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NEWS EVENT SPECIAL SERIES

パソコン音楽クラブ×LAUSBUB 志は「テクノ」に、音楽で生きていくための生存戦略

2024.8.16

#MUSIC

広く「テクノ」を志し、メンバーそれぞれがDJとしても活動、「友達と二人で音楽をはじめた」という共通点を持つパソコン音楽クラブとLAUSBUB。互いのイベントでの共演、楽曲へのゲスト参加などを経て関係を深めた2組の初対談が実現した。

明確にダンスミュージックとして打ち出された決定打的アルバム『Love Flutter』をリリースしたパソコン音楽クラブ、さまざまな音楽を貪欲に取り込み、実験精神を胸にサウンドとビートをさらに拡張した1stアルバム『ROMP』を作り上げたLAUSBUB。互いの第一印象と最新作、ローカルで育まれる音楽の可能性、テクノ / ダンスミュージックを生業に生きていくことについて、4人の対話は止まることがなかった。

以下、ミュージシャン / 映像作家としても活動し、パソコン音楽クラブのリリースライブのアフターパーティーにも出演する小鉄昇一郎がお届けする。

※「高橋芽以」の「高」は「髙」(はしごだか)が正式表記となります

パソコン音楽クラブ、LAUSBUB

中学時代にパソコン音楽クラブを初めて聴いたLAUSBUB。互いの第一印象と最新作を語り合う

─世代的にはひと回りほど違う2組ですが、パソコン音楽クラブがLAUSBUBを知ったのはいつ頃でしょうか?

西山:ベタですけど、2021年にLAUSBUBの“Telefon”がバズったときですね。「今、こういう音楽をやろうとする若い人がいるんや」っていう。それも単なる懐古主義やノスタルジーではなく、新鮮なものとしてやってる印象でした。

柴田:僕もそのタイミングですね。KORG MS-20 miniと一緒に映ってる佇まいとか、めっちゃ気になるな~ってなりました。

パソコン音楽クラブ(左から:柴⽥碧、⻄⼭真登)
『Love Flutter』を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く) 

─LAUSBUBはいつパ音を知りましたか?

高橋:私は中学生のときに初めて聴きました。高校に入って(岩井)莉子にテクノや電子音楽といったジャンルを教えられて、より意識して聴くようになった感じです。

岩井:私もTwitterをはじめた中学生のとき、SoundCloudで聴いたのが最初でした。そのときYMOとかはもう聴いていたので、「今の時代にもこういう音楽を作る人たちがいるんだな」って、嬉しかったのを覚えています。

LAUSBUB(左から:高橋芽以、岩井莉子)
『ROMP』を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

─そこからLAUSBUBとして世に出て、パソコン音楽クラブとも共演・共作し、どんどん世界が広がっていきます。そして今回、1stアルバム『ROMP』がついにリリースされたわけですが、パ音のお二人はアルバムを聴いてどう感じましたか?

西山:まず、これまでのLAUSBUBの音楽をさらに拡張して、ここまでのクオリティーでアルバムを完成させたのはすごいことですよね。僕も柴田くんも、「アルバム」というひとつの単位で作品として聴いてほしいという気持ちがずっとあるんですけど、『ROMP』にも同じ意志を感じて嬉しかったですね。

柴田:『ROMP』はざっくりニューウェーヴとかテクノみたいな言葉で括られるかもしれないんですけど、よく聴くとラテンとかいろんな音楽の要素が入っていて、そこに二人の音楽の聴き方が反映されているのかなと思いました。まあニューウェーヴとかテクノ自体がそういう音楽と言えばそうですが。

LAUSBUB『ROMP』収録曲

─たしかに『ROMP』はいろんなビートのスタイルが出てきます。

柴田:あと、「electronics」感というか。僕は「electronics」っていう言葉に魅力を感じるんですよ。DAF(※)のメンバーの担当パートにも「electronics」ってあったりしますけど、シンセサイザーとエフェクターの音楽というか、そういうざっくりした総称としての「electronics」を感じさせてくれる音楽って『ROMP』が久しぶりな気がします。

LAUSBUB:ありがとうございます!

