かつて日本には、幕末という激動の時代が存在した。1853年の黒船来航から戊辰戦争までのわずか15年ほどの間に、坂本龍馬、西郷隆盛、木戸孝允(桂小五郎)、大久保利通、高杉晋作など多くの歴史上のヒーローたちが活躍している。
一方、彼ら倒幕派に抗うように今でも根強い人気を誇っているのが、旧幕府軍最後の砦とも言える新撰組である。新撰組の人気の理由は、沈みゆく泥船であった旧幕府と運命を共にした、その悲劇のヒロイズムにあると思われる。中でも、鬼の副長と呼ばれた土方歳三の34年の人生は、多くの作品で取り上げられている。本記事で取り上げる『ちるらん 新撰組鎮魂歌』も、その内の重要な一本となる作品だ。
本作で土方歳三を演じているのは、山田裕貴。彼は、『新選組!』(2004年、NHK総合)の山本耕史、『燃えよ剣』(2021年)の岡田准一、『ゴールデンカムイ』シリーズの舘ひろしら、近年の代表的な土方俳優を、超えることはできるのか。
共演陣には、新撰組での同志となる近藤勇を鈴木伸之、沖田総司を細田佳央太が務め、かたや重厚、かたやキレのあるアクションを見せてくれる。また、土方の友となる土佐藩の岡田以蔵を演じた中島健人は、人斬りとしての悲しみをにじませる。新撰組のオーナーとも言える京都守護職・松平容保を演じた松本潤は、さすがのカリスマ性を見せつけてくれた。
だが、この物語で山田裕貴と並んで最も注目すべき人物は、新撰組初代局長・芹沢鴨を演じた綾野剛である。本稿では、各キャラクターの魅力および綾野剛の凄さを、紐解いていく。
※本記事にはドラマ本編の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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バラガキとしての土方歳三
まず最初に断っておくが、本作を観る際は「史実」とか「時代考証」という言葉は、一旦脳内から削除してほしい。主要人物の髪型、服装、言葉遣いから使用武器に至るまで、およそ江戸時代の日本には存在しなかったであろうものが多く登場する。だが、そんな些細な理由でスルーしてしまうには、あまりにももったいない作品だ。
物語の雰囲気は、時代劇というよりも「不良漫画」だ。新撰組meets『東京リベンジャーズ』という趣の作品だが、それには理由がある。若き日の土方歳三を語る際によく登場するフレーズとして、「バラガキ」というものがある。「茨(バラ)のようなガキ」が転じた多摩地域の俗語・方言で、乱暴で手がつけられない不良少年を指す言葉だ。後にこの土方が中心人物となる新撰組は、当時の不良少年たちが数多く参加していたのだ。

本作の土方は、農家の生まれでありながら、最強の漢を目指している。薬売りの行商をしているが、真の目的は、行く先々での道場破りだ。彼の使う剣術は、清々しいほどに邪道である。鍔迫り合いからの足払いや頭突き、果ては金的蹴りまで繰り出す。相手はそれらの技を「卑怯だ」と非難する。
戦乱の世が終わりを告げ、江戸幕府が開かれてから体系化された平和な時代の「武士道」ならば、正々堂々と真っ正面から戦うのが武士であると、教えられているのだろう。だがそれは、すでに本当の戦場を知らない世代が、後付けで設定した綺麗ごとでしかない。道場破りとは言え多くの「実戦」を経験してきた土方は、命のやり取りの場ではそんな机上の空論は通用しないことを、嫌というほどわかっている。
そんなリアリストの土方だからこそ、刀+下半身への蹴りは相性がいいことにも気がつく。相手の刀のみに神経を集中すればするほど、下半身はお留守になる。現代でも警察剣道では、足払いおよび転倒した相手への竹刀での攻撃が認められている(一般的なルールでは反則)。
徳川家康が戦乱の世を終わらせてから約260年も経ったこの時代には、戦のために剣術や武術を学ぶ必要は、もうなくなっていた。江戸時代中期以降の竹刀や防具の発明により、剣術は実戦のための殺し合いから、ルールある競技、あるいは精神修養のための「嗜み」へと変化を遂げていた。もはやそこには、土方をたぎらせてくれるようなものは残っていなかった。
土方は、「(薬を売るために)ケガ人を探すよりケガ人を作る方が手っ取り早いから」とうそぶくが、自らの闘争本能を受け止めるに足る相手にも出会えず、悶々としていたはずだ。
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近藤勇との出会い
このままでは土方歳三は、単に「ケンカの強い薬売り」で生涯を終えていたかもしれない。だが、他の道場と同じく期待せずに訪れた天然理心流・試衛館が、彼の運命を大きく狂わせる。
道場長の近藤勇が、土方の挑戦を受けて立つ。鈴木伸之が演じる近藤は笑顔の眩しい好漢だが、その剣術は土方以上にえげつない。鍔迫り合いからの大外刈りで倒し、そのまま木刀を振り下ろす。土方の袴の裾を踏んで転倒させるような、ダーティーな技も使う。

