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松居大悟×高木ユーナ対談 『不死身ラヴァーズ』で育んだ「実写化と原作の幸福な関係性」

2024.5.16

#MOVIE

松居大悟が監督を務めた映画『不死身ラヴァーズ』が、5月10日(金)より全国で公開された。

松居は、高木ユーナが発表した同タイトルの原作マンガを構想10年で再構築。両想いになった瞬間にこの世から消えてしまう「長谷部りの」と、彼女を運命の相手と信じてやまない「甲野じゅん」という原作の設定を、実写化に際して大胆に入れ替えた。その背景には、オーディションでりの役をつかんだ見上愛の奮闘があるという。本人と役柄のギャップを期待されたじゅん役、佐藤寛太の存在感も作品のよいスパイスとなっている。

このキャスティングと映画の高い完成度に顔をほころばせ、「実写化にかかった10年は、作品がこの二人に出会うのに必要な年月だった」とコメントを寄せたのが、原作者の高木だ。学生時代にバンドを組んでいた見上の「十八番」が生んだ、原作とのうれしいシンクロにも喜びの声を上げてみせる。

実写化と原作の幸福な関係性を築く松居と高木。この二人に、『不死身ラヴァーズ』を通じて得た気づきや学びを聞いた。

高木作品の勢いと生命力あふれるオリジナリティが大好きに

─お二人はいつ知り合って、どのように面識を持たれたのでしょうか?

松居:僕が『アフロ田中』という映画で監督デビューして、そのあと自分発信で何かやれたら、と感じていた時でしたかね。いろんな原作をインプットする中で、『不死身ラヴァーズ』が強烈に印象に残りました。もう大好きになってしまったので、「これを映画化したいのでご許可いただけませんか」とお願いに上がるためにお会いしたのが、高木さんとの始まり。

松居大悟(まつい だいご)
監督・共同脚本。1985年生まれ、福岡県出身。劇団ゴジゲン主宰。『アフロ田中』(2012年)で監習デビュー。オリジナル脚本も手がけた監督作『ちょっと思い出しただけ』(2022年)が大ヒットを記録し、「ファンタジア国際映画祭2022」の部門最高賞である批評家協会賞、「東京国際映画際」にて観客賞とスペシャルメンションを獲得した。2020年には初小説『またね家族』を刊行。ドラマ『バイプレイヤーズ』シリーズを手がけるほか、J-WAVE『RICOH JUMP OVER』でナビゲーターを務める。

高木:その時には『不死身ラヴァーズ』の連載打ち切りが決まっていたんですよね。で、「もう世には出ないんですけれど」って言いながら、シン・最終回のネームを松居さんにお渡ししたんです。「これが本当はやりたかった展開なんです」って。

高木ユーナ(たかぎ・ゆーな)
原作。『進撃の巨人』で知られる諫山創のアシスタントを経て、『ケガ少女A』(2012年)で「週刊少年マガジン新人漫画賞」の佳作を受賞。同年、「マガジンSPECIAL」でデビューを果たす。「別冊少年マガジン」での初連載作となった『不死身ラヴァーズ』(2013〜14年)では、あふれる熱量と疾走感で唯一無二の恋愛を描き、話題に。「ヒバナ」で連載された『ドルメンX』(2015〜17年)は、「文化庁メディア芸術祭」マンガ部門の審査委員会推薦作品に選出された。

松居:そうそう。シン・最終回のネームを読んで「もともと本編だけでも素晴らしいのに、さらによくなってる!」と突き動かされました。それで映画にしたいと動き始めたのが、10年前ですね。

─お互いの作品が持っている魅力を、お二人はどのように感じていらっしゃいますか?

松居:僕は「その人や媒体でないと絶対に表現できない切実さ」が好きなんです。それこそ「マンガでしか表現できない描写」や「この人にしか発せない言葉」みたいなのが、すごく好きで。それで『不死身ラヴァーズ』を読むと、出てくる登場人物たちの言葉やモノローグ、ストーリー展開や見せ方がオリジナリティにあふれているように映ったんですよね。「これがやりたいんだ!」って勢いや生命力がほとばしっていて、全力で生きている感じが大好きで。それは『不死身ラヴァーズ』に限らず、そのあとに高木さんが発表された作品からも感じます。

高木:ありがたいですね。私はね、自分の作品にない「生っぽいリアルさ」が松居さんの魅力だと感じていて。はじめに拝見した演劇でそう感じました。俳優さんが日常から劇世界の中にスッと入っていく感じだったんですよ、演技じゃなく。

松居:ゴジゲンでやった『ごきげんさマイポレンド』(2014年)かな。囲み舞台でした?

