新連載・オカヤイヅミの「うちで飲みませんか?」がスタート!
記念すべき第1回にオカヤ家を訪れたのは、『きいろいゾウ』『サラバ!』などの作品で知られる小説家の西加奈子さん。今年出版された、自身の闘病体験を描いたノンフィクション『くもをさがす』も大きな話題となりました。
40代半ばの書き手二人がいま感じることの話題で、オレンジワインが進んだサシ飲みの模様をお届けします。
あわせて、当日振る舞われたおつまみの中から一品、レシピもご紹介。今回は「柿と春菊のサラダ」です。(レシピは記事の最後に!)
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小説業界と漫画業界の、似て非なるカルチャー
オカヤ:オレンジワイン飲む? 個展をやったときに、差し入れにいただいて。一人で開けても飲みきれないからさ。
西:あ、おいしい。これ、ええやつちゃうん?
オカヤ:文芸の編集者さんって、美味しい手土産とかお店とか、すごく知ってるよね。
西:たしかにな。漫画は違うん?

1977年イラン・テヘラン生まれ。エジプト・カイロ、大阪府で育つ。2004年に『あおい』でデビュー。07年『通天閣』で織田作之助賞、13年『ふくわらい』で河合隼雄物語賞、15年に『サラバ!』で直木賞を受賞。著書に『さくら』『円卓』『漁港の肉子ちゃん』『ふる』『まく子』『i』『おまじない』など多数。本年4月に刊行した初のノンフィクション『くもをさがす』が話題。
オカヤ:私の場合は、打ち合わせもファミレスでやったりすることが多くて、いいお店に行くことはあんまりないね。売れてる人はあるのかもしれないけど……。あと、描く前に打ち合わせをすることがほとんどないから。
西:じゃあ仕事はどうやって始めるん?
オカヤ:メールで「ではネームを描いてきてください」みたいな感じ。だから、文学関係の人と仕事すると、「打ち合わせに来たけど雑談でよかったの? これは何の時間?」みたいになる。
西:わかる! うち、それやったら漫画の方が性に合ってるかも。あの、フワフワとした探り合いの時間は、うちも苦手やわ。
オカヤ:仕事は確約じゃないんだよね? なのにただ奢ってもらっていいんだろうか……と。
西:わかるー。話がすごく盛り上がったあと、1時間くらいしてトイレに行くやん。で、戻ってきたら、編集者さんが急にスンとなって、「ときに西さん、いまどのようなご予定で?」っていうあの空気が苦手やから、ご飯行くにしても「仕事のお話だったら最初にしましょう」って言うねん。

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気づいたら、年上の側になっていた
西:私は20代でデビューして、担当の編集者さんは10歳以上年上で、「お兄さんたちが私の本を出してくれている」みたいな感覚でいたのね。せやから、「もう一杯飲みたいー!」と言えば、大人が「やれやれ」と言って連れていってくれる、みたいな感覚やった。それが30代くらいから、「あれ? 編集者さんが私より若い……?」となって。
オカヤ:若い編集者さんたちは、飲もうと言われたら、付いて来ざるを得ないよね。
西:そうやねん。「あれ、うち、もしかして怖いんや?」と思ったら、こっちも怖なってきて。
オカヤ:パワハラになっちゃうぞ、と。
西:そうそう。それで飲みに行っても、もう若い頃のように無茶苦茶には飲まれへんから、ちょっと大人しくしてると、若い子たちが気を使ってくれて、「西さん、何か飲まれますか……?」みたいになったりとか。
オカヤ:ああー……。
西:気を使って「サービス泥酔」せなあかんのかな、て(笑) でも若い子達を相手に泥酔するのもパワハラになるし、これはしんどいと思って、徐々に飲みに行くのをやめるようにした。「仕事はちゃんとするので、そこにお金を使わなくていいです。もっと若い作家さんを連れていってあげてください」って思ってる。
オカヤ:私こないだ、ずっと担当してくれていた編集さんが産休に入るので、若い編集者さんに引き継ぎしてもらうことになったんだけど、そのときも「じゃあうちでご飯食べようよ」ということになってさ。
西:えー、オカヤさんのご飯食べれて、最高やん。
オカヤ:漫画家が何人かが集まったんだけど、みんな中年女性で、そこに若い編集者さんが一人。
西:あ、それは緊張するぞ!
オカヤ:それで、めちゃめちゃ更年期の話とかして「ワッハッハ」みたいにしてたら、直接そのせいではないと思うんだけど、その方が私の連載を担当しはじめる前に会社を辞めちゃったの。辞めちゃったので謝れなかったけど、ほんとごめん……と思ってる。
西:別に意地悪したわけでもないねんな。でも20代前半の子からしたら怖く見えるわな。

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先輩であることを引き受ける
オカヤ:私、先輩・後輩っぽく振る舞うのが上手くできなくてさ。だから、先輩からもかわいがられないし、後輩からも慕われないという……。
西:後輩に対して、先輩を引き受けへんねやろ? 後輩相手に敬語使ったり。
オカヤ:そうそう。
西:いたわー、そういう先輩! 困ったわー(笑) でも今は『手塚治虫文化賞』も受賞して、若い子たちからしたら「オカヤ先生」やん。しんどいんちゃうん?
オカヤ:あれ、周りがみんな若い! どうしよう! みたいになるよね(笑) 飲み会でスマートにお金を払うやり方とか、怒り方とか、わからないんだよ。アシスタントさんを雇ったり会社にしたりして、それをやっている漫画家さんはすごいと思う。
西:若い頃に、お姉様方に囲まれて飲むと、今思えば今のうちと同世代の女性たちが、わざとおばさんぽく振る舞ってくれた、みたいなことはあったな。その場での役割を演じてくれて、こっちが後輩っぽいキャラクターをやりやすくしてくれて。
オカヤ:それをやってくれる人は優しいよね。