現役京都大学生のシンガーソングライター・お風呂と街灯が新曲“点”を発表した。2月にリリースしたEP『Dawning / Window』以降の楽曲は、爆弾ジョニーやbetcover!!の活動などで知られるRomanticがプロデュースを担当してきたが、7月にリリースされた“点”では、Trooper Saluteの小宮颯斗(Key)がプロデュースを務めている。
お風呂と街灯がTrooper Saluteのファンだったことから実現したというコラボレーションは、クラシックピアノやボカロをルーツに持つ同世代だからこその好相性を発揮。
明るすぎる自販機の光もいずれは小さな点になっていく──そんな、「些細なことで世界は変わる」という希望を描いたお風呂と街灯らしい物語性の強い楽曲を、没入感のあるサウンドデザインに落とし込んだ小宮の手腕はさすが。内省の先にわずかな光を見出す世界観はTrooper Saluteとも共振するものがあると言えよう。
結果的に2026年のJ-POPのあり方を照らし出してもいるような“点”の制作過程について、お風呂と街灯と小宮にその詳細を語ってもらった。
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「小宮的発想のびっくり箱」に期待した、プロデュース依頼の背景
ーお風呂くんが小宮くんにプロデュースを依頼した経緯を教えてください。
お風呂:普段からTrooper Saluteの曲を聴かせてもらっているんですけど、2025年の10月にKhakiの企画『(ァ)柿印企画ライブ _ 1』でライブを初めて観て、感銘を受けたんです。で、2026年の6月から3か月連続で新曲をリリースしてるなかで、今は強く学びたい欲があって。自分で編曲するのももちろん好きなんですけど、今年は自分の味じゃないものも取り入れて、より一歩進まなきゃいけないなと思っているので、その学びの一環という意味でも、小宮くんに依頼させていただいたという感じですね。
ーライブを観て感銘を受けたのは、特にどんな部分でしたか?
お風呂:まずはもうムサシ(Vo / Gt)さんの声が良すぎて。ちょっとレトロな雰囲気があって、「聴いたことのない声だぞ」みたいな。で、楽曲も1曲ごとに性格が変わる感じもあって、「どんな風に作曲してるのかな?」っていうのも気になり始めたし、僕は鍵盤奏者なので、そうなると一番最初に目が行くのが小宮くんのピアノ演奏で。音色をめっちゃ使い分けて曲の構造を理解しているピアノが鳴っていると思ったんです。そこが最初に魅力を感じたところでした。

大阪在住の現役学生アーティスト。お風呂と街灯は、3歳から触れているクラシックピアノを基軸に、名前のつけられない気持ちを持ったどんな人にも、平等に降り注ぐ雨のような少し切なくもワクワクする音楽を奏でるアーティスト。2026年2月には初めてのEP『Dawning/Window』をリリース。3ヶ月連続デジタルリリースの第2弾として7月には、Trooper Salute・小宮颯斗にアレンジメント / プロデュースを依頼した楽曲“点”をリリース。
ー小宮くんは話があった時点ではお風呂と街灯のことはどの程度ご存知でしたか?
小宮:フライヤーとかで名前は見たことがあったんですが、曲はまだ聴いてなくて、オファーをいただいてから初めて曲を聴きました。まず再生数が一番上の“ある日の哲学”を聴いて、次に最近出してたEP『Dawning / Window』を聴いたんですけど、「全然雰囲気が違う」と感じて。つまり今は音楽的にいろいろチャレンジしていて、その延長線で僕に声がかかったのかなと。
でも、いろんな方向性の曲があるなかで、パーソナルが出る作詞作曲の部分は一貫してるなと思ったんですよね。どんなアレンジでも、そのアレンジの雰囲気に寄せてちゃんと歌い分けていて、ボーカリストとしての面もすごくいいなと思ったので、せっかく声をかけていただいたなら、やってみることに決めました。
ーお風呂と街灯の最近の楽曲には爆弾ジョニーやbetcover!!などでも活躍されてきたRomanticさんがプロデュースで参加されていました。今年からバンド編成でのライブも本格化しているし、バンドと接点のある人にプロデュースをしてもらいたい考えがあった?
