メインコンテンツまでスキップ
NEWS EVENT SPECIAL SERIES

『東京舞台芸術祭』の見どころ解説。エルヴィス能や「人が椅子になる」公演など100以上

2026.9.4

『東京舞台芸術祭 2026』

#PR #STAGE

人が身体を通して人と関わる機会はメキメキ減っている。数年前には対人コミュニケーション不足のことを「もう、今日はコンビニで『レジ袋いいです』としか人と喋ってないよ〜」なんて笑ったものだけど、もはやセルフレジ化してその機会すらない、2026年。大きめに独り言をつぶやけば「お役に立ちます」とAIが合いの手を入れてくれる。これはちょっと、笑えない状況なのではないか。

さあそれではここで、秋の東京を彩る『東京舞台芸術祭』の見どころ解説をお届けしよう!

なぜかって、うすら寂しい現代を生きる私たちは、今こそ舞台芸術を浴びるべきだからである。目の前で躍動する身体と魂。紛れもない生身の人間の営みが、そこにはあるからだ。

『東京舞台芸術祭』はものすごく大きな枠組みの芸術祭であり、その中に『秋の隕石2026東京』『Performing Arts Base(パフォーミングアーツベース)』『Open Call Programs(オープンコールプログラム)』や『東京都内演劇祭ネットワーク』といった複数のイベントが含まれている。本記事は主に『秋の隕石2026東京』と『Performing Arts Base』に注目し、ライターが個人的に楽しみな演目をピックアップして、気になるポイントをご紹介していくものである。

INDEX

初回開催時も大評判。2度目の『秋の隕石2026東京』見どころは?

『秋の隕石』は、2025年からスタートした国際的な舞台芸術フェスティバルだ。お届けするのは、池袋にある東京芸術劇場の舞台芸術部門芸術監督に就任したばかりの岡田利規(演劇作家 / 小説家 / チェルフィッチュ主宰)。同劇場とGLOBAL RING THEATRE〈池袋西口公園野外劇場〉を会場として、2026年の秋、約1ヶ月にわたり国内外から選りすぐりの舞台芸術13演目の上演をはじめとした様々なプログラムが開催される。

イベント名にある「隕石」とは、私たちが属する地域や文化、価値観の文脈の外から飛来してくるもののことで、一つひとつの演目もまた、その表れなのだという。隕石は大きなインパクトとともに、未知の何かをもたらすものだ。確かにラインナップに目を通してみると、どれもちょっと(かなり?)ヘンテコで、切実なものばかり。大丈夫だろうか……こんな巨大な隕石が13個も降り注いできたら、これまでなんの疑いもなく送ってきた平穏な日常、常識的なものの見方が破壊されてしまうかもしれない。なんなら絶滅するかもしれない。

ディレクターズ・メッセージ全文は公式サイトにて公開。キャラクター(画像右下)の動きが面白い。

岡田はディレクターズメッセージで、「隕石たちをウェルカム」し、同時に「隕石への関心、好奇心たちをウェルカムする」と語っている。皆さんどうぞこのフェスティバルにて未知と遭遇し、その衝撃に揺さぶられてくださいね、ということだろう。望むところである。筆者がぜひぶつかりたい隕石たちは、こちらだ!

INDEX

クリストファー・リューピング『渇望』(サラ・ケイン作)はドイツから貴重な初来日

クリストファー・リューピング『渇望』は2026年10月17日(土)、10月18日(日)に東京芸術劇場プレイハウスにて上演 / 撮影:Thomas Aurin

もう、上の写真を見るだけでなんだか怖い。心がざわついて、滅茶苦茶にされてしまいそうな予感がしてこないだろうか。

クリストファー・リューピングは、いまドイツ語圏の演劇界で注目を集めている気鋭の演出家だ。待望の招聘が実現し、日本でリューピングの舞台を鑑賞できるのは『秋の隕石2026東京』が初めての機会となる。しかも演目の『渇望』は、リューピングが演出家を志すきっかけとなったという夭逝の劇作家、サラ・ケイン(※)の作品だ。そんなのどう考えても気合が入っているに決まっているではないか!

