日本で2025年6月6日に公開となった実写版『リロ&スティッチ』は、全米で3週連続全米No.1、すでに世界興行収入が7.7億ドル (日本円で約1108億円)を突破する大ヒットを記録している。
ディズニーのアニメ映画には、しばしば原作となる童話や伝説が存在するが、2002年の『リロ・アンド・スティッチ』は完全なオリジナル作品だ。プリンセスは登場せず、ファンタジーの王国が舞台でもないこの作品は、ディズニーの中でも異色と言えるだろう。それにもかかわらず高い評価を受け、スピンオフも多数制作されるなど、とても愛された作品である。
そして、今回の実写版では、オリジナルに忠実でありながら、新たな描写の追加によって「子どもの姿を通して大人が学べる」作品としての側面が明確になっている。また、本作が成功した大きな一因には、監督と作品の相性の良さもあるだろう。その理由を記していこう。
※本記事には映画の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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実写化で際立った「現実の問題」のリアリティ
オリジナル・アニメーション作品へのリスペクト、実写ならではのハワイの美しい景観や美術の魅力、そしてエイリアンのスティッチのかわいらしさや「もふもふ」っぷり——実写版『リロ&スティッチ』はあらゆる点で申し分のない出来映えだ。小さなお子さんでも飽きずに楽しめる見せ場が満載で、安心してファミリー層におすすめできる作品となっている。
6歳のリロと18歳の姉ナニは、両親を亡くして2人で暮らしている。ナニは保護者としての能力を福祉局から問われる立場だが、まだ若く経験も浅いため失敗も多い。家には未払いの請求書も溜まっている。
友達がおらず孤独を抱えるリロは、暴れん坊なエイリアン・スティッチと動物保護施設で運命的な出会いを果たし、一緒に暮らすことを望む。
ナニはリロを心から愛しているが、リロは意地悪を言ってきた女の子を押し倒してフラダンスの教室から追い出されたり、社会福祉士の前でまずいことを平気で言う、「困った子」でもある。仕事と妹の世話に追われるナニにとって、スティッチというさらなるトラブルメーカーの存在は受け入れ難い。

そんなナニの悪戦苦闘ぶりや、スティッチのやんちゃなイタズラは、クスッと笑えるコメディでもあると同時に、姉妹の生活を揺るがす深刻な問題としても描かれている。その過程はオリジナル版に忠実でありつつも、少し描写が増えてもいる。実写だからこそ「現実の問題」としてリアルに見えるのも、リメイクの大きな意義だろう。
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大人が見落としがちな、子どもたちの「学び」が描かれる
次々と問題を引き起こすリロとスティッチは「困った存在」なのだが、本作ではそんな2人の成長も描かれる。リロはスティッチの破壊行為に対し、それが「悪いこと」だとしっかり教え、スティッチも自身を「悪い子」だと自己評価するなど、共に失敗を冷静に見つめて反省して学ぶ姿勢を見せている。


2人は、友達になったことをきっかけに、自分の良くないところを反省し、改める社会性を身につけていく。それは大人は気づきにくいかもしれないが、子どもたちには当たり前にある「学び」なのではないかとも思えるのだ。
また今作では、冷静な福祉士の女性のケコアや、ぶっきらぼうのようで優しい隣人のトゥトゥという新たなキャラクターも登場し、18歳のナニよりもさらに大人の立場の人物たちが、彼女らの身を心から案じているように見える。子どもたちの自発的な学びだけでなく、福祉や周りの大人たちのサポートの重要性も再認識できるだろう。


ちなみに、そのケコアを演じているのは、オリジナル版でナニの声を担当していたティア・カレル。トゥトゥ役のエイミー・ヒルも、オリジナル版では青果店で働くハセガワ・リンの声を務めていた。また、スティッチの声はオリジナルと同じく監督のクリス・サンダースが担当しており、『野生の島のロズ』の監督業と並行して本作に参加したとのこと(IMDbでのトリビアより)。こうしたキャスティングから、オリジナルへのリスペクトが見えるのも本作の美点だ。