世界最大級の音楽フェスティバル『コーチェラ(Coachella Valley Music & Arts Festival)』が2026年も開幕。2週末にわたって開催される同フェスは、7つのステージ、3日間で100組を超えるアクトの模様がYouTubeでも中継配信されており、日本でも自宅から楽しむことができる。
風間一慶、井草七海、hiwatt、3人の音楽ライターが、日本時間2026年4月11日(土)から13日(月)に行われた1st weekendを振り返りつつ、来る4月18日(土)から20日(月)の2nd weekend(※基本的に同じアーティストが出演)に向けて、注目すべきポイントを紹介する。座談会「What’s NiEW MUSIC」第13回。
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3者3様の魅力が発揮されたヘッドライナー
—『コーチェラ2026』1週目が終わりました。まずはどのようなご感想ですか?
風間:いまこの収録をしているのは4月13日(月)の夜で、さっきカロルG(Karol G)のライブが終わったばかりなので、まだのぼせ上がっている感じがあります(笑)。
風間:今年の『コーチェラ』は、いままで以上にヘッドライナーの色がはっきり分かれて、それぞれ意識している「目」が違うなと感じました。サブリナ・カーペンターは、映画的な演出をして、大々的に劇仕立てにしてやった。ジャスティン・ビーバーは徹底して内省的な感じ。カロルGは、完全にその場に来ている観客を優先した、ある意味オーセンティックな「ライブ」をやった。3者の違いがはっきりと出たのがまず面白かったです。
井草:そうですね。私は仕事で3日目をまだ見れていないんですが、1日目と2日目のヘッドライナーは本当に対照的なステージだったと思っています。ゴージャスで演出にすごくこだわったサブリナ・カーペンターと、自分との対話を含めてミニマルだったジャスティン・ビーバー、SNSでは「どっち派?」という意見のやりとりもありますが、個人的には、それぞれのアーティストにとって意味のある演出で、どっちも正解だったなっていう気がしました。
hiwatt:そうですね。2人がおっしゃったコントラストもそうなんですけど、アイデンティティとか世代的なターゲットも3者でくっきりと分かれていた印象がありますね。サブリナ・カーペンターは若者世代や、アメリカ文化・映画文化を愛する人たち。ジャスティン・ビーバーは世界的に誰しもが受け入れられるような、ハイプなことをしていて、それもかなり印象に残りましたし、カロルGは3年前のバッド・バニーのライブとも重なるような、ラテンをレプリゼントするようなライブですごく感動的でした。
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虚構を意識的に演出したサブリナ・カーペンター
—サブリナ・カーペンターはステージの派手さ、大掛かりさが話題になりましたが、その中でも特に注目した部分はありますか?
風間:サブリナとハリウッドをかけた「サブリナウッド」というのを掲げて、デヴィッド・リンチ風の演出を入れたりとか、背負っているカルチャーに対する「引き受ける力」や、「喪の作業」みたいなことをしていて、すごいなと思いました。個人的に面白いなと思ったのは、例えばレコーディングスタジオのようなセットで2曲くらい歌うんですけど、そこからあっさり出てきて次は別のところで歌ったりするんですよね。意外とコンセプトに一貫性がないというか、ひとつのコンセプトを貫いてやるというより、あの世界観の中で自由に振る舞うことに注力している。ひとつのメッセージを出そうというような力の入り方をしていなかったのが、むしろ痛快で面白かったなと思いました。例えばバッド・バニー(Bad Bunny)のステージとは明確な差があるんじゃないかなと思います。むしろJ-POPのあり方と近いというか、「紅白歌合戦」みたいな感じがありましたよね。

井草:そうですね。2年前の『コーチェラ』に出たときや、昨年のグラミー賞でのパフォーマンスを見ても思うのが、自分が子役出身というところも含めて、なんでしょうね……ブロンドヘアでブルーアイという自身のビジュアルを利用して「古き良きアメリカ」的な女性像をわざと演じるような表現といい、自分がアメリカのエンターテイメント産業が産み落とした虚構の存在であるというのを、徹底して表現しているなというふうに感じています。ステージ上のセットがどんどん変わっていくのが今回面白かったところで、わざとハリボテ感を強調しているように感じました。それも「アメリカンポップカルチャーへのレクイエム」のような印象を受ける方が多かった理由かなと思います。
hiwatt:あの大掛かりなセットなんで、転換はやっぱり長時間かかるわけですけど、そこにスーザン・サランドンの気迫のスピーチ、一人語りをもってきたのは、かなり強烈でしたよね。
井草:そうですね。あの語りも、年老いたサブリナを演じるスーザン・サランドンが、過去の自分=いまのサブリナのステージを見ている、という、入れ子状態のメタ的な視点が入っていて。ジャスティン・ビーバーのステージでも、自分の子どもの頃や若い頃の映像を使うパートがあったんですけど、どちらも非常にメタ的な視点でステージを構成しているなというのが、共通点として面白かったなと思いました。
風間:たしかに。そういう意味で、ジャスティンの方は痛々しいぐらいまでそれを強調していた凄さが、サブリナに関しては完成しきった凄さがありました。サブリナはショーとして完璧で、全く同じことをもう1回見ても同じくらい感動すると思うんですけど、ジャスティンは2週目で(演出がネタバレした上で)どうするんだろう? という気持ちはちょっとあります。
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ジャスティン・ビーバーの、自分と向き合うステージ
—ジャスティン・ビーバーのステージについてはいろいろな意見があるようですが、みなさんは実際のところ、見てどういう感覚になりましたか?