※編注:DAF(Deutsch Amerikanische Freundschaft)とは、ボーカルのガビ・デルガド=ロペスとエレクトロニクス担当のロベルト・ゲアルを中心とする音楽ユニットのこと。岩井は以前、取材で「DAFがとにかく好きで、ガビ(・デルガド=ロペス)になりたいと思っていた時期もありました」と語ったことがある(外部サイトを開く

DAF『Gold und Liebe』(1981年)収録曲

─では、LAUSBUBから見てパソコン音楽クラブの新作『Love Flutter』はどうでしたか?

高橋:パソコン音楽クラブの作品って、どれも一貫した空気感とコンセプトがあるなと思っているんですが、今回のアルバムも、聴く人が身を委ねたくなるような空気感があって。そういう統一感のあるクオリティーの高い作品をこのスパンで制作されているのが、単純にすごいなって思いましたね。

岩井:私もそうで、このペースでいい作品を出されたら、いつまでも追いつけないなと思って……。

柴田:(笑)

岩井:『Love Flutter』は、前作よりもちょっと内省的な要素が入ってる気がして、そこは個人的に嬉しかったです。音についても、Overmonoのような粒子感だったり、Mount Kimbieあたりの現行のエレクトロニックミュージックの要素やトレンド感もあって。現代の音楽シーンの歩みと、パソコン音楽クラブの歩み、その両方を同時に感じられる内容ですごく楽しかったです。

西山:めっちゃ嬉しい評価をありがとうございます。

パソコン音楽クラブ『Love Flutter』収録曲

心は「テクノ」、でもポップスであることも手放さない

─2組は自分たちの音楽を説明するときはどう表現していますか?

西山:以前、「パ音はジャンルから逃げてますよね」って言われたことがあって、それはたしかにと自分でも思ったんです。でも振り返ってみると、自分たちの音楽に通底してあるのは「テクノ」ですね。まあ「テクノ」も広義と狭義の意味がありますけど、ひと言で言えって言われたら、「テクノミュージックをやってます」って言ってもいいのかなって思えるようになってきました。

そもそも『Love Flutter』は今後の方向性を示す作品にしたかったんですよ。それで自分たちが好きなもの、目指すべきものは何かっていうと、やっぱり「テクノ」なのかなと。柴田くんはどうかわからないですけど。

パソコン音楽クラブ
2015年結成のDTMユニット。メンバーは⼤阪出⾝の柴⽥碧と⻄⼭真登。ハードウェアシンセサイザーを駆使したサウンドをベースにエレクトロニックミュージックを制作している。2018年に初の全国流通盤となる1stアルバム『DREAM WALK』をリリース。 2019年、2ndアルバム『Night Flow』は「第12回CDショップ⼤賞2020」に⼊賞し注⽬を集める。2021年10⽉に3rdアルバム『See-Voice』、2023年5月に4thアルバム『FINE LINE』をリリース。そして2024年8月7日に5thアルバム『Love Flutter』をリリースする。

柴田:まあ、僕も概ね同じところではあるんですけど、(パ音は)ポップスの要素もあるのかなと思いますね。だから、人に自分たちの音楽を聞かれたら、「シンセの音で作られた、ダンスミュージックの要素もあるポピュラー音楽です」って言うかもしれないです。

西山:柴田くんはあくまでパ音はポップスだと思ってるってことやね。

柴田:何をポップスとするかは難しいですけど……でも、やっぱりどっかでみんなに聴いてほしいという意識があって、自分の音楽を(人に伝わるように)翻訳して作曲しているような部分はあると思います。

パソコン音楽クラブ『Love Flutter』収録曲

─それらもひっくるめて、あえてひと言で言い切るなら「テクノ」という感じなんですね。LAUSBUBはいかがでしょうか?

岩井:今のパソコン音楽クラブのお二人の話は、共感する部分しかなかったです。そういう「テクノ」って言葉の指す範囲の広さを、改めて最近感じます。やっぱり自分のやりたい音楽をポップスに、歌ものとして聴けるようにすること、柴田さんがおっしゃった「翻訳」みたいなことをLAUSBUBもしてるのかなと思いました。そのバランス感は今後も保ちたいですね。

─LAUSBUBは「ニューウェイブ・テクノポップバンド」として紹介されることが多いですよね。

岩井:そう名乗ってはじめたんですけど、だんだんニューウェイブでもなくなってきてると薄々感じはじめていて(笑)。エクスペリメンタルって断言できる感じでもないし、でも俯瞰して聴けば、LAUSBUBもポップスとして聴けるかな、って感じもあるなと。

