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くるりのオリジナルメンバーが語る新作。「やりたいのは自分たちを現在地に置くこと」

2023.10.7

#MUSIC

くるりがオリジナルメンバーであるドラマーの森信行を迎えて、約20年ぶりに完成させたニューアルバム『感覚は道標』。伊豆スタジオでの合宿を軸とした本作の制作風景を記録したドキュメンタリー映画『くるりのえいが』も10月13日に公開される。メンバー3人のみで、スタジオでのセッションをもとに1からつくられた13の楽曲たちは、ギター、ベース、ドラムの3ピースでスタートしたくるりというバンドの根源的な部分を刻み込んだものだと言えるだろう。

アルバムをつくるのは約20年ぶりではあるが、3人は森が脱退した2002年以降にも『京都音楽博覧会』やツアーなどで共演経験があり、今回も「再結成」とはニュアンスが異なる。映画の中でも過去について深く掘り下げることはしていないし、「再会」のドラマ性を強調するでもなく、ある意味では淡々と制作風景を描いていることが印象的。そして、それは「自分たちを現在地に置く」ということを重視した『感覚は道標』という作品とも確かに地続きのものだ。岸田繁、佐藤征史、森信之の3人に制作の裏側について話を聞いた。

約20年ぶりのオリジナルメンバーによるアルバム制作。「1からバンドで音を合わせながら曲をつくりたくて、いいタイミングかなと思いました」

くるり
1996年9月頃、立命館大学の音楽サークル「ロック・コミューン」にて岸田繁(Vo,&Gt)、佐藤征史(Ba)、森信行(Dr)により結成。古今東西さまざまな音楽に影響されながら、旅を続けるロックバンド。1998年10月にシングル「東京」でメジャーデビューを果たす。バンドの形態やジャンルの枠に捉われない実験的な試みを繰り返し数々の作品を生み出しているほか、映画作品の音楽制作、ミュージシャンへの楽曲提供、2007年からは京都梅小路公園を舞台にした主催音楽イベント「京都音楽博覧会」を開催するなど、活動は多岐にわたる。幾度かのメンバー変遷を経た後、オリジナルメンバーである森信行を迎え14枚目のアルバム「感覚は道標」を制作した。

ー今回ひさびさにオリジナルメンバーで新しいアルバムをつくるに至った経緯を教えてください。

くるり『感覚は道標』(オンラインストアで見る

岸田:最近はまず自分一人でつくって、それをバンドでやるみたいなスタイルが多かったので、1からバンドで音を合わせながら曲をつくりたくて、いいタイミングかなと思いました。最近でもたまにそういうことはやってたんですけど、でもそれをオリジナルメンバーでやってみるっていうことがおもしろいかな、みたいな。

佐藤:今回は映画の話が決まっていたので、「じゃあ、それを撮ってもらったら」っていうところでことが進んで。

岸田:なので、流れ上たまたまこうなった感じではあるんです。「どういうこと?」と思う人もいるだろうけど、「長くやってるとこういうこともあるよね」っていう。

でもまあ最初に言った理由が一番わかりやすいとは思います。最近はプロダクティブなソングライティングから録音という流れが多かったので、もうちょっと紐を緩めて、バンドでセッションしてつくるっていう、「もともとやってたやり方でもう一回やってみよう」ということですね。

岸田繁

ー音楽のつくり方がDTMメインにシフトしていって、コロナ禍を経てそれがさらに加速した印象もあり、もう一度バンドでセッションをしての曲作りを見つめ直してみようという側面もありましたか?

岸田:それがすべてではないけど、なくはないと思います。ただ「バンドとは」みたいなことは別に考えてなかったです。

ー森さんは連絡を受けて、映画では「最初はいろいろ思うところもあった」というお話をされていたと思うんですけど、実際いかがでしたか?

