1stアルバム『Chance』をリリースしたHedigan’sが、12月13日、YouTubeオフィシャルチャンネルにて、初の配信ライブを行う。
その収録現場を、Suchmosをデビュー期から追いかけ、NiEWにてHedigan’sのインタビューを担当している、編集者・音楽ライターの矢島由佳子が取材。密着レポートをお届けする。
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語り継ぎたい、Hedigan’sのスタンス
寒さが突然訪れた日だった。「いきなり冬」というニュース記事のタイトルが画面に飛び込んでくる。取材場所へ向かう時間帯の気温は1桁台。スタッフの方から「寒いのでお気をつけください」と温かいメッセージが届く。
数日前、Hedigan’sが初めて配信ライブを実施することを聞きつけて、取材を申し込んだ。完成したばかりの1stアルバム『Chance』を聴かせてもらって真っ先に思ったことは、「なぜこんなにも音が生き生きしているのだろう」といったことだった。大内(Dr)が「『Chance』は具入りの感じがするんですよね。『あ、もっちゃん(本村)の臓器が入ってるじゃん』『将治の腕が入ってるぞ』みたいな(笑)」とインタビューで表現し、私も彼らの初ツアーのオフィシャルレポートを「まるで臓器を触るようだった」と音楽記事で書いたことのないような一文で始めたが、Hedigan’sの音楽は、音から人間の肉体が見える。もちろん技術的な面による成果も大きいが、そもそも、どういったバンド内の会話や空気からこれほどまでに瑞々しい音楽ができているのかを知りたくなった。そして、それを世の中に伝えたいと思った。きっとそれが、今バンドをやっている人やこれからバンドを始める人にとって、ひとつの明るい道標になり得るのではないかと思ったから。
収録場所として案内されたのは、だだっ広い倉庫。最寄り駅から歩いている途中から、「本当にここであってる?」と不安になった。到着した場所にはステージはおろか、マイクも、スピーカーも、アンプも、何もない。ここでバンド演奏が行われるのは、今日が初めてのことらしい。

SuchmosのYONCEこと河西”YONCE”洋介擁するニューバンド”Hedigan’s”(ヘディガンズ)。メンバーは、河西”YONCE”洋介、栗田将治、栗田祐輔、本村拓磨、大内岳の5人組。2023年にF.C.L.S.より、1st Digital Single『LOVE (XL)』をリリースし本格始動。2024年2月に1st EP『2000JPY』、11月に1stアルバム『Chance』をリリース。soul-friendly-music!
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搬入〜セッティング:この場所を選んだ理由
18時、搬入スタート。メンバーも到着し、楽器やアンプなどの機材を車から下ろす。PA卓、照明、カメラなど、すべて持ち込み。何もない場所に、5人組のバンドが演奏できて、撮影もできるセットを組み立ていく。ここを収録場所に選んだ理由を大内に聞くと、煌びやかな場所ではなく、この無機質な感じがHedigan’sに合うんじゃないか、とメンバーで話したことを教えてくれた。


天井は高く、壁や柱はコンクリート。ここで5つの楽器を鳴らすと、どんな響きになるのだろうか。「どういう環境かわからないところでライブをやって、しかもそれを収録作品として残すことに、不安はなかったのか?」と尋ねてみると、みんな口を揃えて「不安だった」と笑いながら答えた。それでもここをチョイスするのがHedigan’sらしい。
「予定通りに始めて予定通りに終わるものは、お家で楽しめるものと変わらない」とYONCE(Vo,Gt)。人が集まって、「わざわざ」手間をかけて、自分が思ってもなかったことが起こる瞬間を求めるのが、Hedigan’sだ。その精神性は音源にも表出している。
たとえ上手くいかなかったとしてもいい。「責任の所在がとやかく言われがちな世の中ですけど、みんなでよくわかんないところに行こう、みたいな。そのほうが面白いし」(YONCE)。それらと真逆の価値観をよしとする社会で戦っているからこそ、私たちはHedigan’sの音楽から豊かさを感じ取るのだろう。


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サウンドチェック〜リハーサル:音楽で戯れ続ける5人
準備中、そんな不安を一切顔に出したりはしない。大内がドラムの鳴りを自分で確認するために、本村が大内のドラムセットに座って叩いてみる。すると、他の人たちも順番にドラムを叩き、多少ぎこちなくとも叩き終わると現場にいる人全員で拍手をする、という流れが生まれた。「スタッフも含めて風通しがいい」とメンバーから聞いてはいたが、それを感じさせるシーンだった。


その後はYONCEが本村のベースを担ぎ、本村がドラムを叩いて、二人のセッションがスタート。続けて、本村が栗田将治(Gt)のギターを弾いて、将治はハーモニカを吹き始める。自然とそこに大内のドラムも乗っかる。「空いた時間を埋める術がタバコか楽器を触るしかないんですよ」と本村は笑いながら言う。
20時半になると、リハーサルが始まった。本番と同様に一通り演奏する時間だが、カメラや照明のセットチェンジが入ると、そのあいだも誰かが何かを弾き始めて、それに他のメンバーが合わせていく、ということばかりやっている。音楽を始めたばかりのキッズのように楽器を触って、仲間とふざけながら音の中で戯れる姿を、この日ずっと見ることとなった。Hedigan’sの楽曲とは、こうして5人が自然と音を鳴らして高揚したフレーズと笑顔の蓄積だといえるのだろう。

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本番:解放の瞬間
21時35分。円陣を組み、5人で手をつないで高く上げて、気合いを入れる(ちなみに、これはいつもやっているものではなく、この日初めてやったらしい)。

