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映像×舞台ドラマ『滅相もない』で加藤拓也が描く「穴に入りたい」過去との向き合い方

2024.6.14

#MOVIE

©「滅相も無い」製作委員会・MBS
©「滅相も無い」製作委員会・MBS

「穴があったら入ってしまいたい」と思う経験は、誰しも1度や2度は心当たりがあるのではないだろうか。恥ずかしくてほろ苦い過去の記憶が今日まで人生にまとわりついて逃れられない人や、些細な出来事をきっかけに周囲からの視線が鋭利な刃物のように感じられ、誰も知らないどこかに逃げ出したくなる経験をした人にとっては、願ってもない救済法かもしれない。

では、本当に全てから逃避できる「穴」が目の前に現れたとき、人々は、我々は、入ることを選ぶのだろうか。

岸田國士戯曲賞を受賞した加藤拓也が描く「穴」をめぐるSF的ヒューマンドラマ

『わたし達はおとな』『ほつれる』などの映画で知られ、舞台『ドードーが落下する』で『第67回岸田國士戯曲賞』を受賞した劇作家 / 演出家の加藤拓也が脚本 / 監督を務めたドラマ『滅相もない』は、そんな経験のある人の人生を受け入れるような作品だ。同作は加藤が初めて全話で脚本と監督の両方を務めた連続ドラマで、演劇と映像作品の手法を組み合わせた実験的SFヒューマンドラマとなっており、4月16日(火)から6月4日(火)までMBS / TBS系列で放送された後、現在は『Seven Orifices』という英題で、Netflixにて全話が全世界配信されている。

物語の舞台となるのは、突如正体不明の巨大な穴が現れた現代日本。どんな建造物よりもはるかに大きい穴の出現に日本中はパニック状態。有識者によるあらゆる調査が行われたものの、依然としてとして穴の正体不明のまま。調査隊や好奇心に駆られた人など、穴の中に勇んで入っていった人は誰1人として戻ってくることはなかった。次第に、人々は穴の存在に慣れはじめ、「そこにあるもの」として穴と共存して暮らすようになる。注目欲しさに穴に入る動画配信者などもたびたび出てくるが、途中でインターネット回線が途絶え、一向に穴の真相は明かされることがないなかで、「穴の中には救済がある」と説く、堤真一演じる男・小澤が現れ、人々の関心を集める。

©「滅相も無い」製作委員会・MBS

一見、新興宗教がテーマの陰謀論めいたSFドラマのように聞こえるかもしれないが、加藤が手がける物語の核心はそこにはない。小澤のもとには、穴に入ることを決意した8人の男女が集まり、小澤が率いる団体の教えに従って、1人ずつ穴に入る予定日を宣言し、「穴に入ろうと決めた理由」を順番に語っていく。

©「滅相も無い」製作委員会・MBS
©「滅相も無い」製作委員会・MBS

映像作品に舞台演出を持ち込んだ手法が生み出す、見る者が自身を投影できる余白

8人は、怒り方が分からない20代の大学生や、バイト先の普段は誰も来ない小さなオルゴール記念館で2人の同姓同名の人物に出会った20代の女性、小学生の頃の初恋の相手とその後の人生で何度か偶然の再会をする30代の男性、司法試験に落ち続けて50代を迎え家族に借金をしている男性など、年齢も経験もさまざま。しかし、今世に見切りをつけたという共通点がある。今世を早上がりしても構わない人に、早上がりを願う人。そんな登場人物一人ひとりが抱える人間ドラマには、他人事としては見過ごせない痛みや苦しみがある。

そんな人間模様を演じるのは、小澤役の堤真一をはじめとする豪華俳優陣。8人の男女役に名を連ねる中川大志、染谷将太、上白石萌歌、森田想、古舘寛治、平原テツ、中嶋朋子、窪田正孝が、決して浮世離れではない、見るものにとって既視感のある人生の傷や後悔を、より一層切実なものに引き立てている。

©「滅相も無い」製作委員会・MBS

また、「演劇をやれば映像的だ、映画をやれば演劇的だと言われることに嫌気が差し、今回はそのどちらの手法をも持ち込み、そのどちらでもない『滅相も無い』というドラマを作りました。映画的、演劇的の定義がハッキリとしている前提です」と、作品発表に寄せた加藤のコメントの通り、舞台の芝居を鑑賞しているかのような、劇中の演劇パートもこの作品の特徴だ。それぞれの登場人物の回想シーンは演劇的な手法を用いて全てスタジオセットで撮影されている。友人や家族など、語り手に関連する登場人物は、わずか6人のスタジオキャストがおよそ150の役をこなし、セットチェンジや着替えもキャストが映像内で行った。3人組ロックバンドのUNCHAINが担当した劇伴は、スタジオセットでキャストの演技に合わせて演奏されており、これもまた舞台演出さながらの手法となっている。

スタジオセットで用いられる小道具は、教室の机や部屋のベッドと窓など、シーンを設定するのに最小限なものにとどめられている。舞台演出的な手法といえばその通りなのだが、見る者に想像する余白を与える仕掛けとも捉えることができるだろう。従来の映像コンテンツとは対照的に、視覚情報が限定されることで、部屋の壁紙や空の色など不確定な余白に、見る側の立場にいる我々が思い思いの情景を重ね合わせていく内にいつの間にか、物語の当事者かのように、登場人物の感情に移入していく。

©「滅相も無い」製作委員会・MBS

©「滅相も無い」製作委員会・MBS

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