広く「テクノ」を志し、メンバーそれぞれがDJとしても活動、「友達と二人で音楽をはじめた」という共通点を持つパソコン音楽クラブとLAUSBUB。互いのイベントでの共演、楽曲へのゲスト参加などを経て関係を深めた2組の初対談が実現した。
明確にダンスミュージックとして打ち出された決定打的アルバム『Love Flutter』をリリースしたパソコン音楽クラブ、さまざまな音楽を貪欲に取り込み、実験精神を胸にサウンドとビートをさらに拡張した1stアルバム『ROMP』を作り上げたLAUSBUB。互いの第一印象と最新作、ローカルで育まれる音楽の可能性、テクノ / ダンスミュージックを生業に生きていくことについて、4人の対話は止まることがなかった。
以下、ミュージシャン / 映像作家としても活動し、パソコン音楽クラブのリリースライブのアフターパーティーにも出演する小鉄昇一郎がお届けする。
※「高橋芽以」の「高」は「髙」(はしごだか)が正式表記となります
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中学時代にパソコン音楽クラブを初めて聴いたLAUSBUB。互いの第一印象と最新作を語り合う
─世代的にはひと回りほど違う2組ですが、パソコン音楽クラブがLAUSBUBを知ったのはいつ頃でしょうか?
西山:ベタですけど、2021年にLAUSBUBの“Telefon”がバズったときですね。「今、こういう音楽をやろうとする若い人がいるんや」っていう。それも単なる懐古主義やノスタルジーではなく、新鮮なものとしてやってる印象でした。
柴田:僕もそのタイミングですね。KORG MS-20 miniと一緒に映ってる佇まいとか、めっちゃ気になるな~ってなりました。

『Love Flutter』を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く)
─LAUSBUBはいつパ音を知りましたか?
高橋:私は中学生のときに初めて聴きました。高校に入って(岩井)莉子にテクノや電子音楽といったジャンルを教えられて、より意識して聴くようになった感じです。
岩井:私もTwitterをはじめた中学生のとき、SoundCloudで聴いたのが最初でした。そのときYMOとかはもう聴いていたので、「今の時代にもこういう音楽を作る人たちがいるんだな」って、嬉しかったのを覚えています。

『ROMP』を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く)
─そこからLAUSBUBとして世に出て、パソコン音楽クラブとも共演・共作し、どんどん世界が広がっていきます。そして今回、1stアルバム『ROMP』がついにリリースされたわけですが、パ音のお二人はアルバムを聴いてどう感じましたか?
西山:まず、これまでのLAUSBUBの音楽をさらに拡張して、ここまでのクオリティーでアルバムを完成させたのはすごいことですよね。僕も柴田くんも、「アルバム」というひとつの単位で作品として聴いてほしいという気持ちがずっとあるんですけど、『ROMP』にも同じ意志を感じて嬉しかったですね。
柴田:『ROMP』はざっくりニューウェーヴとかテクノみたいな言葉で括られるかもしれないんですけど、よく聴くとラテンとかいろんな音楽の要素が入っていて、そこに二人の音楽の聴き方が反映されているのかなと思いました。まあニューウェーヴとかテクノ自体がそういう音楽と言えばそうですが。
─たしかに『ROMP』はいろんなビートのスタイルが出てきます。
柴田:あと、「electronics」感というか。僕は「electronics」っていう言葉に魅力を感じるんですよ。DAF(※)のメンバーの担当パートにも「electronics」ってあったりしますけど、シンセサイザーとエフェクターの音楽というか、そういうざっくりした総称としての「electronics」を感じさせてくれる音楽って『ROMP』が久しぶりな気がします。
LAUSBUB:ありがとうございます!
※編注:DAF(Deutsch Amerikanische Freundschaft)とは、ボーカルのガビ・デルガド=ロペスとエレクトロニクス担当のロベルト・ゲアルを中心とする音楽ユニットのこと。岩井は以前、取材で「DAFがとにかく好きで、ガビ(・デルガド=ロペス)になりたいと思っていた時期もありました」と語ったことがある(外部サイトを開く)
─では、LAUSBUBから見てパソコン音楽クラブの新作『Love Flutter』はどうでしたか?
高橋:パソコン音楽クラブの作品って、どれも一貫した空気感とコンセプトがあるなと思っているんですが、今回のアルバムも、聴く人が身を委ねたくなるような空気感があって。そういう統一感のあるクオリティーの高い作品をこのスパンで制作されているのが、単純にすごいなって思いましたね。
岩井:私もそうで、このペースでいい作品を出されたら、いつまでも追いつけないなと思って……。
柴田:(笑)
岩井:『Love Flutter』は、前作よりもちょっと内省的な要素が入ってる気がして、そこは個人的に嬉しかったです。音についても、Overmonoのような粒子感だったり、Mount Kimbieあたりの現行のエレクトロニックミュージックの要素やトレンド感もあって。現代の音楽シーンの歩みと、パソコン音楽クラブの歩み、その両方を同時に感じられる内容ですごく楽しかったです。
西山:めっちゃ嬉しい評価をありがとうございます。
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心は「テクノ」、でもポップスであることも手放さない
─2組は自分たちの音楽を説明するときはどう表現していますか?
西山:以前、「パ音はジャンルから逃げてますよね」って言われたことがあって、それはたしかにと自分でも思ったんです。でも振り返ってみると、自分たちの音楽に通底してあるのは「テクノ」ですね。まあ「テクノ」も広義と狭義の意味がありますけど、ひと言で言えって言われたら、「テクノミュージックをやってます」って言ってもいいのかなって思えるようになってきました。
そもそも『Love Flutter』は今後の方向性を示す作品にしたかったんですよ。それで自分たちが好きなもの、目指すべきものは何かっていうと、やっぱり「テクノ」なのかなと。柴田くんはどうかわからないですけど。