LAUSBUB(ラウスバブ)
2020年3月、北海道札幌市の同じ高校の軽音楽部に所属していた岩井莉子と髙橋芽以によって結成されたニューウェーブテクノポップバンド。2021年1月18日、Twitter投稿を機に爆発的に話題を集め、SoundCloudで全世界ウィークリーチャート1位を記録。AIR-G’ FM北海道でオリジナルプログラム『Far East Disco』の担当、『札幌国際芸術祭2024』テーマソングを担当するなど活動の幅を広げる。2024年7月、1stアルバム『ROMP』をリリースした。

高橋:私もLAUSBUBがニューウェイブか、ポップスかと言われると、わからないって感覚はありますね。

柴田:Bandcampとか漁ってるとこれサイン波テキトーに録っただけやろ、でもめっちゃいいなあ、みたいな曲とかあるじゃないですか。そういう「実験経過」みたいな音楽も好きですけど、そこで終わらずに、いろんな人が聴けるように翻訳する作業に挑んでる人にも僕はグッとときます。

「クラブ」という環境、文化が両者に与えた影響

─ではダンスミュージックという見方では、自分たちの音楽をどのようにとらえていますか?

西山:パソコン音楽クラブはダンスミュージックに年々、シフトしてきたなって思いますね。当初はそこまで意識してなかったんですけど、やっぱり出演する会場はクラブが多いし、そうなるとDJカルチャーが隣にあるじゃないですか。身体性ありきの音楽の場でやることの影響はありましたね。だから今回の『Love Flutter』はもう、ダンスミュージックを作ろうと思って制作しました。

─クラブでのパフォーマンスの経験が、曲作りにもフィードバックしてきた、という感じでしょうか。

柴田:活動の年数とともに、(会場の)スピーカーのサイズも大きくなっていって、ドラムとベースの重要性をますます意識するようになりましたね。

https://www.youtube.com/watch?v=bvuoHbVq2xE
パソコン音楽クラブ『Love Flutter』収録曲

柴田:ダンスミュージックを作るにあたっての大まかなルールや共通のセオリーってあると思うんですけど、一方で人それぞれ固有のリズム感もあると思うんですよ。

「これじゃ踊られへんやろ!」って僕が思う曲が人によっては、「いや俺は踊れますが」となるみたいな、リズムに対する感覚には個人差があると思うんですけど、そこも尊重したいところではありますね。

西山:最近、二人で作っててぶつかるのが「このビートは身体が動くよね」って柴田くんが言うタイミングがまったくわからないってことで(笑)。それは柴田くんが言う個人差だったり、美意識の違いなのかなと思います。

─LAUSBUBのお二人もまた、DJ活動が増えたり、クラブカルチャーにより接近している印象ですが、今作にその影響はありますか?

岩井:クラブやDJの経験はアルバムに反映されていると思います。特にclub asiaの周年イベント『F F F』に出演させていただいて、パソコン音楽クラブやimaiさんのライブを観て「この音がこの音響で鳴ることで、こういう効果が生まれるんだな」と勉強になって。制作においても特定の環境、クラブの音響で鳴らしたときの質感を意識するようになりましたね。

─地元・札幌のクラブでも、DJをされていますよね。

岩井:札幌ではいろんなジャンルの音楽がひとつのイベントに集うことが多いですね。それと、Precious HallやPROVOとか、札幌の音楽の要塞みたいな場所に育てられたことは自分たちの表現にも表れていると思います。

高橋:私も『ROMP』の制作中は札幌のクラブによく行っていたんですけど、札幌はシーンがギュッと詰まってて、異なる音楽のコミュニティーにいる人が混じり合ってるんです。そういう場所にいたことが制作にも反映されているように思います。

https://www.youtube.com/watch?v=nRHNNJS7nIM
LAUSBUB『ROMP』収録曲

─地方はそもそも音楽をやっている人の母数が少ないから、いろんなジャンルの人が寄り集まるというのは、自分も最近まで四国にいたんでよくわかります。パソコン音楽クラブも、地元である関西でそういう感覚はあったんじゃないでしょうか。

西山:そうですね。まあ大阪はまだ比較的大都市なんで、もうちょっとジャンルの幅があったとは思うんですけど、自分たちみたいな音楽をやってる人が当時はまだ全国的にも少なかったと思いますし、パソコンを使ってライブする人も今ほどいなかった。そういうこともあって必然的にライブをやれる場所は限られてて、いろんなジャンルがごちゃごちゃしたところに放り込まれる感じはありました。バンドの人たちと一緒にやったり。

