2023年、プロデューサー・ちゃんみなの発表から始まったオーディションプロジェクト『No No Girls』、通称「ノノガ」。約3年にわたる物語の末に誕生したガールズグループHANAが、2026年2月、ついにデビューアルバムをリリースした。
HANAがこれほどの熱狂を生み出している理由は、楽曲だけではない。「ノノガ」を通して映し出された、候補生一人ひとりの葛藤や決意の物語もまた、多くの人の心を動かしてきた。
かつてThe SALOVERSやTHE 2などのバンドでフロントマンを務めたミュージシャン / 俳優・古舘佑太郎も、その物語に強く心を動かされた一人。夢を追い続けた末にバンド活動を終えた彼にとって、「ノノガ」で描かれた挑戦や葛藤は決して他人事ではなかった。そんな古舘の視点から、HANAの1stアルバムをレビューしてもらった。
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1991年4月5日生まれ。東京都出身。2008年、バンド「The SALOVERS」を結成し、ボーカル・ギターとして活動スタート。2015年3月、同バンドの無期限活動休止後、ソロ活動を開始。2017年3月、新たなバンド「2」を結成。2021年6月に活動休止し、2022年2月22日にバンド名を「THE 2」に改め再開。2024年2月22日に解散。俳優としては、2014年、映画『日々ロック』でデビュー。以降、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』、映画『ナラタージュ』、NHK大河ドラマ『光る君へ』などに出演。主演映画に『いちごの唄』『アイムクレイジー』などがある。2025年3月に初の著書『カトマンズに飛ばされて 旅嫌いな僕のアジア10カ国激闘日記』を幻冬舎より刊行。
https://www.instagram.com/yutaro_furutachi/
「ノノガ」に重ね合わせた自分自身の後悔と失敗
2025年、なんとなく付けていたラジオから<ブルージーンズ / 古いスニーカー>と刹那的に歌う声が流れてきた。その独特の言い回しとメロディに耳がピクッと反応し、スマホを手に取った。HANAというアーティストが最近リリースした楽曲だった。どうやら彼女たちは、「No No Girls」というオーディションで勝ち抜いたメンバーらしい。「もしや、壮大な物語をネタバレから目撃してしまっているのではないか!?」という予感がして、すぐさまHANAというアーティストの存在を一度脳内から忘れることにした。その日から僕は「No No Girls」を観始めることとなる。
当時の僕は10代から励んできたバンド活動に32歳で終止符を打ち、夢や希望に対してどこか俯瞰的で懐かしさをもって捉えるようになっていた。振り返れば、楽しかった思い出やそれなりの達成感を得ることもあったが、後悔や失敗はその倍の数だけあった。一度でいいからバンドで武道館に立ちたかったし、一生バンドマンでありたかった。結果的に僕の夢は何一つ叶わぬまま終わったのだ。ロックンロールこそ正義だと信じて衝動的にギターを掻き鳴らしていた思春期を経て、キラキラしたものと真正面から対峙することに苦手意識さえ持つ大人になってしまっていた。頑張っている人間に対して、応援することも嫉妬することもなくなっていたのだ。それがどうだろう。悩み、苦しみ、努力を重ね、夢や希望を抱いて汗だくで歌い踊る『No No Girls』の候補生たちの姿に、僕の涙腺は崩壊し、他人事とは思えぬほどのめり込んでいった。
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グループの根にある、泥だらけの美しさを見たデビュー
プロデューサーを務めるちゃんみな氏にもたくさんのことを教えてもらった。テーマに掲げる「No FAKE(本物であれ)、No LAZE(誰よりも一生懸命であれ)、No HATE(自分に中指を立てるな)」という信念を、僕は自身のちっぽけな経験から、果たしてそんなことが綺麗ごとではなくちゃんと成立するのだろうか、と当初は疑った。その三原則を信じた先に思い描く結果が待っていなかったら、より傷ついてしまうのではないかといういらぬ心配さえもした。が、次第にちゃんみな氏が候補生に投げかける言葉の数々は、僕自身が20代の間で喪失した何かを想起させるように、温かく時に厳しく胸に響き渡った。今思えばあの疑いこそが、僕が僕自身の過去に中指を立てていたからに他ならない……。
Kアリーナ横浜で行われた最終審査を見届けてから、しばらく放心状態が続いていたが、いよいよ“Blue Jeans”のミュージックビデオに戻ってきた。CHIKA、NAOKO、JISOO、YURI、MOMOKA、KOHARU、MAHINAの7人。いつだって自信がなくて、誰かと比べて迷ったり、そんな不安を掻き消すようにがむしゃらにもがいていた彼女たちが、色鮮やかな髪色とメイクに確固たる自信を纏わせ、それぞれ個性を爆発させていた。外見の話だけをしているのではない。本物になろうと深く考え、誰よりも一生懸命に励み、自らの過去やコンプレックスを抱きしめた者にだけ宿る「強さ」を僕はその瞳の中に見た。彼女たちは文字通り、花だ。光の当たらない土の中にこそ、泥だらけの美しさが根を広げている。
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文字通り「アルバムをめくるように」聴いた『HANA』
そんなHANAの1st アルバム 『HANA』が満を持して2月23日(月)にデジタルリリースとなり、すぐに聴いた。本作は昨年の快進撃をそのまま時系列通りに体現しているアルバムとなっている。1曲目は最終審査の課題曲でもありファンにとって思い入れのある“Drop”から始まり、まるでスナイパーのように僕らの心を射抜いたデビューシングル“
ROSE”、“Burning Flower”では来たる灼熱の夏を煽ったかと思えば、初のラブソング“Blue Jeans”で僕らを甘酸っぱく裏切った。5曲目“BAD LOVE”ではジャンルの鎖を自分たちで解き放つかのような豪快なロックナンバーが鳴り響き、続く“My Body”では力強いメッセージを鮮やかなポップスで昇華させ、“NON STOP”はおそらく彼女たちにしか生み出せないヒップホップ調のクリスマスソングとなった。
曲順に沿って聴くと、昨年の記憶が文字通りアルバムをめくるように思い起こされた。新曲に触れるたび驚かされ、心踊らされ、歌詞を聴き取ると新しい感動があった。そんなふうにHANAを眺めて季節が過ぎていった。会う人会う人と「新曲聴いた?」「HANAやばくね?!」なんて高校生の頃のような音楽談義を何度したことだろう。そういえば昨年は、ライブのチケットがなかなか取れないHANAを観るために、『COUNTDOWN JAPAN』にも足を運んだ。自分が出演するわけでもないのにフェスに行くなんて、それこそ高校生の頃に『フジロック』へOasisを観に行った以来のことだった。