2015年結成のDTMユニット。メンバーは⼤阪出⾝の柴⽥碧と⻄⼭真登。ハードウェアシンセサイザーを駆使したサウンドをベースにエレクトロニックミュージックを制作している。2018年に初の全国流通盤となる1stアルバム『DREAM WALK』をリリース。 2019年、2ndアルバム『Night Flow』は「第12回CDショップ⼤賞2020」に⼊賞し注⽬を集める。2021年10⽉に3rdアルバム『See-Voice』、2023年5月に4thアルバム『FINE LINE』をリリース。そして2024年8月7日に5thアルバム『Love Flutter』をリリースする。
柴田:まあ、僕も概ね同じところではあるんですけど、(パ音は)ポップスの要素もあるのかなと思いますね。だから、人に自分たちの音楽を聞かれたら、「シンセの音で作られた、ダンスミュージックの要素もあるポピュラー音楽です」って言うかもしれないです。
西山:柴田くんはあくまでパ音はポップスだと思ってるってことやね。
柴田:何をポップスとするかは難しいですけど……でも、やっぱりどっかでみんなに聴いてほしいという意識があって、自分の音楽を(人に伝わるように)翻訳して作曲しているような部分はあると思います。
─それらもひっくるめて、あえてひと言で言い切るなら「テクノ」という感じなんですね。LAUSBUBはいかがでしょうか?
岩井:今のパソコン音楽クラブのお二人の話は、共感する部分しかなかったです。そういう「テクノ」って言葉の指す範囲の広さを、改めて最近感じます。やっぱり自分のやりたい音楽をポップスに、歌ものとして聴けるようにすること、柴田さんがおっしゃった「翻訳」みたいなことをLAUSBUBもしてるのかなと思いました。そのバランス感は今後も保ちたいですね。
─LAUSBUBは「ニューウェイブ・テクノポップバンド」として紹介されることが多いですよね。
岩井:そう名乗ってはじめたんですけど、だんだんニューウェイブでもなくなってきてると薄々感じはじめていて(笑)。エクスペリメンタルって断言できる感じでもないし、でも俯瞰して聴けば、LAUSBUBもポップスとして聴けるかな、って感じもあるなと。

2020年3月、北海道札幌市の同じ高校の軽音楽部に所属していた岩井莉子と髙橋芽以によって結成されたニューウェーブテクノポップバンド。2021年1月18日、Twitter投稿を機に爆発的に話題を集め、SoundCloudで全世界ウィークリーチャート1位を記録。AIR-G’ FM北海道でオリジナルプログラム『Far East Disco』の担当、『札幌国際芸術祭2024』テーマソングを担当するなど活動の幅を広げる。2024年7月、1stアルバム『ROMP』をリリースした。
高橋:私もLAUSBUBがニューウェイブか、ポップスかと言われると、わからないって感覚はありますね。
柴田:Bandcampとか漁ってるとこれサイン波テキトーに録っただけやろ、でもめっちゃいいなあ、みたいな曲とかあるじゃないですか。そういう「実験経過」みたいな音楽も好きですけど、そこで終わらずに、いろんな人が聴けるように翻訳する作業に挑んでる人にも僕はグッとときます。
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「クラブ」という環境、文化が両者に与えた影響