また、本気になった彼が使う電信柱みたいな木刀が恐ろしい。おそらく並の男性なら持ち上げることもかなわないであろう巨大な木刀を、マスコットバットのように軽々と振り回す。
変わらぬ眩しい笑顔で「死ぬなよー」と言いながら、頭部に喰らったら即死間違いなしな斬撃を躊躇なく振りぬく。このシーンを見て、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020年)の猗窩座を思い出した。猗窩座も、「死んでしまうぞ杏寿郎!」と言いながら、致命傷となる攻撃を繰り出す。
真剣勝負で手加減することほど、失礼なことはない。だからこそ全力で殺しに行くが、悲しいかな、相手に好感を抱いてしまっている。殺したくはない。でも手加減もできない。どうすればいいんだという矛盾した感情を抱いたまま、戦うこととなる。
猗窩座は結局、煉獄杏寿郎を殺すこととなる。だが近藤は折衷案として、斬撃ではなく腹部への前蹴りで勝負を終わらせることを選んだ。腹部への打撃なら、死ぬことはまずない。とは言え、腰の入った恐ろしく重い前蹴りだった。
近藤の教える天然理心流は、剣術だけではなく、柔術などの無手の技術も含む総合武術である。当然当て身技も稽古しているであろうし、だからこその近藤の大外刈りや前蹴りである。元々頭突きや金的を得意としていた土方との相性もいい。土方と試衛館は、出会うべくして出会ったと言える。

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芹沢鴨=綾野剛史上最強で最恐で最凶のヴィラン
土方は、強力な仲間を得た。だが、バトル物としてはまだ何かが足りない。そう。宿敵となるヴィランの存在だ。そのヴィランは、強く巨大で凶悪であればあるほどにいい。悪のカリスマ性があれば、なお良しだ。
筆者は常々、「映像作品における日本3大カリスマヴィランは誰か」ということを考えてきた。『仁義なき戦い 広島死闘篇』(1973年)の千葉真一(役名:大友勝利)、『ブラック・レイン』(1989年)の松田優作(役名:佐藤浩史)まではすぐに浮かぶのだが(異論は認める)、3人目を決めあぐねていた。この度、その3人目がめでたく決まった。本作における綾野剛(役名:芹沢鴨)が、その人である。

新撰組を描く際、近藤や土方らが最初に倒すべき敵となるのが、新撰組初代局長・芹沢鴨である。傍若無人な芹沢とその一派は、近藤や土方の思い描く理想の新撰組構築における、大きな障壁となる。自然、芹沢派VS近藤・土方派の対立という図式ができあがっていく。
過去作において、佐藤浩市(『新選組!』)や伊藤英明(『燃えよ剣』)らが魅力的な芹沢を演じている。しかし、本作の綾野剛が演じた芹沢は、そのどれとも似ていない。

かつて、『どついたるねん』や『鉄拳』など多くのボクシング映画を撮った阪本順治監督は、自身が撮った赤井英和や辰吉丈一郎らの佇まいを指して、「暴力の色気」という表現を使っている。これは非常にセンシティブな表現でもある。決して暴力を肯定するわけではない。だが暴力の色気、言い換えれば「悪の色気」というものが確かに存在する。本作の綾野剛からは、その暴力と悪の色気が、許容量を超えてあふれ出している。
元々、綾野剛はヴィランが似合う俳優である。『最後まで行く』(2023年)の狂気の監察官も、『幽☆遊☆白書』(2023年、Netflix)の戸愚呂弟も、『地面師たち』(2024年、Netflix)の交渉役地面師も、みな悪の色気に溢れていた。だが、本作での芹沢鴨役はレベルが違う。ヴィランとしての最高峰を極めてしまったのではないか。これから、これを超えるヴィランを演じることができるのか。今後の彼の俳優としてのキャリアを心配してしまうほどの完成度である。

