ウェス・アンダーソン監督の2年ぶり、11作目となる長編映画『アステロイド・シティ』。氏の作品の持ち味である、神経質ともいえるこだわりぬかれた画面構成や美術と、印象的な音楽使用は、今回も健在だ。
本作に使用されている1940〜1950年代のカントリーミュージックやスキッフルについて、それらがもたらす「異化作用」を、音楽ディレクター / 評論家の柴崎祐二が読み解く。連載「その選曲が、映画をつくる」、第5回。
※本記事には映画本編の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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ポップミュージック使用の名手、ウェス・アンダーソン監督
『アステロイド・シティ』公開に際して行われたインタビューで、ウェス・アンダーソンは次のように述べた。
「音楽によって映画にたくさんの感情が生まれる。画と音楽が一緒になると、どんな化学反応が起こるかわからない。時々、本当に驚かされるようなものが生まれるんだ」
出典:https://www.nme.com/features/film-interviews/wes-anderson-seu-jorge-reinvented-david-bowie-songs-he-didnt-know-i-didnt-realise-until-i-was-shooting-the-movie-3458990 より
ウェス・アンダーソン作品のファンならよくご存知の通り、彼の映画は、かねてよりポップミュージックの巧みな使用でも高い評価を得てきた。The Rolling Stones、The Kinks、The Who、ニック・ドレイク、ボブ・ディラン、Love、Nico、エリオット・スミス等によるロック〜ポップス曲から、ジャズ、各地の伝統音楽までをカバーする幅広い選曲スタイルは、単に映像への没入を喚起するだけでなく、各曲の隠れた魅力を再発見させてくれるような、卓越したものだ。アンダーソン、および長年のコラボレーターである音楽監修者のランドール・ポスターは、現代商業映画における「ポップミュージックの使い方」の新たな地平を開拓した手練として、大いに称賛されるべきだろう。