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10余年の時を経て。再び動き出す「止まった時間」と少女たちの自己形成

ただ、作品がそこで一度終わったとしても、時間は流れていくし、時代も変わっていく。2013年にあの形で閉じた物語世界は、今の時代に照らし合わせた時、どのように見えるだろうか。作中で、ほむらは時間操作の能力を持つ魔法少女として描かれている。その彼女が「止めた時間」を再び動かす試みだとするなら、非常に趣深い。
2021年、シリーズ開始10周年の折に『叛逆の物語』の正統続編『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉』の制作が発表された。正統続編ということは「あの結末の続き」が描かれるということだ。それはすなわち、2010年代を象徴してみせた作品が、2020年代に、また新たな一歩を踏み出すことを意味している。
過去作のファンが色めき立ったのは当然だが、これは一般視聴者にとっても重要な意味を持つ。なぜなら本作は、「あの時代の続き」として、いま我々がどんな時代を生き、この先どうなっていくのかを予見してくれる作品になる可能性を秘めているからだ。
これまで『魔法少女まどか☆マギカ』がそうした作品だったとすれば、今作への期待は高まる。仮に予言的な内容でなかったとしても、TVシリーズから一貫しているクリエイター陣の先進的な試みは、間違いなく我々に圧倒的な体験をもたらしてくれるはずだ。
特報映像や予告編からも、いくつかの試みが読み取れる。たとえば、キャラクターデザインの年齢感が調整され、蒼樹うめがTVシリーズの頃にデザインしたような、どこか幼い雰囲気を宿した中学生らしいキャラクター性が強調されている。
この判断にどういう意図があるかはわからない。TVシリーズから15年が経過し、まどかやほむらは観客や制作スタッフにとっても、確固たる「ひとりの人間」として定着していた。しかしこの新しいデザインは、彼女たちをもう一度「繊細な子供たち」として再認識させる効果を観客たちに呼び起こすだろう。そういう意味で、この物語は進んでしまった時間の続きを描くだけでなく、もう一度正しく「ビルドゥングスロマン(自己形成の物語)」をやり直そうとしているのかもしれない。
誰もが「魔女」になりうる現代へ。絶望の根元を描くことで見えてくるもの
また、予告映像では「名塚底根」という名称が登場し、それが「すべての魔女たちの始まりの場所」だという説明が加えられる。前述の通り、作中で言う魔女とは、絶望した魔法少女が零落して生まれる存在だ。その根元を描くということは、今作が「少女が絶望すること」そのものを深く描こうとしている証拠だろう。
昨今、現実はあらゆる人々にとって過酷なものだ。年若い少女であればなおさらだろう。現代において、人は誰だって、いつだって「魔女」のようになりうる。望まなくともそうなる不安を抱え、あるいは他人に抜きん出るため、自らの力を示すため、他人に評価されるため、率先して魔女(絶望)を目指す者すらいる。
そうした時代に絶望の根元を描くことには、確かな意味がある。そして、「最初は誰もそんな思いを抱いていなかった」ということに気づかせるものになるかもしれない。

魔女になる瞬間とは、作中の言葉で言えば「希望と絶望の相転移」。すなわち、絶望の前にはいつだって希望があったはずなのだ。我々が、その事実に癒されるのだとすれば、まだ「絶望」していないはずである。
『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉』

公開時期
8月28日(金)全国公開
スタッフ
原作 :Magica Quartet
総監督 :新房昭之
脚本 :虚淵玄(ニトロプラス)
キャラクター原案 :蒼樹うめ
監督 :宮本幸裕
キャラクターデザイン/総作画監督 :谷口淳一郎
異空間設計 :劇団イヌカレー(泥犬)
音楽 :梶浦由記
アニメーション制作 :シャフト
配給 :ANIMEC
鹿目まどか :悠木 碧
暁美ほむら :斎藤千和
美樹さやか :喜多村英梨
佐倉杏子 :野中 藍
巴マミ :水橋かおり
百江なぎさ :阿澄佳奈
紫丁香 :若山詩音
セルマ・テレーゼ :黒沢ともよ
キュゥべえ :加藤英美里