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NEWS EVENT SPECIAL SERIES
オカヤイヅミの「うちで飲みませんか?」

西加奈子と語る、中年の正しい振る舞い方

2023.12.5

#BOOK

新連載・オカヤイヅミの「うちで飲みませんか?」がスタート!

記念すべき第1回にオカヤ家を訪れたのは、『きいろいゾウ』『サラバ!』などの作品で知られる小説家の西加奈子さん。今年出版された、自身の闘病体験を描いたノンフィクション『くもをさがす』も大きな話題となりました。

40代半ばの書き手二人がいま感じることの話題で、オレンジワインが進んだサシ飲みの模様をお届けします。

あわせて、当日振る舞われたおつまみの中から一品、レシピもご紹介。今回は「柿と春菊のサラダ」です。(レシピは記事の最後に!)

小説業界と漫画業界の、似て非なるカルチャー

オカヤ:オレンジワイン飲む? 個展をやったときに、差し入れにいただいて。一人で開けても飲みきれないからさ。

西:あ、おいしい。これ、ええやつちゃうん?

オカヤ:文芸の編集者さんって、美味しい手土産とかお店とか、すごく知ってるよね。

西:たしかにな。漫画は違うん?

西加奈子(にし かなこ)
1977年イラン・テヘラン生まれ。エジプト・カイロ、大阪府で育つ。2004年に『あおい』でデビュー。07年『通天閣』で織田作之助賞、13年『ふくわらい』で河合隼雄物語賞、15年に『サラバ!』で直木賞を受賞。著書に『さくら』『円卓』『漁港の肉子ちゃん』『ふる』『まく子』『i』『おまじない』など多数。本年4月に刊行した初のノンフィクション『くもをさがす』が話題。

オカヤ:私の場合は、打ち合わせもファミレスでやったりすることが多くて、いいお店に行くことはあんまりないね。売れてる人はあるのかもしれないけど……。あと、描く前に打ち合わせをすることがほとんどないから。

西:じゃあ仕事はどうやって始めるん?

オカヤ:メールで「ではネームを描いてきてください」みたいな感じ。だから、文学関係の人と仕事すると、「打ち合わせに来たけど雑談でよかったの? これは何の時間?」みたいになる。

西:わかる! うち、それやったら漫画の方が性に合ってるかも。あの、フワフワとした探り合いの時間は、うちも苦手やわ。

オカヤ:仕事は確約じゃないんだよね? なのにただ奢ってもらっていいんだろうか……と。

西:わかるー。話がすごく盛り上がったあと、1時間くらいしてトイレに行くやん。で、戻ってきたら、編集者さんが急にスンとなって、「ときに西さん、いまどのようなご予定で?」っていうあの空気が苦手やから、ご飯行くにしても「仕事のお話だったら最初にしましょう」って言うねん。

この日のおつまみは、柿と春菊のサラダ、しいたけマリネ、長芋梅みそ。柿と春菊のサラダのレシピは、記事の最後に!

気づいたら、年上の側になっていた

西:私は20代でデビューして、担当の編集者さんは10歳以上年上で、「お兄さんたちが私の本を出してくれている」みたいな感覚でいたのね。せやから、「もう一杯飲みたいー!」と言えば、大人が「やれやれ」と言って連れていってくれる、みたいな感覚やった。それが30代くらいから、「あれ? 編集者さんが私より若い……?」となって。

オカヤ:若い編集者さんたちは、飲もうと言われたら、付いて来ざるを得ないよね。

西:そうやねん。「あれ、うち、もしかして怖いんや?」と思ったら、こっちも怖なってきて。

オカヤ:パワハラになっちゃうぞ、と。

西:そうそう。それで飲みに行っても、もう若い頃のように無茶苦茶には飲まれへんから、ちょっと大人しくしてると、若い子たちが気を使ってくれて、「西さん、何か飲まれますか……?」みたいになったりとか。

オカヤ:ああー……。

西:気を使って「サービス泥酔」せなあかんのかな、て(笑) でも若い子達を相手に泥酔するのもパワハラになるし、これはしんどいと思って、徐々に飲みに行くのをやめるようにした。「仕事はちゃんとするので、そこにお金を使わなくていいです。もっと若い作家さんを連れていってあげてください」って思ってる。

オカヤ:私こないだ、ずっと担当してくれていた編集さんが産休に入るので、若い編集者さんに引き継ぎしてもらうことになったんだけど、そのときも「じゃあうちでご飯食べようよ」ということになってさ。

西:えー、オカヤさんのご飯食べれて、最高やん。

オカヤ:漫画家が何人かが集まったんだけど、みんな中年女性で、そこに若い編集者さんが一人。

西:あ、それは緊張するぞ!

