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理想的な世界の描写を通して考えさせること

野本さんと春日さんは互いによく話を聞く。相手の話をしっかり受け止め、考えた上で言葉を返す。なるべく本音で語り合う。直に話しにくいことは、佐山や南雲や矢子に相談する。そして、佐山も南雲も矢子も、そうした相談に丁寧に応える。
主要登場人物に分かりやすく悪い人や嫌な人がいないのだ。原作マンガでは顔の見えない存在として描かれる攻撃的な男性も、例えば、野本さんの自作弁当を見て「絶対にいいお母さんになるタイプ」と偏った思考に囚われた発言をする同僚・森岡慶太は芸人の蛙亭・中野周平が演じることで中和させ、春日さんに妻の介護を強制する父親は電話のみで登場する。数少ない男性である野本さんの同僚・三上、澤田も、野本さんが働きすぎないように配慮してくれる。『作りたい女と食べたい女』で主に映されるのは理想化された優しい世界とも言えるが、作中においてテレビやラジオから流れる音声で、その外には決して優しくない世界が確かに存在することも示されている。
そうした中でも敢えて理想的な優しい世界を描くことには意義があるだろう。相手の話をよく聞き、しっかり受け止め、丁寧に応える。視聴者は、野本さんや春日さんや佐山や南雲や矢子たちのそうした姿勢を見て、真似することができる。そうして、より多くの人が真似することで、作中のような世界は決して理想では無くなるかもしれない。