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齊藤京子主演『恋愛裁判』が描く、アイドルの恋愛の是非ではない「身近で静か」な青春

2026.1.29

#MOVIE

「恋愛をしてはいけない」と決められている立場の人が、本気で誰かを好きになってしまったら──。映画『恋愛裁判』は、日本のアイドル文化特有の「恋愛禁止」というルールを入口に、ひとりの少女が直面する現実を描く作品だ。

監督と脚本は『淵に立つ』(2016年)の深田晃司。2015年、女性アイドルがファンの男性と交際し、契約違反として所属事務所から損害賠償を請求されたという実際の事件から着想し、「恋愛禁止」そのものをテーマにした映画を撮りたいと考えたという。

『恋愛裁判』というタイトルだが、本作は法廷映画ではない。「恋愛禁止」をめぐって丁々発止のやり取りが繰り広げられるわけでも、その社会的な是非を問うわけでも、アイドル文化を断罪するわけでもない。そのかわりに流れるのは、もっと身近で静かな時間だ。

「恋愛禁止」のアイドルの日常に入り込む恋愛

映画は暗闇から始まる。劇場の搬入口が開き、アイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」のメンバーを乗せたバンがその前に停まるのだ。このファーストショットは象徴的で、本作はその後の約2時間にわたり、アイドル文化のバックステージに広がる「暗闇」に光を当てることになる。

劇中に登場するアイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」 / ⓒ2025「恋愛裁判」製作委員会

ハッピー☆ファンファーレはただいま人気急上昇中、いわば「今が勝負どき」のグループだ。毎日が少しずつ忙しくなるなか、メンバーはチーフマネージャーの矢吹早耶(唐田えりか)から、パフォーマンスや私生活の詰めの甘さを指摘されている。

しかし、最年少メンバーの清水菜々香(仲村悠菜)は、事務所に内緒でゲーム配信者の男性と交際していた。センターの山岡真衣(齊藤京子)は、菜々香のデートをカムフラージュするために出かけた動物園で、中学時代の同級生・間山敬(倉悠貴)と再会した。

齊藤京子が演じるハッピー☆ファンファーレ・山岡真衣 / ⓒ2025「恋愛裁判」製作委員会

留学を経て大道芸人になった敬は、車で寝泊まりしながら人前でのパフォーマンスを続けていた。たちまち真衣は敬にひかれていくが、彼女が「恋愛禁止」のルールを知らないはずはなく……。

倉悠貴が演じる中学時代の同級生・間山敬 / ⓒ2025「恋愛裁判」製作委員会

映画の前半で描かれるのは、アイドルという存在の二面性だ。ステージ上でのキュートで鮮やかなパフォーマンス、握手会やライブ配信で強調される疑似恋愛性に対し、彼女たちは舞台裏ではごく普通の少女なのである。アイドルであることに疲弊してもいないし、むしろ夢や憧れがまだ色濃く残っている。

ⓒ2025「恋愛裁判」製作委員会

だからこそ、恋は突然に入り込んでくる。それは彼女たちにとって、「恋愛禁止」への反抗ではない。もちろん、彼女たちはルールを知らないわけでもない(真衣ものちに「暗黙の」ルールとして知っていたと語る)。しかし、それでも感情は動いてしまう。

彼女たちの選択は、倫理的な問題に覚悟をもって対峙するものではない。むしろ、それはきわめて青春的な衝動だ。真衣が敬に惹かれるのも、敬がアイドルになる以前の真衣を知っていたからかもしれない。あまりにも無防備で、まるでふわふわとした夢のような時間を、監督の深田はファンタジックなラブストーリーとして演出している。

ⓒ2025「恋愛裁判」製作委員会

ラブストーリーから法廷に移ろう2部構成

もっとも、『恋愛裁判』はそのまま恋愛映画として進んでいくわけではない。真衣の決断をきっかけに、物語の時間は8か月後にいきなり飛ぶのだ。所属事務所から「恋愛禁止」違反で訴えられた真衣は、法廷で厳しい追及を受ける。

ⓒ2025「恋愛裁判」製作委員会

そのとき、映画の空気は明らかに変わる。タブーであるはずの恋愛に突き動かされていた感情の熱や密度はいきなり色褪せ、そのかわりに恋愛という「問題」を語る外部の言葉が現れてくる。