お風呂:バンド的な思考は好きですね。僕はシンガーソングライターですけど、「シンガーソングライターとサポートミュージシャン」みたいな形式のライブは好きじゃなくて。シンガーソングライターだけど、メンバーを抱えてライブをするなら、それはもうバンドメンバーだと思ってるから、その人たちとちゃんと会話をしなきゃいけない。そういうバンド的な思想はすごく大事だと思ってるんです。なので、根本の部分でそういうことを大事にしていそうな人というか、バンドという活動に対して、自分なりに哲学を持ってる人がいいなって思ってる自分がいたかもしれないです。
ー小宮くんから見たRomanticさんの印象も聞いてみたいです。
小宮:僕は浪人生のときにbetcover!!に出会って、そこで初めて知ったんですけど、最近でいうと叶芽フウカさんとかのアレンジもやられたりしてますよね。ロマンさんはバンドでやるときはエゴを出しすぎないというか、プレイヤーとしてはすごく堅実なプレイをされる方っていう印象があるのに、アレンジになったら「これロマンさんがやってそうだな」ってすぐわかる。それぐらい複雑なコードワークを使ったり、曲ごとにちゃんとフックになるようなシンセの音を使ったり、独特なアレンジをする方なので、そこのギャップも好きですね。
ーじゃあロマンさんの次に自分っていうのは、光栄でもありプレッシャーでもあり。
小宮:プレッシャーでしかなかったです(笑)。

名古屋発のシンフォニックインディロックバンド・Trooper Saluteのキーボードを担当。楽曲の制作やアレンジの中心を担っている。2026年6月には1stアルバム『友達がいました』をリリース。
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クラシックピアノ、サカナクション、ボカロ。同世代ならではのルーツ
ーお2人は音楽の入口がクラシックピアノだったことが共通点だと思うのですが、クラシックピアノをやっていたことが、現在の自分の曲作りにどう影響していると思いますか?
お風呂:クラシックピアノがルーツであることを個性として実感しながらやってるかというと、僕個人的にはそんなに感じてはいなくて。なので、小宮くんのプレイを観たり、フレーズを聴いたときも、「共通点がある」とはそんなに思わなかったんです。でも、クラシックピアノの奏者は個性が強いなっていうのはすごく思っていて、小宮くんの演奏もよく聴くポップスのピアノの弾き方とは違うと思うし、僕のプレイングも多分そうだと思うので、そういう大枠のふわっとした共通点は感じていました。
ー小宮くんはどうですか?
小宮:僕はクラシックは結構自分のルーツにはなってると思っていて、結局ポップスを作ろうと思ったら、クラシックは避けて通れないとも思っています。クラシックって、1700〜1800年ぐらいにあったものが、2026年の今に現存してる時点で、すごく淘汰された結果として生き残ってきた精鋭しかいないじゃないですか。
じゃあどういう作品が残るんだろうって考えたら、やっぱりキャッチーというか、人の耳に残るものしか残ってないはずで、メロディーを作るときには口ずさめないといけない。歌が入ってないところでも、どこかの楽器のパートとか、とにかく1曲を通して口笛とか鼻歌で歌えないと意味がないと思っていて。そこはクラシックをやってたからこそのポリシーというか、クラシックをやってたからこそ、そういう考えに行き着いたなと思ってますね。
お風呂:なるほどなあ……確かに同じ思想は僕も持ち合わせていて。楽器だろうが歌だろうが、必ず主役がいる状態というか、かつそれがキャッチーで、音楽を作る人、作らない人関係なく、いいなと思うものであればあるほど残っていくと思っています。

ークラシック以外の共通点はどうでしょう? 「もともとどういう音楽が好きなの?」みたいなやりとりはありましたか?