でもそれが結果として自分たちの音楽の糧になったというか。昔の大阪は、インディーロックとネットレーベルとエクスペリメンタルとか、あと、ローファイハウスやごく初期のシティポップブームとかがごちゃ混ぜになった感じが刺激的でしたね。zicoさんっていうオーガナイザーの方がいろいろ企画されていたんですけど(※)。

※編注:『POW』や『OZ』といったパーティーの主催者。2017年12月29日、南堀江SOCORE FACTORYで開催された『POW』と『TØNO』の合同イベントでは、パソコン音楽クラブのほかにYousuke Yukimatsu、食品まつり a.k.a foodman、Le Makeupらが出演した(外部サイトを開く

札幌のローカルなシーンを形成する人、場所、イベント

柴田:北海道のイベントのフライヤーをSNSで見てると、LAUSBUBの二人のソロの出演だったり、PLASTIC THEATERの企画だったり、自分は行けないけど、刺激的なラインナップが多いですよね。

西山:ある地域で同時多発的におもしろいことが起きたり、畑の違う人同士が、やる場所がほかにないからと偶然出会って、何か化学反応が起きるみたいなことってなかなか情報として残らないじゃないですか。だからそういう場面に立ち会えるのは、かなりラッキーなんだろうなって思います。

柴田:それこそloli主語くんみたいな人がLAUSBUBの二人と同じ世代に、同じ札幌にいるのも不思議で。

岩井:loli主語くんはこの前も川でiPhoneだけでDJして遊んだりしてて、わけわかんないっていうか、めちゃくちゃですね(笑)。全員、仲いいですけど。そういうローカルなつながりは、たしかにラッキーだなと思いますね。

https://www.youtube.com/watch?v=6cHQ_aHACS4
loli主語“あの夜を超えにいくために”(2023年)を聴く

西山:大阪にいる頃に思ったのは、やっぱり東京と比べると地方ってジャンルでつるむ人を選べるほど人がいないから、遊ぶ友達も活動的には全員バラバラだったりする。人間的に相性悪かったらつるめないし、音楽のジャンルとかよりも根本の考え方や思想みたいなところでリスペクトできる人が集まってると思います。

だから一緒に遊ぶ友達が勧めてくる音楽とかも、ジャンル的には知らなくてもすごくよかったりするんですよ。そういう付き合い方だから広がりがあるというか、音楽的な価値観とかもいろいろ見えてきて、よかったなと思いますね。

─ジャンルではなく、人の縁だったり集う店でローカルなシーンが形成されていきますよね。

高橋:loli主語くんもそうですけど、どこのシーンにも属そうとしないような、でもどこにでも現れるフラットな人が札幌には結構いるなーと思っていて、そういう人と話してみると価値観だったり考え方に共感したり、そこで生まれるつながりは強いと思います。

岩井:北海道にはほかにも、「十三月」からリリースしたGlansってオルタナのバンドがいますね。ボーカルの(江河)達飛くんはジューク / フットワークのDJもやってて独自の価値観を持ってるんですけど、速すぎて遅くなるとか、逆に遅すぎて速くなることについてめっちゃ語ってたり(笑)。そういうめちゃくちゃな、わけのわからないおもしろい人が札幌にはいます。

https://www.youtube.com/watch?v=LZSysK0yjPA
Glans『slow tree』(2024年)収録曲

岩井:あと、みんなシャイなところもあるんですけど「さっきのライブはあんまりよくなかった」とか、はっきり言うんですよね。そういうこだわりとか美学がちゃんとある人が地元の友達には多い気がします。

高橋:さっき柴田さんがおっしゃっていたPLASTIC THEATERで『点灯』ってイベントがあって、mostin fantasyさんという方が主催しているんですけど。mostinさんはすごく札幌のシーンを見ていて、イベントのメンツとかも、まったく違う畑の人が集ってて、不思議な空間というか、そのイベントでしかあり得ないような体験がありますね。

mostin fantasyが主催する『点灯』のフライヤー(Artwork by LunaticBinko)。2024年3月4日にPLASTIC THEATERで開催され、両者が話題にあげたloli主語も、VJとしてdrone dog名義で出演。なお、2024年9月1日には『点灯 ft. nonoka』が開催される(外部サイトを開く

