15年間・5世代の生徒たちの挑戦を描いてきたドラマ『サバ缶、宇宙へ行く』(フジテレビ系)が、ついに最終回を迎える。
福井県立の高校生たちが、地元のサバ缶を「宇宙日本食」とすべく、長年の挑戦の末にJAXA認証を得たという実話を描いた書籍『さばの缶づめ、宇宙へいく』を原案に、映画『はたらく細胞』などを手掛けた徳永友一らが脚本を、『HERO』シリーズなどの鈴木雅之らが演出を手掛けた本作。
フジテレビの看板ドラマ枠「月9」では15年ぶりの学園ドラマとなり、北村匠海が念願の教師役を、きら星のごとき注目の若手俳優たちが生徒役を務めた『サバ缶』について、文筆家・折田侑駿がレビューする。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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世代交代する生徒たちを描いた異色の学園ドラマ

物語は佳境を迎え、怒涛の展開が繰り広げられているドラマ『サバ缶、宇宙へ行く』。いや、最終話を目前に控えたいま、この表現は適切ではない気がする。なぜならば、主人公・朝野峻一(北村匠海)が教え子たちとともに「宇宙食開発」という壮大な夢を追うこの物語は、「クライマックス」といえる瞬間をこれまでに何度も描いてきたからだ。

教師役の北村を中心に、生徒役として並んだのは次代を担う才能たち。「宇宙食サバ缶プロジェクト」を立ち上げた1期生を演じる出口夏希や黒崎煌代にはじまり、2期生には早瀬憩、3期生には荒木飛羽、4期生には伊東蒼、そして5期生には池端杏慈といった、注目すべき若き演技者たちが出演している。

通常の学園ドラマであれば、この俳優たちはクラスメイトとして横一列に並んでいたことだろう。たとえば『御上先生』(2025年 / TBS系)のように、1つのクラスの生徒として同じ教室内に収まっていたはずである。『御上先生』は、官僚派遣制度によって高校教師を務めることになった人物が、生徒たちを導きながら権力と戦っていくというストーリーだ。同作において、生徒たちはみんな優秀だがバラバラだった。しかし、校内で生じる一つひとつの課題や問題に直面するたび、彼らは結束力を高めていく。主人公が「官僚教師」だという特異な設定はあるものの、学園ドラマの形式としては王道に近いものと言えるだろう。

これと比較すると、教師と生徒たちが一丸となっての奮闘劇を描いている点は本作も同じ。だが、ドラマとしてのタイプはまったく違っている。そして『サバ缶』がユニークなのは、生徒たちの学年が上がるごとに、登場人物が入れ替わるという点だ。1期生から2期生へ、2期生から3期生へと「夢のバトン」が渡るたび、物語の「章」が変わる。光が当たる生徒たち=俳優陣の顔ぶれが新たになり、各章が終わる度に物語は佳境を迎える。思い返してみれば、クライマックスと呼べる瞬間は何度もあった。本作は、そうしたクライマックスを繰り返しながら、「夢のバトン」をどのようにつないでいくのかを描いてきた。そして、そのバトンはゴールにたどり着くこととなる。
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北村匠海の「控えめな主役力」

劇中で世代交代が行われる『サバ缶』は学園ドラマの系譜において特殊だが、新米教師と生徒たちの出会いから物語がはじまるのは、学園ドラマの王道。朝野が若狭水産高校に着任したところから、このドラマははじまる。本作は、世代を越えて生徒たちと奮闘する朝野の成長譚でもある。生徒たち一人ひとりが主人公だともいえるが、やはり真の主人公は彼だろう。
朝野は温厚で感じのいい教師だが、どことなく頼りない人物だと感じることもあった。それは多くの学園ドラマの教師たちが、熱血漢であったり、個性的で型破りであったりと、生徒に強い影響を与える人物として描かれることが多いからだと思う。対して朝野は、生徒たちを荒技で引っ張ったり、強い言葉で発破をかけたりするタイプではない。同じ目線の高さで対等に言葉を交わし、生徒たちに寄り添える教師だ。
教師だって完璧ではない。これは生徒たちが一番よく分かっていることだろう。どんな窮地からも生徒たちを救い出してみせる、まさにヒーローのような教師が登場する学園ドラマもあるが、それは大きく現実と乖離している。教育者が持つ特権性をできるだけ感じさせず、教え子たちとフラットな関係を築き上げてきた朝野は、いまの時代に求められている教師像と言えるのではないだろうか。
これが地上波連続ドラマでの初主演作となった北村は、生徒たちに対して受けの演技に徹している印象が強くある。控えめな表現で後輩俳優たちのフレッシュかつアグレッシブな演技を受け止めることによって、朝野がいかなる人物なのかを示してきた。そして、回を重ねるごとに、親しみやすいこのキャラクターの輪郭が鮮明になっていった。それと同時に、主演俳優が受けに徹することで、次々と現れる新たな生徒たちの個性を引き出すことにも成功している。こうした北村の控えめな「主役力」あってこその『サバ缶』なのだ。
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出口夏希ら主役級の若手俳優と、これから注目の才能たち

学園ドラマといえば、若手俳優たちの登竜門でもある。今までの優れた学園ドラマの数々でも、同世代の力のある俳優たちと並び、好演を刻むことで、演技者としての道が拓けるのを私たちは目撃してきた。例えば、今田美桜や森七菜にとって出世作となった『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(2019年 / 日本テレビ系)で生徒役を演じた俳優たちのほとんどが、いまではエンタメ界の最前線にいる。
先述したように、この『サバ缶』には1期生を演じる出口夏希と黒崎煌代を筆頭に、若い実力者が生徒役として登場し、「夢のバトン」をつないできた。出口、黒崎、そして2期生を演じる早瀬憩、4期生を演じる伊東蒼は映画でも立て続けに主役級のポジションを担う俳優で、すでに若手俳優の中心に立つ存在だ。そして、その他の俳優も誰もが、これからに注目が集まる才能ばかり。彼らにとって『サバ缶』はまさに、「登竜門」になることだろう。
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池端杏慈ら5期生の「チームパフォーマンス」

できれば彼ら一人ひとりに言及したいところだが、ここでは第9話より登場した5期生を演じる面々にフォーカスしてみたい。
第9話で4期生から夢のバトンを受け取り、5期生となったのが、藤倉彩花(池端杏慈)、水谷結(南琴奈)、吉瀬乃愛(蒼戸虹子)、桜庭美咲(横田真子)の4名だ。第10話では、宇宙食サバ缶プロジェクトが先輩たちの夢でありながら、バトンを握る自分たちの夢にもなったことを彼女たちが噛み締めながら、開発に邁進していくさまが描かれた。
リーダーのポジションに立つのは藤倉だが、この章の主人公は彼女たち全員だ。俳優たちは、自身の演じる役の人物像を的確に捉え、それぞれのポジションを堅実に全うしているように思えた。出るところは出て、引くところは引く。これまでの物語を築き上げてきた人々と同様に、ソロではなく、チームでのパフォーマンスで新たなエピソードを紡いでいく。限られた時間で描かれる5期生の奮闘には、その背景に先輩たちの姿が垣間見える。そして、互いが互いを輝かせ合いながら、いま / ここにいない俳優たちの存在をも輝かせた4人の好演は、彼女たちのこれからの活躍を十分に期待させるものだった。おそらく数年後、『サバ缶』は彼女たちの出世作として語られることになるはずである。