※サラ・ケイン:28歳でこの世を去ったイギリスの劇作家。リューピングは、ケインの戯曲との出会いにより演劇の道に進んだという。

『渇望』は、ストーリーを持たない詩のように断片的なテキストで構成される。面白いのは、もとの戯曲上の登場人物は4名なのに、リューピングが新たに5人目の登場人物を増やして演出をしているところである。舞台上でただ座っているだけだという5人目の俳優は、ほかの4人からの言葉をひたすら受け止める役割を与えられており、その反応や表情が逐一スクリーンに映し出されるという。なるほど、冒頭で見た写真はそういうことだったのか。

劇作家サラ・ケインは「現実世界で底知れぬ穴に陥らないために、芸術ではあえてそれを見つめる必要がある」という言葉を残している。あえて深い穴を見つめる……やっぱり少し怖い気もするが、それよりも、この貴重な機会を逃さずに見届けたいという気持ちが勝る。ちなみに本作について岡田利規は、「私たちの柔らかい心に痛みと慰撫のかけがえのない経験をもたらす上演」だとも表現している。果たして劇場でこの隕石とぶつかったあと、自分は一体どんな顔をしているのだろうか?

INDEX

あぃたら えィ『さん まるだが だんころ 3 〜音と動きのパフォーマンス〜』で「かすかさ」を分かち合う

「あぃたら えィ」は、新井英夫(ダンスアーティスト / 体奏家)、板坂記代子(身体と造形の表現者)、山田衛子(即興演奏家)の3人によるコラボユニット。一風変わったユニット名は、3人の名前の組み合わせであると同時に、「閉ざされた扉が開いたら、えい! と何かが新たに生まれる」という願いが込められたものだそう。『秋の隕石2026東京』では、その場に居合わせた観客たちとの響き合いを大切にしながら、即興的なパフォーマンス作品を披露する。そのコンセプトは「かすかさを分かち合うパフォーマンス」だ。

あぃたら えィ『さん まるだが だんころ 3 〜音と動きのパフォーマンス〜』は10月9日(金)から10月12日(月・祝)まで、東京芸術劇場 シアターイーストにて上演 / 提供:あぃたら えィ

野口体操(※)から深い影響を受けたという新井英夫は、1980年代からダンスなどの身体表現に携わってきたが、2022年に全身の筋肉が徐々に衰えていく難病・ALSの診断を受けており、2026年1月からは人工呼吸器を装着しながら車椅子で活動を続けている(パートナーである板坂と「ダンスのような」身体介護を日々発明している、という紹介文が素敵だ)。手術で声帯を切除してしまっている新井はごく小さな声しか発することができず、それでも誰かに意思を伝えたい、そしてわかり合いたいという思いがもどかしく胸中に渦巻いているのだという。

※野口体操:野口三千三が創始した、がんばりや力を抜いて自身の重力を活かす脱力系の身体運動・健康法。東京芸術大学の必修体育として50年以上にわたり採用されており、美術や音楽、演劇を学ぶ人々にも広く支持されてきた。

新井は自身について「出力は強められないが、入力を強めることはできる」と言葉にしている。「入力を強める」とはすなわち、「世界への感度を高める」と言い換えられるだろう。発信側が大きな声を出せないのなら、受け取り手が、今までよりずっとずっと小さな声を聞くようにすればいいのだ。

このパフォーマンスでは、「小さく、弱く、ゆっくり」とした呼吸・動き・音が用いられる。その場に生まれる細やかな空気の震えや温度の変化、そして心の動きを分かち合う本作は、絶対にその時・その場で共有しなければ理解ができないタイプのアートである。画面に溢れる音や光の強い刺激に慣れきって、いわゆるドーパミン中毒気味の私たちは、手遅れになってしまう前に世界の「かすかさ」や優しさに気づくべきなのかもしれない。

INDEX

ジュンコエモトはレズビアンによるレズビアンのためのレズビアンの物語を上演

『真夜中に寂しくなったときに観たい演劇』は、2025年4月、新宿三丁目にある20席限定の極小空間で上演された作品の再演だ。

『真夜中に寂しくなったときに観たい演劇』は、2025年4月、新宿三丁目にある20席限定の極小空間で上演された作品の再演だ。

「毛皮族」創始者である江本純子のソロパフォーマンスによって表現される、レズビアンによるレズビアンのためのレズビアンの物語である。考えれば考えるほど、それって珍しい作品なのではないだろうか。

多様性が叫ばれ、ここ数十年でLGBTQ+を描いたコンテンツは格段に増えた。けれど江本純子は映画や文学などで見る「レズビアン表象」に、どこか当事者を置き去りにしたような違和感を持っていたという。それらはマジョリティ(この場合は異性愛者)が消費しやすいよう、わかりやすく整えられたマイノリティ像であり、悲劇や生きづらさといった偏った色づけがされた物語だ。江本はひとりの生身のレズビアンとしてそれに抗い、当事者に響く言葉やユーモアを駆使した、パワフルなエンターテインメントを織り上げて見せるのだ。

