金子雅和監督の映画『光る川』が2025年3月に公開されることが決定した。
金子雅和は川や山といった圧倒的なロケーションと、民俗学や美術等に裏打ちされた世界観により、現代人が忘れかけている自然への畏怖や人間の根源にある生命力を描き出す作風で知られ、初長編となった2016年公開の『アルビノの木』は9カ国の映画祭で20の賞を受賞。2022年公開の第2作『リング・ワンダリング』は、インド国際映画祭で『あにいもうと』の今井正監督、『鉄道員(ぽっぽや)』の降旗康男監督に次いで日本人史上3人目となる最高賞(金孔雀賞)を受賞している。
最新作『光る川』の舞台となるのは、高度経済成長の始まった1958年。大きな川の上流、山間の集落で暮らす少年ユウチャは、林業に従事する父、病に臥せっている母、老いた祖母と暮らしている。まだ自然豊かな土地ではあるが、森林伐採の影響もあるのか、家族は年々深刻化していく台風による洪水の被害に脅かされている。

夏休みの終わり、集落に紙芝居屋がやってきて子どもたちを集める。その演目は、土地にずっと伝わる里の娘・お葉と山の民である木地屋の青年・朔の悲恋。叶わぬ想いに打ちひしがれたお葉は山奥の淵に入水、それからというもの彼女の涙が溢れかえるように数十年に一度、恐ろしい洪水が起きるという。紙芝居の物語との不思議なシンクロを体験したユウチャは、現実でも家族を脅かす洪水を防ぎ、さらには哀しみに囚われたままのお葉の魂を鎮めたいと願い、古くからの言い伝えに従って川をさかのぼり、山奥の淵へ向かう。

無垢な少年の眼差しに映る、自然への畏怖と現代化への分岐点。少年が目撃する里の娘と木地屋の青年の関係性には、支配的な社会制度から解き放たれた世界へ向かおうともがく様が描写され、疲弊する現代人への原点回帰的なメッセージが秘められている。

物語の根幹を支えるお葉を演じるのはNetflix『シティーハンター』くるみ役で注目を集めた華村あすか。朔にはNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』章兄ちゃん役を演じた葵揚。物語の眼差しとなるユウチャとお葉の弟・枝郎を金子監督の師である瀬々敬久監督の作品『春に散る』にも出演した子役の有山実俊が一人二役で演じている。また、足立智充、堀部圭亮、根岸季衣、渡辺哲といったベテランから、金子作品に欠かせない山田キヌヲ、そして『リング・ワンダリング』に続く出演となる安田顕まで、多彩な顔ぶれが揃った。
原作は岐阜出身の松田悠八による小説『長良川 スタンドバイミー一九五〇』。金子にとって長編映画としては初めての原作ものとなったが、長良川流域の土地 / 民話 / 伝承からインスピレーションを受け、物語を大きくふくらませていった。撮影は2023年9月、全て岐阜県内で行われ、監督自身によるロケハンが数十回にわたり繰り返された。深く引き込まれそうな水辺、近寄りがたさすら感じさせる洞窟や滝、悠久の時を刻む山々の情景など、CG一切なしの神秘的な自然が物語を彩る大きな要素となっている。そんな作品世界に寄り添う音楽は、細田守監督作品や瀬田なつき監督『違国日記』などを手掛けてきた高木正勝が書き下ろし、繊細に演奏している。
なお、同作はスペインで最も歴史ある映画祭のひとつで、11月に開催された第62回ヒホン国際映画祭にて、17~25歳の若者で構成されるユース審査員11名が選ぶ最優秀長編映画賞を受賞。「普遍的な感情を繊細かつ美しく描き、時間や距離を超えて物語に共感出来る作品に仕上げたこと」が高く評価された。金子による受賞コメントも発表されている。
最初に、62年もの長い歴史があるヒホン国際映画祭で『光る川』のワールドプレミアを迎えられたことを、大変光栄に感じています。
金子雅和監督 受賞コメント
この映画は、複雑で困難な状況にある現代の世界中の人、特に若い人に対し、
かつて私たち人類の誰もが持ち備えていた「自然と人間の関係への思慮」からヒントを得て、未来に向け希望を抱いて生きて欲しい、というメッセージを込めて作りました。
ですので、若い人たちの心に最も残ったのであれば、この作品の監督として最大級の喜びです。


『光る川』
華村あすか 葵揚
有⼭実俊 / ⾜⽴智充 ⼭⽥キヌヲ / 髙橋雄祐 松岡⿓平
堀部圭亮 根岸季⾐ 渡辺 哲
安⽥ 顕
脚本・監督:⾦⼦雅和
⾳楽:⾼⽊正勝 共同脚本:吉村元希 美術監督:部⾕京⼦ 撮影:⼭⽥達也 ⾳響:⻩永昌 OP アニメーション:⾼橋昂也
原作:松⽥悠⼋(「⻑良川 スタンドバイミー⼀九五〇」より)
製作:⻑良川スタンドバイミーの会 制作プロダクション:プロジェクト ドーン
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
(C)⻑良川スタンドバイミーの会
助成:⽂化庁⽂化芸術振興費補助⾦(映画創造活動⽀援事業) 独⽴⾏政法⼈⽇本芸術⽂化振興会
【2024年/⽇本/カラー/1.85:1/5.1ch /DCP/108分】