「最近ライブで磨いて手応えのある曲たち」「普段通りのライブのモードになれるセットリスト」という意図で選ばれたのは、”夏テリー”、”LOVE(XL)”、”グレー”、”その後…”、”カーテンコール”、”再生”、”敗北の作法”、”O’share”の8曲。

5人の音の集合体=Hedigan’sの音は、自分の感情を、身体の動きを、どこへ連れていってくれるのか、受け手も予測できないし、メンバー自身も予測できてない。音楽が人知を越えたところに到達する瞬間を堪能させてくれるのがHedigan’sだ。
“その後…”では、音源にはないアウトロが加わる。野生的な声を重ね合わせ、熱量を高めるように楽器を鳴らし、最後に「パパ! ママ!」とシャウト。Hedigan’sが言う「ギャグセン」――生じゃないと起こり得ない、予想のつかないところへ飛んでいって、それがよすぎて笑っちゃうこと――を、この日何度もぶつけられた。“敗北の作法”もそうだ。音源にはないアウトロに、Hedigan’sの音はどこへ連れていってくれるのだろうかと、目が離せない。意識がぶっ飛ぶ。
「”敗北の作法”の最後を演奏しているときは、何も考えないようにしてます。ただの時計の針になろう、みたいな。いわゆるクラウトロックと呼ばれる、ドイツの1960〜70年代のフォーマットですけど、ドイツが敗戦したあとにアメリカ的なものに追従しないという意思表示としての音楽ジャンルであって、快楽を拒絶した形式だったりするので、それをできるだけちゃんと踏襲したいなと思って。そういう意味で、何も考えないで、無心になって、気持ちよくならない、気持ちよくさせない、という感覚でやっているつもりです」(本村)
「あれ、俺は小学生でもできることしか弾いてないので。2本の弦の同じ場所を交互に鳴らしてるだけ。ドラムに従う機械になろう、みたいな。感覚的に、校長先生の長い話を聞いてるときみたいな感じ(笑)。自分の意識は他の行きたい方へ向かっちゃうから」(YONCE)




そういった曲群の中で、”カーテンコール”や”再生”といった、YONCEの深い歌が全身に沁みわたるポップスも聴かせてくれる。
「俺にとってライブは、解放ですね。始まる前の舞台袖でBGMやSEがかかってる状況下で、『あのことをしゃべるんだ』『この曲のあそこは、今日はこういうふうやるんだ』みたいなことを考えていることもあるんですけど、そういうのが結局何もできない感じになるというかね。もうライブが始まったら、その瞬間のことしかできなくなる。究極のトランス状態になるのがライブ。いつも記憶があんまりない感じです」(YONCE)


この日は通常のライブと比べても、凄まじい集中力が5人の中で渦巻いていた。
「今日は異様に集中した感じがあった」(YONCE)
「音の広がり方が本当に独特で。スタジオとかの密閉された空間だとみんなの音が綺麗に聴こえるんですけど、今日は反響が強い分、耳を研ぎ澄ませないと音を取りこぼしちゃうような状況で、それがいい緊張感になりました。没入感、演奏への集中力みたいなものがあんまり体感したことのない感じで、演奏していて楽しかったです」(本村)
「寒かったので、その影響もあったと思います。寒いと緊張感やテンションがビリッとするというか。やっぱり環境や温度で演奏は変わりますね」(祐輔)

23時、終了。5人は、イレギュラーな場所で撮影をするうえでの緊張を乗り越えた達成感と、その中で「予想がつかない感覚」を楽しめた喜びや充実感を顔に浮かべていた。
Hedigan’sの1stアルバム『Chance』は、バンドが過ごした時間や気持ちの抑揚を記録するドキュメンタリーのような作品であるが、このライブ映像もまた、仲間たちとふざけたり遊んだりしながら、5人が集まることで自分の予想を超える瞬間を楽しんだ数時間の記録である。Hedigan’s以外のバンドでも経験が豊富な5人だが、理想的な生き方を共有し、「音の中で仲間と分かち合う」といったバンドの醍醐味を味わうためにHedigan’sを組んだのだということも、目の前で繰り広げられるライブや会話が語っていた。
『Hedigan’s “Warehouse Session”』
配信ライブ
YouTube『Hedigan’s “Warehouse Session”』
2024年12月13日(金) 22:00~
https://www.youtube.com/watch?v=i8xg9-daKWs
Hedigan’s『Chance』

2024年11月20日配信リリース
1 地球(仮)
2 マンション
3 その後…
4 グレー
5 再生
6 Mission Sofa feat.井上真也
7 But It Goes On
8 O’share
9 カーテンコール
10 ふしぎ
https://fcls.lnk.to/Chance
CD
2025年1月15日リリース
¥3,950
[DISC 1]
1. 地球(仮)
2. マンション
3. その後…
4. グレー
5. 再生
6. Mission Sofa feat.井上真也
7. But It Goes On
8. O’share
9. カーテンコール
10. ふしぎ
[DISC 2「Live at SPACE SHOWER MUSIC Presents “EPOCHS Music & Art Collective 2023″」]
1. 夏テリー
2. LOVE(XL)
3. サルスベリ
4. 説教くさいおっさんのルンバ
5. 敗北の作法
6. 論理はロンリー
『Hedigan’s “TOUR Chance”2025』
2025年1月25日(土)神奈川県 Yokohama Bay Hall
2025年2月1日(土)福岡県 BEAT STATION
2025年2月9日(日)埼玉県 HEAVEN’S ROCK Kumagaya VJ-1
2025年2月11日(火・祝)宮城県 darwin
2025年2月15日(土)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
2025年2月16日(日)大阪府 BIGCAT
2025年2月23日(日・祝)北海道 cube garden
2025年3月2日(日)東京都 Zepp Shinjuku(TOKYO)
チケット一般発売中
https://lit.link/hedigans