鈴鹿央士がゴールデンタイムの連ドラ単独初主演を務めたドラマ『リーガルビート -逆転の法廷-』(テレ東系)。
バディを組む先輩弁護士・星秀幸を稲垣吾郎、事務所所長・雪村明日実を小雪が演じ、鈴鹿央士演じる吃音がある新人弁護士・泰地空とのやり取りや泰地によるラップシーンが癖になるリーガルドラマだ。
『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(2020年 / テレ東系)、『SHUT UP』(2023年 / テレ東系)、『晩餐ブルース』(2025年 / テレ東系)など社会に鋭い目線を向けながらポップに楽しめるドラマを手掛ける本間かなみがプロデューサーを務めた本作。
光益義幸、三浦駿斗、阿部凌大による3人体制でのオリジナル脚本や、藤田直哉、市井昌秀という映画でも活躍する監督チームにも注目の本作の前半について、毎クール必ず20本以上は視聴するドラマウォッチャー・明日菜子がレビューする。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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鈴鹿央士×稲垣吾郎×小雪のリーガルドラマ

『リーガルビート -逆転の法廷-』は、吃音がある新米弁護士・泰地空(鈴鹿央士)が、特技のラップを武器に法廷で奮闘するリーガルドラマだ。
司法試験に一発合格するほど優秀ながら、就職活動は全滅。そんな泰地を拾ったのが、弱者救済を掲げる雪村法律事務所だった。やや偏屈な敏腕弁護士・星秀幸(稲垣吾郎)と、弁護士資格を持ちながら法廷に立つことを避ける所長・雪村明日実(小雪)とともに、さまざまな依頼に挑んでいく泰地。現代社会の問題に鋭く切り込みながら、見終わったあとにはひだまりのような心地よさが残る。週末までに溜め込んだ肩の荷を、ふっと軽くしてくれるような一作だ。
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「吃音」と「法律」を結ぶ糸

「吃音」と「ラップ」、そして「法律」。交わらなさそうな3つの要素だが、「吃音」と「法律」を結ぶ糸は、泰地と依頼人たちの関係性のなかに、最初から示されていた。
雪村法律事務所を訪れる依頼人の多くは、理不尽な目に遭いながらも「仕方がない」と、どこか諦観している。大手広告会社から不当解雇された第1話の鈴原明子(相武紗季)、爆破事件の容疑者となった第3話の清川敏也(大和田獏)、望まぬ妊娠をさせられた第4話の桐野美咲(橋本マナミ)など、訴えたい想いを抱えながらも、声を上げることをためらっていた人たちばかりだ。
そんな依頼人たちの姿は、伝えたいことがありながら、吃音によって思うように声にできない泰地自身とも重なる。緊張するほど言葉が詰まる泰地にとって、法廷はまさに試練の場だ。しかし、ひとたびラップのリズムに乗れば、つかえていた言葉が次々とあふれ出す。そして、自分の言葉を取り戻した泰地の弁論によって、依頼人たちの声にできなかった想いが掬い上げられていく。自らの想いを言葉にすることが、同時に誰かの想いを届けることにつながる。その呼応がなんとも鮮やかだ。
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法律とラップに共通する平等の精神

さらに、第4話では「ラップ」と「法律」を結ぶ意外な糸も明かされた。そもそも「ラップ」と「吃音」には親和性がある。言葉と歌を行き来するラップは、吃音症の発話トレーニングに取り入れられることがあり、幼少期に吃音に悩んでいた歌手のエド・シーランも、エミネムのラップを繰り返し練習したことが吃音の改善につながったと語っている。
「ラップってすごいんだよ。どんな人にもサイファーでは平等で、男も女も障害の有無も関係ない。かっこいいほうが勝つんだ」
「法律も似てるって思ったんだ。どんな人にも法は平等。言葉の力で正義を勝ち取れる。だから僕は法律家を目指した」
さまざまなリーガルドラマにおいて、たびたび「法律とはなにか」が示されてきたが、本作の「法律とラップには同じスピリットが流れている」という解釈もまた、腑に落ちる。法律とはどんな人の前にも等しく存在し、誰もがその庇護を受けられるものであるべきで、誰かが不当に権利を奪われ、苦しめられているのなら、その不均衡を正すために法律がある。
本作でたびたび挿入されるサイファー(ヒップホップ文化において、複数人が輪になって即興でラップやダンスを披露し合うこと)を見ていると、私たちが目指すべき社会のあり方も、案外こういうものなのかもしれないと思う。年齢も性別も障害の有無も関係なく、誰もが同じ輪に立ち、自分の言葉を交わし合う。その小さな輪には、「誰もが等しく自分の声を持つ」という、法律にも通じる平等の精神が息づいているように感じるのだ。
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6人の吃音監修と鈴鹿の演技で形づくられた、泰地の魅力的なキャラクター

