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高木正勝ロングインタビュー 映画音楽は、音楽家が書いたもう一つの脚本

2024.12.25

#MUSIC

人と何かを作るって難しいし、大変だ。それはバンドで音楽を作ることも、仕事で同じプロジェクトに取り組むことだってそうだ。誰かと一緒に作るなら、当然意見を交わすことになる。その過程で折り合いがつかないことも多いけれど、それぞれの解釈を持つ人同士が意見を交わしながら作ったものは、その分だけ色んな人を取りこぼさない、懐の深く広い作品になるのだと思う。

音楽家・高木正勝が数年ぶりに映画音楽を手がけた映画『違国日記』は、人との関わりの中に難しさを感じながらも、人と関わって生きていくことを選択する人たちの物語だった。物語の中で起こっていたコミュニケーションの難しさに心当たりがあったし、高木がどんなことを考えてこの音楽を作ったのか聞いてみたくなった。そして話を聞くと、映画の制作過程で、高木自身も誰かと一緒に作品を作ることの難しさに直面していたとわかった。

大きな窓から緑が覗く京都の古民家で話してもらい3時間、気がつくと夕立の中、人と関わって生きることについての人生論を受け取っていた。前後編でお届けするロングインタビュー、前編は映画『違国日記』についてと、ほぼ同時期に公開された映画『キッチンから花束を』の音楽制作過程について。

「映画の外にある、自分の人生を思い出す余白ができて、映画と自分の人生がごちゃまぜになって感動するみたいな状態にしたい」(高木)

※本記事には映画の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

盆栽をやるように作った『違国日記』の音楽

ー2024年6月に全国公開された映画『違国日記』ですが、オファーが来たときはどう思いましたか?

高木:2023年の8月頃にオファーの連絡をいただきました。実写映画の音楽は、撮影がほとんど終わって編集に入った仕上げ段階でオファーをいただくことが多くて。今まで映画音楽の仕事を受けてきてよく思うのですが、音楽がなくてもセリフと環境音だけで観れるんです。『違国日記』も自分なら音楽をつけずに、このまま公開するかな、と思いました。エドワード・ヤン監督をご存知ですか? 彼の映画はほとんど音楽がないんですけど、『違国日記』も同じように写真をじっと見ているような映像で。最初の試写では3時間ぐらいのゆったりした編集だったので、もし音楽をあえてつけるなら自由に考えられるなと、振れ幅のある音楽を考えていました。ところが、その後、2時間ちょっとまで削られて、印象が結構変わってしまったんです。それで困りました。

高木正勝(たかぎ まさかつ)
音楽家 / 映像作家。1979年生まれ、京都府出身、兵庫県在住。長く親しんでいるピアノを奏でた音楽、世界を旅しながら撮影した“動く絵画“のような映像、両方を手掛ける。NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』、映画『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』『未来のミライ』『違国日記』などの音楽を手がける。近作は、山村にある自宅の窓を開け自然を招き入れたピアノ曲集『マージナリア』、エッセイ集『こといづ』。www.takagimasakatsu.com

ーかなり短くなりましたね。最初はどんな音楽をつけていたんですか?

高木:『違国日記』の原作は、ヤマシタトモコさんがすごく綺麗な色で描かれたおしゃれな表紙からSF感が出ているじゃないですか。だからそのカラー表紙のような音楽を作ろうとしていました。ヤマシタさんがプレイリストを作られていて、そこに僕の“Girls”を入れてくれていたんですよ。他の曲はテイラー・スウィフトとかPerfumeとか星野源とか、アメリカンポップスみたいな曲が並んでいて意外でしたが、全部聴いてみると、なるほどと納得するものがあって。3時間の映像を見たときに、確かに繊細な曲より前向きになる曲の方がいいなと思ったので、“ふたりはともだち”という最初の方に作った曲には、その感じが残っているかもしれません。シーンに合わせて静かにピアノを演奏しているので印象が違うと思いますが、ビートをつけてメロディーを歌うと、1990年代のR&Bっぽい曲になるんです。

