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細野晴臣、The Avalanchesほか注目新譜を音楽ライターら3人が語る

2026.10.28

#MUSIC

アフリカ音楽の新録と「ワールドミュージック」の捉え直し

—みなさんがここ数か月で注目したリリースタイトルについて教えていただければと思います。まずは風間さんいかがですか?

風間:はい。最近はビッグリリースも多かったんですけど、なんだかそれよりも個人的なものばかり聴いていた感じがあります。まずはウガンダのNyege Nyege Tapesという、アフリカのダンスミュージック——有名なところだとシンゲリとかですね——を世界に紹介した現行ですごく頑張っているレーベルがあるんですけど、ここが最近ダンスミュージック以外のものをけっこう取り上げていて。その中でKUCWINY THEATRE INDUSTRYという楽団の『LUO SOUND OF THE ALUR』というアルバムが先日出て、これを一番よく聴いていたと思います。

LUO SOUND OF THE ALUR / KUCWINY THEATRE INDUSTRY
https://nyegenyegetapes.bandcamp.com/album/luo-sound-of-the-alur

風間:ALUR(アラーまたはアルル)というのは、コンゴ、南スーダンとかウガンダとかのナイル川周辺の民族で、踊りと太鼓、声、あと角笛でアンサンブルを作っていく儀礼がありまして、それをフィールドレコーディングのような形で録音したアルバムです。いわゆるミニマルミュージックの源流のように聴こえる音楽で、本当にずっと打楽器の音と女性の声と笛、みたいな感じなんですけど、ただひたすら気持ちいい。個人的に、没頭する時間を作るのにいいんです。Nyege Nyege Tapesというレーベルが、ダンスミュージック以外でこういうことをやっているんだぞ、というのも紹介したくて、挙げました。

TUDA:それで思い出したのが、Sublime Frequenciesっていう、Sun City Girlsのアラン・ビショップがやっている辺境音楽のレーベルなんですけど。タイのホップスとか、いろんなものを出していて、そこが最近出していた『Himba Hymn: Ghosts Of Namibia’s Skeleton Coast』という、ナミビアのヒンバ族の声と儀礼歌を初めて公式に記録したものです。これをTORUさんがクラブでジャングルと一緒にかけていたのが、すごい衝撃的に聴こえて。エフェクトをかけているのかなって思うぐらい、口琴を大人数でやっているような、自分の環境を取り巻くみたいな音像で、散歩しながら聴いていてすごかったのを思い出しました。

柴崎:Sublime Frequenciesは再発レーベルですよね。これも再発なんですか?

風間:再発ではなくて、KUCWINYと一緒で、わりと最近、その場で現地録音をしたものだと思います。

柴崎:Sublime Frequenciesは、僕の世代だとけっこう危うい話が少なくないレーベルだったんですよ。ライセンスどうなってんの? みたいな話とか、あと、わりと匿名性を付与して第三世界の音楽を消費していくみたいなところがあって、その問題性を指摘する論文が出たぐらいだったんです。

TUDA:そうなんですね。

柴崎:その後にけっこうノリが変わってきてるよって話は、ワールドミュージック好きから聞いていて、いまの話を聞いて商品概要を見てみると、だいぶ本当にいい意味で、アップデートというか、全然違う方法だなと思って面白いです。

風間:更生したというか(笑)。たしかに「ワールドミュージック」という大きい括りで捉えるところから、各々が、あるものは外圧によって脱却したり、Nyege Nyege Tapesは自分たちでたとえばエジプトまで行って器楽奏者を見つけてくるとか、そういうことを現地で当事者性を持ってやっているというのもあって、いまのレーベルはどこも、そこの問題(※編注:非西洋の見知らぬ音楽を楽しむことが抱え得る差別的・搾取的な側面)を超えてやろうという気概というか、ちゃんと試みを実践しているところが多いですよね。

柴崎:それで言うと、DJ /rupture(=ジェイス・クレイトン)が書いた『Uproot』という本が、imdkmさんの翻訳で、『音楽はどこに根づくのか?』という邦題でこの前出たんですが、まさにそのパラダイムチェンジの話が、エッセイ形式で非常に説得性がある形で書かれているので、いま出たような話が気になる方は読んでみるといいんじゃないかと思います。

TUDA:そういう内容なんですね! なんとなく気になってました。

ジェイス・クレイトン=著、imdkm=訳『音楽はどこに根づくのか? 21世紀のデジタル・カルチャーとローカルをめぐる旅』(フィルムアート社)

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風間:もうひとつ紹介すると、ブルックリンのジョン・ローズボロ(John Roseboro)というシンガーの、『Va Va Voom』という新譜が良かったです。

