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この世界の「ぬけみち」を見つけるために。アーツ前橋『ぬけみち展』レポート

2026.8.10

#ART

アーツ前橋の企画展『ぬけみち展 かわす・つくる・ともにいる—生きるための回路』。タイトルに込められた「ぬけみち」が意味することとは? 「未来は良くなる」と希望を見出すことが難しく感じられ、言葉にならない不安や閉塞感が静かに広がる現在。このような時代だからこそ、社会や都市、他者との関係に向き合い、現実をわずかにずらす試みを行っている人々がいる。本展に参加しているのは、演劇、建築、ファッション、デザインから現代アートまで、多様な領域で活動するそんな7組の作家たちだ。

つまり、「ぬけみち」とは、作家たちが現実に向ける視点や態度を言い表す言葉。身の回りの環境を見つめ直したり、誰かと新しい関係を結んだり、見慣れた風景のなかに別の可能性を見出したりすることで生まれる、「この場所・この社会」をわずかにひらく実践を指して「ぬけみち」としている。展示から2組の作品をピックアップし、どのような「ぬけみち」が可能であるか、考えてみたい。

三野新&山本卓卓が「健康と幸せ」を考える

会場のエントランスをくぐると、最初に目に入ってくるのがネオン管で綴られた「あなたは必ず幸せになる」の文字。「幸せ」の文字だけがピンク色に光り、なにやら足場が組まれている。劇作家 / 演出家 / 俳優で第66回岸田國士戯曲賞を受賞した山本卓卓が「幸せと健康」をテーマに、『あなたは必ず幸せになる』と『わたしは幸せになった』という2本の戯曲を書き下ろし、写真家で劇作家の三野新が上演型インスタレーションとして演出した作品だ。その入口でこのネオン管が怪しい光を放っている。

ふたりはこのネオン管の言葉を「自分の所在位置を意識させられる呪いのような言葉」として差し出している。どういうことか。

「幸せ」とは本来、個人の身体や時間のなかで感じ、味わうような、パーソナルなものであるはずだ。家族との時間を幸せなものだと感じるかもしれないし、ひとりでふらっと旅に出てささやかな幸せを噛み締めるかもしれない。そうした各々の種類の幸せの形もあるはずなのに、一方で、年収がいくら以上だから、どういうエリアに暮らしているから、どんな企業に勤めているから、といったある共通認識の尺度で「幸せ」が比較されてもいる。

山本はそうした現実に感じる窮屈さを起点に、「幸せ」について考え、戯曲の執筆に挑んだ。その背景にあるのが、近年意識的に取り組んでいる「健康」というテーマだ。

「わたしたちは快楽的に、健康を害すことを、世界のためだと思っていた。」の文字

医療の発達や、AIの活用による余暇の増加に伴い、人間が最も高く価値を感じるようになるものが「健康」なのではないか。山本はそう仮定した。健康は、幸せと切っても切り離せないだろう。他者や社会との比較によって測られ、収入や生活レベルと結びついた「幸せ」ではなく、本来の個人的な意味における「幸せ」と紐づいたものとして。

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