松居大悟が監督を務めた映画『不死身ラヴァーズ』が、5月10日(金)より全国で公開された。
松居は、高木ユーナが発表した同タイトルの原作マンガを構想10年で再構築。両想いになった瞬間にこの世から消えてしまう「長谷部りの」と、彼女を運命の相手と信じてやまない「甲野じゅん」という原作の設定を、実写化に際して大胆に入れ替えた。その背景には、オーディションでりの役をつかんだ見上愛の奮闘があるという。本人と役柄のギャップを期待されたじゅん役、佐藤寛太の存在感も作品のよいスパイスとなっている。
このキャスティングと映画の高い完成度に顔をほころばせ、「実写化にかかった10年は、作品がこの二人に出会うのに必要な年月だった」とコメントを寄せたのが、原作者の高木だ。学生時代にバンドを組んでいた見上の「十八番」が生んだ、原作とのうれしいシンクロにも喜びの声を上げてみせる。
実写化と原作の幸福な関係性を築く松居と高木。この二人に、『不死身ラヴァーズ』を通じて得た気づきや学びを聞いた。
INDEX
高木作品の勢いと生命力あふれるオリジナリティが大好きに
─お二人はいつ知り合って、どのように面識を持たれたのでしょうか?
松居:僕が『アフロ田中』という映画で監督デビューして、そのあと自分発信で何かやれたら、と感じていた時でしたかね。いろんな原作をインプットする中で、『不死身ラヴァーズ』が強烈に印象に残りました。もう大好きになってしまったので、「これを映画化したいのでご許可いただけませんか」とお願いに上がるためにお会いしたのが、高木さんとの始まり。
高木:その時には『不死身ラヴァーズ』の連載打ち切りが決まっていたんですよね。で、「もう世には出ないんですけれど」って言いながら、シン・最終回のネームを松居さんにお渡ししたんです。「これが本当はやりたかった展開なんです」って。
松居:そうそう。シン・最終回のネームを読んで「もともと本編だけでも素晴らしいのに、さらによくなってる!」と突き動かされました。それで映画にしたいと動き始めたのが、10年前ですね。
─お互いの作品が持っている魅力を、お二人はどのように感じていらっしゃいますか?
松居:僕は「その人や媒体でないと絶対に表現できない切実さ」が好きなんです。それこそ「マンガでしか表現できない描写」や「この人にしか発せない言葉」みたいなのが、すごく好きで。それで『不死身ラヴァーズ』を読むと、出てくる登場人物たちの言葉やモノローグ、ストーリー展開や見せ方がオリジナリティにあふれているように映ったんですよね。「これがやりたいんだ!」って勢いや生命力がほとばしっていて、全力で生きている感じが大好きで。それは『不死身ラヴァーズ』に限らず、そのあとに高木さんが発表された作品からも感じます。
高木:ありがたいですね。私はね、自分の作品にない「生っぽいリアルさ」が松居さんの魅力だと感じていて。はじめに拝見した演劇でそう感じました。俳優さんが日常から劇世界の中にスッと入っていく感じだったんですよ、演技じゃなく。
松居:ゴジゲンでやった『ごきげんさマイポレンド』(2014年)かな。囲み舞台でした?
高木:それ! 松居さんがインタビューで「ライブでアーティストが歌うのと同じように、演劇も俳優が営む生活の延長線上にある」みたいなことをおっしゃっていて。だから演出がかっていないものを創作されている印象があったんです。うらやましい反面、私にはできないから……そのリアルな生々しさが怖かったくらい。そのくらい、憧れました。
INDEX
原作を大切にしてくれる松居さんに『不死身ラヴァーズ』をあげようと思った
─松居監督は、高木先生が書かれた原作のどんな点に惹かれて映画化を志したのでしょうか?
松居:いろいろあるけど、僕が「じゅん」と「りの」に会いたかった。再構築することで自分がどう感じるか知りたかった。何より僕が『不死身ラヴァーズ』から受け取ったものを、誰かに伝えたかったんですよね。
高木:10年、そう思い続けてくれたのがうれしい。
松居:この初期衝動を保つのに、シン・最終回の存在も大きかったですよ? 映画って企画を温め続けるほど、お金を集めて飛距離を伸ばす方法はいっぱい見えてくるけど……その代わりに、最初に「映画にしたい」と突き動かされた感情からどんどん離れていく。でも『不死身ラヴァーズ』に関しては、この初期衝動こそ大事にしたい作品でした。
高木:定期的に会ってお話ししていても、基本的にずっと『不死身ラヴァーズ』の話をしてくださるんですよ。この作品をすごく好きでいてくれているんだな、と思ってうれしかったです。打ち切りになったこともあって、私の中では『不死身ラヴァーズ』に見切りをつけて次に行かなきゃ、と思っていたんですね。でもすごく思い入れの強い作品でもあったから、松居さんに「すごくいい作品」「大好きだ!」と何度も言ってもらえて光栄でした。
─話をお聞きしていると、松居監督が「りの」みたいというか。消えてしまう「じゅん」に何度も気持ちを伝えるように、『不死身ラヴァーズ』のことを「大好き!」「絶対おもしろい映画にするから」と言っているみたいですね。
松居:あはは! そう見えるかもしれませんね(笑)。
高木:私、どんなに作品が増えても『不死身ラヴァーズ』だけは「名刺代わり」と言っているんです。そのくらいアイデンティティというか、私自身が反映された作品。だから松居さんから本作に懸ける思いを聞くたびに肯定されているような気持ちになって。「私、マンガ家を続けていいんだ」じゃないですけれど、勇気を受け取るような感覚でした。あまりにも大切にしてくださるので、いよいよ本格的に動き出すと聞いて「松居さんにあげるよ!」って。「私より大切にしてくれるよ、この人」みたいな(笑)。
松居:高木さんの『ドルメンX』が先に映像化されて、すごい焦ってたの。「あとから生まれた企画が形になってる!」って。
高木:そうだったんだー(笑)。
INDEX
実写化=10年前の松居大悟と高木ユーナの「殴り合い」
─完成した映画をご覧になって、高木さんは「初鑑賞中はあまりの素晴らしさに自分の血が沸騰する音が聞こえました」とコメントされていました。どんな点が素晴らしかったですか?
高木:観ているとね、ペンにインクをつけて手の小指側面を黒くしながら描いていた当時の自分をまざまざと思い出すんです。試写室の椅子に座っているのに、作業部屋の安いパソコンチェアでひたすら悪戦苦闘していた10年前に立ち返ってしまって。「血が沸騰する」より「逆流する」と言ったほうが正解かも。そのくらい、インパクトがありました。
松居:高木さんの初期衝動も掘り起こせたんですね。
高木:原作とは異なるセリフも、「私、このセリフ考えたことあるわ」って感じるくらいシンクロしてしまって。当時の自分と対話したみたいな気持ちになったんですよね。
松居:そういう意味で言うと、僕も10年前の自分と高木ユーナの「殴り合い」というか。互いの初期衝動にどう食らいついていくか、すごく悩んでいました。でも風穴を開けてくれたのが、演じてくれた見上さんと佐藤さんの存在で。