2024年に始まった『劇場版モノノ怪』3部作が、2026年5月29日(金)公開の『劇場版モノノ怪 第三章 蛇神』をもって、ついに完結する。主人公である、強大な「モノノ怪」の前に立ち向かう異色のヒーロー・「薬売り」を演じたのは、『化物語』をはじめとする『〈物語〉シリーズ』の阿良々木暦役や、『進撃の巨人』のリヴァイ役などで知られる人気声優の神谷浩史。
30年以上声優としてのキャリアを誇り、今なお業界の中心で活躍する神谷が、40代の終わりから50代の始まりにかけて取り組んだ3部作。作品への想いと合わせて、今自身のキャリアについて思うことも、たっぷりとうかがった。
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大奥の謎を探る「薬売り」というキャラクター。役作りする中で感じた自身と重なる部分
ー『劇場版モノノ怪 第三章 蛇神』の公開にあたり、今の率直なお気持ちはいかがでしょうか?
神谷:「ホッとしている」というのが素直な気持ちですね。役者としてワクワクできるのは、オーディションを受けさせていただいて「役に決まりましたよ」と言われた瞬間。その瞬間は「やった!」と思いますが、そこからは責任が発生するので、もう「ワクワク」とか言ってられない(笑)。
最初から3部作という話は聞いていたので、1作目の『唐傘』、2作目の『火鼠』と、自分なりに3作目という最終的な目的に到達するために声を紡いできたつもりでした。だからアフレコを終えた時点で、ようやく役割を果たし終えられて、ホッと胸をなで下ろしました。中村健治総監督をはじめ、スタッフのみなさんの納得がいく「薬売り」の声を提案できただろうか? という不安はありますが、今は楽しみな気持ちでいます。

千葉県出身。出演作には、『進撃の巨人』(リヴァイ役)、『夏目友人帳』(夏目貴志役)、『ONE PIECE』(トラファルガー・ロー役)、『おそ松さん』(松野チョロ松役)、『化物語』をはじめとする〈物語〉シリーズ(阿良々木暦役)、『うる星やつら』(諸星あたる役)などがある。
ー役割を果たし終えた今、「薬売り」という役は、神谷さんの豊富なキャリアの中でどのような位置づけ、存在になっていますか?
神谷:うーん、なんでしょうね? 演じる前は、プレッシャーを感じていましたけれども。偉大なるテレビシリーズの先にあるものなので、比較は当然される。でも、設定としてテレビシリーズとは別な新規の「薬売り」とご説明いただいていたので、あくまで僕なりの「薬売り」を提案すればいいんだなと。でも、ある程度は似たような雰囲気を持っているという指示もあったので、当然過去作を参考にさせていただく部分もあって。
そうやって自信を持って演じてきたつもりではありますが、1作目、2作目は、物語の中でも「薬売り」自身が大奥での事件の全貌をまだ探っているところがあったと思うんです。それが3作目になって「薬売り」も目的を見つけたし、僕も過去の2作をやらせていただいたおかげで理解度も上がって、役との距離が近くなっていた部分があったので、より自信を持って、なおかつちゃんと目的意識を持って演じられていた。たどり着けるかどうかわからないスタート地点から、ようやく目標にたどり着けたという点で、自分の心情と上手く役がリンクしていたのかもしれないという気はしています。
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四半世紀を迎えた声優人生。作品の核となる「主演」への想い
ー「劇場作品で主演を務める」ということに対しては、今の神谷さんはどんな考えをお持ちなのでしょうか。やはり、重たい役割になるものでしょうか。
神谷:主演ということは、その作品の核となる存在なので、当然役割として大きいものですよね。そういう立ち位置を50代になった今任せていただけるのはうれしいし、ありがたいことだと思っています。劇場作品って本当に時間と労力とお金がかかるものですし、基本的にお金を出してお客さんに観ていただくという関係上、その真ん中に立つ主演の背負わされるものはそれなりに大きいと思うんです。

ーたしかに、あらためて考えると、とてつもないことに思えます。
神谷:ただまあ、昨日今日声優になって、急にそういうビッグチャンスが舞い込んできたわけではないですからね。自分がある程度キャリアを積み重ねてきた中で、そういうポジションにたどり着けている。自分がこれまで関わってきた作品にどう接してきて、その作品がどういうふうにみなさんに見られてきたか。それで判断されてきた結果ですから、自分がこれまで声優として歩んできた人生は、間違いではなかったのかもしれないなと。そう思わせてくれる、一つの答えだと思うんです。
いつまでもそこに居続けられるかどうかは、今後のがんばり次第だとは思うんですけれど。年齢のことをあまり言うのはアレですが、声優として四半世紀以上生きてきて、まだそういうポジションにいられるなんて、本当に自分の声優人生は幸せなんだな……と、思っています。ここで声優人生が終わるわけじゃないですけどね(笑)。
ーあはは。
神谷:だから全く安心もできない。すごくシビアな話をすると、別に一つの作品でこれからの仕事が保証されることなんてないですからね。でも、自分の声優人生の本当に大きな、スポットライトの当たる素晴らしいステージを用意していただけて、ここでちゃんと評価されたら、また次のステージが用意されるかもな……みたいな。劇場版『モノノ怪』3部作は、そういう期待ができるような作品だったと思います。

