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明日を担うオッドたち

吟遊詩人なKuma Overdoseについて知っておくべき13のこと

2025.1.9

#MUSIC

LA、ロンドン、東京と活動の拠点を吟遊詩人のように広げるKuma Overdose。アジア系アメリカ人のKumaが織りなす心地よい中毒性のあるメロディには、力強いメッセージが込められている。西洋から見た東洋の美しさ、そして東洋から見た西洋の二つの視点から気付けることについて迫っていく。

現代のオーバードーズ(過量摂取)している世を映し出す

Kuma Overdose(クマオーバードーズ)という名前は、その出来事に通じていない人は違和感に気付かず、疑問にも思わない現代の社会を反映した意味を持っています。現代はいたるところ溢れんばかりにコンテンツがあり、人々は毎日それを見て、吸収して圧倒されてしまう。アルコールやドラッグだけでなく、InstagramのリールやTikTok、情報過多な街、マーケットなど、あらゆる種類の情報を無意識にオーバードーズ(過量摂取)しているのです。だから僕は「Overdose」という名前をつけて、毎日何かを過剰摂取していることを知って欲しいと思いました。「Kuma」は、僕の本名「バリー」の発音が英語のベアと似ているからと、日本語でアレンジされたあだ名「Kuma」と呼ばれていたのでそこからとりました。

Kuma Overdose(クマオーバードーズ)
ロサンゼルス出身のアーティスト、プロデューサー。90年代の日本のシティポップ、ジャズ、そしてオールドスクールなヒップホップを彷彿させる夢幻的な楽曲を自らが作詞作曲し制作。「Bike Lane」は、Spotifyで200万回以上の再生を記録し、雑誌《Wonderland》や数多くの雑誌に掲載され、欧米だけならず、アジア圏からの注目度も高い。2020年にロンドンに移住してからは、UKヒップホップアーティストLord Apexや、JNR CHOI、Bktherula、Rico Nastyなどとのコラボレーションを実現。

始まりは臨界期に習得したジャズから

10歳の頃からジャズピアノとジャズトランペットを習い始めて、それをきっかけに音楽にのめりこみました。ジャズの演奏を即興ですることはあっても、それは作曲ではないので、いつしか曲を書き始めてみたくなって、ジャズピアノの楽譜を書き始めたんです。それから言葉を歌詞に書き起こしていき、19歳のときに初めて曲を書きました。あまり良い曲とは言えないので、僕以外誰も聴くことはないと思います(笑)。

音楽はシャイな性格をカバーできる得手

僕はどちらかと言うと内向的な人間なので、話しているときに言葉で自分を表現するのがあまり得意ではないです。コンサートやパフォーマンスをするとき以外、大勢の誰かと顔を合わせることもあまりないですし、たとえコンサートでも特定の誰かと一対一で向き合うわけではないので、割と気持ちが楽でいられます。音楽は僕のシャイな部分をカバーできるツールでもあるんです。美化したことを曲で表現するというよりも、人生の細部を歌として共有しています。

Styling by Peter Gunn Sho / Filming Cooperation: 8bitcafe

鼓舞してくれた二人の存在

今までの僕の人生の中で影響を受けた人が二人います。一人は、音楽は食べ物と同じようにアートの一種だと教えてくれた、友人でシェフのHansen(ハンセン)。彼は2014年ごろに趣味だった料理に本気で取り組み始めて、フルタイムのシェフになることを決めたんです。僕たちは似たもの同士で常にお互いを刺激し合い、日々切磋琢磨していました。

もう一人は、福岡の小さなバーでジャズピアニストをしている僕の友人のお父さんの友人、クニモトタカハルさん。音楽やっているなら、と連れて行ってくれたそのバーは、10人くらいが入れる広さで、クニトモさんと彼の奥さんの二人で運営している小さなジャズバーでした。彼は、僕が今まで実際に見た中で最高のジャズピアニストだと思います。本当は彼からジャズを教えてもらいたかったのですが、生徒を取っていなかったので、福岡に行くたびに彼のバーに毎日通い続けていました。そしてやっと少しずつアドバイスをくれるようになったんです。