森:蓋を開けてみるまでどんなレコーディングになるかは全然わからなかったので、ワクワクする気持ちもすごくあったんですけど、実際やるまではドキドキしてました。で、いざやってみたら僕自身忘れてたようなつくり方になったというか。

森信之

森:くるりを抜けて、その後にいろんな人と音楽をやる中で、大体まず曲と歌詞があって、それに対してアレンジをどうするかということが多かったんです。最初リフしかなくて、そこからつくっていくことって、最近あるようでなかったので、それを3人で1から構築していくのは面白かったし、それが結果的にアルバムになったのも嬉しかったですね。

佐藤:今のライブの形態もすごくバンドっぽくなってきているので、「バンドの楽しさ」みたいなものに対する願望はちょっとあったかもしれないです。昔もっくんと当たり前にやっていたこと、アルバムつくって、ツアーやって、その後はまたスタジオ入ってとかって、今の形態になってから当たり前にはできなくなってるんですよね。

佐藤征史

佐藤:いろんな人のスケジュールを調整したり、「それをやるためにこれだけの予算がかかるから、これだけのことを目標に」とか、条件的なことが出てきちゃう。でも今回は映画があったから、当たり前のことを腰を据えてできたので、それが一番良かったなと思います。

岸田:今のライブのときのバンドはまた別のバンドというか、もう一緒にやってる期間も長いし、演奏上でのやり取りとか信頼関係のようなものも濃くなってるので、あのバンドはあのバンド。ただ中心にいるのはやっぱり私と佐藤で、オリジナルのこの3人っていうのは、今いろいろやってる私と佐藤の根っこにあるもので。

もしこの3人でなにかを成しえてなかったとしたら、今回みたいなことはなかったかもしれない。でもこの3人は“東京”や“ばらの花”みたいな曲をつくった実績があるというか、それらの曲は未だに僕らのファンの間では人気があったりして、何らかの特別なものではあると思うんですよね。そう考えると、この3人でしかつくれないものがあると思うので、それをつくりたいと思いました。

くるり“東京”のミュージックビデオ

『くるりのえいが』にも刻まれた、伊豆スタジオというロケーションの必然性

ー「スタジオに入ってセッションで1からつくる」ということ以外に、今回の制作にあたって事前に決めていたことはありましたか?

岸田:基本的にはこの3人以外のプレイヤーの音は入れずに、この3人でやりましょうと。あとは3人のLINEグループみたいなもので、「こういう感じでやりましょうか」みたいなのがあったり、3人で会ったときに「こういう音楽みたいなのがいいよね」って話はしてましたけど……もともとこの3人でやってたときって、発想的にも姿勢的にも自由にやってたというか、良くも悪くも、何をやってもよかったと思うんです。

「バンドだからこうですよね」とか「ギタリストだからこうですよね」みたいなところを逸脱したことをたくさんやってきたので、あんまり最初に決め事みたいなものはつくらない方がいいなと思ってましたね。

ー音楽的には「1990年代のオルタナティブ」とか「1960年代のブリティッシュロック」みたいなキーワード的なものがいくつかあるぐらい?

岸田:そういう話もちょっとはしたけど、うだうだ言うよりも音を出した方が早いから、いいセッティングをつくって、いい音で録れる状態にして、スタジオ自体の鳴りとか、エンジニアさんのつくる音を生かしてやっていくだけというか。「この曲はこういう感じで」みたいな話をして挑んだ曲もあるにはあるけど、ほとんどそういう話はせず、ばっとつくったものもあります。

ー伊豆スタジオを選んだのは何か理由がありましたか?

佐藤:毎日それぞれの家から通うとか、ホテルから行くとか、そういう環境よりも合宿がよかったんです。もちろん撮影があるっていうのもちょっとはあったんですけど、同じもの食べて、お酒飲んで、みんなベロベロになってるんだけど、最終的に真面目な話になって終わるとか、もっくんと一緒にできるのであればそういう環境の方がいいのかなって。

『くるりのえいが』本予告

ーヴィンテージの卓や機材があったり、いい部屋鳴りがあったり、今回自分たちがやろうとしていた音楽とも環境がフィットしていた?

