アーティストのみらんと作家の小原晩が休日を外で過ごすこの連載も、もう3回目。夏は浴衣、そして花火。人混みは避けて、近所の公園で花火でもしましょう、ということで、今回は浴衣を着て、近所にお出かけです。
※公園によってルールが違うので、事前にWEBサイトなどでチェックして、ルールを守って楽しみましょう。
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うだるような夏の手もち花火(from 小原晩)
ひさしぶりに浴衣を着ようとして、手こずった。手こずって、遅刻した。外は小雨が降っていて、雨に濡れると整えた髪がぱやぱやしてくるからいやだのに、いやだのに、と下駄をころんころん鳴らして歩いた。
事務所で着替えているみらんちゃんを少しだけ手伝って、またころんころん鳴らしながら、羽根木公園へ、降り止まない小雨のなかを歩いた。うだるような蒸し暑さで、蝉の声が遠くのほうからした。みらんちゃんはうすい桃色の浴衣がよく似合っていて、まるだしのおでこはぴかぴか光って愛らしかった。


羽根木公園について、ななこちゃんに写真を撮ってもらっていると、じきに夕日が燃えた。とてもきれいで、輪から少し離れて、見入った。
ベンチに座り、ラムネをのんで、たこ焼きを食べて、焼き鳥を食む。蚊に、すごく刺される。足の甲も、首の後ろも、お尻も刺される。たこ焼きが、特においしい。



すっかり日は暮れて、風が出てきた。手持ち花火に火をつける。みどりの光がこの手の先に現れる。

光に、目をほそめる。煙があって、音があって、そういうことを一つひとつ感じるまもなく、すぐ暗くなる。目だけがチカチカするばかりで、なにも見えなくなる。
ロウソクから花火に火をつけるより、聖火みたいにお互いの手持ち花火を近づけて火を繋ぐ。


みんなで手持ち花火をやれば、暗闇はなかなか訪れない。
1袋分やり終わったけれどもう少し花火したいよね、という話になり、花火を買い足しに行ってもらっているあいだ、撮ってもらった写真を3人で見た。みらんちゃんが気合いたっぷりの表情で花火をしている写真があって、そんな気持ちでやっているなんて思いもしなかったから、3人でくつくつ笑った。


線香花火をみんなでやる。線香花火にうまく火がつかなくてあたふたとする。奇跡的についた、きれい、あ、落ちた。でもなんか、心のなかにはずっとあの、ちらちらとした赤い光が残っていた。さびしさのない、堂々とした、小さなひかりがしばらくあった。

線香花火をやるときの、みんな小さくうずくまって、自信のなさそうな形になるところ、好きだなあ。

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おどけてみせて(from みらん)
ひとりで浴衣を着てきた晩ちゃんに見惚れているうちに、晩ちゃんはすごい速さで私の浴衣を着付けていく。

帯はリボンの形が良い〜っていう私のめんどくさいわがままも、さっぱりときいてくれた。帯の巻き方をきゃっきゃ言いながら調べていると、蘇ってくる高校時代の感覚。かわいくなるために、切磋琢磨していた頃があったんだよな。
みるみるうちに、一本の帯はリボンをつくって私の背中に。晩ちゃんすごい。頼もしい。バランスよく決まるというビスケットブラザーズのポーズまで伝授してくれた。

外に出ると、ぱらぱら雨が降っている。夕立の季節だもの、仕方ない。あんまり気にせず、傘をさして羽根木公園へ向かう。小股ではんなり歩いていたのは束の間で、晩ちゃんもスタッフさんも、けっこう足が速い。置いていかれないように歩くと、下駄の鼻緒がつまってちょっと痛い。けれどウキウキが、今日を楽しみにしていた私の心が、跳ねて前にとんとん進む。
羽根木公園はテーブルとイスがあちらこちらにあったり、お手洗いや売店もあるから、混んでいなければ使い勝手が非常に良い。前に来たときは日曜日でテーブル争奪戦が繰り広げられていたけれど、今日は平日で、おじいがぼーっといるくらい。ひとまず休憩しようとテーブルに荷物を置いてイスに座ると、たちまち体が熱くなる。このまま座っていては汗が止まらなそうなので、立ち上がって、ゆらゆら動く。浴衣って、ゆれてるだけでも踊ってるみたいだな。晩ちゃんが写真を撮ってくれて、私も晩ちゃんを撮って、自撮りしたりもして、調子がでてくる頃に、雨は止んだ。
ちょっとそこらを散策しつつ、菜々子ちゃんのカメラでたくさん撮ってもらう。
浴衣がきれいに映るポーズってどんなだろうねって話しながら、結局私たちはおどけることしかできない。ずーっとずーっと、照れ臭くって笑ってる。


けど、隣で笑う晩ちゃんを見ていたら、1年くらい前の、交換日記を始めるときの撮影時より、笑顔がうんとやわらかくなったなあって思った。リラックスできているなら、とても嬉しい。
それから私たちはベンチに座って、ラムネのガラス玉を落とした。吹きこぼれて、ああ大変。されどすかさず飲む! 喉が渇いていたんだよ……。ちなみにお腹も空いている。たこ焼き食べよう。焼き鳥食べよう。ぱくぱく、口に放り込む。



晩ちゃんは今日も、見事に頬張るなあ。
日が暮れて、あたりは真っ暗。夜の公園になった。今宵の大団円はずばり手持ち花火。やるっきゃないでしょうという心意気。パッケージされたいろんな種類の手持ち花火をひろげるとき、真っ先に端によけられ重宝される線香花火って、なんか憎いよ。
適当に、賑やかそうなのを選んで晩ちゃんと同時に火をつける。

シューーーっと音を立てて緑色に光り出すそれは、威勢が良いような、そうでもないような。なんだこれは。花火か。火花か。なんなんだこれは。
それでもついはしゃぎたくなるから不思議なもので、私たちは次から次へと燃やしていく。止める人はいない。黄色のバチバチも、レインボーのシャワーも、燃やせ! 燃やせ! 燃やし尽くせー!


そうやって心ゆくまではしゃいだあとの、線香花火。火をつける時、みんなでまるくなって、とっても静か。きれいで、あまりに儚い命を見ると、やっぱり敵わないなあという心持ちになった。
帰りはみんなでコンビニ寄ってみたけど、なんにも買わずに出て、なんだかちょっと、切なく解散。
みらん

1999年生まれのシンガーソングライター。
包容力のある歌声と可憐さと鋭さが共存したソングライティングが魅力。2020年に宅録で制作した1stアルバム『帆風』のリリース、その後多数作品をリリースする中、2022年に、曽我部恵一プロデュースのもと 監督:城定秀夫×脚本:今泉力哉、映画『愛なのに』の主題歌を制作し、2ndアルバム『Ducky』をリリース。その後、久米雄介(Special Favorite Music)をプロデューサーに迎え入れ「夏の僕にも」「レモンの木」「好きなように」を配信リリース、フジテレビ「Love music」でも取り上げられ、カルチャーメディアNiEWにて作家・小原晩と交換日記「窓辺に頬杖つきながら」を連載するなど更なる注目を集める中、新曲「天使のキス」を配信/7inchにてリリースした。2023年12月13日には新作アルバム『WATASHIBOSHI』をリリースする。
小原晩(おばらばん)

作家。2022年初のエッセイ集となる『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を自費出版。2023年「小説すばる」に読切小説「発光しましょう」を発表し、話題になる。 9月に初の商業出版作品として『これが生活なのかしらん』を大和書房から刊行。