メインコンテンツまでスキップ
NEWS EVENT SPECIAL SERIES

森田剛はなぜ「観客に向けて」演じないのか。山西竜矢と語る、自分を壊すための演技論

2026.1.30

#STAGE

高度経済成長期に発表された安部公房の『砂の女』は、閉じ込められた状況のなかで、人が何を選び、自由とは何かを問いかけてきた。SNSやコロナ禍を経て、「動けなさ」や「逃げ場のなさ」を経験した今、この物語は遠い寓話ではない。演出の山西竜矢と主演の森田剛は、ただ「今やるべきだと感じた」という感覚を手がかりに、この作品に向き合っている。二人の言葉から、『砂の女』が今の時代に引き寄せられていく理由が見えてくる。

劇場全体を引き込むような強さを持っている人を考えた時に、真っ先に浮かんだのが剛さん。(山西)

—安部公房の小説『砂の女』は、小説だけでなく映画化作品も高く評価されてきました。お二人がこの物語と最初に出合ったのはいつ頃でしたか?
 
森田:いつ頃だろう。勅使河原宏監督の映画『砂の女』はすごく好きですね。初めて見た時は夢中になって引き込まれました。今回、山西さんから「舞台で砂の女をやりたいと思ってる」と連絡をいただいて、見返したんですが、やっぱりドキドキしながら見ましたね。
 
山西:僕もいつかははっきり覚えてないです。けど、最初に小説を読んだ時は衝撃が走りました。それ以降、色々な部分で影響を受けていると思います。この上演をやるぞと決めて読み直した時、まったく古びない物語に驚きました。むしろ現代の方が、この物語をとらえやすくなっているのでは、とすら感じたほどです。安部公房の本質を書く力を強く感じましたし、どの時代にも通じる作品を発表してきた作家なんだと改めて思いました。
 
—小説が発表されたのは高度経済成長期である1962年でした。SNSの誕生やコロナ禍を経た今、この作品を上演することに、どのような意義を感じていらっしゃいますか?
 
森田:うーん、どうだろう。意義って言われると難しいですけど、山西さんが今この時代に『砂の女』をやりたいという時点で、もうやるしかないと覚悟を決めました。もう身をゆだねるしかないな、と。面白い視点を持っている山西さんが今『砂の女』をやりたいっていうからには、きっとこちらが想像している以上のことが待っているだろうなと思いました。だって、なんか山西さんってつかみどころがないじゃないですか。

森田剛(もりた ごう)
1979年、埼玉県生まれ。2005年、劇団☆新感線の『荒神〜Arajinn』で舞台初主演。主な映画出演作に『ヒメアノ〜ル』『前科者』『白鍵と黒鍵の間に』『劇場版 アナウンサーたちの戦争』『雨の中の慾情』、舞台出演作に『ロスメルスホルム』『台風23号』、『ヴォイツェック』などがある。短編映画『DEATH DAYS』では企画制作・主演を務める。


山西:それ、褒めてくれてます?(笑) でも、『砂の女』を自分で演出しようと思ったのとほぼ同時に、主人公の仁木という男は剛さんに演じてもらいたいと思ったんです。研ぎ澄まされた物語で、登場人物も少ない。緊迫した展開になった際に、一人でも劇場全体を引き込むような強さを持っている人って誰だろうって考えた時に真っ先に浮かびました。
 
意義というところで言えば、小説が発表された当時と比べると、時代はずいぶん進んでいるかもしれない。でも、「逃げ場のない社会」という感覚は今の方がよりわかりやすいようにも思うんです。だからこそ今やるべきなんじゃないかな、と感じています。

山西竜矢(やまにし たつや)
1989年、香川県生まれ。数年の俳優業を経たのち、独学で脚本・演出を学び、2016年に演劇ユニット「ピンク・リバティ」を旗揚げ。映像作品も手掛け、2021年に映画『彼女来来』を公開し、高い評価を得る。ドラマ『今夜すきやきだよ』、『SHUT UP』の脚本など、ジャンルの垣根を超えて精力的に活動している。

何のために演じるのかと聞かれれば、それは自分を壊すため。(森田)

—観客にはこの舞台を観てどんなことを感じ取ってもらいたいですか?
 
山西:社会的なメッセージにあふれている作品ではありますが、演出家として、シンプルにこの物語を舞台で上演したら面白くなりそうだなという予感があったので、メッセージやテーマは一旦置いておいて、まずは「面白かった!」と感じてもらいたいです。とても文学的で、哲学的だけれど、ちゃんとエンターテインメント性がある物語なので。
 
森田:誤解を恐れずに言えば、お客さんにどう思って欲しいか、どう感じて欲しいか、ということはあまり考えていないんです。お客さんに向けて演じてはいない。もちろん、劇場にお客さんが足を運んでもらわないと成り立たないですし、喜んでもらえたらとても嬉しい。それは大前提です。
 
でも、「こう感じて欲しい」みたいなのは僕自身にはないんです。何のために演じるかって聞かれたら、それは自分を壊すためなんだと思っています。しっかりと壊すことができれば、結果としてちゃんとしたものが届けられる。だから、目の前のことに集中するだけです。

—壊す、とは?
 