hiwatt:僕は最高でしたけどね。
風間:僕もめちゃくちゃ良かったと思いますよ。
井草:YouTubeの演出(※)には、「コロナ禍を思い出した」というような感想を聞いて、たしかになと思いました。内省的、振り返る、みたいなところも含めて。ジャスティンの顔をカメラがズームアップして映すような映像の使い方も、大勢が見ているはずなのに、1対1のように感じられて親密な感じがしたのがすごく印象的でしたね。一方そうした演出は、世界的なスターとして、「これまでのジャスティン・ビーバーといまのジャスティン・ビーバー」というその文脈とストーリーをみんなが理解しているからこそ成立するのかな、というふうにも思いました。
※部屋のデスクのようなセットに座ったジャスティン・ビーバーが、自身のキャリア初期の楽曲や映像をYouTubeで検索・再生して、それに合わせて口ずさむ、というパートがあった。
風間:前半は直近のアルバム『SWAG』からの曲が多くて、サウンドも、参加しているMk.geeとかディジョン(Dijon)がすごい働きをした『SWAG』の延長線上という感じでしたよね。
hiwatt:はい。あとセットがかなり最近のカニエ・ウェストに近いシンプルさで、歩き方もCウォーク(※)をしたりしていて、それが(SF小説 / 映画の)『DUNE』に出てくるサンドワームを避ける歩き方に似てるなと思って、ちょっと笑えました。あと、最初はピンクのパーカーを着ていて、その後脱いで黒いカットソーみたいな服になるんですけど、『SWAG II』(のジャケット)がピンクで『SWAG』が黒なので、現在から昔に遡っていく演出という捉え方もできるかなと思いました。
※Cウォーク:ヒップホップダンスの足の動きのひとつ
風間:なるほど、たしかにそうですね。言われてみればそれも「喪の作業」に近いというか、どんどん時代を下って自分を掘り下げていく——ある種のセラピーじゃないですけど——『SWAG』にもそれに近いコンセプトがありましたよね。
風間:ステージ上で「wi-fiがつながらない」と言っていましたけど、個人的には、あのYouTubeの投影に広告が入ったら最高だなと思ったんですよね。
hiwatt:YouTube Premiumに加入してたみたいで(笑)。
風間:ジャスティンは、自分の曲の権利を(元マネージャーの)スクーター・ブラウンに一部譲渡しているんですよね。だから、自分の動画を見るときでさえ広告が挟まる、という画があったら、もっと最高だったんだけどなと思います。2週目のステージまでにYouTube Premiumを解約しておいてほしいですよね(笑)。
hiwatt:検索欄に曲名を打ち込むだけでめっちゃ盛り上がるのは、あれ、ズルいですよね(笑)。“Daisies”の大団円も最高で、泣きそうになりました。“Love Yourself”とかもまだやっていないんで、2週目にまだかなり「球数」は残っているかなと思います。
風間:なるほど。でもやっぱり、ここまでの話って、配信でゆっくり見ている側だからこその意見な気はして、現地にいたら絶対カロルGが一番良いだろうと思うんです。
井草:サブリナとジャスティンはまさに、配信されることを前提にした演出でしたよね。『コーチェラ』は、配信を前提にした演出が年々過剰になってきているとは思っていて、私はそれを楽しんでいる方なんですけど、1週回ってシンプルなバンドの方が良かったというような感想も目にします。
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連続するアクトで感じる、ラテンの現在地
—ヘッドライナー以外でも、良かったアクト、これは2週目にぜひ見てほしいというアーティストを教えていただけたらと思うのですが、いかがですか?