高木:それ! 松居さんがインタビューで「ライブでアーティストが歌うのと同じように、演劇も俳優が営む生活の延長線上にある」みたいなことをおっしゃっていて。だから演出がかっていないものを創作されている印象があったんです。うらやましい反面、私にはできないから……そのリアルな生々しさが怖かったくらい。そのくらい、憧れました。

原作を大切にしてくれる松居さんに『不死身ラヴァーズ』をあげようと思った

─松居監督は、高木先生が書かれた原作のどんな点に惹かれて映画化を志したのでしょうか?

松居:いろいろあるけど、僕が「じゅん」と「りの」に会いたかった。再構築することで自分がどう感じるか知りたかった。何より僕が『不死身ラヴァーズ』から受け取ったものを、誰かに伝えたかったんですよね。

高木:10年、そう思い続けてくれたのがうれしい。

松居:この初期衝動を保つのに、シン・最終回の存在も大きかったですよ? 映画って企画を温め続けるほど、お金を集めて飛距離を伸ばす方法はいっぱい見えてくるけど……その代わりに、最初に「映画にしたい」と突き動かされた感情からどんどん離れていく。でも『不死身ラヴァーズ』に関しては、この初期衝動こそ大事にしたい作品でした。

高木:定期的に会ってお話ししていても、基本的にずっと『不死身ラヴァーズ』の話をしてくださるんですよ。この作品をすごく好きでいてくれているんだな、と思ってうれしかったです。打ち切りになったこともあって、私の中では『不死身ラヴァーズ』に見切りをつけて次に行かなきゃ、と思っていたんですね。でもすごく思い入れの強い作品でもあったから、松居さんに「すごくいい作品」「大好きだ!」と何度も言ってもらえて光栄でした。

─話をお聞きしていると、松居監督が「りの」みたいというか。消えてしまう「じゅん」に何度も気持ちを伝えるように、『不死身ラヴァーズ』のことを「大好き!」「絶対おもしろい映画にするから」と言っているみたいですね。

松居:あはは! そう見えるかもしれませんね(笑)。

高木:私、どんなに作品が増えても『不死身ラヴァーズ』だけは「名刺代わり」と言っているんです。そのくらいアイデンティティというか、私自身が反映された作品。だから松居さんから本作に懸ける思いを聞くたびに肯定されているような気持ちになって。「私、マンガ家を続けていいんだ」じゃないですけれど、勇気を受け取るような感覚でした。あまりにも大切にしてくださるので、いよいよ本格的に動き出すと聞いて「松居さんにあげるよ!」って。「私より大切にしてくれるよ、この人」みたいな(笑)。

松居:高木さんの『ドルメンX』が先に映像化されて、すごい焦ってたの。「あとから生まれた企画が形になってる!」って。

高木:そうだったんだー(笑)。

実写化=10年前の松居大悟と高木ユーナの「殴り合い」

─完成した映画をご覧になって、高木さんは「初鑑賞中はあまりの素晴らしさに自分の血が沸騰する音が聞こえました」とコメントされていました。どんな点が素晴らしかったですか?

高木:観ているとね、ペンにインクをつけて手の小指側面を黒くしながら描いていた当時の自分をまざまざと思い出すんです。試写室の椅子に座っているのに、作業部屋の安いパソコンチェアでひたすら悪戦苦闘していた10年前に立ち返ってしまって。「血が沸騰する」より「逆流する」と言ったほうが正解かも。そのくらい、インパクトがありました。

松居:高木さんの初期衝動も掘り起こせたんですね。

高木:原作とは異なるセリフも、「私、このセリフ考えたことあるわ」って感じるくらいシンクロしてしまって。当時の自分と対話したみたいな気持ちになったんですよね。

松居:そういう意味で言うと、僕も10年前の自分と高木ユーナの「殴り合い」というか。互いの初期衝動にどう食らいついていくか、すごく悩んでいました。でも風穴を開けてくれたのが、演じてくれた見上さんと佐藤さんの存在で。

原作から男女を逆転させた理由

─お二人とも情報解禁時のコメントで「この作品が映像化されるのに10年かかったのは、見上さんと佐藤さんに会うためだった」とおっしゃっていましたよね。お二人をしてそう感じさせた見上さんと佐藤さんは、この映画の中でどんな魅力を放っているでしょうか?