オカヤ:それで、めちゃめちゃ更年期の話とかして「ワッハッハ」みたいにしてたら、直接そのせいではないと思うんだけど、その方が私の連載を担当しはじめる前に会社を辞めちゃったの。辞めちゃったので謝れなかったけど、ほんとごめん……と思ってる。

西:別に意地悪したわけでもないねんな。でも20代前半の子からしたら怖く見えるわな。

先輩であることを引き受ける

オカヤ:私、先輩・後輩っぽく振る舞うのが上手くできなくてさ。だから、先輩からもかわいがられないし、後輩からも慕われないという……。

西:後輩に対して、先輩を引き受けへんねやろ? 後輩相手に敬語使ったり。

オカヤ:そうそう。

西:いたわー、そういう先輩! 困ったわー(笑) でも今は『手塚治虫文化賞』も受賞して、若い子たちからしたら「オカヤ先生」やん。しんどいんちゃうん?

オカヤ:あれ、周りがみんな若い! どうしよう! みたいになるよね(笑) 飲み会でスマートにお金を払うやり方とか、怒り方とか、わからないんだよ。アシスタントさんを雇ったり会社にしたりして、それをやっている漫画家さんはすごいと思う。

西:若い頃に、お姉様方に囲まれて飲むと、今思えば今のうちと同世代の女性たちが、わざとおばさんぽく振る舞ってくれた、みたいなことはあったな。その場での役割を演じてくれて、こっちが後輩っぽいキャラクターをやりやすくしてくれて。

オカヤ:それをやってくれる人は優しいよね。

「おじさん仕草をしてしまっている!」

オカヤ:同世代でずっと会社で働いてる人たちは、偉くなってきて部下がいたりするじゃん。そういう女友達に聞くと、女の上司のロールモデルがいなかったから、自分が上司として振る舞おうとしたときに、「おじさん仕草をしてしまっている!」と気づいて愕然とすることがあるって。

西:自分だって、もし男性で、この年齢でこの立場だったら、何かやらかしてたやろなと思う。今も若い男性と二人で飲みに行くときとかは、セクハラ・パワハラにならないように注意してるけど、それでも自信ないよ。

オカヤ:別の友達で、彼女の方が稼いでいて、夫の方が主に子育てをしている、という人がいてさ。彼女も、家に帰って「なんで片付けてないの? 家にいるならできるでしょ」みたいなことを言ってしまったりして、「私、悪いおっさんじゃん!」と思うことがあるって。

西:わかる。ナオミ・オルダーマンという人の『パワー』という小説があって、Amazonプライム・ビデオでドラマにもなってるんやけど、女性が身体に放電する能力を持って、男性よりも物理的に力を持った未来の話なのね。その物語の中では、結局男性と同じことをしてしまう女性が登場する。ナオミさんは、「女性が政権を握ったら戦争が起こらない」とか、そんな風に過剰に女性を美しいものとして描くのに抵抗がある、というふうなことを仰ってた。性差ではなく、パワーをどう使うかが大切なんだって。

オカヤ:ああ……。

西:ところで、南伸坊(*)さんとときどきお会いするんやけど、すっごく面白くて、物腰が柔らかくて、優しくて、ぜんぜん偉そうじゃないの。今やったらそういう男性は普通かもしれないけど、あの世代の男性として生きてきて、どうやったら伸坊さんみたいになれたんやろう、と思う。

オカヤ:そうだよね。みんな武闘派っていうかさ。ゴールデン街で殴り合いの喧嘩が当たり前、みたいな。

西:そういう時代で、そういう教育やったわけやん。「男たるもの~」って。でもオカヤさんは、もしその時代の男性でも、喧嘩せんかったと思うで。そういうところは、うち、めっちゃオカヤさんを尊敬する。

オカヤ:ええ?