岸田:結果それでいい感じになりました。最初はどっかの田舎の宿みたいなところを借りて、そこに機材を持ち込んでやろうみたいな話もしてたんですけど、移動の手間とかエンジニアのことを考えると、伊豆にしてよかったです。卓とかも含めて、わりと古典的なスタジオだから、最近国内ではあんまりない感じで、僕らがつくろうとした音楽とかやろうとしたことには合ってたかなって感じです。

森:僕も伊豆スタジオは何度か使ったことがあるんですけど、ご飯が美味しいとか、海が近いとか、やっぱり環境がとても良くて。町のスタジオだと場所によっては閉鎖的な環境だったりするんですけど、伊豆スタは窓も大きいし、リラックスできる環境なのは大きくて、伊豆の話が出ただけでテンション上がりましたね。

長いこと離れてるとお互いのことについて知ってることもあれば知らないこともいっぱいあるので、ちょっと間を詰めるというか、そのためにもスタジオが終わった後に飲んだりとか、些細なことですけど、実はそういう時間がすごく重要だったと思います。

「この3人でつくってる曲に関しては、魂の入れどころが違う感じ」(佐藤)

ー森さんから「実際に音を合わせてみて、やりながら当時のことを思い出した」という話がありましたけど、佐藤さんはいかがでしたか?

佐藤:スタジオに入って曲をつくること自体は全然普通やったんですけど、もっくんと一緒にやるっていうことに対して、最初は「わかろう」みたいな感覚というか。昔一緒にやってたときって、他のドラマーのことは数人しか知らなかったけど、その後にたくさんのドラマーと演奏させていただいた上で、今回改めてもっくんのすごさとかもっくんの一番好きなところを思い出しながら演奏してた感じですかね。

佐藤:あともっくんとやるときは楽器を弾く強さが強くないとあんまり意味がないというか、そうしようと思ってやってるんじゃなくて、そうなっちゃうんですよ。この3人で一緒につくってる曲がそうさせるのかもしれないですけど、ライブやレコーディングで最近こんなに強く楽器を弾くことはあんまりないなと思いながらやってましたね。

ーそれは単純に森さんのプレイ音量がでかいとかいうことでもなく?

佐藤:そういうことでもないんです。この3人でつくってる曲に関しては、魂の入れどころが違う感じ。そういうのがちょっとあったのかな。

https://www.youtube.com/watch?v=Nc-tVHyrI8I
くるり“California coconuts” のミュージックビデオ

森:僕の感覚としては、今回『さよならストレンジャー』とか『図鑑』というよりは、『TEAM ROCK』のころか、もしくはもっと最初のころの感覚があったかなって。これは説明のしようがなくて、どう言ったらいいかよくわからないんですけど。

ー岸田さんはどう感じていますか?

岸田:前にやったことを参照するというか、「この人そういえばこうやったからこうしよう」みたいなのは箇所箇所ではありますけど、それって「そういえばこの人ボンカレー好きだったなあ」ぐらいの感じでしかないというか。

つくってるものは新しい曲だから、セルフコスプレ的な要素も少ないし、どの作品というのは僕はそこまで……上手くいったときのことを思い出して、「あのときみたいに上手くいくようにしよう」みたいなふうに思うことはあったけど、作品として考えるとそれはあんまりないですね。

佐藤:『TEAM ROCK』のときはボツ曲がめちゃめちゃ多かったんですよ。CDシングル全盛のときやったから、カップリングのためとかもあって、めちゃめちゃたくさん出して、その中にはふざけたやつもあったりして。

でもメジャーデビューしてからそういう曲はなかなかできなかったというか、ライブのちょっとした音合わせでやるような曲がちゃんと歌ものになる感覚もなかったので、そういうルーツ的な曲を1軍としてやるのはあんまりなかったと思うんです。昔のカップリングのふざけ具合ともまたちょっと違う、もともとの自分たちらしくもあり、なおかつそれをちゃんと歌ものとして仕上げることが今回できたかなと思います。

