グータッチでつなぐ友達の輪! ラジオ番組『GRAND MARQUEE』のコーナー「FIST BUMP」は、東京で生きる、東京を楽しむ人たちがリレー形式で登場します。
12月28日は、おいしい未来研究所事務局・研究員、市原万葉さんからの紹介で、人類学者の竹倉史人さんが出演。今回は、人類学の研究や書籍『土偶を読む』などの話だけではなく、古代人の認知をトレースする方法についても伺いました。
INDEX
古代人の認知を紐解いていく人類学者
Celeina(MC):私、人類学者さんにお会いするのが初めてなのですけれども、どんなことを研究されているのでしょうか?
竹倉:研究分野は幅が広くて、アフリカで何万年前の人骨を掘る人類学者もいますし、DNAの分析をする人類学者もいます。私の場合はかなりインドアな人類学です。
インテレクチュアル・ヒストリーというのですが、私が一番興味をもっているのはモノじゃなくて、認知の歴史になります。例えば、何万年も前のホモ・サピエンスがこの世界をどのようにみていたのか、あるいは時間や空間の感覚などを、神話や洞窟から出てきたフィギュアを手がかりにして、その謎を説いていく研究をしています。
タカノ(MC):いいですね。テレビもネットもなくて、服装や食べ物も、我々とは違いますから、どのように古代人が考え、行動していたかを研究されるのですね。
竹倉:去年フィールドワークで、ドイツやオーストリアのドナウ川沿いにある洞窟遺跡に行きました。その洞窟から、人類最古のアート作品と呼ばれるフィギュアや楽器が結構出てくるんですよ。大体4万年ぐらい前、後期旧石器時代の初頭の遺跡から、ハゲワシの骨で作ったフルートなどが出てきました。
タカノ:4万年前にも楽器があったのですか?
竹倉:そうです。今のところこれが人類最古の楽器とされています。あとは、3万5000年ぐらい前の地層から謎めいたフィギュアが見つかっています。マンモスの牙を削って作られているのですが、何をかたどっているかはわからない変な形です。そういうものが後期旧石器時代から見つかり始めるので、もしかしたら人類の認知に大きな変化があった時期なのかもしれないです。
Celeina:なるほど。音楽や美術、芸術に関するものは、ずっと人類の歴史とともに、すくすく育ってきて、今があるのですね。
竹倉:少なくとも、4万年前にはあったことになります。
タカノ:かなり前の時代のことで、よくわからないのですが、面白いですね。
竹倉:夢があるでしょ。
タカノ:夢がありますね。思いを馳せてしまいます。
Celeina:すごくロマンがありますね。
INDEX
美大への「右脳留学」が研究スタイルを確立
タカノ:竹倉さんのプロフィールがとてもユニークであると伺っています。武蔵野美術大学に通っていらっしゃったのですか?
竹倉:もともとムサビ(武蔵野美術大学)に通っていて、中退しました。その後、もう一度最初から受験勉強をして、東京大学に入りました。
タカノ:ムサビから東大!
竹倉:なかなか珍しいということで、当時話題になりました。ムサビには2年間通っていたのですけれども、今となってみると、これは私の人生において非常に貴重な時間でした。海外に留学することを「語学留学」というように、私はこの2年間を「右脳留学」と呼んでいます。
Celeina:素敵なネーミング!
竹倉:ムサビの2年間の右脳留学で経験した感覚や直感が、その後のベースになって、自分なりの研究のスタイルが作られていったと感じています。
タカノ:美大ならではの美術的な発想力が得られたのですね。
竹倉:美大に入るために美大予備校に通ってデッサンをやっていたので、形態を捉える能力みたいなものが、そこで鍛えられました。数万年前の洞窟から出てくるフィギュアや、あるいは日本だったら縄文時代の遺跡から出てくる土偶とか、何千年も前のフィギュアを分析するときにこの経験が活かされています。
タカノ:今、土偶というワードが出ましたけれども、竹倉さんといえば、やはり土偶のイメージがあります。書籍『土偶を読む――130年間解かれなかった縄文神話の謎』が話題になって、『サントリー学芸賞』と『みうらじゅん賞』を受賞されました。みうらじゅんさんとの対談では、土偶はゆるキャラじゃないかという話をされていらっしゃいましたね。
竹倉:「竹倉さんって昔から土偶に興味があったんですよね?」とよく聞かれるのですけど、全く興味はなかったんです。昔の人が作った変な泥人形ぐらいの感覚でした。でも、神話や遺物から人類の認知や古代の認知の形を探りたいと思ったときに、土偶がすごくヒントになるんです。それで、フィギュアとして土偶と出会いました。
研究をしていて思ったことは、当時の人たちになりきって、同じ風景を見て、どうしてこのようなものを作ったか、どのような気持ちだったか、そういう意識をトレースしないと何も分からないですね。アシスタントと一緒に森とか海に入っていって、縄文人が食べていた木の実や貝など、落ちているものを食べるというフィールドワークもしました。森や海であれば、彼らが見た風景とそこまでは変わらないので、動線を重ねるという目的で、このようなことを研究手法として取り入れましたね。
タカノ:面白い。縄文人の気持ちになりきって見ないと。
竹倉:これも右脳留学の成果ですね。
INDEX
土偶を作るモチベーションは根源的な欲望?
