だと拒絶してしまう。AIの出力結果に求めている「正しさ」とは何だろうか。
私たちは「人間として正しい」形を出せと要求しているつもりになっているが、決して生物学的な正確さを求めているわけではない。風景であれ人間の身体であれ、私たちが求めているのは「自分たちが見慣れた平均値」というシンプルな事実。「サイバーパンクな江戸時代」でさえも、既存のSF映画やアニメのステレオタイプを組み合わせただけの「見慣れたポップカルチャーの平均値」と言える。見慣れない身体を「エラー」として処理する反射的な不寛容さも、決して正義などではなく、私たちの内側にある「見慣れた型」への強固な執着の表れと言っていい。
いつか、裂手症などの当事者が自身の日常の写真をSNSにアップした際、正義感に駆られたユーザーたちから「指の数が違うから、AIのフェイク画像だ」と攻撃される日が来るかもしれない。「正常な身体の基準」がAIによって極端に最適化されることで、生身の身体的差異に対する修正されるべき「エラー」という認識そのものが、社会全体で激化していく危険性を持つ。デジタル上のカジュアルなフェイク画像探しが、現実のマイノリティへの冷酷な迫害へと直結する、リアルで深刻な脅威となる。

私たちは、「使いやすいAI」「誰も違和感を抱かない画像」を目指して「5本指ではない手」を不具合として弾き続けるという、無意識のシステム化が孕む暴力性にあまりにも無自覚。AIが意図した通りの画像を出力させるために、ユーザーがモデルを制御し、ノイズを減らしていくのは技術の進化として自然な成り行きと言えるが、特定の身体を「エラー」として学習させる行為は、多様な身体を不可視化する残酷な分類システムそのものとなる。
私たちに必要なのは、AIで生成した画像をエラーとして拒絶し、ワンクリックで再生成する前に、一度手を止めて想像するプロセスを持つこと。かつて「ネット上の情報を鵜呑みにしない」というネットリテラシーを学んだように、これからの新世代は新たな「AIリテラシー」——すなわち、「AIを調教する側のリテラシー」を修得しなければならない。効率よく理想の画像を出すために、自分が何を「エラー」として切り捨てているのか。「見慣れた型」への均質化によって、暴力に加担しないための想像力と倫理観を持つことは新たな必須科目となる。
ドキュメンタリー『AIが消し去る声』上映会&ディスカッション

ドキュメンタリー『AIが消し去る声』上映会&ディスカッション
開催概要
日時:2026年7月8日(水)20:00〜21:30
形式:オンライン
費用:無料
参加要件
本セミナーはWACA会員限定です。取材でご視聴なさる場合は事務局までご連絡ください。
seminar@waca.or.jp