―ほとんど曲を変えたのは、どうしてでしょうか。

高木:短くしたことでシーンの展開が急に感じて、その違和感をなくすために音楽で調整する必要があると感じました。例えばオープニングは、主人公の朝(※)の笑顔で始まりますが、その幸せそうな雰囲気に合わせた音楽にすると、次の両親の遺体を見るシーンで、幸せな音楽の余韻が残って気持ち悪かった。編集が短くなる前は余白がたくさんあったので大丈夫でしたが、余白が無くなったことで前のシーンの残響が次のシーンに残ってしまう現象が今回は全体的にあって、それが一番大変でした。いつもだと1シーン5分くらいで、1曲ずつ分けて作れるんですけれど、今回は1つのシーンの音楽を、前後30分くらいを何度も確認しながら作りました。確認するだけで時間もかかるし、盆栽をやっている気分でした。ちょっと切って、置いては枝を払って、もう1回頭から見てみて、この音が邪魔だから切って、みたいな……。僕は監督が最初に作った3時間バージョンが好きだったのかもしれません。ひとつ筋が通っていて、映画ならではの『違国日記』に仕上がっていると感じていました。最終的に短縮されて、無くなってしまったシーンなど、元の印象をどうやったら映画に残せるかが僕の仕事なのかなと、勝手に思いながら進めていました。大変でしたが新鮮で楽しかったです。

※編注:映画『違国日記』で早瀬憩が演じたキャラクター。両親を交通事故で亡くした15歳の少女で、叔母の槙生(新垣結衣)に引き取られて一緒に暮らす。

ー曲数は31曲とたくさんありましたね。

高木:音楽プロデューサーと話し合って、特に前半は極力音楽をつけて観やすくしようと意識しました。音楽がないと、画面に映る全てに意味があるんじゃないかとすごく集中して観てしまうんですよ。瀬田なつき監督作品なのでそういう仕上がりもいいのですが、今回はこれまで以上に幅広い方に観てもらうチャレンジがしたいという要望があったので、音楽をなるべく入れることで、もう少し力を抜いて映画を観れる工夫を心がけました。

ー観客の意識がどこに向くかを重視して作られているんですね。

高木:そうですね。たとえば朝が悲しんでいるシーンだと、僕の中にも2人の自分がいて、一方は「ここでいかにも悲しい音楽を鳴らさなくていいよ」というツッコミを入れる自分もいるんです。でももう一方で、悲しい音楽が入ることで悲しいシーンだということが強調されすぎて、もうそこは読み解かなくていいから、もう一歩先を読み解こうとし始める良さがあるんです。だから「悲しいシーンに悲しい音楽を当てるのは嫌」と言う意見は僕も同じくそう思うので普通は避けるんですけど、一概にそうとも言えない効果があって、いろんなパターンを試しながら進めました。

高木:他にも、例えば餃子を作るシーンは、観客も巻き込んでかき混ぜるような、あえて派手な音楽にしました。音楽のミックスをするときも同じで、全部の音をバランスよく聴かせることもできるんですけど、あえて一番大きな音をさらに聴こえるようにすると、聴き手はその音を無視して他の音を聴こうとし始めるんです。音楽はいろんな当て方がありますね。

槇生と朝の家に、槇生の友人の醍醐奈々(夏帆)が遊びに来て一緒に餃子を作るシーンで流れる

―他の方のお仕事で好きな音楽の当て方はありますか?