巷に溢れるレズビアン表象に対して「それはマジョリティ用に作られた、マイノリティの物語でしょ」と声に出したところで、きっと市場はびくともしないだろう。実際のレズビアンたちは、マーケットに影響力を持たない少数派だからだ。江本が語る「そもそもマーケットでターゲットにもされない寂しさ」を想像すると、集団の中で無視され続けているようなもので、胸が苦しくなる。

しかしだからこそ、東京ど真ん中の東京芸術劇場で(しかも東京都と東京芸術劇場の主催事業として)このような芝居が上演されるという事実は、それ自体が彼女たちにとっての希望である。そして、マーケットではできないことを掬い上げて「隕石」として社会に投じるこういった挑戦にこそ、筆者はアートの可能性をしみじみと感じてならない。

INDEX

シアター能楽の英語能『青い月のメンフィス』はエルヴィス・プレスリーが能に登場!?

日本の伝統芸能である「能」が、ときに英語で上演されているのをご存じだろうか。『青い月のメンフィス』は「シアター能楽」による、エルヴィス・プレスリーを題材とした英語能である。エルヴィスのファンの女性(ワキ)が月夜にエルヴィスの亡霊(シテ)と出会うという、伝統的な夢幻能(※)の形式にのっとった物語だ。好きすぎてそこに居ないはずの推しの姿が見えてしまうなんて、ちょっと親近感が湧くような……。

※夢幻能:神や幽霊、精霊などの霊的な存在が主人公(シテ)として登場し、現実と異世界、過去と現在を行き来しながら物語が展開する、能楽の代表的な作劇法。

シアター能楽英語能『青い月のメンフィス』は2026年10月10日(土)、10月11日(日)に東京芸術劇場プレイハウスにて上演

「シアター能楽」は国際的に活動している、英語話者たちによる能のパフォーマンスカンパニー。設立者のリチャード・エマートはアメリカ・オハイオ州出身で、1970年代から日本で能の研鑽を積み続け、現在では武蔵野大学の名誉教授を務めている。

それにしても、英語で能……? 一体どんな雰囲気になるのか、非常に気になる。能にあまり馴染みのない筆者は日本語でも何を言っているか聞き取れないことが多いから、案外すっと受け入れられる気もする。でも、英語と日本語だと音節も違うだろうし、やっぱり想像がつかない。悶々としていてもキリがないので、これはもう実際に鑑賞してみるしかないのかもしれない。

本作は能舞台、囃子(はやし)、地謡(じうたい)、舞などの能の様式を忠実に守りつつ、エルヴィスのヒット曲やブルース、ゴスペルなどのアメリカ的要素も取り入れているという(なんと衣装はデニム素材のものもあるらしい!)。エルヴィスの顔を模した能面は、能面師が苦労して作り上げた逸品なのだそうだ。

記者懇談会で実際の能面を披露すると、会場から歓声が上がった / 編集部撮影

岡田利規はこう力強く語っている。

日本語以外の言語で演じられる能。それってキワモノか? 断じて違う。能という、高い汎用性をそなえた〈ニッポンの〉パフォーミング・アーツのフォーマットが文化を越境して実践されるのも、そこから傑作が生まれるのも、実に自然な成り行き。

『秋の隕石 2026 東京』公式サイト掲載、ディレクターズメッセージ「隕石はウェルカムする」より

確かに、能のフォーマットで描かれるエルヴィスの人生は、時代や国境を超えた普遍的な物語として受け止められるような予感がある。能は日本のもの、という固定観念を破壊してくる本作は、なかなかの「隕石」である。

INDEX

花形槙『エルゴノミクス胚』では、人が椅子になる

そしてピックアップの最後に、どうしてもこの作品を入れたい。花形槙による実験的パフォーマンス作品『エルゴノミクス胚』である。

花形槙『エルゴノミクス胚』は2026年10月29日(木)から11月1日(日)まで東京芸術劇場 シアターイーストにて上演 / 撮影:Keita Otsuka

花形槙はパフォーマンスとメディアアートの領域で活動するアーティストで、テクノロジーと人間との関係に焦点を当てた作品づくりをしている。『秋の隕石』がフックアップして世に送り出す期待の新星であり、NiEWの舞台界隈2025年振り返り座談会でも、花形の公演を「年間ベストに入れたいくらい」と話題に上がったほどだ。

【2025年振り返り・演劇編①】印象深かった公演や劇団は?『秋の隕石』初開催や「南極」を読む

本作は2025年の『秋の隕石』でワークインプログレスとして公開されたもので、そこへさらに挑戦的なアップデートを加えて、2026年ついに本公演を迎える。残念ながら筆者はそのワークインプログレスを観ていないため、編集柴田氏にどう面白かったのか尋ねてみたところ「その、花形さんが……椅子になるんですよ……」と苦しげに答えられ、本気で混乱した。えっ? えっ?