どんな経験も自分を形成する産物

僕はパンクロックやテクノ、ヒップホップ、ジャズを通ってきました。きっと多くの人もそうかもしれませんが、各ジャンルの好きな要素を組み合わせて、最終的に独自のスタイルになっていくと思うんです。何かをつくるときは自分に正直でいることが大事だと思うので、僕は常に自分に正直なものをつくっています。

主催したイベントが変えた5つ星ホテルの経営方針

DJをしているときと、歌っているときでは全く別の人間になったような感じがします。僕にとってのDJは、パーティーのフロアにいる人たち全員に楽しい時間を提供することが全てです。ロンドンにある黒を基調にした、ハイエンドなアパレルショップ「The Labstore」とコラボレーションして、5つ星ホテルのロビーでパーティーを開いたことがあります。ホテル側は「音をもう少し下げて」「もっと上品に」とオーダーして来たのですが、僕たちは「そんなことは出来ない」と招待した200人とモッシュピットをつくったり、踊っていたんです。その結果、ロビーの一部の家具が壊れてしまうくらいにパーティー自体は白熱していました。ホテル側は僕たちを許してくれて、ぜひまた同じようなイベントをやって欲しいと提案してくれたんです。そのパーティー以来、ホテルはブランディングを見直して、より多くの人がホテルに行けるようになりました。

LAからロンドンに思いがけない移住

ロンドンはフレンドリーな感じでコミュニティが開放されているので、さまざまな文化や人種が混ざり合って、そういう他の文化を受け入れる準備ができているというか、学ぼうという気持ちを持っている人が多い印象です。最初にロンドンに行ったのは、コロナ禍の1年前くらいの、だいたい2018年か19年くらいのことです。音楽を本気でやろうと決めた頃、ちょうどロンドンのレーベルがなぜか声をかけてくれたんです。正直、なぜロンドンのレーベルが突然連絡をくれたのか、不思議でした。すぐに曲とMVをレーベルに送って、直接ロンドンにチェックしに行きました。ちょっと偵察にLAからロンドンに行ったはずが、気がついたら4年間も住んでいましたね。というのも、多くの友人のクリエイターもロンドンにいましたし、自分のニッチを見つけることができて、純粋に楽しかったです。

爆発的に広がるロンドンのアンダーグラウンドシーン

そんな矢先にロンドンだけでなく、全世界で予想もしていなかったコロナによるロックダウンが実施されたのです。僕たちは、人との繋がりを制限された中でもオンライン・オフライン問わず何とかお互いに繋がりを保てるよう必死に模索していました。ロンドンのアンダーグラウンドのシーンは、そんな人たちが集まって心の拠り所のように何かのイベントが活発に行われていたんです。コロナが落ち着いた後は「今日が最後の日」みたいなメンタリティで、ロンドンのパーティーシーンは爆発的に広がり、もはやアンダーグラウンドのシーンはアンダーグラウンドだけに留まらず、いい意味でより多くの人がコミュニティにアクセスできるようになったと思います。さまざまなジャンルやコミュニティが枠を超えて交わり始めているのを見ると、サブカルチャーが以前よりもエネルギッシュになっていることがわかります。数年間、コロナの影響で思うようにクリエイティブなことができなかったり、人との繋がりを制限されたことで、反骨精神が生まれたんです。今もコミュニティは広がり続けているので、ロンドンのアンダーグラウンドシーンがもっと多くの人にアクセスできるようになればいいなと思っています。

アジア文化の美しさを西洋に伝える

21世紀に入って、声を上げられる環境が増えたため、世界的にみても人種差別は以前よりもずっと少なくなったと思いますが、まだ完全に無くなったわけではありません。アジア人は西洋ではマイノリティなので、人種を理由に優先順位が下げられることがあります。しかし、ここ数年間で、アメリカでは大きな変化があり、アジア人やアジア系アメリカ人、アジア系イギリス人などが大きなスクリーンに登場し、名だたる賞を受賞したりメディアを沸かせています。