風間:昨年末に出たGeeseのキャメロン・ウィンターのソロアルバム(『Heavy Metal』)もそうでしたけど、僕はいま『Chet Baker Sings』(※)みたいなものが流行っていると感じていて、このアルバムにもそういう感じがありました。チェット・ベイカーはもちろんトランペッターで、歌声も素晴らしいんですけど、それ以上にそうした雰囲気を優先する、ちょっと前まではジャズファンから忌避されていたような、ハードバップで上手さを競うようなものとは違う、素朴に立ち上がってくるようなものが、再評価・再解釈されているというか。

※『Chet Baker Sings』:ジャズトランペット奏者 / シンガーのチェット・ベイカーが1956年に発表したアルバム。

柴崎:僕の世代でも、『Chet Baker Sings』辺りから(オーセンティックなジャズに)入る人はすごく多かったっていう印象があって。20年ぐらい前に『ミュージックマガジン』が「JAZZY not JAZZ」という特集を組んで、ジャズの成分が流入した歌モノを紹介したりしていたんですけど、そこからいろいろなアップデートを経て一周した感じもしたり。そう言われると、ラグジュアリーな雰囲気を醸し出すものとしての、ジャズボーカル的な伝統の再解釈みたいなものは、たしかに面白い領域ですよね。

風間:現行のジャズにいろんな語られ方がある中で、(ロバート・グラスパーの)『Black Radio』を起点にする人たちがいたり、カマシ・ワシントンとかスピリチュアルジャズを起点にする人たちもいて。それとは別に『Chet Baker Sings』的なもの、カフェでジャズ然としてかかっているようなボーカルジャズみたいなものを、ジャズミュージシャン以外が再解釈するようになった流れがきていると感じています。去年『Chet Baker Re:imagined』というオムニバス盤も出て、そこにはPuma BlueやBenny Singsが参加していますし。

—柴崎さんの注目したリリースタイトルもお伺いできたらと思うのですが、いかがでしょうか?

柴崎:僕はまず大前提として、このお二人に並び立つほど新譜をあんまり聴いていない自信があります(笑)。というのは、ライフステージ的なところもあって、最近はもうずっと歴史研究ばっかりやってるんですけど、新譜を聴くとなると、さっき風間くんも言ったみたいに、すごく個人的な好みに寄ることになりまして、批評的重要性とか一切関係ないところで聴いていることが多いです。

という中で、ソフィー・バーチ(Sofie Birch)というデンマークの出身の人で、基本的にはサウンドアーティストというか、エレクトロアコースティックみたいなことをやっているアンビエント系の人なんですけど、これはなんて読むんだろう……『Bivabippabualukka』というアルバムが出て。偶然Bandcampのおすすめか何かで知ったんですけど、よく仕事中のBGMとして聴いています。

柴崎:実験音楽とかサウンドアート的なアプローチの人が、ボサノバに接近して作っているアルバムで、聴いたことない感じの音楽になってます。以前から、アンビエントポップとかアンビエントフォークの流れで、アンビエント的な音像がいろんなジャンルに流出している流れがあると思うんです。去年アルバムを出していたルクレシア・ダルト(Lucrecia Dalt)みたいに、ラテンとアンビエントポップ的なものを融合させていくみたいな動きがあったと思うんですけど。ソフィー・バーチはブラジルの人ではないけれど、ある意味で世界共通の音楽遺産みたいになっているボサノバが、電子的室内楽というか、いろんなサウンドの構築の材料としてこのように再文脈化されているのは、非常に面白いなと思いました。

あと、邦楽で言うと、何か月か前に音楽批評講座みたいなのをやらせてもらったことがありまして。その受講生の方から「実は音楽をやってるんです、今度こういうのをリリースするんですよ」と言われて聴いてみたらめちゃくちゃ良かったんです。マダム南方というユニット名で、宅録をやっている二人組の、『正午前』というEPです。

柴崎:アンビエントポップ的なものと、トッド・ラングレン的なウェルメイドなソングライティングが一緒になっていて、ソフィスティポップの最新型みたいな感じなのかな? ニューカマー感がある、これからの人たちだと思うんですけれど、本当にクオリティーがめっちゃ高くて。僕は長いことインディーレーベルのA&Rをやっていたので、新人さんから音源いただいて聴く機会は多かったんですけど、言い方が非常に難しいですが、刺さることはかなり稀なわけです。けどこれに関しては、自分がそういう立場だったらぜひアルバム制作を後押ししたいなって思うぐらいでした。インディーポップとかシンガーソングライターが好きな人も聴ける歌モノでもあるので、ぜひ聴いてもらいたいなと思い紹介しました。

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