岩井:mostinさんは、大学のイベントまで来てて、そういうすごくローカルなイベントにも一人でポンとやって来るような人なんですよね。あとthe hatchの山田碧さんは、東京にいながらも札幌のシーンのことをすごく考えている方で、音楽に対して献身的というか、札幌のみんなの重要人物ですね。

the hatch主催の『THE JUSTICE』という札幌のイベントに私たちも出演させてもらったんですけど、京都からはMOFO、山口からはtoiret statusが出演して、お客さんも10代から60代まで幅広く、ジャンルも年代も関係なく、ひとつの会場で音楽を奏でるっていうのが、ほかにあまりないイベントでした。

https://www.youtube.com/watch?v=ltoYGif2YJU
the hatch“P0STPuNK ?”(2024年)を聴く

柴田:Salonタレ目なんかも、おもしろそうな場所ですよね。

岩井:あそこも今すごくおもしろい場所のひとつですね。リスニングパーティーのイベントを主催させてもらったんですけど、いろんなことが試せるお店だと思います。

大学生というライフステージ、1stアルバム、「友達」と音楽を続けていくこと

─ここまでのことを踏まえてアルバムの話に戻りたいのですが、LAUSBUBとして1stアルバムをリリースしていかがですか?

岩井:これで音楽活動をはじめられたって感じがあります。やっとみんなの仲間入りができたかなって気持ちもありつつ、この先が重要だなと改めて考え直すタイミングでもありますね。

『ROMP』は本当に自分のやりたいことだけを、音楽以外の情報もなるべく排して、ただ音と自分だけ、みたいな気持ちで作ったので、この先はもう少し開けたというか、聴く人との関係性を持てるような音楽を作れたらいいなと思っていますね。

高橋:私も『ROMP』を作ったことで、どんな音楽をどういうふうに作りたいかって意識も以前とは変わったと思います。もっとこうできるなとか、自分に何ができるかなとか、いろいろ考えたし、それは今後も活かせると思うので、早く次のアルバムを作りたいなって感じです。

https://www.youtube.com/watch?v=_8W0Nzs92as
LAUSBUB『ROMP』収録曲

─最初に西山さんが、自分がLAUSBUBの二人くらいの年齢のときはこういう作品を作れなかったと思うとおっしゃっていましたが、パソコン音楽クラブがその年齢の頃はどんなことを考えていましたか?

西山:今、お二人は21歳とかですよね? 大学2、3年生のときだから……もう一緒にやってたっけ?

柴田:わからへん。やってるかやってないかくらい?

西山:一応、今年の11月でパソコン音楽クラブ10周年なんですよ、自称(笑)。21歳の頃だと、パソコン音楽クラブを名乗っていたかはわからないけど、柴田くんとはもう出会っててやっと何か始めようとしてた時期ですね。そう考えるとLAUSBUBには相対的にかなり先を越されてます。

柴田:(笑)

西山:音楽を一生やっていこうとか、プロになろうとか、そんなビジョンもなくて、何となく趣味で楽しければいいかな~って感じでしたね。あとはもう、ずっと家で寝てましたね。

柴田:5日間くらい西山くんと連絡がつかなくて「何してたん?」「ごめん寝てた」とか(笑)。

西山:別にメンタルが落ちてたとかじゃないんですけど、まあそういう生活が許されてた時期ですよね。1日中インターネット見て、みたいな。

柴田:のんきな学生でした。

─そこから数年経て、パ音としての1stアルバムが出るわけですね。

西山:1stアルバムが2018年とかですよね。

柴田:最初は本当に何も考えてなかった……音楽でどうにかなってやろうみたいな野心もなくて、単に趣味のひとつ、みたいな。西山くんとSkypeで通話しながら「暇やし今日は動画作る練習してみましょうよ」みたいな、レクリエーションって感じですよね。

西山:作ったものを互いに見せ合うっていう、プリミティブな楽しみしかなかったって感じです。僕らとLAUSBUBの共通点は、「友達と二人で音楽をはじめた」ってことかもしれませんよね。友達とバンド組むってことはよくあると思いますけど。

https://www.youtube.com/watch?v=vbiFh5jRFHQ
パソコン音楽クラブ『DREAM WALK』(2018年)のトレイラームービー(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