高木:最近観た映画だと『コット、はじまりの夏』かな。弦楽器の優しい音だけ入っていて、光がさーっと入ってきたときみたいな響きがほんとうに優しく鳴るっていう、いい音楽の当て方だなと思いました。

今まで観た作品を振り返ると『青いパパイヤの香り』とか『ピアノ・レッスン』、『ニューシネマパラダイス』とか、音楽が堂々と奏でられているものが好きです。ジブリの久石譲さんの作品もそうですね。よく久石さんが「自分は効果音的な音楽は作りたくない、劇伴ではなくて、映画音楽なんだ」と仰っていますが、僕もそうありたいと思っています。映画に音楽を当てるというのは、ほんとうに色々あって、どれが正解というのはないですが。僕は、作曲家なりの解釈、音楽で新たな物語をもう1本かぶせたような映画音楽が好きですし、僕もそっちに進んでしまうんですね。それによって監督と意見が合わないことは起きますし、『違国日記』でも監督とずっと意見が食い違っていて。

映画は監督の家ではなく、みんなの公園

―高木さんはどういった解釈をされていたのですか?

高木:『違国日記』の原作は素晴らしくて、群れから外れてしまった人たちの話、特に僕は槙生(※)の話だと思って読んでいました。はじめに3時間の映像を見たときはその感覚で音楽を作れたのですが、2時間になった映像を見ると、朝の成長物語に変わっていたんです。でも切り替えるのに葛藤があって……「『違国日記』は朝の物語じゃない!」みたいな(笑)。

※編注:映画では新垣結衣が演じる、大嫌いだった姉を亡くした35歳の小説家。姉の娘だった朝を勢いで引き取り、共同生活を始める。

高木:それで実はこの仕事、途中で何回も無理かもしれないと思いました。瀬田監督の過去作品も改めて拝見して、監督とは同い年ですけれど、同じ原作でも受け取り方が違うんですね。僕は子育て真っ最中なこともあり歳が近い槙生目線で読んでしまうし、監督は朝目線で読む。それがお互いの面白さなんですけれど、僕が曲を提出すると監督からは「朝が現在進行形で進んでいる音楽にしてください」と言われる。曲は綺麗だけど、過去を振り返っている、見守っている感じの音楽だと言われて。言われている意味は分かるんです。でも僕は、朝だけを追ってしまうと、槙生の言動が浮世離れしているように感じてしまう。

ー監督はそういう視点だったんですね。そうやって意見が違ったときに、高木さんはどうコミュニケーションを取るのでしょうか?

高木:どんな仕事でも一緒に公園を作っているつもりで言葉を尽くして話し合っていいと思っています。

―公園?

高木:大勢が関わって仕事をするときは、みんなで公園を作るような気持ちでいたいなと。

ー「公園を作る」という共通の目的に集まる。

高木:映画作りって、最終的には誰のものでもない皆の場所を作るようなものだと思うんです。始まりは誰かの個人的な想いであっても、関わる人たちそれぞれに自分なりの解釈というか想いは勝手に湧き上がってくるものです。「この見方で観ることで、こういうふうに美しい物語に変わる」とか「自分が経験した過去と繋がって感動した」とか。もちろん映画は監督の作品なので、監督の想いの邪魔はしたくないですけれど、この角度から観たら心揺さぶられるという自分なりの見方はどうしても持ってしまいます。だから、監督とぶつかるときはぶつかってしまうのですが、それも含めて映画作りだと思っています。

今回は、まだお互い引き返せるタイミングで、もう崖っぷちだと感じたので相談したんです。あるシーンで監督の注文通りに作った音楽をAタイプ、僕が自由に感じるまま作った音楽をBタイプとして。「どちらがいいですか」と言ったら監督は、Aタイプの曲を選ばれて。このAタイプが、最初に説明した、そのシーンは成り立つけれど、次のシーンで意図しない残響が残ってしまう曲だったんです。可能な限り、監督の要望に応えたいと思う一方で、映画全体を見渡した時に違和感のある選択は僕には難しくて。自分が関わる意味がないというか。なので、「Aタイプだとしたら僕では力不足です。Bタイプは自然と湧いて来た曲だから最後まで辿り着ける直感があります」とお伝えして、長時間話し合った末、最終的にBタイプが選ばれました。Aタイプは、映画らしいスケール感のある曲だったので、いまでもAタイプに出来ていたらと思う反面、それだったら途中で迷子になっていただろうなと、やはり扱い切れなかったと思います。

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