「再集結して、トリビュートアルバムをつくるでも、セルフカバー集をつくるでもなく、現在地に自分たちを置いてみる。だからこそ、過去も未来もよりリアルに感じることができる」(岸田)

ー先行で配信された“In Your Life”はこのアルバムをひとつ象徴してる曲なのかなと。1990年代のオルタナティブロックの系譜というのもそうだし、歌詞にもある種のトリビュート的なところがある。過去の作品を真似したりトレースしたりしてるわけではないけど、自分たちの過去と向き合いながら、今のこの3人で形にした曲なのかなって。

https://www.youtube.com/watch?v=Ydysm0dJI0A
くるり“In Your Life”のミュージックビデオ

岸田:アルバムには13曲入ってますけど、出たネタの中からうちのスタッフが一つひとつ丸をつけていくわけです。その中で丸がいっぱいついてたのがこの曲で、仮タイトルに「映画主題歌」って書いてあったんですよ。

バーッとつくってるから、自分では優劣はあんまりよくわからない。でもスタッフがえらく喜んでたから、じゃあつくろうと思ってつくったら、結果良い曲になったし、ライブでやり込めばやり込むほど曲が育っていくとも思います。あの……これは例え話がすぎますけども、王将に行ったら餃子ですよね。一般的なイメージとして、そういう感じ。

ーみんながイメージするくるりの王道?

岸田:僕は王将行ったら天津飯なんですけど(笑)、これは餃子としての役割を果たしてくれてるんじゃないかなっていう。

佐藤:スタッフさんが「映画主題歌」っていう仮タイトルを付けてくれて、その続きで曲が進化していったときに、餃子から満腹定食になった感じ(笑)。

森:僕の印象で言うと、この曲は僕がいた頃の曲というよりは、僕が抜けた後につくられたくるりの代表的な感じの曲の、すごくいい曲のひとつやなって思ったんですね。ぶっちゃけて言うと、今回のレコーディングの中では唯一ぐらい結構形がはっきりと、最初から最後まで「これでいこう」っていう状態でレコーディングの本番に挑んだ曲で。

だから実はこの曲をやるときは他の曲とはちょっと違う感じで叩いてたっていうのはあるんです。だけど結果としてすごくいいものになって、「僕が抜けた後のくるりの代表的な曲っぽいけど、僕が入ったらこうなりました」みたいな感じが出た気がして、すごく嬉しかったです。

ー僕がこの曲を象徴的だと感じたのは、このアルバム自体が「過去といかに接続しながら今を生きて、未来を見つめるのか」を考えさせる作品だと思ったからで。それは人間関係にしてもそうだし、音楽のあり方もそうなんですけど、そういったある種の問いかけにも結果的になっているように思ったんです。

岸田:過去があり、現在があり、未来がある。宗教的な考え方というか、輪廻転生とかもそうですけど、人間は過去と未来を紐づけて、そのときに何かを考えるわけですよね。日々の生活の中でも、「来週のこれどうしようか」とか、「去年のお正月はこうだった」とか。そこにつきまとうものはやっぱり期待と不安とかだったりすると思うんですけど、ノスタルジーとして、あるいは思考停止として、過去や未来を良いように語っているものが世の中に多すぎると僕は思っていて。

もちろん過去を参照したり、過去を顧みて反省したりすることもありますし、「将来こういうふうに生きたい」みたいな想いは自分の中にもあるし、みんな持ってると思うんですけど、自分がやりたいのは現在地に自分たちを置くっていうことなんです。

岸田:再集結して、トリビュートアルバムをつくるでも、セルフカバー集をつくるでもなく、現在地に自分たちを置いてみる。この3人で集まると過去の自分たちのことは絶対参照点になりますし、この先も生きてる限り音楽を続ける人たちが集まってるでしょうけど、自分たちが現在にいるからこそ、過去も未来もよりリアルに感じることができるんじゃないかなって。

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