松居:マンガではもともと「じゅん」が「りの」を追いかけて、「りの」が消える設定で。この二人を誰が演じるのか、結局10年近くひらめかないまんまだったんです。

高木:そうだったんだ!

両想いになった瞬間にこの世から消えてしまう「長谷部りの」(見上愛 / 写真左)と、彼女を運命の相手と信じてやまない「甲野じゅん」(佐藤寛太 / 写真右)という原作の設定を、実写化に際して大胆に入れ替えた。その理由とは? ©2024「不死身ラヴァーズ」製作委員会 ©高木ユーナ/講談社

松居:「じゅん」にあった役者が思いつかなく、難しくって。イメージキャストすら、うまく浮かびませんでした。制作サイドから「じゃあ『りの』から考えましょう」と促されてオーディションした時に、見上さんが来てくださったんです。で、「りの」として消える見上さんのお芝居を見た時に……人知を超えた存在に思えたんですよね。何をしてくるかわからない。目が離せない。それこそ『不死身ラヴァーズ』を最初に読んで思い浮かんだ、ずっとワクワクしているのに理由がわからない感覚。

高木:「りの」が目の前に現れましたね。

松居:うん。で、ぜひお願いすることにしました。しかも見上さんが軸になれば「じゅん」のアイディアが広がる期待もあって。そこで「マンガの設定から男女を入れ替えたい」と思い立ってしまって。

高木:消える想定の「りの」で見上さんを選んだのに、男女逆転させちゃう発想がおもしろいね。

松居:存在感の強い「りの」に対して、消えてしまう儚い「じゅん」は佐藤寛太にお願いしようと思いました。

高木:佐藤さんはどういう経緯で浮かび上がってきたんですか?

松居:ちょうどその前の年末に、僕のInstagramにDMがきたんですよ。「すごい好きだよ」って気持ちを、3スクロールくらいしないと読めない長文でしたためてくれて。

高木:そうだったんだ! オモロ(笑)。

松居:で、パッと浮かんだんですよね。DMでグイグイ来る落ち着きのない佐藤さんが、消えてしまう儚い「じゅん」って……ギャップあっておもしろいかも、って。

高木:意外性に賭けたんですね。めっちゃおもしろかった!

見上愛の十八番が生んだ、原作とのうれしい「シンクロ」

松居:男女逆転は原作者的に大丈夫でした?

高木:全っっっ然、大丈夫! キャストも「意外な人が選ばれたな」と思って映画を観たら、「もう最高じゃん!」って。意外だったのに必然性を感じたんですよ。お二人を見た瞬間、納得せざるを得ないものを感じました。何より見上さんに関しては、世が世なら一国一城を差し上げたいくらい。

松居:世が世なら!(笑)

「原作の魂を再構築」するため、全身全霊で「りの」を体現した見上愛 ©2024「不死身ラヴァーズ」製作委員会 ©高木ユーナ/講談社

高木:マンガを描くにあたって、キャラクターづくりって気が狂うほど大変で。子を一人産むような感覚なんです。そんな「我が子」が育って一人歩きしてくれたらいいんですけど、作者や原作ファンの想像を超える実写化ってなかなかありえない。でも見上さんはその先入観を軽く超えてきたんですよ。彼女がつくった「りの」は、私には絶対につくれない。オリジナリティあふれる「りの」がスクリーンの中を駆け回っていて。そうだなぁ、とにかくマンガを描きたくなった。

松居:わかる! 僕も引っ張られましたもん。原作や台本があるにもかかわらず、見上愛の奮闘にあてられて台本が変わっちゃったし。

─どのシーンですか?

松居:「じゅん」とのデート中、「りの」が駅の階段でギターをかき鳴らしながら、GO!GO!7188の“C7”を歌う場面ですね。もともと台本にはなくて、見上さんの芝居を見てたら入れたくなったんですよ。彼女、学生時代にバンドやっていて。いちばんの十八番が「C7」だったみたい。

高木:あまりのシンクロぶりに鳥肌立ちますよ。松居さんにはお伝えしたんですが、実はマンガの中で軽音部の「りの」が歌っているのは、GO!GO!7188の“神様のヒマ潰し”なんです。楽曲の歌詞を出していないけれど、私はそのつもりで描いていました。

松居:ね。僕はそれを聞いていたから、見上さんが“C7”を提案してきた時にマジで驚いた。高木さんの裏設定、彼女は知るよしもないですから。

高木:歌詞がこの映画にドンピシャで、“C7”こそまさに『不死身ラヴァーズ』を象徴するような楽曲だな、って。見上さんが「りの」である必然性を一段と感じました。

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