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楽しく声優を続けていくために。年齢を重ねることで生まれる心身の変化にどう向き合うか
ー神谷さんほどのキャリア、実力のある方でも、今でも仕事に不安を感じるものですか。
神谷:もうずっと不安ですよ。若い時の方がある意味、楽だったと思いますね。自分が何も持ってない、何も手に入れられてないけれども、手に入れられる可能性だけはとにかくあった。一つチャンスが来るだけでとても特別なことだと思えて、そういうことに一喜一憂できていた時代の方が、よっぽど幸せだったと思います。
今はやっぱり、30年ちょっとのキャリアの中でいろんなことを経験させていただいて、でもまだまだ先に自分のキャリアがあるというふうに考えると、この先どうやって自分のモチベーションを持ていったらいいんだろう? 何を目的に声優を続けたらいいんだろう? もっと若くて、魅力的で、才能のある人たちがどんどん出ている中で、この人たちともある意味戦っていかなきゃいけないときにどうしたらいいのか。本当に努力を続けていかないと、ここにはいられないんだな……と、実感しているところです。年齢を重ねたらちょっとは楽になるのかなと思ってたんですけど、全く楽にならないんだなって(笑)。

ー今後のご自分の声優としてのキャリアの展望はいかがでしょうか?
神谷:全くわからないですよ。でも、もっと楽に仕事したいなと思いますよね。「生涯現役」という目標は掲げながら、どこにどう折り合いをつけていくのか。それは本人次第だと思うんです。20代の、ずっとがむしゃらにチャンスを探してギラギラしていた時代。そうこうしているうちに作品に恵まれて、業界のメインストリームみたいなところ、注目していただける作品に出られているという充実感の中で過ごせた30代。その積み重ねの先に40代があって……40歳を過ぎると、大体一日たりとも調子いい日なんかないんですよ(笑)。
ー調子悪くて当たり前になりますよね(笑)。
神谷:「何でもかんでも一日寝れば治る」みたいな時代とは全然違う。肉体的なピークと精神的なピークが上手くクロスするのが、大体30代から40代ぐらいで、ここから先はどんどん肉体と精神が乖離していってしまう。この隙間をどう埋めていくかは、多分、今後の自分にとって課題になっていくと思うんですよね。
だからこそ、「生涯現役」であるために、楽に、楽しく声優を続けるにはどうしたらいいのかを考えるのが、今後の課題かなと思っています。……まあ、こんなこと言いつつ、楽になんかならないと思いますけどね。答えはわかってるんです。「努力をし続ける」しかないんだと。それでも、よりよいやり方を考え続けたいですね。
ーさきほどからのご様子をうかがっていると、大変さを語りながらも、どこか「今が一番楽しい」と感じておられるようにも思えてくるのですが。
神谷:あはは。振り返ると結局、いつの時代もしんどかったし、いつの時代も楽しかったとも思うんですよ。その時々は、「しんどい」という感じ方が勝つんですけど、何年かすると、「あの時は楽しかったな」と思えるようになる。人間って、思い出の中では生きていけないけれど、ときに思い出に縋ってしまうことがあるんですよね。その思い出が「しんどかったなあ」一色だと、やっぱりきついと思うので、どれだけがんばって、あとから楽しかった思い出にできるのか。それは一つひとつの物事に、真摯に向き合ってこれたかによるんじゃないかと。だから、毎日が踏ん張りどころですよね。

『劇場版モノノ怪 第三章 蛇神』

■キャスト
薬売り:神谷浩史
幸子:種﨑敦美/天子:入野自由/溝呂木北斗:津田健次郎/水光院:榊󠄀原良子
アサ:黒沢ともよ/時田フキ:日笠陽子/大友ボタン:戸松 遥
時田三郎丸:梶 裕貴/嵯峨平基:福山 潤/坂下:細見大輔/時田良路:チョー/藤巻:堀川りょう
天局:ゆかな/常磐井:平野 文/カワ:本多真梨子/溝呂木朔:竹本英史/三代目御台所:沢城みゆき
■主題歌
「No Epilogue」アイナ・ジ・エンド(avex trax)
■スタッフ
総監督:中村健治/監督:越田知明/脚本:新 八角
キャラクターデザイン:永田狐子/アニメーションキャラデザイン・総作画監督:高橋裕一
美術設定:上遠野洋一/美術監督:倉本 章 斎藤陽子/美術監修:倉橋 隆
色彩設計:辻󠄀田邦夫/ビジュアルディレクター:泉津井陽一
3D監督:白井賢一/編集:西山 茂/音響監督:長崎行男/音楽:岩崎 琢
プロデューサー:佐藤公章 成瀬晃一 加藤はるか 上松南菜子/企画プロデュース:山本幸治
製作・配給:ツインエンジン/制作:スタジオカフカ EOTA
劇場版公式サイト:https://www.mononoke-movie.com/