タカノ:ここで経験が活きてくるのですね。『土偶を読む』では、土偶は植物や貝がモチーフになっているのではないかという仮説がありましたが、どうでしょうか?
竹倉:今までずっと見落とされていたのですけれども、私の解読結果としては、食べていたものをかたどったものが非常に多いという結果になっています。とりわけ、炭水化物を多く含む植物が主要なモチーフになっています。なぜかというと、人間の脳みそは炭水化物で動く、つまり脳がエンジンだとしたら、ブドウ糖がガソリンにあたります。このブドウ糖というのはデンプンからできていますが、デンプンは植物が光合成で作ります。これが炭水化物ですね。脳のパフォーマンスを上げるためには、ガソリンとなる炭水化物が不可欠です。
また、満腹中枢も血糖値をモニターしているので、炭水化物を食べることでお腹が満たされます。焼肉を食べに行って、ずっと肉だけを食べていても、最後にはお茶漬けとか欲しくなりますよね。肉だけでも十分のようでいて、やはり最後には米とかラーメンなど炭水化物を欲しがるという仕組みも、人間の進化の過程でつくられた傾向だと思います。
タカノ:欲しがっているものを土偶にすることは、好きなものを形にして残したみたいな発想になるのですか?
竹倉:相当インセンティブがないと、わざわざ土偶を作るといった面倒くさいことはしないと思います。だから、モチーフになった植物や貝にはそれなりの価値があることになりますね。分かりやすく言えば、食欲がモチベーションです。
Celeina:現代では、好きなものをフィギュアとして持つと思うのですけれども、縄文人も、我々現代人と同じような感覚なのでしょうか?
竹倉:そうですね。根底に相当強い欲求がないと、面倒くさいものをわざわざ作らないと思います。古代人がコストをかけて作るフィギュアが食べ物の獲得に関係しているのは、それが生命維持に直結するからであると、私は分析しています。
Celeina:すごく面白い。
タカノ:縄文人の皆さんは、土偶とどのように暮らしていたのでしょうか?
竹倉:土偶を持っている人と、持っていない人がいたと思うのですけれども、やっぱり栽培ですね。最近、さらに研究を進めて見えてきたのは、自分たちで植物を栽培する際に、蒔いた種が発芽して、すくすく成長するようにと願うために、呪術やおまじないとして利用していたというシナリオです。現代人が晴れてほしい時に、てるてる坊主を作ったりするのと同じような感覚ですね。
Celeina:お守り的なことでもあるのでしょうか。
竹倉:お守り的なものにも多分転用されていたと思います。
タカノ:よく育ちますようにということなのですね。
INDEX
街を歩く時は認知のギアを変えて神話の世界に
竹倉:まさにジブリの世界ですね。宮崎駿さんは、そういうものを見事に表現されていますけれども、同じように神話にも色んな精霊が出てきます。あの感覚を自分もトレースしたいと思っていて、普段私は東京の街を歩いているときに、神話の世界にアクセスしています。どのようにするかというと、認知のギアみたいなものがあって、これを変えると、世界が変わって見えるんです。
Celeina:これは我々にも搭載することは可能ですか?
竹倉:はい。一番簡単なやり方は、例えば道を歩いているときに、太陽が出ていたとしましょう。ここでは、言葉選びが認知に直結するので非常に重要になります。「太陽だ」と言ったら、もうそれで終わりです。
タカノ:終わり?
