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スレイターが更新する「ダサくて美しい」ポップスター像。過度な洗練に抗う郊外の美学

2026.6.17

スレイター『WOR$T GIRL IN AMERICA』

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『コーチェラ(Coachella Valley Music and Arts Festival)』での圧巻のパフォーマンスも大きな話題を呼び、2026年3月にリリースされた3作目となるアルバム『WOR$T GIRL IN AMERICA(ワースト・ガール・イン・アメリカ)』が、同年の必聴作として各メディアの高評価とリスナーの熱い支持を得ているSlayyyter(スレイター)。

パンク、メタル、エレクトロクラッシュといったサウンドを飲み込みながら、2000年代ポップカルチャーの「安っぽさ」や「悪趣味さ」までも現代的な熱狂へ変換してみせた彼女は、いまや現行のポップシーンの最前線に立つ存在になりつつある。

なぜスレイターの音楽がいま切実に響き、注目されているのか。本稿では、近年英語圏SNSで語られる「Midwestcore(ミッドウエストコア)」という感覚をヒントに、その特異な魅力を読み解いていく。

過度な洗練への反動。「ミッドウエストコア」の美学

ここ数年、「Midwestcore(ミッドウエストコア)」という美学が英語圏のSNSで支持を集めているのをご存知だろうか。

American FootballやCap’n Jazzなどを源流とする「ミッドウエストエモ」の文脈から、この言葉にどこか馴染みを感じる人もいるかもしれない。名前の通り、ミッドウエストコアとはミッドウエスト=アメリカ中西部にまつわる感性や空気感を指す言葉だ。

アメリカのミッドウエストは、長らく「中途半端な場所」として語られてきた。西海岸ほど華やかでもなく、ニューヨークほどの洗練された文化都市でもない。さらに南部ほど伝統主義的でもない。巨大なカルチャーの中心地になりきれない、郊外で少し取り残された土地——そんなイメージが付きまとってきたのである。だが近年、その中途半端さこそが独特な魅力として再発見され始めた。

洗練されていないのに妙に感情が宿る風景。広すぎる駐車場、古びたショッピングモール、安いネオン、曇り空、少し古い家、コンビニやガソリンスタンド。どこか野暮ったく、安っぽい。それでも妙に親密で、人の記憶や感情を刺激する空気感。そうしたイメージが、インターネット上では「ミッドウエストコア」と呼ばれる感覚として、ゆるやかに共有されるようになっていった。

さらにこの感覚は、リミナルスペース(※)や郊外ホラー、低画質の風景写真などとも結びついていく。そこにあるのは、中心から外れた場所に漂う寂しさや退屈さ、そしてどこか少し不穏な空気を含んだ、「アメリカ郊外のノスタルジア」とでも呼ぶべきものだ。完璧に洗練されたライフスタイルではなく、むしろ少し崩れていて、どこかダサ可愛い。だからこそミッドウエストコアは、近年のInstagram的な「映え」価値観に代表される、過度に整った美意識への反動として支持を集めてきた。そこには、「完璧じゃなくてもいい」「むしろ少しダサいくらいが人間らしい」という感覚があり、ある種ネタ的でありながら、同時に、アルゴリズムによって均質化された時代への小さな抵抗にもなっているように思う。

※リミナルスペース:誰もいない廊下やショッピングモールなど、本来は多くの人がいるはずの空間が無人状態で、不気味で空虚な存在感を放っている空間のこと

そして今、このミッドウエストコア的な空虚さや郊外感を、単なるミームやノスタルジアで終わらせず、現代ポップへと接続しているアーティストがいる。郊外的なダサさ、インターネット越しのセレブ憧憬、Y2K的ギャル感覚、さらにパンクやメタル、エレクトロクラッシュ的なノイズまでを混ぜ込みながら、「汚くて最高に魅力的なポップスター像」を更新している存在。それこそが、スレイターだ。

Slayyyter(スレイター)
1996年生まれ、米ミズーリ州出身のシンガーソングライター / プロデューサー。幼少期からポップカルチャーに憧れ、大学中退後に音楽制作を開始。2019年にミックステープ『Slayyyter』でブレイクし、1stアルバム『Troubled Paradise』(2021年)、2ndアルバム『STARFUCKER』(2023年)で評価を確立。ケシャのツアーへの帯同などを経て、2026年3月に3rdアルバム『WOR$T GIRL IN AMERICA』をリリース。エレクトロハウスやテクノを横断するサウンドで高評価を獲得し、『コーチェラ(Coachella Valley Music and Arts Festival)』でのパフォーマンスでも話題を呼んだ。

