代表曲はYouTubeで7千万回の再生回数を記録し、フェスティバルにも多数出演するなど、韓国インディーシーンを代表するシンガーソングライターのDAMONS YEAR(デイモンズ・イヤー)。その表現は独特の叙情性を帯び、競争社会や服夏な人間関係の中で不安や孤独を抱える若いリスナーたちから強い共感を集めている。
その注目は韓国国内に留まらず、日本にも届いている。2025年4月には寺尾紗穂との東京公演、同年12月には『TOKYO ART BOOK FAIR』に出演。そして2026年5月に初の単独来日公演を控えているDAMONS YEARへインタビューした。歌詞に込めた思いや、岩井俊二を始めとした映画から受けたインスピレーションなど、彼のアーティストとしての哲学を聞いた。
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DAMONS YEARの歌詞はなぜ共感を集めているのか。崩れ落ちそうな感情をそのまま引き受けるということ
彼の楽曲のYouTubeを覗くと、コメント欄には音楽をきっかけに思い出した、過去の記憶や誰かとの時間についてのエモーショナルな言葉の数々が並び、非常に興味深い。
「あなたが好きだと言っていたこの曲を、偶然耳にしたので、少しだけ言葉にしてみようと思います」
「忘れようとしても、どうしてこんなに君だけ忘れられないんだろう。今年を振り返っても、全部君で埋まっている気がする」
実際にDAMONS YEARの歌詞に触れてみると、リスナーたちがどれほど彼の音楽に自分を重ねているのかがよく分かる。ここでは、その一端が感じられるラインをいくつか引用してみたい。
그대여 난 솔직히 좀 싫어
그대는 내가 없더라도 아무렇지 않은 게
넌 나의 모든 하루를 바꿔
난 그렇게 또 두 눈을 감고 마네
君よ 正直、ちょっと嫌なんだ
君は 僕がいなくても 平気そうだから
でも君は 僕のすべての一日を変えてしまう
だから僕はまた 目を閉じてしまう―DAMONS YEAR“yours“より
“희망의 빛 THE BEACON OF HOPETHE BEACON OF HOPE”
깜빡이는 불빛은 망가진 가로등
빛 희망이 다가온다는 징조라고 했지
난 여전히 너의 거짓말을 믿고 있어
누군가가 고친다면 다시 가서 망가뜨리자
瞬く灯りは 壊れた街灯の光
希望が近づいている 兆しだと言っていたね
僕はまだ 君の嘘を信じている
誰かがそれを直すなら また行って壊してしまおう
―DAMONS YEAR“희망의 빛 THE BEACON OF HOPETHE BEACON OF HOPE”より
DAMONS YEARは、不安や後悔といった感情を隠すことなく、そのまま歌にする。依存や執着といった、しばしば弱さと見なされる感情さえも否定せずに描き出す。過去の恋人との記憶も単純に否定されることはなく、よかった時間を静かに振り返り、ときに感謝すらにじませる。
そこからは、痛みや弱さを無理に整理するのではなく、そのまま引き受ける姿勢が感じられる。「乗り越えよう」でも「大丈夫」という慰めでもない、「壊れそうなら、そのまま壊れてしまってもいい」という感覚が通底している。彼の音楽は、崩れ落ちそうな感情を抱えたままでもいいと、リスナーをそっと肯定してくれているのだ。
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「瞬間の自分をはっきりと映し出した作品こそ価値がある」
ーもともと人見知りだと伺いました。にもかかわらず、とても率直で赤裸々な歌詞を書かれていますが、そうした変化にはどんなきっかけがあったのでしょうか?
