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長谷川白紙『魔法学校』レビュー クリシェを解体再構築、いつかポップスのスタンダードに

2024.7.29

#MUSIC

長谷川白紙が約4年8ヶ月ぶりのフルアルバム『魔法学校』を7月24日(水)にリリースした。

アメリカのレーベルBrainfeederとの契約後、初めてのアルバムとしても注目される同作。そこに収録されているのは、まさに「異形の音楽」。混乱、恐怖、快楽……様々な要素をミックスし、カオスを生み出す錬金術師のような作家・長谷川白紙は、『魔法学校』で私たちをポップスの外側へ連れ出していく。

電子音楽シーンに精通するDJ / ライターの松島広人(NordOst)がレビュー。

約4年8ヶ月ぶりのフルアルバムが与える混乱、恐怖、快楽

アルバムを聴き込むにあたって最初のこと。終盤に差し掛かり、不意に合成音声で「キャッチミー、イフユーキャン」と告げられたときにハッと衝撃が走った。ゾッと恐怖もしたけど、続く最後の曲を聴き終えてフッと笑いも込み上げた。まんまと長谷川白紙『魔法学校』の持つ魔力にとらわれてしまったわけだ。

上述したフレーズと同名の映画作品も存在するように、この言葉は英語圏ではごく一般的なもののようで、どうやら鬼ごっこの「鬼さんこちら」と同じような意味を持つらしい。「鬼さんこちら」というのは知っての通り世界一無邪気な挑発行為で、それは「わたしを捕まえられるものなら、そうしてみたら?」という誘いでもある。約4年8ヶ月ぶりのフルアルバムとなった本作『魔法学校』にもそうしたイノセントな悪戯心が随所に込められていて、我々聴き手はまんまと乗せられ、ひたすら混乱させられる。快楽とともに。

長谷川白紙 アーティスト写真

たとえば前半3曲や6曲目“恐怖の星”などを聴いてみると、BPMがとにかく速い。速いが、その速度はハードコアテクノのような音楽が持つ疾走感や高揚感とは別のベクトルであって、混乱や焦燥感に近い感情を抱かせるものだ。

作品の随所に顔を出しては瞬く間に変容していく多種多様なリズムワークも踊れそうで踊れない……ように思えてブレインダンス的な音楽とも異なる身体性を意識させる作りになっていて、踊れないはずのサウンドに、気づけば踊らされてしまう。非常に魔法的だ。ハイパーポップ、という間もなく死語になるであろう概念が次々とポップスの当たり前を塗り替えていったのが2020年代だが、そうした時代の潮流ともまったく違うところから不意打ちされたような気分になる。何度聴き込んでも何がどうやってこうなっていったのかがさっぱり分からない。

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