郊外発「安っぽいのに美しい」独自のポップスター像

ミズーリ州セントルイス近郊で育ったスレイターは、実際にミッドウエストの出身。そのため、ミッドウエストコアと呼ばれる感覚に近い空気を外部から参照しているというよりも、自分が育った郊外的な記憶として鳴らしている。大学在学中に楽曲制作を始め、チャーリーXCXに熱狂しながらMySpaceやTumblr、2000年代のセレブ文化やギャル文化を吸収していった彼女は、地方郊外からインターネット越しにポップスターを夢見ていたが、その後、現代ポップシーンでも極めて特異な存在へと変貌していった。

活動初期は、ハイパーポップ前夜とも言えるインターネットポップシーンの中で、アイシャ・エロティカ(※)周辺にも接続するような過激でトラッシーなユーモア、過剰なセクシーさを発揮し、一部のクィアインターネットコミュニティとも共振。さらに2020年代に入ると、そのサウンドは徐々にスケールアップしていく。エレクトロポップやクラブミュージックを軸にしながら、インダストリアル、ブログハウス、エレクトロクラッシュ、さらにはパンクやメタル的なノイズ感覚まで吸収。楽曲のプロダクションも飛躍的に洗練され、「ただのネタ」では終わらない完成度を獲得していったのだった。

※アイシャ・エロティカ:2000年代のカルチャーからインスピレーションを得たハイパーポップと、性的な要素を含むキャッチーなサウンドで知られるアメリカのインディーシンガーソングライター、ラッパー、音楽プロデューサー

特に2ndアルバムである『STARFUCKER』期以降の彼女は、2000年代セレブ文化への憧れだけではなく、その裏側にある退廃や虚構、崩壊までも作品へ取り込み始める。ハリウッド的グラマー、ゴシップ文化、ドラッグ的な陶酔感、エロティックスリラー映画のムード等を表現していくが、そこには常に、「ミッドウエストコア的な郊外の空虚さ=中心になれなかった感覚」がバックグラウンドにある。

スレイターが面白いのは、その寂れた郊外感を、そのまま静かなノスタルジアとして描いていない点だ。彼女はそこへ、2000年代セレブ文化や「Playboy Mansion(※)」的グラマー、パパラッチ的な、けばけばしさとも呼びたくなる過剰な装飾性を流し込む。

※Playboy Mansion:米男性誌『PLAYBOY』の創業者ヒュー・ヘフナーが所有していた、過剰で豪華なセレブパーティーの代名詞として知られるカリフォルニア州ロサンゼルスの豪邸

つまり彼女の表現は、Pinterest的なミッドウエストコアそのものではない。むしろ、空虚さや退屈さを背景に、そこからポップスターを夢見た少女の欲望が、派手に、騒々しく噴出したものなのだ。

結果的にそれが、単なるY2Kリバイバルにおさまっていないのも面白い。近年のY2Kブームには、どこか「綺麗すぎる」ものも多かった。2000年代のギャル文化やセレブ文化を参照しながらも、その粗さや悪趣味さ、欲望の生々しさまでは引き継がず、洗練されたノスタルジーとして消費してしまうケースも少なくなかったからだ。

しかしスレイターは、2000年代ポップカルチャーのダサさやフェイク感まで含めて愛している。ブリーチヘアやラインストーン、エアブラシ加工、安いネオン——彼女のヴィジュアルには、「ちょっとフェイクな豪華さ」が頻出する。なぜならそれは、「郊外から見たセレブ幻想」として鳴っているがゆえ。本当にLA文化の内部にいる人間なら、もっとミニマルで、本物感を演出する方向へ向かうだろう。

しかしスレイターは、安っぽさと人工感を意図的に残し、どこか「ショッピングモール的な夢」の空気を漂わせる。それこそが、彼女にとっての憧れのリアルだからだ。「安っぽいのに異様に美しい」という独自のポップスター像は、そうやって完成していったのである。