─二人で活動を続けていくコツはありますか。

西山:このあいだ、group_inouのお二人に同じこと聞きました(笑)。これはもう、厳然たる事実だと思うんですけど、音楽で飯食ってる以上は「仕事」になっていくんですよね。事務的なこと、たとえば法人化して柴田社長、僕が副社長みたいな話になっていくと、友達ではいられなくなる瞬間があるんですよ。どんな先輩に聞いてもみんなそうなんですけど。

西山:ただ、そこでやっぱり友達であることを諦めたくないみたいなのは思いますね。そこを上手くやっていく方法を考え中です。

柴田:仲悪いわけじゃないけど(笑)、まあプレッシャーはあるよね。誰しもみんなあるっていうから、そうなんだと思いますけど。

西山:まあ僕らは「インディーで全部自分らでやろう」って最初に決めちゃったのも大きいですけどね。実際ずっと友達だし、聞かれたから言った話で、そんなに重いことじゃないですけど。

岩井:私は今はまだ「友達とバンドやってるんだよね~」くらいの感覚なので……まあ私は、自分はどうなっても何とか生き延びるとして、(高橋)芽以ちゃんにはご飯食べていけるようになってもらおうって気持ちはありますね。

一同:(笑)

西山:互いの生活やライフステージだったりで、自分はめちゃくちゃオルタナなことし続けたいと思っても、やっぱりご飯食べていかないと、みたいな話になったら、初期衝動だけでやってた頃とは違うっていうか。ただ友達と好きなことやるって話を超えて、ビジネスパートナー同士の話になっていくだろうし。

高橋:友達でいるのを諦めないっていうのは、すごくグッときました。一緒にやる以上は、友達としてずっといられるように、私たちもやれることがあると思います。

エレクトロニックミュージックとして「日本語の歌」をいかに聴かせるか

─パ音のアルバムの話もお聞きしたいのですが、高橋さんは前作(2023年リリースの『FINE LINE』)から引き続き、今回も“Drama”でボーカルとして参加していますよね。

高橋:“Day After Day”のときはまず、フィーチャリングでボーカルとして参加するっていうことが初めてで、すごくドキドキしました。曲のなかでの自分の立ち位置というか、客観的な歌のあり方を知る機会になったのですごくありがたい体験でした。

今回の“Drama”は、フックとしての歌というか、歌の存在感がより強い曲だなと思います。アルバムのタイトルにもなってる、「愛のはためき」っていうテーマにも関係のある、子どもの頃の記憶や子どもの声だったり……そういう曲を歌わせてもらったのは嬉しかったですね。

https://www.youtube.com/watch?v=-ENWU2VP2Mg
パソコン音楽クラブ『Love Flutter』収録曲

西山:僕も柴田くんも、芽以ちゃんの声は本当に素晴らしいと思ってるし、また頼みたい気持ちはずっとあったんですよね。『Love Flutter』自体、前作よりも「ダンスミュージックのアルバム」として聴かせたかったし、歌とビートの比重で言うとビートを強く出したいと思っていたんです。

なので、“Drama”はもっと間を持たせて、歌が出てきたときにより美しく感じるような展開にしたかったんです。曲としては、電気グルーヴの“虹”みたいなイメージですね。歌がやっと入ってきたときのカタルシスみたいな。高橋さんはそういう開放感というか、気持ちよさを本当に上手に表現できる声を持っているんで、“Drama”は上手くハマった気がして、自分的には気に入っていますね。

岩井:“Drama”は、LAUSBUBにおけるボーカルのあり方とは違う、自分にとっても新しい感じで、すごく刺激になりました。ダンスミュージックのなかでの歌のあり方というか。

https://www.youtube.com/watch?v=6rP7Dv_5iTo
電気グルーヴ『DRAGON』(1994年)収録曲

─柴田聡子さんとの“Child Replay”、tofubeatsさんとの“ゆらぎ”は、アルバムのなかでも特に「歌」が印象的な流れですが、この曲における「ダンス」と「歌」のバランスはどうでしょうか。

西山:その2曲に関してはポップスというか、やはり「歌」として作ってますね。柴田聡子さんはもちろん、トーフさんもやっぱり「シンガーソングライター」だと僕は思っていて。その人の私的な感覚とか「歌」を聴きたくてオファーしたんです。

