5月8日(金)に公開される映画『霧のごとく』から、本編冒頭映像と著名人による推薦コメントが解禁された。
同作は、『熱帯魚』『1秒先の彼女』で知られるチェン・ユーシュン監督の最新作。第62回金馬奨にて最優秀作品賞を含む最多4冠を受賞している。物語の舞台は1950年代、戒厳令下の台湾。少女・阿月(アグエー)が、反政府分子として処刑された兄・阿雲(アユン)の遺体を引き取るため、1人で台北へ向かう。しかし遺体を引き取るには、高額な手数料が必要だった。そんな彼女を救ったのは、元軍人で人力車の車夫・趙公道(ザオ・ゴンダオ)。軍の仲間を失い人生に行き場を見出せずにいた彼は、阿月の想いに心を動かされていく。
本編冒頭映像では、1953年のサトウキビ畑を舞台に未来を語る兄妹の姿が切り取られた。兄が「つらくて耐えられない時は、こんなふうに針を早めてみろ」と、時計の針を進めるシーンが収められている。
また、同作の公開に向けて、映画監督の山下敦弘、大九明子、深田晃司、歌手の一青窈、小説家の温又柔らより推薦コメントが寄せられた。
山下敦弘(映画監督)
人間を見つめる眼差しはいつものチェン・ユーシュンなのに、映画のラスト、不思議と今までとは違う涙が溢れました。たぶんそれは台湾人としてあの時代に真摯に向き合った監督の覚悟に涙したんだと思います。
優しくて、可愛くて、ちょっと残酷なチェン・ユーシュン作品をこれからも観続けたいと思います。
大九明子(映画監督)
無垢で不器用な主人公が次から次へとひどい出来事に見舞われるもんだから、見てる私は心配で心配で絶えずスクリーンに吸い寄せられてしまう。エンドクレジットの優しいメロディと歌声に胸が熱くなりました。ひどい時代の間違った政治をエンターテインメントに昇華していて、どんなかたちでも暴き描き続けて残してやるんだという表現者としての意地のようなものを感じました。
深田晃司(映画監督)
切実な時代を背景にしながら、センセーショナルに走らず一定のユーモアを失わないまま、見事なバランス感覚でそこにある暴力と希望を描き切っていた。台湾の無法松(?)こと趙公道の人物像が最高で、ずっと見ていたくなるが、その期待に見事に応えてくれる脚本に嬉しくなった。
一青窈(歌手)
台湾人の懐っこさと
優しいおせっかいの根源が
痛いほど詳らかに見てとれます。
運命に翻弄されながらも
人を信じることを貫いた
青年の純愛です。
大切なことが霧にかかって見えなくなったときに
ぜひ、おすすめしたい作品。
この景色があなたを人間として
いつまでも留めてくれるでしょう。
温又柔(小説家)
政治に抹殺された真実の数々が、政治に推奨されて日の目を見るまでに、台湾では長い年月を要した。今では、多くの人々が、時代の犠牲となった力なき者の悲哀に涙する。この映画が、その証拠の一つだ。歴史は警告する。覚えておけ。さもなくば、また巻き戻すぞ。
銃殺する側の末裔だろうが、銃殺された家族の子孫だろうが、関係ない。不幸な未来を招き寄せないために、不幸な過去を忘れまいとすることは、現在を生きる私たちみんなの義務だ。
野嶋剛(ジャーナリスト、大東文化大学教授)
台湾の戒厳令は38年の長きにわたった。劇中で強調される「時の流れ」はいつの日か訪れる「夜明け」までのカウントダウンを示すものだ。その間、「白色テロ」により不当に未来を奪われた人々の犠牲のうえに台湾の人々は生きている。そこにあるのは悲哀だけではなく、次の世代の人々に託された「希望」である。時を超えて繋がれていく時計は、その「希望」を抱えながら刻んだ「時の流れ」を象徴するものだ。
暉峻創三(映画評論家、大阪アジアン映画祭プログラミング・ディレクター)
現代社会を生きる人間たちを描くことで評価を確立した映画作家が、ひとたび自国の歴史とその時代を歩んできた人間たちを題材にした時、それはその作家のフィルモグラフィを代表する名作中の名作となる。これは、台湾の優れた映画作家に特有の運命的な現象のようだ。侯孝賢の『悲情城市』しかり、エドワード・ヤンの『牯嶺街少年殺人事件』しかり。あるいはそこに、魏徳聖の『セデック・バレ』を加えてもいいだろう。そして今、この台湾映画史ならではの特徴に、陳玉勲の『霧のごとく』も加わった。
ISO(ライター)
自由と尊厳が蝕まれた激動の時代でも助け合い、「より良い未来は必ず来る」と信じて生き抜くこと。その抵抗の積み重ねが社会を変えるうねりとなる。たとえ霧に覆われた暗い世でも、人が灯し続ける小さな光が未来へとつながっていくのだと、この映画は我々を優しく、そして力強く鼓舞してくれる。
映画『霧のごとく』
2026年5月8日(金)よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、Strangerほか全国順次公開
監督・脚本:チェン・ユーシュン
キャスト:ケイトリン・ファン、ウィル・オー、9m88、ツェン・ジンホア、リウ・グァンティン、ビビアン・ソン
2025年│134分│台湾│原題:大濛│カラー│提供:JAIHO配給:JAIHO/Stranger
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<あらすじ>
1950年代、戒厳令下の台湾。白色テロにより反政府分子として捕らえられた兄が台北で処刑されたと知った少女・阿月(アグエー)は、故郷の嘉義から、なけなしの金と兄の形見の時計を手に、遺体を引き取るため一人台北へ向かう。しかし遺体を引き取るには高額な手数料が必要で、途方に暮れてしまう。怪しい男に騙され、遊郭に売り飛ばされそうになったその時、彼女を救ったのは人力車の車夫・趙公道(ザオ・ゴンダオ)だった。中国・広東出身の公道は、国民党軍の元軍人として台湾に渡って以来、故郷へ帰ることもかなわず、その日暮らしの生活を送っている。白色テロで軍の仲間を喪い、人生に行き場を見いだせずにいた彼は、阿月の想いに心を動かされ、手を差し伸べることを決意する。先の見えない時代の激流の中で出会った二人の運命が大きく動き出していく……。