風間:僕は点というより線で見ると面白いなと思っていて。カロルGはクンビアをやったりと、3年前にバッド・バニーが『コーチェラ』でやったようなラテンカルチャーの教育みたいなパートも多かったんですけど、カロルGの前に出ていたMajor Lazerも、M.I.A.を呼んでバイレファンキをやったり、ダディー・ヤンキー(Daddy Yankee)の“Gasolina”やロザリア(Rosalía)の“SAOKO”のようないまのラテンクラシックをマッシュアップしてる時間があったりと、その役割をすごく果たしていました。カロルGを見るんだったら、その前のMajor Lazerからセットで見た方が面白いと思います。
hiwatt:僕もMajor Lazerを見て超ぶち上がってたんですけど、やっぱり彼らはポップシーンでレゲトンを浸透させた存在でもあるので、彼らがやるのが一番説得力があるという感じはしました。
風間:そうですね。いまバイレファンキがもう1回盛り上がってますけど、その下地を用意した人たちをちゃんとここに入れているという、スロットの妙がありますよね。
風間:あともう1個、ルソウスキー(Rusowsky)という、マドリードのRusia IDKというコレクティブに所属するソングライターがいて、ラテントラップ文脈以外の、シンガーソングライターとしてのフォーク的な要素を取り入れつつ歌う人なんですが、面白かったです。その前のアクトが、ルイーザ・ソンザ(Luísa Sonza)というブラジルのアッパーな女性で、カロルG以上に過激な感じなんですけど、2人の対比でいまのラティーナの多様な受容を線で見れるような感じになっていて、面白かったんで、そこはおすすめしたいですね。
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UKラップと「クールブリタニア2.0」
hiwatt:僕が印象に残ったのは、初日に出演したセントラル・シー(Central Cee)と、fakeminkといういまアンダーグラウンドでホットな存在の、ともにUKラップのアーティストです。セントラル・シーは観客の声援の音量が一番大きかったとニュースになっていましたが、UKラップの最近の盛り上がりを感じました。
hiwatt:彼らで印象的だったのが服装なんですよね。セントラル・シーはユニオンジャックがデザインされたパンツを履いてて、フェイクミンクはBURBERRYチェックのスカーフを巻いていて。2日目に登場したPinkPantheressもそうで、アルバムのジャケットでも使われているタータンチェックとかを印象的に纏っていました。3人とも非白人なわけですけど、イギリスをリプレゼントするようなものを身に纏って、白人だけじゃないイギリスの面を新しく打ち立てようとしている。これは「クールブリタニア2.0」と言われていて、メディアもそういうふうな取り上げ方をしています。国を背負う新しい世代、白人でない3人がそれを提示するというのは、かなり印象的でしたね。
井草:私は以前PinkPantheressに取材をしたことがあって、ユニオンジャックであるとか、イギリスらしさみたいなものをどう捉えてるのかと聞いた時に、「それは自分らしさだと思う」と答えていましたね。いまおっしゃった点はシーンの面白い現象のひとつかなと思いました。
井草:あと私が面白いと思ったのはOklouですね。アルバムは「現実なのか非現実なのか?」というようなテクスチャをしているなと思っていたんですけど、ライブで見ると、アコースティックギターを弾いたり、生感もしっかりあって、こういうライブをする人なんだというのが改めて知れたのが良かったです。あと、服のスタイリングがストリートっぽいんですけど、ちょっとギークっぽくもあって。ギーク風のメガネに、ファーやチェック柄の巻きスカート、ローテクスニーカーなど、トレンドアイテムもかなり取り入れていて、言葉にしづらいんですが、今っぽさというのを瞬間的に切り取っているようなアーティストだなと思いました。
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藤井風、Creepy Nuts、¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$U、日本勢の奮闘
—藤井風、Creepy Nuts、¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uなど、日本から参加したアーティストのステージはいかがでしたか?