“BEAT UP CHANEL$”と“CRANK”に宿る、iPod的な雑食性と剥き出しの感情

以上のような現在のスレイターの美意識を最も象徴的に表しているのが、“CRANK”と“BEAT UP CHANEL$”だろう。まず“BEAT UP CHANEL$”というタイトルからして象徴的だ。「使い古されたシャネル」。そこには、新品のラグジュアリーではなく、地方郊外から見たセレブ幻想の空気が漂っている。MVの中で彼女は、2000年代のパパラッチ文化やギャル的グラマーを思わせるスタイルを纏いながらも、どこかボロボロで、過剰で、品が悪い。完璧に整えられた高級感ではなく、無理して背伸びしたような派手さ。その少し安っぽい感じから、人間的な欲望や切実さが滲み出る。スレイターはここで、「ダサい」と切り捨てられてきたブリトニー・スピアーズや、パリス・ヒルトンなどの2000年代女性ポップカルチャーを、現代的な感性で再構築しているのだ。

https://youtu.be/hhvW8qB-W3M?si=RxLIBGtGG6s7SWmw

一方、“CRANK”では、そのミッドウエストコア的感覚がさらに暴力的な熱量とともに噴き出している。ブリーチされた映像、汗ばんだ空気、騒々しいクラブ感覚、ギリギリ崩壊寸前のテンションと、衝動的な身体。サウンド面でも、エレクトロクラッシュやブログハウスからパンク、インダストリアル、さらに(クランク的な)サウスヒップホップ感覚までもが乱暴に衝突しながら鳴っている。

https://youtu.be/TZCE6PfaUWA?si=uJXP5hHWwCW7Xwy9

しかし興味深いのは、それが単なるジャンル融合として処理されていない点だろう。そこには、MySpace時代のiPod的雑食性が乱暴に衝突しているのだ。つまり、ポップもメタルもヒップホップも全部同じプレイリストに突っ込んでいた、2000年代の郊外青春のリアルな感覚。そこにあるのは、Instagram的な洗練とも、クリーンガールエステティック(※)のような整いすぎた自己管理的美意識とも真逆の感覚といえる。しかしスレイターは、その「乱れ」の中にこそ、生きた人間の感情が宿ることを知っている。

※クリーンガールエステティック:引き算の美学と徹底したセルフケアに基づき、「まるで何もしなくても生まれつき美しい人」を演出するメイクやファッション、およびライフスタイルのこと

ハイパーポップ以後のインターネット発アーティストは、アイロニーやミーム感覚によってポップスター性そのものを解体していく人も多い。同時代には、デトロイトで結成されたSnow Strippersのように、近接したインターネット以後の退廃感やインディースリーズ(※)的感覚を持つアーティストも現れているが、その中でもスレイターは、より強く「ポップスターになりたい」という欲望を捨てない。しかもそれを、綺麗に磨き上げるのではなく、汗や欲望やノイズを剥き出しにしたまま、切実さとともに鳴らしている。

だからスレイターのポップは、眩しいのに、どこか泣ける。安っぽさと、傷と、欲望。ショッピングモールの蛍光灯の下で見た夢は、ボロボロのシャネルと爆音のビートを纏って、いま騒々しくも膨張し続けている。

※インディー・スリーズ:2000年代後半から2012年頃にかけてロンドンやニューヨークを中心に流行した、退廃的でエネルギーに満ちたストリートファッションおよびサブカルチャーのトレンド

『WOR$T GIRL IN AMERICA』

「※日本限定帯付きレコードジャケ写」

1.DANCE…
2.BEAT UP CHANEL$
3.CANNIBALISM!
4.OLD TECHNOLOGY
5.CRANK
6.GAS STATION
7.YES GODDD
8.UNKNOWN LOVERZ
9.OLD FLING$
10.I’M ACTUALLY KINDA FAMOUS
11.$T. LOSER
12.WHAT IS IT LIKE, TO BE LIKED?
13.PRAYER
14.BRITTANY MURPHY.

過ぎ去ったカルチャーへの追憶と剥き出しの快楽衝動が生んだ、メインストリーム・ポップの特異点。
Slayyyter(スレイター)3rdアルバム『WOR$T GIRL IN AMERICA』

■デジタル配信中
 再生はこちら:https://slayyyterjp.lnk.to/WGIA

■日本限定仕様アナログ盤(輸入盤):2026年6月26日(金)発売
 ・日本語帯/オリジナルポスター(B4)付 ※数量限定初回仕様 
 ・ゲートフォールドジャケット/カラー盤<コークボトル・クリアヴァイナル>
 予約はこちら:https://slayyyterjp.lnk.to/WGIAVvinyl

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