お風呂:案外そういう話はしてないですね。小宮くんのルーツとか、Xでの投稿とかは見てるし、曲の話はもちろんしたけど、僕自身についてはあんまり喋ってないかもしれないです。
小宮:そこは結構気にはなりますね。
お風呂:でも僕は「これがルーツで曲を作ってます」っていうのが実はあんまりない気がしてます。3歳からクラシックをやってたので、好きなコード進行や曲の展開はあって。そこからクラシックと並行してちょっとジャズピアノにも触れるようになるから、ブルーノートとかのコードの概念がちょっとずつ入ってきて、そこに僕が思うポップスの要素を足してるっていう作り方ですかね。もともと思想をすごく大事にしていて、前は曲を書くときも全部歌詞からだったんですけど、今はもっと音楽自体を追求したくて。だからこそ今は学びの時期だと思ってるんです。
ー小宮くんのルーツはいかがですか?
小宮:何周かして、結局サカナクションに戻ってきてる感じです。多分(山口)一郎さんはルーツに歌謡曲がある人で、僕も歌謡曲をたまに聴いたりするんですけど、サカナクションの曲を小学生時代にCDが擦り切れるほど聴いた影響で、自然に聴ける耳になっていったのかなって。特にずっと同じメロや、同じ歌詞を繰り返したりするのはサカナクションからの影響が大きいと思います。
最近で言うと、YOASOBIとかはすごく顕著な例だと思うんですけど、メロディーの一番低い音と高い音の幅が1曲の中でもものすごい大きいじゃないですか。最近のJ-POPはもうそういうものとして作られてるとは思うんですけど、サカナクションにはあんまりそれを感じなくて。男性にとってちょっと高いと感じるくらいのキーの範囲で歌のメロディーができてるんですよね。
そうなるとメロディーのパターンが限られてくるから、印象的なメロディーをずっと繰り返したり、そういう作り方をしているなと思って。自分の場合はキーはもうちょっと広いかもしれないですけど、同じメロディーラインを繰り返すことが多いんです。それは多分サカナクションを聴いて育ったから、そうしないと気持ち悪いというか、自分らしさじゃない気がしてしまう、みたいなのはありますね。

ーお2人の過去のインタビューを読むと、「中学生のときにボカロにハマった」というのも共通点かと思います。
お風呂:親が車で聴いてたポップスとかを除くと、僕が最初に自発的に触れたポップスが多分ボカロで。だから馴染みやすかったというか、新しいものが聴きたいと思ったときに、ちょうど良かったのがボカロでした。コード進行の複雑な感じとかは、それまで聴いてた音楽にはないものだったから、すぐに「好きだな」って思ったジャンルではあったかもしれないですね。
ー特に好きだったボカロPはいますか?
お風呂:40mPさんの“からくりピエロ”は当時の僕にとって、あの哀愁感がすごく良かったんですよね。あとはじんさんのシリーズは結構どれも聴いてて、“ロスタイムメモリー”とかが好きでした。
小宮:ボーカロイドが出始めの頃は、いい機材を持ってなくてもボーカロイドと簡単なDAWソフトがあれば打ち込みができて。言葉は悪いですけど、安いカラオケの音源にすごくいいメロディーが乗っかって、それでめちゃくちゃバズる、みたいな感じだったと思うんです。でも、それこそカゲロウプロジェクトとか、wowakaさんとか、初期のDECO*27さんとかもそうだと思うんですけど、いきなりちゃんとオーディオインターフェイスに繋いだガチのギターが入ってきたことが結構衝撃で。
僕がサカナクションに出会ったときはまだ小学生で、その頃はまだ音楽をレイヤー分けして聴いてないから、サカナクションをバンドとしては聴いてなかったんです。でも中学時代にさっき言ったようなボカロの曲を聴いた影響で、ちゃんとバンドを聴くための基礎ができたというか、ドラムがあって、ベースがあって、ギターがあって、歌があるっていう、構造分けして聴くことをボーカロイドで知って。ボーカロイドを通ってなかったら、「編曲」に対する理解も遅れてただろうなと思います。
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「自我が宿っている」デモ音源から、いかにして“点”は完成したか
ーでは“点”について聞かせてください。まずはお風呂くんがデモを作るところからスタートしてるわけですよね?