僕は、西洋人がアジア人に対して抱いているステレオタイプな「アジア人はアジア人とだけ活動する」という考え方が、創造性を制限し、他のコミュニティとの交流を制限しているのではないかと感じています。だからこそ、僕は常に、あらゆる国の人を巻き込んで活動できればと思っています。アジア文化の美しさを西洋に伝え、アジアには西洋のアジア系、アジア系アメリカ人、アジア系イギリス人などの中にも美しい文化があることを知ってもらいたいです。人種の壁を取っ払い、いろんな人たちと関わりを持ち、両方の文化を繋げられたらいいなと思っています。

「質」か「アイデア」

日本には、職人技や美的センスに対するこだわりが根付いていて、そういった文化が音楽やアートにも反映されていると思います。たとえば、日本のものづくりは「完璧で長く使えるもの」をつくることに重きを置いている気がします。家具や音楽、食べ物に至るまで、すべてにおいて「完成度」や「細部へのこだわり」が大切にされますよね。音楽もただつくるのではなく、思考を重ねてつくり上げるというイメージが強いです。「完璧」を目指す傾向が強いがために、その「完璧さ」が時に創造性を抑制することもあります。特に日本のジャズやファンク、クラシック音楽は、その精密さと完成度が際立っていますが、自由な発想や独自性が制限されることがあり、そうなるとどうしてもルールや形式に縛られがちです。

イギリスや西洋の文化では、特にパンクや自由な文化が重要視されています。アイデアの発想が中心となり「品質」や「完成度」よりも面白いアイデアがあれば、それを形にしようというエネルギーが強く、良くも悪くも、結果が予測できません。たとえば、Pink Pantheressのような音楽は、新鮮でクールなアイデアが多いものの、レコーディングや完成度に関しては必ずしも完璧ではないかもしれません。それでも、アイデアが面白いからこそ、その粗さが逆に魅力になっている部分があります。感情をすぐに表現したいという欲求が強く、それが音楽やアートに現れているのではないでしょうか。どちらが「良い」かは一概には言えませんが、両方に良さがあり、アーティストによって選択するべきアプローチが異なると思います。日本の音楽の精緻さと、イギリスの自由さ、どちらも魅力的で、どちらも常に新たな発見があります。

日本語が漂わせる音楽の匿名性

音楽に興味を持ち始めた頃、日本のインストゥルメンタルや、YELLOW MAGIC ORCHESTRAから多くの影響を受けていました。彼らのシンセサイザーを使う方法や音作りの仕方が素晴らしかったので、そういった要素を自分の音楽にも取り入れています。

“Bike Lane”や“Lofty. (Down)”などは、僕の好きな日本の映画のセリフをサンプリングし、歌詞と合うように織り交ぜて制作しました。日本語はすごく表現豊かな言語だと思います。日本語のトーンや、ダイナミクス(音の強弱の表現)の選び方も興味深いです。発音する文字が一つひとつ違うじゃないですか。リズム感もあって、それが僕の音楽とも相性がとても合って、うまくリンクしている感じがします。

「細部へのこだわり」を重んじている日本で、より良い音楽を制作するために東京に引っ越してきました。東京とロンドンの二拠点で活動していくので、近い将来、実験的な音楽をつくっている日本のアーティストとも一緒に制作したいです。

こだわりが詰まっているディテールが大好物

僕は何の作品であっても、細部にまでこだわりが詰まっているものを見ると幸せな気持ちになります。そのアーティストの職人魂が垣間見れたり、隠れたディテールを見つけるのが好きです。この先も、自分の音楽の技術を磨きながら世界中の人が共感できるようなアルバムや曲をつくり出せていると嬉しいです。

常に変化を恐れない

今、いくつかのプロジェクトに取り組んでいるんですが、一番の楽しみを挙げるとしたら、EPのリリースとアルバム制作です。今回のEPに入れる予定の“ALPHARD”は、まさに今の自分を表現した作品になっています。EPのリリースの前に更に2枚のシングルをリリースする予定です。心の底からリスペクトしている人たちと細部までこだわりぬいて一緒に制作できたと思います。このEPの制作過程で、自分のスタイルに大きな変化があって、これまでの僕の音楽を好きでいてくれた人たちの中には、もしかしたら好みじゃない人もいるかもしれません。ですが、この変化にどのような反応があるのか純粋に気になっています。実際、リリースしてみないと分からないので、楽しみでもあります。

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