まるで大河ドラマのような豪華なキャストと1955年の長崎県・端島~現代の東京を舞台とした70年間のストーリーが描かれた『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)が最終回を迎える。
第1話から、謎が浮かんで、解決しては新たな謎が浮かんで……を繰り返してきた本作。いよいよ2時間スペシャルの最終話のみとなったが、まだ解決していない謎がいくつか残されている。
鉄平はなぜ朝子を置いてリナと共に端島を出たのか。端島の人々と玲央はどうつながるのか。何より「海に眠るダイヤモンド」の意味するものとは……?
そんな謎だらけの本作について、第7話までを振り返った記事に続いて、ドラマ映画ライターの古澤椋子がレビューする。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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池ケ谷家との出会いが玲央の背中を押した第8話

いづみ(宮本信子)の息子・和馬(尾美としのり)が、いづみを認知症であると偽る診断書を破り、晴れやかな笑顔を見せた時、はじめて池ケ谷一家に通う血が見えた気がした。いづみが、虎次郎(前原瑞樹)のことを愛おしそうに思い出す姿、鹿乃子(美保純)に対して長崎弁で怒りをぶつける姿に、和馬は自分のルーツを感じたのかもしれない。いづみが確かに虎次郎と築いた愛が、和馬に通じた瞬間だった。
鹿乃子の言いなりだった和馬が反旗をひるがえしたのを見て、玲央(神木隆之介)はたまらず走り出す。端島で育まれた愛が子供を通じて、玲央までつながった。警察署で「逮捕してください」と笑顔で言い放つ玲央が、主題歌“ねっこ”を背負う。
端島に来た時のリナ(池田エライザ)の言葉を借りれば、玲央も「ねっこのちぎれた海藻」のように生きてきたのだろう。自分にも世界にも絶望し、自分も周りも騙しながらフラフラと生きてきた彼が、人のために走る。それは、どこかでそんな風に生きたいと願っていた自分のためでもあるように見えた。
第8話の時点では、玲央は、まだ自分の「ねっこ」に何があるかは分かっていない。もしかしたら、端島の人々とはつながりのない赤の他人かもしれない。それでも、いづみや池ケ谷家の人々との出会い、鉄平(神木隆之介 / 一人二役)の日記が玲央の背中を押したのだ。
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朝子や端島の人々や玲央にとってのダイヤモンド

第8話の副題となった「ダイヤモンド」。それは、朝子(杉咲花)が憧れる「ギヤマン(ガラス製品)」であり、端島の人々が半年間も待ち望んだ着炭(炭脈を掘り当てること)の知らせでもある。
しかし、第8話を見ていて感じたのは、光り輝く物自体よりも、誰かの幸せを祈ったり、何かの知らせを喜んだりといった前向きな感情そのものが、一人一人の人生のなかで輝くダイヤモンドなのではないかということだった。百合子(土屋太鳳)の妊娠を喜ぶ朝子の笑顔、長崎でのお忍びデートで見つめ合う鉄平と朝子の視線のあたたかさ、着炭を喜ぶ鉄平の涙。懸命に生きていれば、人生に訪れる喜びの感情はより輝くのだ。

誰かの幸せを祈ったり、誰かのために努力したり、それを言葉にして伝えるのは少し気恥ずかしい。あんなに愛おしそうに朝子を見つめている鉄平でさえ、日記には書いているにもかかわらず、「朝子と結婚したい」と口にすることはできなかった。自分の中に生まれた感情は、どんなにかけがえのないものであっても、本人には自覚できないこともあるのだ。
70年の時を経て、あの時、鉄平の心にあった誰かのことを思うきらめく感情を、玲央が受け止めた。故郷のために、家族のために、友人のために、愛する人のために命を燃やす端島の人々の眩しさに導かれるように、玲央は「生きてて楽しいんすか?」と先輩ホスト・ミカエル(内藤秀一郎)に問いかける。その後の玲央の不器用な行動を起こした感情は、間違いなく玲央の中に眠っていたダイヤモンドだった。
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ヒロイン3人の生命力

鉄平の日記から見えてくる端島の日々、その輝きは鉄平だけのものではない。玲央が、写真に映る百合子や賢将(清水尋也)の姿に喜び、日記を読んで進平(斎藤工)とリナ(池田エライザ)の幸せについても知ったように、彼の幼馴染たちの人生の輝きも見えてくる。
視聴者である私たちは、鉄平の日記には書いていない=鉄平が見ていない、それぞれの愛しい日常や秘密も知っている。それは、進平がリナを守るために人を殺してしまったこと、出産に不安を感じる百合子を抱き寄せる賢将の姿。イキイキとした日常の影には、犠牲や不安があるのだ。

思い返せば、『海に眠るダイヤモンド』の前半は、3人のヒロインの生命力が、物語の軸になっていた。自分の人生に絶望しながらも端島に根を下ろそうと懸命に生きるリナ、被ばくした経験を持ち、自身の将来に不安を感じながらも気丈に振る舞う百合子、端島の食堂の娘として休みなく働き、百合子に背中を押される形で屋上緑化に取り組んだ朝子。それぞれが、自分の人生に横たわるままならなさを飲み込みながら前を向く姿は、作品が持つ生命力そのものだった。
特に、現代パートではいづみとしてIKEGAYA株式会社の社長になっている朝子からは、自分の人生を生き抜いてきた力が感じられる。第6話では、園芸部の活動に精を出す朝子の瞳に宿る情熱に、後のいづみの堂々とした強さが見え、鉄平との思い出を玲央に話すいづみの照れた様子には、朝子の可愛らしさが見えた。杉咲花と宮本信子の素晴らしい演技のたまものだ。
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最終回まで謎を仕掛け続ける構成

先の記事でも書いた通り、本作で描かれているのは、なんの変哲もない故郷への誇りや愛情、友情。端島という独特の環境のなかでそれらが繰り広げられることで新鮮には映るものの、どちらかというとベタ寄りの作品だ。それでも、続きが早く見たいと思わせられるのは、常に謎が仕掛けられ続ける構成になっているからだろう。
第5話までは「いづみはリナ、百合子、朝子のうちの誰なのか」という謎が物語を牽引。後半は、池ケ谷の姓を持つのは誰なのか、小舟で海を渡るリナの姿の意味、鉄平の行方、日記の一部を改ざんしたのは誰か、という謎が物語を引っ張っている。謎を小出しにして、解決につながったら、次の謎を提示する。こうした構造も本作の欠かせない魅力なのだ。
第8話で池ケ谷の姓を持つ朝子の結婚相手が明かされたとはいえ、大きな謎は残ったままだ。鉄平はなぜ朝子を置いてリナと共に端島を出たのか、端島の人々と玲央はどうつながるのか。リナの本名や玲央の本名も、謎を解く鍵になりそうだ。