『エルゴノミクス胚』の作品解説にはこうある。

花形自身を含む実践者たちはヘッドマウントディスプレイを装着し、自身の身体がAIによってリアルタイムで椅子らしき図像へと変換され続ける映像を見つめながら、ゆっくりと微細に姿勢を変え、椅子へと〈変態(メタモルフォーシス)〉しようとする。

それでもまだよくわからなかったので、花形のホームページを訪れて、「技術を〈使う〉のではなく、技術に〈なる〉。」というタイトルのステートメントも読んでみた。動画も掲載されており、視聴すると突風に吹かれたように腑に落ちて、大げさでなく感動してしまった。長いのでとても引用はできないが、本作を鑑賞予定ならこのステートメントも併せて読んでおくことをおすすめする。

https://youtu.be/AH2RtwgXlfg?si=_AfqebY66BDJzxce

椅子は身体を楽に落ち着けるために生まれたカタチであると同時に、人間の存在や振る舞いを規定する物体でもある(例えば劇場の椅子に座れば、人は「観客」となり、相応のマナーが要求されるはずだ)。花形にとって椅子とは、既存の社会システムに滑らかに接続するためのインターフェースなのだという。そこから逸脱して主導権を自身に取り返すために、彼はむしろ自らがそちら側(椅子)になってしまうことで、関係を「捻転」させるのだ。これには椅子もさぞびっくりすることだろう。

INDEX

「上演プログラム」「上演じゃないプログラム」「ウェルカム体制」の3本柱

記事が大長編になってしまうのでこのくらいにしておくけれど、実際は知れば知るほど、ぶつかりたい「隕石」ばかりで困ってしまう。例えば、2026年に岸田國士戯曲賞を受賞したばかりのダダルズによる『よだれ観覧車』が野外で上演されるとか……!

ダダルズ『よだれ観覧車』は2026年10月17日(土)、10月18日(日)にGLOBAL RING THEATRE〈池袋西口公園野外劇場〉で上演

また、『秋の隕石2026東京』では「上演プログラム」のほかに、ワークショップやセミナーといった「上演じゃないプログラム」、さらに誰もが気軽に来場できることを目指した「ウェルカム体制」を大きく打ち出している。子育て世代が舞台鑑賞中に利用できる『こどもあそびシアター』(子ども用の遊び場)など、「これならちょっと行ってみようかな」を後押ししてくれる仕掛けが用意されているのは、特筆すべきポイントである。

INDEX

街で舞台芸術と逢いましょう! 豪華見本市『Performing Arts Base』はすべて無料

それでですね。いろいろ言っても、舞台を観に行くのってそれなりに資金が必要じゃないですか(以下本音です)。確かな価値のあるものを観に行くのだから「高い」とは言いたくない。でも、少なくとも筆者はポンポンとチケット代を出せる富豪ではない。だからこそ、失敗するのが怖い!

『Performing Arts Base』は、そんな「観たい、けど……」というジレンマを抱えた私たちにとって、きっと最高の入口になってくれる企画だ。2026年9月に開催される、観覧自由 / 予約不要で楽しめる20分刻みのアートの見本市である。我こそはというカンパニーがステージに入れ替わり立ち替わり登場し、短い演劇やダンス、大道芸などを披露する。ありがたいことにすべて鑑賞無料、試食し放題である! 気楽に足を止めて、気楽に立ち去って、気付けば世界の見え方が変わっているかもしれない。

開催場所は、有楽町の「東京国際フォーラム」の広場 / ガラス棟、そして高輪ゲートウェイ駅直結の「MoN Takanawa」のオープンスペースだ。それでは2会場それぞれの演目の中から、筆者が注目するキラ星たちをご紹介しよう。

RECOMMEND

NiEW’S PLAYLIST

編集部がオススメする音楽を随時更新中🆕

時代の機微に反応し、新しい選択肢を提示してくれるアーティストを紹介するプレイリスト「NiEW Best Music」。

有名無名やジャンル、国境を問わず、NiEW編集部がオススメする音楽を随時更新しています。

EVENTS