森田:壊すというのは自分の中のストッパーを外す、という感覚に近いです。自分は基本的に怠け者なので、負荷がかからないと何もやらないんですよ。よく「何考えているの?」と聞かれるんですが、本当に何も考えてないことが多くて(笑)。だからこそ難しい役に取り組んでストッパーが外せると、自然と前に進めるというか、動き出せる感覚があるのかも。
 
—森田さんはコンスタントに舞台作品に出演されていらっしゃるので、毎回挑戦していたら、体がもたないのでは?
 
森田:もちろん、大変なこともありますけど、人との出会いは大きなモチベーションになっています。山西さんとまたこうやってご一緒できるのも嬉しいし。
 
山西:そんなこと言ってもらえてありがたいです。僕も、人との出会いがモチベーションにつながっていくという感覚は、すごくわかります。「こんな面白い人がおるんやったら、もうちょっとやってみたいな」という気持ちは、この仕事を続けていく大きな理由になっています。

ジャケット ¥71,500 / Tシャツ ¥17,600(ともにキャプテン サンシャイン / 他スタイリスト私物)

森田:そうですよね。自分一人では思いつかないようなところでコミュニケーションが生まれたり、表現方法を鍛えられたりする。今回もはじめて共演する方々ばかりなので、その点も楽しみです。

この男の人生に取り込まれるような感覚を味わって欲しい。(山西)

—『砂の女』は、外に出ていくからこそ得られる自由と、その場に残る自由、あらゆる自由を描いている作品でもあります。お二人にとって、自由とはどんな意味を持ちますか?
 
山西:面白いけどめちゃくちゃ難しい質問ですね。もしかしたら、不自由な時のほうが自由を感じることはあるかもしれません。それこそ、『砂の女』の内容にも絡んだ話ですけど。
 
例えば仕事のことで言うと、舞台の演出をしたり、ドラマの脚本を書いたり、映画を撮影したりと色々なことをやっているので、頭の中がごちゃごちゃになってしまうことがよくあって。でも、稽古場に入ると舞台のことしかできないし、撮影に行けば現場のことしか考えられなくなる。その状態の方が気持ちが楽になるんですよね。「今は目の前のことだけを考えてやればいいんだ」って、時間も場所も制約があることで逆に楽な気持ちになれるというか。

森田:今の話を聞いていて思ったのが、舞台って決められたセリフがあって、立ち位置がある。決まりごとだらけなんです。でもその中にやっぱり自由になれる瞬間がある。そこが楽しいんですよね。ルールを守りながら、自由になる瞬間に「芝居をしていて良かったな」と感じます。

—主人公の仁木は極限状態に置かれます。もし同じ状況に置かれたら、お二人はどうすると思いますか?
 
森田:うーん、どうだろう。たぶん同じ感じになっちゃうんじゃないかな。仁木はすごくちっぽけな人間なんだけど、その気持ちもわかるんですよ。乾いた砂の中で男女が一緒にいるという設定からはどちらの可能性も想像できますよね。気が狂いそうになって逃げようとするのか、その場でのんびり過ごすのか。観客のみなさんも同じように感じることなんじゃないかなと思います。
 
山西:僕も現状をすっと受け入れて「まいっか」みたいなスタンスになっちゃうかもしれない。「自分だったらどうするか」、そこを考えるのも面白いですよね。主人公は仁木って名前は与えられているものの、あまり仁木とは書かれていないんです。絶妙に匿名性があるので、誰が読んでも共感できる要素がある描かれ方をしている。この男の人生に取り込まれるという感覚を味わって欲しいです。

舞台『砂の女』

出演:森田剛、藤間爽子、大石将弘、東野良平、永島敬三、福田転球
原作:安部公房
脚本・演出:山西竜矢
東京公演:2026年3月19日(木)〜4月5日(日)
仙台、青森、大阪公演もあり
公式サイト:https://stageoffical.com/sunanoonna/

RECOMMEND

NiEW’S PLAYLIST

編集部がオススメする音楽を随時更新中🆕

時代の機微に反応し、新しい選択肢を提示してくれるアーティストを紹介するプレイリスト「NiEW Best Music」。

有名無名やジャンル、国境を問わず、NiEW編集部がオススメする音楽を随時更新しています。

EVENTS