竹倉:そこで「太陽」と言ったら、いつもの認知でおわり。でも、太陽とは言わずに、「あれ、火の玉だ!巨大な火の玉がいま空中に浮かんでいる」と言ったら急にSFっぽくなる。
タカノ:確かに!
Celeina:ワクワクする。
竹倉:これはすごいことなんです。ほとんどの神話で太陽は太陽神として出てきます。つまり生きているわけですよ。「太陽」と言うのは、抽象化されてしまうからつまらないんです。本当は、毎朝起きて、火の玉が動いていることにびっくりしなきゃならないんです。空中に巨大な火の玉が浮かんでいるのに、何で皆はそれを平然とスルーしているのかと思っています。
Celeina:なるほど。
タカノ:言われてみれば。
竹倉:風も「風が吹く」と言ったら終わりです。街を歩いていたら、いきなり自分の髪や頬をなでていくのだから、風の精霊と道ですれ違っていることになるんです。そう思えば急に神話の世界になります。
Celeina:ロマンがある。
竹倉:これはできると思いませんか?
タカノ:できます。
竹倉:雨だって、空から水が落ちてくるのはおかしいわけです。空には誰かがいるのかという風に考えます。
Celeina:言われてみればそうですね。
竹倉:皆、慣れすぎてしまっているんです。空から水が落ちてきているのに、なぜ平気な顔をしているのか、おかしいと思っています。
タカノ:それは面白い。
Celeina:竹倉さんのメソッドを使ったら毎日が、猛烈にワクワクしてきました。
竹倉:毎日がワンダーランドになるので、ぜひ今日から実践してください。
タカノ:帰り道からやります。
Celeina:ワクワクして、ニコニコしちゃうよね。
竹倉:あらゆるシーンでできますので。
Celeina:そんなワクワクしたところで1曲かけたいと思います。夕方4時にみんなで一緒に聴きたい曲を、竹倉さんに選曲していただきました。選曲理由から教えてください。
竹倉:夕方4時は、昼でもないし、夜でもないという淡いの時間。アンニュイな空気感なので、私が好きな世界観の曲を選びました。
Celeina:曲紹介をお願いします。
竹倉:Salaで”Ctrl Z (feat. Foi) “。
INDEX
1000冊以上の積読。読めない本は来世の自分へ
Celeina:リスナーの皆さんに「積読している本は何冊ありますか?」という質問をさせてもらっているのですけれども、竹倉さんの積読はどのくらいでしょうか?
竹倉:すごくタイムリーな質問をいただきました。今、家の片づけをしていて、ちょうど数えたばかりなんですけれども、1200冊ありました。
Celeina:1200冊?
タカノ:桁が違った。
Celeina:1200冊は自宅にあるのですか?
竹倉:自分のオフィス兼自宅に本があって、今どんどん売りに出しています。そこにはまだ数千冊はあるので、全部で何冊あるかは分からないのですけども、とりあえず読まなきゃならないと思っている積読は、大体1200冊ぐらいですね。
売りに出す基準としては、残りの人生で、死ぬまでに読めるかどうかです。今生では、全ては無理だと思っているので、数百冊は売りに出しています。これを読んで、その次にこれ読んでと優先順位をつけていったら、どうやって計算しても残りの人生ででは時間が足りないです。今生では読めないものは、来世に持ち越しですね(笑)。
Celeina:残りの人生で、これは読めるか読めないかという、究極の質問のもと選んでいるのですね。
竹倉:物理的に無理で、自分の死を意識しました。
タカノ:残そうと思った本の基準は何かありましたか?
竹倉:一番は仕事で使うかどうかという、資料として価値の高いものです。あとは、海外の貴重な本や手に入らなさそうな本は資料として残すつもりです。
タカノ:それを次の執筆に活かそうということですか?
竹倉:そうです。
Celeina:竹倉さんは、お仕事には使わない小説などの本は、余暇の時間に読まれたりしますか?
竹倉:昔はたくさん読んでいましたけど、最近は時間がもうないので、そういうものはまた来世に読みます(笑)。
Celeina:いや面白い。「FIST BUMP」本日は人類学者の竹倉史人さんをお迎えしました。ありがとうございました。

GRAND MARQUEE

J-WAVE (81.3FM) Mon-Thu 16:00 – 18:50
ナビゲーター:タカノシンヤ、Celeina Ann