DAMONS YEAR:幼い頃から内向的で、人前で自分の感情をさらけ出すタイプではありませんでした。そのせいで、その場で言いたかったことを言えずに終わってしまうことが多くて。そういう経験が積み重なるほど、言えなかった感情は消えるどころか、「あの時こう言えばよかったのに」という後悔として頭に残り続けてしまうんです。
だからこそ、せめて曲を書くときだけは、その感情を外に出そうと思うようになりました。それが自分にとって、過去にとどまり続けないための、一番自然な方法だったと思います。そうしていくうちに歌詞もどんどんパーソナルになって、そのときの気持ちをそのまま書くようになりました。音楽を通して感情を吐き出すことで整理されて、少し楽になり、次に進めるようになる。だから音楽は単なる表現ではなく、自分が生きていくためのプロセスのように感じています。

1994年11月8日生まれ、韓国のシンガーソングライター。フォークを基盤に繊細な歌声と喪失感を表現する歌詞で知られ、韓国インディーシーンで単独公演が即完売する人気を誇る。2017年デビュー、2019年の「yours」で広く知られ、2026年には初の日本ワンマンライブを東京で開催した。
ー「正直であること」は歌詞を書くうえでのモットーとも言えるのでしょうか?
DAMONS YEAR:はい、そうだと思います。自分にとって音楽は、その人の思考そのものだと感じています。歌詞もそのときの感情をできるだけそのまま残すようにしていますし、どれだけ個人的な内容でも、臆せずそのまま書くことが多いですね。子どもの頃から好きだった音楽もそういうものが多かったですし、自分もそういう音楽を作りたいと思ってきました。
ーそういう表現の仕方で影響を受けたミュージシャンを挙げるとすると?
DAMONS YEAR:韓国だとユ・ジェハさんやキム・グァンソクさんのような先輩方がいますし、中学生の頃はThe Black Skirtsもよく聴いていました。それから音楽を始めたのが遅かったこともあって、20代になってから聴いたフランク・オーシャンの影響はかなり大きいです。彼の音楽はとてもパーソナルだと感じますが、だからこそ多くの人に届いているように思えて。華やかでなくても、その瞬間の自分をはっきりと映し出した楽曲こそ価値があるし、そういう作品を作ってこそアーティストなんじゃないか、と思っています。
ーあなたの歌詞には不安や執着といった感情がよく登場しますが、こうした感情が表現の原動力になっているようにも思えます。いかがでしょうか?
DAMONS YEAR:そういう感情も自分のエネルギーだと思っています。人それぞれ生まれ持った性質が違っていて、プラスのエネルギーを持っている人もいれば、マイナスのエネルギーを持っている人もいると思うんですが、僕は明らかに後者です。10代の頃はそのマイナスな面を自分でどう扱えばいいのか分からなくて、かなり苦しかったんです。最初はそんな自分を認めたくなくて、別の人間になったつもりで曲を書いたりもしていたんですが、後から聴くと恥ずかしくてとても聴けなかったです。
あるときメンタルが崩れ落ちる経験をしたことがあって、そのときに「もう音楽の中でも嘘はつけないや」と思うようになりました。それ以来、その瞬間の感情だけを書いています。そのときに書いた曲は僕のデビュー曲にもなった“재워 (Couldn’t Sleep)”です。この曲で初めて、心から自分の曲を良いと思えました。それまでは音楽をどこか飾って作っていた感じがあったんですが、この曲を書いたことで「こう表現すればいいんだ」と分かった感覚もありましたし、自分自身が少し救われた気もしました。
ー先ほど「その瞬間の感情をそのまま書くようになった」とお話しされていましたが、最新アルバム『CORPUS 0』に収められている“희망의 빛 THE BEACON OF HOPE”では、恋愛関係における「ほとんど不可能に近い可能性を手放せない」感情が描かれているのが印象的でした。一般的には不安や執着は乗り越えるべき弱さと捉えられがちですが、この曲ではむしろそれを受け入れているようにも感じられます。
DAMONS YEAR:今の社会では人の過ちを指摘する際に、まるで「誰もが最初から完成された存在だ」ということが前提になっている気がして、少し違和感があります。僕は、人間は感情を完全にコントロールすることはできないと思っているんです。誰かを愛すれば執着も生まれますし、周りには理解されないような衝動的な感情が湧くのも自然なことだと思いますし、そういう部分こそが人間の本性だと感じています。特に今回のアルバムを制作する中で、その考えはより強くなりました。それで“희망의 빛 THE BEACON OF HOPE THE BEACON OF HOPE”では、負の感情を無理に否定するのではなく、そのままの形で表現してみました。