「歌」に比重を置きつつ、あくまで「ダンスミュージックのオケの上で鳴ってるポップス」というか。最近の意識としてはもう少し「歌」を減らして行く方向で考えているんですが、この2曲に関しては逆に「歌」を増やした曲ですね。

https://www.youtube.com/watch?v=0vFNmLzBink
パソコン音楽クラブ『Love Flutter』収録曲

西山:あとそもそも、ダンスミュージックに日本語を乗せる難しさってあると思うんです。僕は「日本的な音楽とは何か?」って考えることが多くて、それは和メロがどうこうって話じゃなくて、日本由来で日本人がやってる音楽が果たしてどれだけあるのかっていう話で。

じゃあ英語で歌うのかとか、歴史的にいろんな人たちが試行錯誤してきたわけですけど、今は特にいろんなアプローチでみんな自分の音楽を通じてアイデンティティーを見出そうとしてると思うんですよね。

―たしかに、レゲトンなどラテンアメリカ発のポップミュージックがチャートを席巻したり、K-POPのグローバルヒットが象徴するように、ストリーミングの普及によって誰でも世界中の音楽にアクセスできるようになった結果、各国、各地域に根差したアイデンティティーをどう自分たちの音楽に落とし込むのか、ということはより意識されるようになったように感じます。そしてそれはナショナリズムとは全然違う次元の話として。

西山:日本の場合、輸入されてきた音楽を取り入れて、再解釈して、ってことをずっとやっているというのは事実としてあると思うんですよ。雅楽のような日本古来の音楽を「ポップス」として聴く人はほぼいないでしょうし。自分たちがやってる音楽なんて、とりわけ海外からの影響も強いですしね。なかなか答えが出る話ではないんですが。

https://www.youtube.com/watch?v=1dVeyQ3OxmI
パソコン音楽クラブ『Love Flutter』収録曲

─LAUSBUBにおける歌、というのは現在どう考えているのでしょうか。

岩井:アルバムを作っているあいだは、芽以はすごくいいシンガーなのに、自分はなかなか声主体の音楽が作れないなという課題感が正直ありました。歌ものを作っても、なんかスカした感じになっちゃうな、というか。

それでそれぞれ二人がハマっていた音楽、私はフットワークで、芽以はコラージュだったんですけど、どちらも共通してサンプリングというか、音を切り貼りして作るので、その要領で「歌」を切り貼りして作ったところはありますね。ただ最後の曲“TINGLING!”はちゃんと歌が主体で作っているかもしれないです。

https://www.youtube.com/watch?v=R5xKVmEPnHE
LAUSBUB『ROMP』収録曲

高橋:歌は自分たちの音楽をポップにするための役割だと思うんですけど、莉子も言っているように難しくて。ただ、たとえば“Sweet Surprise”なんかも、歌の立ち位置がポップというよりは、もっと怪しい、冷たい感じだったり。それはそれでLAUSBUBにはハマってるな、とも思っていて。

岩井:歌のあり方についてはもうちょっと考えたいですね。

西山:僕からLAUSBUBに質問してもいいですか。『ROMP』はこれまでの作品に比べて、Corneliusの影響をまっすぐ感じるなって思ったんですよ。フレーズの使い方とか、ギターが入ってくるところとか。やはり影響は大きいですか?

岩井:そうですね。意識はしてなかったですけど、できあがって聴いてみてから『Point』(2001年)あたりの空気感、ミニマリズムみたいなものが出てるなって自分でも感じました。手癖みたいにCorneliusからの影響はインプットされているんだと思います。

https://www.youtube.com/watch?v=Qvr5RnPinfQ
LAUSBUB『ROMP』収録曲

「同志」として互いに送り合うエール。この音楽で生きていくための生存戦略

─そろそろ時間が迫ってきたので、2組から互いにエールを送っていただければ。まずは、LAUSBUBからパソコン音楽クラブに。

柴田:エールってやばい(笑)。

岩井:パソコン音楽クラブみたいな先輩がいるのが、ずっと心強いです。パソコン音楽クラブのお二人が今、何に興味を抱いてるのかも気になるし。LAUSBUBはまだ1stアルバムをやっと出せた段階なので、いつか追いつけるとも思えないんですけど、ずっと追いつけないくらい、このまま突き進んでほしいです。

高橋:ボーカルとして作品に関われていることが嬉しいなと思っています。今回の『Love Flutter』にしても、余白みたいな部分だったり、子どもの頃の記憶とか、そういう内省的な要素が交わる世界観だったり、すごい作品だと思います。なのでこれからもリスナーとしてもLAUSBUBとしても応援していますし、次の作品も楽しみにしています。