─ではダンスミュージックという見方では、自分たちの音楽をどのようにとらえていますか?
西山:パソコン音楽クラブはダンスミュージックに年々、シフトしてきたなって思いますね。当初はそこまで意識してなかったんですけど、やっぱり出演する会場はクラブが多いし、そうなるとDJカルチャーが隣にあるじゃないですか。身体性ありきの音楽の場でやることの影響はありましたね。だから今回の『Love Flutter』はもう、ダンスミュージックを作ろうと思って制作しました。
─クラブでのパフォーマンスの経験が、曲作りにもフィードバックしてきた、という感じでしょうか。
柴田:活動の年数とともに、(会場の)スピーカーのサイズも大きくなっていって、ドラムとベースの重要性をますます意識するようになりましたね。
柴田:ダンスミュージックを作るにあたっての大まかなルールや共通のセオリーってあると思うんですけど、一方で人それぞれ固有のリズム感もあると思うんですよ。
「これじゃ踊られへんやろ!」って僕が思う曲が人によっては、「いや俺は踊れますが」となるみたいな、リズムに対する感覚には個人差があると思うんですけど、そこも尊重したいところではありますね。
西山:最近、二人で作っててぶつかるのが「このビートは身体が動くよね」って柴田くんが言うタイミングがまったくわからないってことで(笑)。それは柴田くんが言う個人差だったり、美意識の違いなのかなと思います。
─LAUSBUBのお二人もまた、DJ活動が増えたり、クラブカルチャーにより接近している印象ですが、今作にその影響はありますか?
岩井:クラブやDJの経験はアルバムに反映されていると思います。特にclub asiaの周年イベント『F F F』に出演させていただいて、パソコン音楽クラブやimaiさんのライブを観て「この音がこの音響で鳴ることで、こういう効果が生まれるんだな」と勉強になって。制作においても特定の環境、クラブの音響で鳴らしたときの質感を意識するようになりましたね。
─地元・札幌のクラブでも、DJをされていますよね。
岩井:札幌ではいろんなジャンルの音楽がひとつのイベントに集うことが多いですね。それと、Precious HallやPROVOとか、札幌の音楽の要塞みたいな場所に育てられたことは自分たちの表現にも表れていると思います。
高橋:私も『ROMP』の制作中は札幌のクラブによく行っていたんですけど、札幌はシーンがギュッと詰まってて、異なる音楽のコミュニティーにいる人が混じり合ってるんです。そういう場所にいたことが制作にも反映されているように思います。
─地方はそもそも音楽をやっている人の母数が少ないから、いろんなジャンルの人が寄り集まるというのは、自分も最近まで四国にいたんでよくわかります。パソコン音楽クラブも、地元である関西でそういう感覚はあったんじゃないでしょうか。
西山:そうですね。まあ大阪はまだ比較的大都市なんで、もうちょっとジャンルの幅があったとは思うんですけど、自分たちみたいな音楽をやってる人が当時はまだ全国的にも少なかったと思いますし、パソコンを使ってライブする人も今ほどいなかった。そういうこともあって必然的にライブをやれる場所は限られてて、いろんなジャンルがごちゃごちゃしたところに放り込まれる感じはありました。バンドの人たちと一緒にやったり。
でもそれが結果として自分たちの音楽の糧になったというか。昔の大阪は、インディーロックとネットレーベルとエクスペリメンタルとか、あと、ローファイハウスやごく初期のシティポップブームとかがごちゃ混ぜになった感じが刺激的でしたね。zicoさんっていうオーガナイザーの方がいろいろ企画されていたんですけど(※)。
※編注:『POW』や『OZ』といったパーティーの主催者。2017年12月29日、南堀江SOCORE FACTORYで開催された『POW』と『TØNO』の合同イベントでは、パソコン音楽クラブのほかにYousuke Yukimatsu、食品まつり a.k.a foodman、Le Makeupらが出演した(外部サイトを開く)