さて、マイノリティー属性の主人公が社会の荒波に揉まれていくという立て付けながら、近い立て付けで誤解や偏見を招く描写が少なくない他の作品とは異なり、『リーガルビート』は身構えることなく、安心して眺めていられるところも好ましい。
まずは、泰地が持つ吃音に対して、専門的な知見をもとに丁寧な描写が重ねられていることが大きいだろう。クレジットを見るだけでも、吃音監修として6人の専門家が関わっており、ひとつのイメージに当てはめることなく、多角的な視点から泰地の人物像が形づくられていることがわかる。さらに、泰地を演じる鈴鹿の演技も魅力的だ。言葉が思うように出ない切実さを的確に表現する一方で、決して悲壮感漂うキャラクターにはしない。持ち前の柔らかな佇まいも相まって、しなやかに生きる泰地の姿を軽やかに体現している。
そして、雪村法律事務所の先輩組も最高! 泰地「空」、「星」秀幸、雪村明「日」実――主要人物の名前には、それぞれ天空や天体を思わせる言葉が入っている。空、星、日。どれかひとつが上に立つのではなく、同じ世界を構成するものが並ぶところにも、3人の関係性に通底する「対等さ」が表れているように思う。
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先輩弁護士・星秀幸は「ニュータイプの稲垣吾郎」

規格外の主人公が新たな職場にやってくるお仕事ドラマといえば、最初はすれ違い、さまざまな苦難を乗り越えるなかで徐々に互いを認め合い、ひとつのチームになっていく展開が定番だが、『リーガルビート』にはそれがまったくないのも個性的だ。そもそも「互いを認め合うまで」のプロセスが、本作ではほとんど描かれないのだ。
泰地の教育係に任命された星も、「ホントに使える新人なんだろうね……」とトゲのある言い方をする、一見厳しい上司のようでありながら、泰地を理解するために自ら吃音について学んだり、はたまた泰地の馴染みの店「MCチキンのアゲアゲKARA-AGE」に出向いたりといった行動を重ねる。最初の法廷弁護で言葉に詰まった泰地に、「ここを法廷だと思うな。法廷じゃなくてサイファー。尋問じゃなくてバトル。そう思ってやってみるんだ」と熱い言葉をかけたのも星だ。
しかも、そのポジションを担うのが、これまで数々のドラマで「ラスボス」的な役どころを演じてきた稲垣吾郎なのだから、そのギャップも相まって、星というキャラクターがより魅力的に映る。想いが溢れるあまり、暴走しがちな新人を優しく制しながらも、ここぞというときにはそっと背中を押す。そんな星秀幸はニュータイプのツンデレ、いや、ニュータイプの稲垣吾郎といっていい。

そんな星は家族のことになると、時折、寂しそうな表情を見せていた。「父と兄に見てもらおうと努力した時期もあった。でも、あの人たちに僕は見えていないと気づいた」「まるで透明人間だ」――その言葉の背景は第5話で明かされる。企業への誹謗中傷をめぐる案件で対峙したのは、星と雪村の古巣である大手弁護士事務所「スタートップ法律事務所」のエース弁護士にして、星の兄・信隆(田辺誠一)だった。弟を見下すような態度を崩さない信隆を前に、いつもは飄々としている星も、過去の傷を表情に覗かせる。
高圧的な信隆に追い詰められるなか、突破口となったのは泰地のアイデアだった。これまで教育係として泰地を導いてきた星が、今度は泰地の力を借りて窮地をひっくり返す。この一方通行ではない関係性が、なんとも『リーガルビート』らしい。法廷で鮮やかな逆転劇を起こしたあと、泰地と星が交わした高らかなハイタッチは、この5話までで一番の爽快感をもたらす名シーンだった。