─パソコン音楽クラブからLAUSBUBはどうでしょうか。

西山:ありがとうございます。インタビューでこういう空気は初めてかもしんない(笑)。

柴田:まあ、LAUSBUBのお二人とは世代的には離れていますけど、年下とか後輩という気持ちになったことがなくて、ミュージシャンとして普通に尊敬の対象ですね。

「二人で音楽をやっている」ことへのシンパシーだったり、独特の音楽観だったり、自分たちの音楽を作っていこうという強い意志も感じますし。だからどんどんやっていってほしいっていうのが希望だし、あとは……体力的には無理せずにって思います。

高橋:ありがとうございます(笑)。

柴田:なんか、去年の北海道のイベントに莉子さん一緒に出たとき、芽以さんと3人で油そば屋に行ったんですけど、二人とも疲れて全然食べれない状態になってて、大丈夫かね、と思って……(笑)。先輩風吹かすのもダルいですけど、あんまり無理せずにってそのとき思ったのを、何となく今思い出しました。

西山:これは自分が音楽をやるなかで感じることなんですけど、こういう小さなジャンルを日本でやってくのって、個人プレーでは絶対無理だと思うんですよ。いわゆるシーンというか、同じ志を持つような人たちで、一緒に頑張れる状態をどれだけ作っていくかってことが、ある意味で生存戦略でもあるというか。

それによって自分が好きな音楽がもっと出てくるだろうし、おもしろくなる。だから自分でイベントを企画したり、リミックス集でいろんな人に参加してもらったり、そういうのは意識してやってきたんですけど、もっとあってもいいんじゃないかと。

西山:さっき莉子さんがthe hatchの山田さんの話のときに言ってた、シーンのために、音楽のために何かやろうっていう情熱、それはLAUSBUBにも感じますね。僕も柴田くんと同じように、LAUSBUBを後輩だとかは思ってなくて、志を共有できる仲間だと思ってるので、一緒に頑張れたらなと思ってます。

LAUSBUB:ありがとうございます!

─そして、まずはリリースパーティーですよね。

西山:来てほしいですね、僕らの生活がかかってるんで(笑)。

柴田:デスソース一気飲みするんでチケット買ってください! とか体張らなアカンかな……。

パソコン音楽クラブ 『Love Flutter』

2024年8月21日(水)リリース
価格:3,000円(税込)

1. Heart (intro)
2. Hello feat.Cwondo
3. Fabric
4. Child Replay feat.柴田聡子
5. ゆらぎ feat.tofubeats
6. Observe
7. Please me feat.MFS
8. Boredom
9. Drama feat.Mei Takahashi(LAUSBUB)
10. Memory of the moment
11. Colors feat.Haruy
12. 僥倖
13. Empty feat.Le Makeup

https://ssm.lnk.to/LoveFlutter

LAUSBUB 『ROMP』

2024年7月24日(水)リリース
価格:2,750円(税込)

1. Michi-tono-Sogu
2. spin
3. Telefon -2024 Session-
4. Sweet Surprise
5. playground
6. Dancer in the Snow
7. 80+1 Hardy Ones
8. yesey
9. I SYNC
10. TINGLING!

https://lausbub.lnk.to/romp

パソコン音楽クラブ 『「Love Flutter」Release Party』

2024年8月18日(日)
会場:東京都 Spotify O-EAST

Guest Act:
Cwondo
Haruy
Le Makeup
Mei Takahashi(LAUSBUB)
MFS
柴田聡子
tofubeats

VJ:
tsuchifumazu

Flyer Design:
杉山峻輔

https://eplus.jp/pasoconongaku.club

パソコン音楽クラブ 『”Love Flutter” After Party』

2024年8月18日(日)
会場:東京都 東間屋

出演:
okadada
TOMMY(BOY)
©︎ool Japan
徳利
Kotetsu Shoichiro
in the blue shirt
パソコン音楽クラブ

https://eplus.jp/pasoconongaku.club

LAUSBUB 『Tour 2024「ROMP」』

2024年9月12日(木)愛知県 stiffslack
2024年9月13日(金)大阪府 Yogibo HOLY MOUNTAIN
2024年9月15日(日)東京都 代官山UNIT
2024年9月20日(金)北海道 Sound Lab mole

https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2452827

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