西:どこへ行ってもフラットというか。うちはぜったい空気読んで殴り合ってたと思う(笑)

*南伸坊……イラストレーター、エッセイスト。親交の深い赤瀬川原平、嵐山光三郎、糸井重里らと共に、昭和のサブカルチャーを牽引した。

西さんは「自分で自分の居場所を居心地よくできる力」がある

オカヤ:私、コロナ禍で外出できなくなったときに、「居心地の悪い飲み会に行きたい」と思ったんだよね。大勢がいて賑やかな会の端っこの方で、「そ、その唐揚げ食べていいですか?」と言っている、みたいなのが、意外と楽しかったんだなと思って。

西:へー。それはなんでなん?

オカヤ:無理やり、自分とぜんぜん違う、テンションの高い場所にいてみるのが面白いっていうかさ。あと、人がいっぱいいるところだと、逆に仲間に入れてもらえている感じもある。

西:面白いね。いわゆる文芸の世界ってだいたいリベラルで、政治的なスタンスも近い人ばかりだけど、例えば社会に出るとぜんぜん違う世界もあるやん? 意見の違う人らと話すのもめっちゃ大切やと思ってる。

オカヤ:私はいま、新しく人と知り合う機会があんまりないから、Z世代とかと話してみたいね。緊張するけど。

西:うちはいま習いごとをしていて、そこで出会う人らとしゃべるのが、すごく大切な時間。自分と全く違う環境にいる人たちと「好きなもの」が同じ、ていう共通点があるだけで一緒にいるのが、部活みたいで楽しい。ある意味文芸の世界もそうかもしれへんけど。

オカヤ:西さんって、どこへ行っても、「気まずい」と思うことがなさそう。前に、新宿の地下道ですれ違ったことがあったじゃん。そういうときに、すぐパッと「あーオカヤさん!」と声をかけて手を振る、みたいなことができるのが、すごいなと思っていて。

西:え、なんでできへんの? 緊張するってこと?

オカヤ:私は「話しかけていいのかな、悪いのかな」みたいなことをすごく考えちゃうからさ。西さんはそういうときにすごく瞬発力があってすごい。

西:相手にどう思われるかとか「失礼かな?」とかを、考えるのがめんどいねん。若い頃は、例えば、褒められたらすぐ謙遜で返すような「筋肉」があったけど、最近は褒められても「ああー、ありがとうー」ってなってまう。

オカヤ:私はそっちが筋肉だとは思ってなくて、ぱっと話しかけられる西さんには筋力があって、私は筋力がないと思う。

西:たしかに、ちゃう筋肉なのかもな。好きな人ができたら会いたいし、友達になりたいから、「これを言って引かれたらどうしよう」とかを考えなくなった。声をかけんと、話しそびれる方が嫌やねん。いつか死ぬわけやから。

オカヤ:そうか。西さんは「自分で自分の居場所を居心地よくできる力」があるね。私は、どこか「居心地悪くてもいいや」と思ってるから、人と仲良くなれないし、居心地悪いのがそんなに嫌いじゃないのかもしれない……。

西加奈子『わたしに会いたい』

西加奈子
『わたしに会いたい』
2013年11月2日(木)発売
価格:1,540円(税込)
集英社

オカヤイヅミ『雨がしないこと』上・下

オカヤイヅミ
『雨がしないこと』上・下
2013年12月12日(火)発売
価格:各880円(税込)
ビームコミックス(KADOKAWA)

オカヤイヅミ

オカヤイヅミ
漫画家・イラストレーター。独自の感性で日常を切り取った『いろちがい』で2011年にデビュー。著書に『すきまめし』『続・すきまめし』『ごはんの時間割1・2』『ものするひと1・2・3』『みつば通り商店街にて』ほか、人気作家へ理想の「最後の晩餐」について訊ねたエッセイコミック『おあとがよろしいようで』など。2022年『いいとしを』『白木蓮はきれいに散らない』の2作で第26回手塚治虫文化賞短編賞受賞。

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