天才・沖田総司との初対決において。沖田の横薙ぎの剣を、タバコだけ斬らせるギリギリでかわすその動体視力。優勢に戦いを進めていながら、最後は石で殴ってとどめとする、侍としての美学などはかなぐり捨てたその凶悪性。
「花に女に酒ってのも悪くねーが、なんか足んなくねーか? やっぱ男が一番そそるのはさ……なんつっても暴力だろ……」
ボソボソと喋りながらも明瞭に聞き取れるそのセリフ回しは、先述の松田優作を彷彿とさせる。そして、一切の綺麗ごとを廃したその暴力への欲求は、その破壊衝動は、清々しいほどである。ここで思い出すのが、先述の『仁義なき戦い 広島死闘篇』における大友勝利のセリフだ。
「わしら美味いもん食うてよ、マブいスケ抱くために生まれて来とるんじゃあないの⁉」
小悪党は、すぐに自らを取り繕うようなセリフを吐く。自らの悪に自信がないからだ。だが芹沢や大友のような大悪党は、忖度一切なしの100%本音の欲望を、迷うことなく吐くことが出来る。それこそが、善悪や倫理観を超越した、カリスマ的なヴィランたる証である。
3月27日(金)から毎週金曜日、U-NEXTにおいて配信される「京都決戦篇」において、いよいよ近藤・土方派VS芹沢派の全面戦争が描かれる。史実の知識があり、原作も読んでいる方なら、もう勝敗はわかっていることと思う。だが綾野剛演じる芹沢鴨は、すでに原作を超えている。史実や原作をも超えた展開が、期待できるはずだ。
『ちるらん 新撰組鎮魂歌』
【国内配信】
U-NEXT独占配信
スペシャルドラマ“江戸青春篇”&ドラマシリーズ“京都決戦篇” 全6話 ※毎週金曜19:00最新話を順次配信
【国外配信】
HBO Max
5月9日(土)から北米、ラテンアメリカ、ヨーロッパ、アジアの一部を含む全世界100以上の国と地域
【製作著作】
THE SEVEN
【スタッフ】
<プロデューサー>
森井輝(THE SEVEN)/Netflix『今際の国のアリス』シリーズ、『幽☆遊☆白書』 ほか
井上衛/TBS×WOWOW『ダブルフェイス』、『MOZU』シリーズ ほか
下村和也(THE SEVEN)/Netflix『幽☆遊☆白書』、映画『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』 ほか
<監督>
渡辺一貴/大河ドラマ『おんな城主 直虎』、朝ドラ『まれ』、『岸辺露伴は動かない』シリーズ ほか
<脚本>
酒井雅秋/WOWOW連続ドラマW『コールドケース2・3』、映画『ケイコ 目を澄ませて』
<音楽>
出羽良彰/Netflix『ゾン100~ゾンビになるまでにしたい100のこと』、アニメ『地獄楽』ほか
<アクション監督>
園村健介/映画『ベイビーわるきゅーれ』、映画『陰陽師0』 ほか
<VFXプロデューサー>
赤羽智史(THE SEVEN)/Netflix『今際の国のアリス』シーズン3、『幽☆遊☆白書』 ほか
<キャラクタースーパーバイザー>
前田勇弥/映画『レジェンド&バタフライ』 ほか
<ポスプロスーパーバイザー>
石田記理(THE SEVEN)/Netflix『今際の国のアリス』シリーズ、『幽☆遊☆白書』 ほか
【キャスト】
土方 歳三 / 山田 裕貴
近藤 勇 / 鈴木 伸之
山南 敬助 / 中村 蒼
沖田 総司 / 細田 佳央太
永倉 新八 / 上杉 柊平
斉藤 一 / 藤原 季節
阿比留 鋭三郎 / 杉野 遥亮
原田 左之助 / 柳 俊太郎
藤堂 平助 / 宮崎 秋人
井上 源三郎 / 岩永 ひひお
市川 真琴 / 生見愛瑠
お梅 / 桜井 ユキ
新見 錦 / 奥野 瑛太
平山 五郎 / 高橋 光臣
佐々木 只三郎 / 金子 ノブアキ
岡田 以蔵 / 中島 健人
田中 新兵衛 / 安藤 政信
松平 容保 / 松本 潤 (友情出演)
高杉 晋作 / 北村 匠海
永倉 新八(明治時代) / 柄本 明
芹沢 鴨 / 綾野 剛
【クレジット】
©橋本エイジ・梅村真也/コアミックス ©THE SEVEN