6月7日(金)に公開される映画『あんのこと』の完成披露舞台挨拶付先行上映会が、5月8日(水)に東京・内幸町のイイノホールで開催された。
2020年の日本で現実に起きた事件をモチーフとした人間ドラマである同作。イベントには幼い頃から母親に暴力を振るわれ、10代半ばから売春を強いられるなど苦難の人生にもがく主人公・杏を演じる河合優実、杏を救済しようとする刑事・多々羅を演じる佐藤二朗、多々羅にまつわるリークを元に取材を進める週刊誌記者・桐野を演じる稲垣吾郎と監督の入江悠が登壇した。
河合は初お披露目に際し、「沢山のお客さんの温かい拍手を頂き、今から1年半前に撮影した作品ですが、皆さんの元に届くんだということを実感しています」と感慨を込めて挨拶。実話をベースにした物語ゆえに「実在する方のお話ということが最後まで自分の中で大きかったです。強い気持ちで大切に触らないとできないものだと思いましたし、脚本からは入江さんが同じ気持ちで覚悟を持って書いたという『気』のようなものを受け取りました」と語った。
佐藤が「撮影中は、不遇の少女を救うという多々羅の気持ちは本気だという思いを終始一貫して念頭に置いていました」と自分をシリアスな役柄だと回想すると、稲垣は「ここにいる二朗さんも河合さんも、そして吾郎さんもスクリーンにはいません!」と、それぞれが与えられたキャラクターを生きたと証言。これに佐藤は「良いことを言うじゃん、吾郎ちゃん!」と膝を打ち、稲垣も「観客の皆さんにもその覚悟で観てもらえたら成功ですね」と期待をこめた。
そんな稲垣は、「脚本を読んで胸が張り裂けそうな思いで衝撃を受けた」と言い、「撮影中は杏ちゃんの心の声を皆さんに届けたいと演じました。この物語はまさに『あんのこと』だけれど、僕らにも実際に起こり得ること。そんな絶望に陥っている時に手を差し伸べる世の中を作っていかなければと、本作を通してつくづく感じました」と、撮影を通して得た人生観を述べた。
実話から着想を得た物語を初めて手掛けた入江。作品の演出について、「杏のモデルになった方は20歳。それを僕のようなおっさんがわかったような目線で描くと痛い映画にしかならないと思ったので、杏については河合さんに委ねたところが多いです。それは二朗さんや稲垣さんも同じ。皆さんが脚本に共鳴してくれていたので、どのように演じてくれるのか楽しみに見ていた感覚がありました」と裏側を話した。
「撮影中は和気あいあいと撮っていた記憶があったけれど、今日お二人と話してみると、こんなに楽しくは会話していなかったなと思った」と撮影期間を振り返った河合。佐藤が「今日会う河合優実が明るく見えたので、1年半前の現場では杏を背負っていたのだと思う」としみじみ語ると、稲垣も「当然と言えば当然なことですよね」と河合の熱演を述懐し、ねぎらう場面も。
それを受けて、河合は杏について「これまでもこれからも特別な役になりました。本作を経験できたことは大きかったし、今後の人生において色々なことがこの先あるだろうけれど、この作品をやったということが自分の糧になって経験自体も支えになると思っています」と、改めて自身の役柄を振り返った。
また佐藤は思い出深いシーンとして、河合との高架下でのシーンを挙げた。その撮影に入る前、佐藤は河合から両手を包まれるように握られたという。大事なシーンの前に相手役である佐藤の体温を感じたかったのが理由だそうで、これに佐藤は「後輩にこんな事をされたら、絶対にこのシーンは外せないと思って良いシーンにしたいと思った。ある意味で僕の方が彼女に感謝している」と大感激をあらわにした。
このエピソードに稲垣も感嘆の声を上げたのだが、河合は本編上映前ということもあり「あまり言うと、それを思って皆さんが映画を観てしまうから……忘れてください!」と客席に向けて訴えた。これを聞いた佐藤は平謝りで、稲垣は「ごめんね! 僕らが『不適切』だった!」と、河合が出演したドラマ『不適切にもほどがある!』にかけて謝罪。「あ、使っちゃった!」と白状して場内大爆笑となった。
舞台挨拶では、映画の内容にちなんで「運命を変えた、人生の転機となった出会い」をキャストが語る場面も。河合は俳優業を志した日に偶然DMで誘われた自身初の自主映画出演を挙げ、佐藤は「妻!」と断言し、愛妻家の表情を浮かべた。稲垣は「中学2年の頃からこの業界にいるので、これまで一緒にやって来たメンバー。グループは解散しているけれど、草彅剛さんや香取慎吾さんとはやっているのでこれは凄いこと。30年以上やっているわけですから。3人で『新しい地図』としてファンミーティングをしているけれど、そこに来てくれるお客さんもデビュー当時から来てくれている方とか、親子3世代の方もいるわけで、それはとてもありがたい」とメンバーやファンを運命の出会いの相手だと表現。入江監督は29歳の頃に出会い、同作にもプロデューサーとして携わる國實瑞惠の名前を挙げた。
最後に主演の河合は「全員で大切に思って真剣に作った映画です。この作品を通して受け取ったものや考えたものを持ち帰っていただけたら嬉しいです」と呼び掛け、イベントは幕を閉じた。
あんのこと
<STORY>21歳の主人公・杏(河合優実)は、幼い頃から母親に暴力を振るわれ、10代半ばから売春を強いられて、過酷な人生を送ってきた。ある日、覚醒剤使用容疑で取り調べを受けた彼女は、多々羅(佐藤二朗)という変わった刑事と出会う。大人を信用したことのない杏だが、なんの見返りも求めず就職を支援し、ありのままを受け入れてくれる多々羅に、次第に心を開いていく。週刊誌記者の桐野(稲垣吾郎)は、「多々羅が薬物更生者の自助グループを私物化し、参加者の女性に関係を強いている」というリークを得て、慎重に取材を進めていた。ちょうどその頃、新型コロナウイルスが出現。杏がやっと手にした居場所や人とのつながりは、あっという間に失われてしまう。行く手を閉ざされ、孤立して苦しむ杏。そんなある朝、身を寄せていたシェルターの隣人から思いがけない頼みごとをされる──
出演:河合優実、佐藤二朗、稲垣吾郎、河井青葉、広岡由里子、早見あかり
監督・脚本:入江悠
製作:木下グループ 鈍牛倶楽部 制作プロダクション:コギトワークス 配給:キノフィルムズ © 2023『あんのこと』製作委員会
公式サイト:annokoto.jp 公式X:@annokoto_movie