お風呂:僕がデモを作って、「こういう最終的なイメージですが、コードをいじっても、楽器を抜いても、好きなようにしてもらって大丈夫です」とお伝えして、編曲に取り掛かってもらった感じですね。
ー「最終的なイメージ」というのはどの程度具体的でしたか?
お風呂:もともとはブラスバンドが生きるような、生っぽい音色のイメージで、その上でキラキラした曲になればいいと思ってました。あとはリズムがずっと保たれていて、気持ちがいい感じというか、キメを楽しめるような曲にしたいっていう、ざっくりとしたイメージはあって。
ただ「最終的にこうしてほしい」というよりは、僕が思ってなかったものが出来上がればいいなと思っていた節もあったので、小宮的発想のびっくり箱に賭けるというか(笑)。それを楽しみにしていたら、結果的に一番綺麗な形でびっくり箱が開いたなと思ってます。

ー今回の曲はトラックが全て打ち込みですが、バンド録音は考えなかったですか?
小宮:「どっちでも大丈夫です」と言っていただいたんですけど、今回はある程度自分でやろうかなと思いました。「ドラムは生で叩いてもらった方がいいかな?」とかも色々考えたんですけど、人力でやる意義はあんまり発生しなかったというか、打ち込みのトラックが出来上がるにつれて、これで十分いいなと思って。
ーTrooperでも、デモはDAWで作っているわけですよね。
小宮:初期はそうなんですけど、2023年ぐらいからデモを作らなくなって、DTMも全然触ってなかったんです。なので1st EPはほぼ全部バンドの生の楽器だけでやったんですけど、2nd EPで吉澤嘉代子さんとご一緒した“不治”をアレンジするときに結構がっつりDAWを使って。今年出たアルバムも、ほとんどの曲のキーボードは全部自分で録ってデータを送る形だったんです。リズムとかはすでに楽器で入ってるけど、それ以外は全部PCで完結させたので、ちゃんとそのDTMの能力を取り戻した段階で今回のオファーが来た、みたいな感じではありましたね。
ーアレンジをする上ではどのようなやりとりがありましたか?
小宮:一応リファレンスを何曲か送っていただいて、マイケル・ジャクソンとかディスコ方面の曲が多かったんですけど、「全然これにならなくて大丈夫です」みたいな感じだったので、結局デモからはブラスだけ残して、トラックは全部自分で作ることにして。あとは「変なコードつけるか」とも思ったんですけど、お風呂くんの作ってくれたMIDIデータを見たら、もう変えようがなかったというか。
Trooperは複雑なコードは全然使わないようにしてるんですけど、お風呂くんのはテンションが乗りまくった、いわゆるジャズ的なコード進行で、「これは変えにくいな」と思って。テンションってちゃんと考えてつけるものだと思うから、送ってくれたこのデータにお風呂くんの自我が宿ってる気がしたんですよね。だから結果的に大きくは変わってないです。個人的にオーギュメント(※)を絶対ちょっとは入れたいっていうポリシーがあるから、勝手にオーギュメントを足したりはしたんですけど。
※オーギュメントコード:メジャーコードの5度(1番上の音)を半音上に上げた和音のこと。少し緊張感のある、浮遊した独特の響きが特徴。
お風呂:足してくれてよかった。
小宮:僕、マジでいらないのにオーギュメント使ったりするんですよ。“冷たいマーメイド”とか“天使ちゃんだよ”とか、ど頭にオーギュメントを一発バンって入れて、それ以降一切使わない、みたいなことをやったりしてるんですけど。
お風呂:大胆な使い方してるなあ(笑)。
小宮:それをお風呂くんの曲でもちょっとやってみた感じですね。
