夜ドラ『ミッドナイトタクシー』(NHK総合)が最終回を迎える。
毎週月曜~木曜の夜10時45分という夜も深い時間に始まるドラマは、魔法使いや宇宙人、未来人に至るまで、多様なタクシーの乗客それぞれの物語を丁寧に描き続けてきた。
乗客を演じるゲスト俳優も、兵頭功海、筒井真理子、鈴木浩介、西田尚美、篠原ゆき子など映画並みの豪華さに。
主人公・象子(古川琴音)と母・葉月(山本未來)の過去や、タクシーの常連客・柴崎八雲(中村蒼)と象子の友人・寿々木麗華(伊藤万理華)の恋の行方も気になる本作について、ドラマ・映画とジャンルを横断して執筆するライター藤原奈緒がレビューする。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承ください。
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「選ばなかった過去」と「選んだ今」の肯定

『ミッドナイトタクシー』第19話のある光景が忘れられない。その日、深夜専門のタクシードライバーである主人公・蘭象子(古川琴音)は、行き倒れるように路肩で寝ていた女性・鎌田ちひろ(筒井真理子)をタクシーに乗せる。やがてタクシーは、ちひろが持っていた地図の目的地にたどりつく。そこにはどこからか照明が地面を照らしていて、満月のように光っている。あくまで現実世界での出来事なのだが、まるでタクシーが月に到着したかのようなその非現実的な映像は、まさにこのドラマらしい光景に思えた。

「月」での出来事は、ちひろにとっての「存在しなかった未来」でもある。象子のことを、ちひろが結婚する前に思いを寄せていたのだろう高校時代の同級生「ミチさん」という女性だと思い込んで話し続けるちひろに対し、最初は否定していた象子だが、最後には「ミチさん」のふりをして話し相手になる。迎えに来たちひろの息子(武田航平)の話によると、「結婚する前の23歳に戻っている」ちひろに、象子は「ミチさん」として「ちひろさんにはきっと、たくさんの幸せが待ってますよ」と投げかける。

認知症を抱えると思しきちひろにとって、「ミチさん」との過去に心残りがあったのだとしても、その後の彼女の未来にたくさんの幸せが待っていたことは、優しそうな息子の存在からして明らかだ。象子はつかの間の会話の中で、「選ばなかった過去」と「選んだ今」を両方抱えて生きているちひろの寂しさを肯定してみせた。象子がちひろに与えたものはきっと大きい。
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ぽっかりと空いた心の穴を満たす透明な器

こうしたやりとりを見ていて、蘭象子は、まるで透明な器のようだと思った。過度に寄り添いすぎず、誰に対しても適切な距離感でただそこにいる。いつもちょうどよく、悩める人々の隣にいて、ぽっかりと空いてしまった彼らの心の穴を満たすのだ。だからこそ、道に迷ってしまったちひろが求めていた「ミチさん」の面影に、不思議なぐらいピッタリと当てはまるという奇跡が起きる。

そして、ちひろの「存在しなかった未来」に付き添うエピソードは、その後、第21話で象子がタクシーに乗せた未来人・イシカワ(鈴木浩介)が担う「過去に戻って依頼者の後悔をなくす仕事」ともどこか重なる。とはいえ、象子は「未来人」と違って、「過去に戻る」こともその人の「後悔をなくす」こともできないのだが。
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完全には満たされることのない孤独の肯定

NHK「夜ドラ」の新たな名作となった『ミッドナイトタクシー』に多くの視聴者が惹きつけられ、夢中になっていったのは、誰もが心に抱く「孤独」に着目したドラマだったからではないだろうか。本作を見ていて何より興味深いのは、登場する誰もが完全には満たされることないまま各エピソードが終わるということだ。

象子のタクシーでは、乗客たちの様々な人生のドラマを垣間見ることができる。基本的には2話完結で展開していく乗客たちのエピソードは、その人たちの人生を優しく照らす、あるいは人生を見つめ直す重要な局面を描いているのは間違いない。それは、象子が翌朝に食べる喫茶「つかれしらず」のマスター・昼川源(竹中直人)が作る、象子がリクエストする、彼女が経験した出来事にちなんだ料理の数々のように。でも、その結末はどれもほろ苦い。

例えば第24話における、常連客・柴崎八雲(中村蒼)とその両親である幽霊の夫婦(三宅弘城、西田尚美)のやりとりだ。そこでは、両親の姿が見えていない八雲の彼らに対する長年の思いの吐露と、それを受けて反省し謝って去っていく両親の、絶妙にすれ違う姿が描かれて終わった。幽霊である両親が見える象子や友人の寿々木麗華(伊藤万理華)が、幽霊である両親の言葉をきちんと通訳し、意思の疎通を図るなどしたら「きちんと分かり合う」展開もあったことだろうが、象子、並びに兵藤るり脚本はあえてそれをしない。完全には分かり合えない人間の悲しみと、だからこそ、互いの孤独を持ち寄って、時に「独りぼっちではなくふたりぼっちの片割れくらいには」なれる小さな幸せを本作は丁寧に紡いでいくのだ。

第27話において、目が不自由な女性・和葉(篠原ゆき子)は付き添ってくれた象子と麗華に対して、大切な盲導犬との別れに抱く寂しさについて「ずっと一緒にいちゃったらさ、自分が特別だってことも、独りぼっちだってことも忘れちゃってたかもしれない」「私はそういう気持ちと一緒に生きていきたいんです。で、たま~に来る独りぼっちじゃないっていう瞬間を大切にしたいんです」と言った。本作は、孤独を「解消」させないけれど、孤独を肯定する優しさがあるのだ。
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最終週直前、ようやく動き出す娘と母の物語

象子にとって唯一無二の存在になりつつある女優・麗華を中心に展開した最終週直前の第7週は、まるで映画『ローマの休日』のような八雲と麗華の切ない恋の顛末が印象的だった。そして同時に、これまでにない景色が映り込んでくる週でもあった。

例えば、シンプルな内装に自分で描いた象の絵が際立つ象子の部屋を玄関の前から眺めたのは今回が初めてではなかったか。また、和葉のリクエストによって訪れた湘南の、眩しいほどに明るい海の景色は、月の光が似合う『ミッドナイトタクシー』のこれまでの雰囲気とは対極にあるものだった。
そして、象子が長年探し続けていた母・葉月(山本未來)が、突然彼女の前に現れた。さらには第28話、本作オープニングのナレーションを務めるリリー・フランキーの声が、今度は劇中のFMラジオのナレーターとして象子が運転するタクシーにそっと寄り添う時、象子の母が書いたのであろう本『今夜ゾウに乗って』の全貌が明らかになる。ここにきて、象子の知らない、象子と母の物語が彼女の中に流れ込んできた。

母に見てほしくて、依頼された雑誌の「30歳の女性のキャリア特集」の打診を受けようか迷う象子と同じように、葉月もまた、会うことのできない娘への思いを、小説やラジオドラマといった創作物を通して届けようとしているのだろうか。いよいよ残すところわずか。似た者同士なのかもしれない娘と母の物語は、そして、いよいよ30歳を迎える象子の心は、どう動くのだろうか。
夜ドラ『ミッドナイトタクシー』

NHK総合にて毎週月曜~木曜夜10時45分から放送中
公式サイト:https://www.nhk.jp/g/ts/34383YW231/