INDEX
『冬のなんかさ、春のなんかね』で演じる役柄への違和感の正体
2026年6月にPrime Videoで配信されるドラマ『クロエマ』にて多部未華子とのダブル主演が発表されたばかりの杉咲花。現在は、日本テレビのドラマ『冬のなんかさ、春のなんかね』にヒロインの土田文菜役で出演している。
正直、1話を見たときには居心地が悪かった。なぜなら深夜のコインランドリーで、イヤホンで聴いていたTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの音漏れをきっかけに、出会ったばかりの佐伯ゆきお(成田凌)の家にまで押しかけるという危なっかしい役を演じていたからだ。物語が進んだ今でこそ、文菜がなぜそうしたのかが理解できるが、1話で突然やられると、見ていられなかった。
たぶん危なっかしく見えたのは、杉咲花という俳優に対して我々が抱いていたイメージのせいもあっただろう。テレビCMでは、団欒の中にいる明るい娘の役割を演じ、朝ドラ『とと姉ちゃん』(2016年)ではヒロインの妹、大人気作品『花より男子』の続編である『花のち晴れ〜花男 Next Season〜』(2018年)でもヒロインを好演。朝ドラ『おちょやん』(2020年)でもヒロインを演じた。どれも明るく大衆性のある役柄だ。それとは真逆のイメージが、文菜という役にはある。

1997年10月2日生まれ、東京都出身。映画『湯を沸かすほどの熱い愛』で第40回日本アカデミー賞の最優秀助演女優賞・新人俳優賞など多くの映画賞を受賞。主な出演作に、ドラマ『花のち晴れ~花男 Next Season~』、連続テレビ小説『おちょやん』、映画『十二人の死にたい子どもたち』『52ヘルツのクジラたち』などがある。映画『朽ちないサクラ』が2024年、『片思い世界』が2025年に公開。
INDEX
映画『市子』やドラマ『アンメット』の好演。明るい役に留まらない活躍
しかし、実は杉咲はこれまでも、明るいイメージとは真逆の作品にも出演している。
特に映画『市子』(2023年)では、ある事情で戸籍を持っていないヒロインの壮絶な人生を演じた。監督からのオファーの際にもらった手紙には「監督人生においての分岐点になる」と書かれていたと各所で語られているが、杉咲にとっても分岐点になった作品なのではないだろうか。
この映画で共演した若葉竜也をドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系、2024年)の共演者として推薦して、再び共演。『アンメット』でも、『市子』に通じるようなリアルな芝居を見せた。
特に『アンメット』で忘れられないのは、杉咲演じる記憶障害の脳外科医・川内ミヤビと、若葉演じる医師の三瓶友治とのシーンだ。ふたりがケープタウンの学会に行った際、新型ウィルスの集団感染により隔離され、ひとつの部屋でろうそくの光を見ながら語り合う場面は忘れられない。

それは、誰かを救うためには誰かを救えなくなってしまうジレンマに関して語り合うシーンであり、ドラマの中で最も重要な場面。もちろんストーリーについても記憶に残っているが、それ以上に、ふたりの演技の異質さも忘れられない。まるで、本当に誰もいない空間でふたりっきりでいるような、生々しさに、やはり私は、いたたまれないような心地になったのだった。
INDEX
文菜の恋愛観を変えた男性との交際遍歴
今作の『冬のなんかさ、春のなんかね』にも、同様のいたたまれなさがある。それはやはり、文菜と彼女をとりまく男性たちとのやりとりが、あまりにも生々しいからだろう。もはや、天真爛漫で陽のイメージだった杉咲の姿を忘れてしまうほどである。
ドラマの中で彼女が演じる文菜は、もともとは大学の友人が妻子持ちの男性とつきあっていることに対して、他人のことなのに憤るような、規範的でごく普通の女の子であった。
しかし、彼女はその後、同じ大学の佃武(細田佳央太)や、小説家の小林二胡(栁俊太郎)、思いを寄せているが叶わなかったミュージシャンの田端亮介(松島聡)、そしてお互いに恋人がいながらも会っている小説家の山田(内堀太郎)などとの出会いや別れを通して、次第に、規範的な部分をなくしていく。


それ以前につきあっていた高校時代の元恋人・柴咲秀(倉悠貴)との経験だけ、少し違うのは面白い。第3話で富山に帰省した際に彼と再会して、文菜が「もう違う世界で暮らしている」と断言しているのも象徴的である。