hiwatt:¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uは安定に盛り上げていて、もう最高でしたね。必殺曲とかも惜しみなく導入して。
風間:そうですね。大ネタもめちゃくちゃ飛び出して。テイラー・スウィフトとか使ってたりしましたもんね。
hiwatt:あのいかつい感じで、お茶目なネタの入れ方もしてくるんで、そのギャップ萌えみたいなところもあります。最高です。

参考:¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uとは誰か。実験性とサービス精神を兼ね備えた稀代のDJの肖像
https://niewmedia.com/specials/2604yousukeyukimatsu_edski_wrmts/
風間:『コーチェラ』は各国から、その地域のローカリティをちゃんと出すアーティストが選ばれていますけど、その枠で期待されたパフォーマンスを一番やったのは、藤井風のステージだったと思いますね。(「和」的な側面を押し出した曲である)“It’s Alright”〜“まつり”で始めるというセットもそうだし、求められていた役割を完遂したなと思いました。
hiwatt:藤井風は、彼に対してはあのステージは小さすぎるという印象は持ちました。やっぱり大きいところが映える人だなと。
風間:Creepy Nutsは、時間帯がいいのもあったんですけど、配信で見てもわかるぐらいテントの外にまで人がいて、「この曲キター!」みたいな歓声が上がる場面も多かったですよね。
hiwatt:TikTokとかでよく流れているので、必ず聴いたことがある曲がありますし、客層を見ると、偏見だったら申し訳ないんですけど、アニメ好きなんだろうなっていう方も多そうでしたよね。そういう、アニメ好きの客層をサルベージするアクトとしても完璧な仕事をしていたと思います。
風間:それはぜったいそうですよね。あと、Creepy Nutsって、低音がそんなに重たくないJ-POP的な音の作り方をしていると言われていますけど、カロルGとかラティーナのダンスミュージックも、低音オリエンテッドではなく、もうちょっと別のところに主眼があるような気がしていて、J-POP的な音の鳴りと親和性があると思うんです。そういう点でも、Creepy Nutsみたいなアーティストが出たときに受け止められる下地が、あらゆる面で整っていたのかな、と今回の盛り上がりを見て思いました。
井草:私は見逃してしまったんですけど、海外のメディアの反応を見ていると、Creepy Nutsのスタイルは「伝統的」みたいな言われ方をしていて、The Prodigyみたいなものを想起させるとか、そうした評価も面白いなと感じていました。
hiwatt:MCも大阪人のノリ丸出しでかなりウケていて、大阪人としては嬉しかったですね。あのノリが受け入れられるんだ、っていう。拙い英語で、とにかく明るい安村(が『Britain’s Got Talent』で喝采されたの)と似た感じかもしれないですけど。
風間:なるほど。じゃあもしかしたら、そういうネタを2週目までにもっと仕込んでおくと、もっとウケるかもしれない。そういう寝技的な感じは案外重要かもしれないですね。
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まだまだ語りたい、要注目アクト
—ありがとうございました。面白いお話をたくさん伺えました。
hiwatt:あ、言い残していたんですけど、僕はディジョンがベストアクトでした。語らないといけなかったです……。
風間:たしかに言うのを忘れてました。最後に個人的ベストアクトを挙げて終わりますか? 僕もディジョンって言いたいな……たしかにディジョンめちゃくちゃ良かったな。でも、エセル・ケイン(Ethel Cain)にします。ゴシックフォークとしか言いようがない、すごくじっくりカタルシスを作っていくライブで。配信画面がずっとほぼ真っ暗だったのも印象的でした。
hiwatt:最高でしたよね。
井草:デヴィッド・バーンもやっぱり良かったですね。『アメリカン・ユートピア』+αのステージングで、衣装が紅ジャージみたいな感じだったんですけど、なんとなく日曜の朝の公園に集まって体操をしているような空気感がありました。赤は抵抗や怒りを示す色だと感じたのですが、いろんな人種のメンバーが集まって、演奏したり踊ったり、公園のような公共の場に集まって難しくなく語り合うような様子を想起させられて、やはり世界情勢に対してのメッセージ性がすごくあったと思っていて、身近なところからなにか始められることがあるんじゃないか? みたいなメッセージを受け取って、パワーをもらいましたね。
風間:それで思い出したのが、カロルGが「ICE Out」を言うか言わないか、開催前にめちゃくちゃ話題になっていたんですが、結局言わず、メッセージとしてはデヴィッド・バーンの言っていた「愛こそが抵抗である」と近かったんですよね。直接的なステイトメントじゃなくて、そういう形で表現したアーティストが多かったというのは、今回の大きな特徴だったかもしれないですね。
—4月18日からの2週目がとても楽しみですね。ありがとうございました!
Coachella Valley Music and Arts Festival 2026
2026年4月10日(金)~4月12日(日)、4月17日(金)〜19日(日) ※現地時間
出演:サブリナ・カーペンター、ジャスティン・ビーバー、カロルG、The xx、Nine Inch Noize、KATSEYE、The Strokes、GIVĒON、アディソン・レイ、sombr、Young Thug、BIGBANG、レイヴェイ、イギー・ポップ、FKA twigs、Wet Legほか