そもそもアイドルの日常は、パフォーマンスや握手会、ライブ配信だけでなく、レッスンや取材、SNSに至るまで、すべてが演出であり、同時に労働だ。マネージャーの早耶が「アイドルはファンありきの仕事」と言うように、「恋愛禁止」とは一般の道徳ではなく、あくまでも商品のイメージを毀損しないためのもの。したがって、ビジネス上のルール違反は損害賠償という「数字」に変わる。

ⓒ2025「恋愛裁判」製作委員会

冒頭にも触れたように、本作はスリリングな法廷サスペンスではない。したがって「恋愛禁止」を破ったことの是非や、真衣と敬の恋愛をめぐる攻防が描かれるわけでもない。そのかわり、恋愛はことごとく金銭に換算される。ここでいう「倫理」とは、善悪を裁定するものではなく、リスクを管理するための制度のことだ。

夢のようだった時間は、現実によってたちまち回収される。ファンタジックなラブストーリーから、乾いた日常生活や、淡々とした法廷などの手続きへ。

本作の2部構成は、「青春」と倫理の間に横たわる深い溝と、「倫理」なるものが現代の資本主義によって支えられている可能性を浮き彫りにする。

ⓒ2025「恋愛裁判」製作委員会

裁判を通じて何を選んだのか、また「選ばされて」いたのか

恋愛に身をゆだね、所属事務所に訴えられてもなお真衣の人生はつづく。グループを辞めてもアイドルへの憧れは消えない。真衣は今も応援してくれるファンに対し、画面越しに語りかける。その一方、裁判の日々を送るなかで敬との関係は少しずつ変わっていく。

ⓒ2025「恋愛裁判」製作委員会

うねりを見せながら展開する物語は、最後に「これは山岡真衣という女性の、長い青春を描いた物語だったのだ」という印象を残す。大きな夢に憧れ、社会との折り合いがつかない恋をして、それぞれに感情を燃え上がらせ、そして圧倒的な現実に直面したあと、いったい何を引き受け、そこには何が残るのか。そのプロセスを深田はじっと見つめながら、複数の「傍観者たち」に重要な役割を与えている。

真衣役を演じた齊藤京子は、元・日向坂46のイメージを身にまといつつ、アイドルとしての表情、恋に落ちた少女としての瑞々しさ、そして法廷で見せる光のない目から、「山岡真衣」という人物を多面的に演じている。

ⓒ2025「恋愛裁判」製作委員会

また、「傍観者たち」のひとりであるマネージャーの矢吹早耶役に唐田えりかを起用したキャスティングも挑戦的。彼女が許されぬ恋を断罪する法廷シーンでは、決して多くないセリフの外側にある人間味が豊かに表現された。

唐田えりかが演じるマネージャーの矢吹早耶 / ⓒ2025「恋愛裁判」製作委員会

『恋愛裁判』が「恋愛」と「裁判」の向こう側で描き出すのは、「その後」の人生を生きていく真衣の選択と決断だ。裁判のなかで、真衣は否応なく考えることになる。自分はいったい何を選んだのか、また「選ばされて」いたのか──。

そのとき彼女にとって、「恋愛禁止」をめぐる裁判は人生そのものと深く重なり合っていく。観客もその過程で、真衣とともに、アイドルという存在や「恋愛禁止」という倫理の意味を問い直すことになるだろう。

ⓒ2025「恋愛裁判」製作委員会

『恋愛裁判』

出演:齊藤京子、倉悠貴
仲村悠菜、小川未祐、今村美月、桜ひなの
唐田えりか、津田健次郎
企画・脚本・監督:深田晃司
共同脚本:三谷伸太朗
音楽:agehasprings

製作:東宝 共同製作:ノックオンウッド agehasprings ローソン
制作プロダクション:ノックオンウッド TOHO スタジオ
配給:東宝

ⓒ2025「恋愛裁判」製作委員会
■公式サイト:https://renai-saiban.toho.co.jp/
■公式 X:@ren_ai_sai_ban IG:@happy_fanfare TikTok:@ren_ai_sai_ban

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