連載「グッド・ミュージックに出会う場所」第10回は、新宿ゴールデン街「ウィスカ」を紹介する。
「ウィスカ」はウイスキーバーで、音楽が主役の店ではない。しかし、「ジャズのCD」に特化したBGMの選曲は、どのジャズバーやジャズ喫茶とも違う個性を放っている。
おそらくまだ存在をあまり知られていないだろう、隠れた「いい音楽に出会える店」を、音楽評論家・柳樂光隆と訪ねた。
INDEX
ゴールデン街の2階でひっそりと営業するバー
新宿歌舞伎町の一角にあるゴールデン街は、300近い小さな飲食店がひしめき合う、東京を代表する歴史ある酒場街のひとつ。近年は海外からの観光客にも人気のスポットになっていて、近くを通ると多くの旅行者が歩いている光景を見かける。かなり盛り上がっているイメージで、以前とは違う意味でハードルが上がっている印象もある。個人的には少し苦手意識を感じていた。
しかし、「ウィスカ(BAR UISCE)」の店主・戸嶋誠司さん曰く「店内が見える路面の店は賑やかですけど、2階にある店は落ち着いているところも多いですよ」とのこと。今まであまり考えたことがなかったが、確かにほぼすべての建物の2階にも店がある。どうやらゴールデン街の楽しみ方を僕は全く知らなかったようだ。
ウィスカというバーがあることを知ったのはSNSだった。おそらくたまたま流れてきたのを目にしたんだと思う。アルゴリズムもたまには素敵な悪戯をする。ゴールデン街にジャズが流れている店があると知ったこと、そして、そこがとても個性的な選曲をしているとわかったこと。しかも、静かに飲めそうな場であること。行かない理由はなかった。