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「何のために美術があるのかを、最も考えた20年だったと思います」(中野)
2006年から2007年にかけて、番組の放送開始30年を記念した企画展『NHK日曜美術館30年展』が全国5会場を巡回して開催された。それから約20年。国内では、東日本大震災をはじめとする数々の自然災害が発生し、世界に目を向ければコロナ禍に見舞われた。ミュージアムが閉鎖され、表現の場が奪われるという危機に直面し、「なぜ今、美術が必要なのか」をかつてないほど自問自答した時間だったと言えるだろう。そして紛争と分断は、現在も各地で絶えず繰り返されている。
中野:30年展のときと今回との大きな違いは、第4章「災いと美」の存在です。何のために美術があるのかを、最も考えた20年だったと思います。
長井:コロナ禍の時はミュージアムで準備していた展覧会の多くが開催できず、休館せざるを得なくなり、私たちも大ピンチに陥りました。一体どうしたらいいだろう、と工夫するなかで放送したのが、「疫病をこえて 人は何を描いてきたか」(初回放送日2020年4月19日)。過去を遡ってみると人類は古代から、自然災害や疫病、争いといった恐怖を乗り越えるため、祈りを込めて美を生み出してきた歴史があるんですよね。
そしてこの展覧会の準備を進めていく中で、私たち人類は衣食住だけでなく、美も絶対に必要不可欠だということを、50年やってきた今だからこそ言ってもいいのではないかと考えました。誰もが「何かをつくる」「表現する」「美で心をうるおす」ということが欠かせないのでは、と。本展に関連する番組などでも折にふれて言い続けてきましたね。

目まぐるしく変わり続け、混沌とした現代社会において、美術や文化は何ができるのか。多くの作り手や芸術文化に携わる人々が、日々試行錯誤しながら考えているテーマだろう。では、50年続いてきた番組制作の場ではどうか。変えてきたこと、変わらないこととは。
中野:まず変えてきたことで言えば、これまでは物故作家、つまりすでに亡くなった方々を扱うことが比較的多かったですが、近年は美術史で一定以上の評価がなされている現存作家の方々も取り上げるようになってきました。
また、コロナ禍以降は特にでしょうか、若い世代がミュージアムへ足を運ぶことが増えました。そのことをきっかけにスタートしたのが、「まなざしのヒント」という、作品の見方を講義形式で分かりやすくご紹介するシリーズです。芸術文化の受け取り手の幅が広がり、新たにミュージアムを訪れる層が増えてきているからこそ、新たな視聴者にもお届けしたい、お届けしなければいけないという気持ちで放送しています。そして多くの方々に楽しんでいただける番組をこれからも、という想いは変わりません。
最後に、改めて展覧会への想いと、この先50年の『日曜美術館』について伺った。
中野:この展覧会が、アートに何ができるんだろう、なぜ存在するんだろう、そしてなぜ観たくなるんだろうと、いろいろな問いを考えるきっかけになれたら嬉しいですね。そしてやっぱり作品は、作家が生きて考えてきたことが形になったものだと思うので、作品を紹介することは作家本人を紹介することだと考えています。なので番組の「芯」の部分には、変わらずにこれからの50年も「人間」が存在し続けるでしょう。
作品を観て、「わかるなぁ」もしくは「全然わからないなぁ」と思うときもあるだろうし、「美しいな、綺麗だな」と思うこともあれば、「なんだか観ていてモヤモヤするな、違和感があるな」という場合もあると思う。それはそこに作家本人が見えてくるからであり、だからこそ時代も国も超えて、作品に普遍性が生まれるのでは、と。

『NHK日曜美術館50年展』

会場:東京藝術大学大学美術館(東京・上野)
〒110-8714 東京都台東区上野公園12番8号
会期:2026年3月28日(土)~6月21日(日)
開館時間:10:00~17:00(※入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日
主催:東京藝術大学、NHK、NHKプロモーション
企画協力:NHKエデュケーショナル
協賛:NISSHA
公式サイト:https://nichibiten50.jp/
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)*午前9時~午後8時、年中無休
巡回情報:
■静岡会場 2026年7月18日(土)~9月27日(日) 静岡県立美術館
■大阪会場 2026年10月10日(土)~12月20日(日)大阪中之島美術館