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ダンスミュージックと環境音の狭間へ。maya ongakuが誘う原始的体験

2026.7.15

maya ongaku『LIVE AT LIQUIDROOM』

#MUSIC

音楽より先に踊りがあったのか、踊りより先に音楽があったのか。そんな根本的なことを考えてしまうほど、maya ongaku初のLIQUIDROOM単独公演は、プリミティブな体験だった。今、この場で空気を揺らす音の振動に身を委ねることで、自分の存在を一度手放し、再びそれを取り戻していくような一夜だった。

振り返ってみると、開演前のフロアで流れていた儀式のような音楽から、全てが始まっていたのかもしれない。不規則に聞こえながら、その奥には確かな規則性を持つリズム。そこに耳慣れない旋律が重なり、まだステージには誰も現れていないにも関わらず、会場はすでに日常から非日常へと切り離され始めていた。

耳で聴いているのか、皮膚で感じているのかさえ曖昧になる無重力空間

定刻である18時30分きっかり。ステージの背後にmaya ongakuのシンボルマークが浮かび上がると、聞こえてきたのは水のせせらぎ。少しずつLIQUIDROOMを満たし、きらきらとした金属音や、竹がけらけらと笑っているような乾いた響きが聞こえてくる。初めて耳にするはずの音なのに、なぜか遠い昔から知っていたようだ。

こうして“Water Dream”は、少しずつ音が増えていく。背後のスクリーンでは、ゆらめく煙にも、水の中へ絵の具が溶け出していく様子にも見える映像が流れ、やがてその形がクラゲに変わり、それに合わせるように重なった音は水面に広がる大きな波紋のように、フロアへゆっくりと伝わっていく。

池田抄英(Key / Sax)のサックスの音が加わった頃には、どの楽器がどの響きを生み出しているのかを判別することは難しくなっていた。音の出どころを探ろうとするうちに、耳で聴いているのか、皮膚で感じているのかさえ曖昧になっていく。曲を終えた園田努(Gt / Vo)、は「ありがとう! もう最高!」と感情をあらわにし、その率直な声によって一瞬だけ現実に引き戻されるが、次の曲が始まれば、フロアは再び別の場所へ運ばれていく。

園田努(Gt / Vo)
池田抄英(Key./Sax)

オレンジ色の2つのスポットライトに照らされ、メンバーの姿が影に落ちて始まった“Astral Echoes(反響とゆらめき)”。深いディレイの反響音は、この部屋にあるはずの摩擦をすべて取り去り、身体を床からわずかに浮かせていくようだった。音に包まれているうちに、存在は輪郭を失い、定まった形を保てなくなってしまうような気がした。

まもなくリリースされる新譜から披露された“Flowing(流体思想)”は、園田が曲終わりに思わず「いい曲でしょう?」と問いかけたほどの快作だ。緩やかなギターのアルペジオと、胸の内側へ刺さる低音。ステージ上の後ろ姿は遠くで揺れ、いつの間にか虫の鳴き声に包まれていく。

うっすらと暗い会場で見えてきたのは、存在しているのに普段は意識されないものたちだった。姿の見えない虫の声や、空気の動き、光が照らしているはずの空間。私たちは本当に光を見ているのか。それとも、光によって浮かび上がったものだけを見ているのか。maya ongakuの演奏は、見えないものを意識して見ようとする感覚を呼び起こしていく。

規則的な演奏の隙間へ、不規則な響きが絶えず入り込む“Something in Morning Rain”に、サックスが優雅に空中を駆ける“Melting”の終わりに、夢遊していた観客はようやく現実へと戻ってきたようだった。

ここで第1部は終了。幕間に流れたのは、オリヴァー・ラクセ監督の映画『シラート』のサウンドトラックをはじめ、Aphex Twinなど、先ほどまでとは質感の異なるダンスミュージックだった。幻想世界はそのままに、空気の重心が少しずつ下がっていく。第1部で宙へ持ち上げられた身体を、再び地上へと戻すための時間だったのかもしれない。

心臓の脈拍と重なるタイトな四つ打ち。轟音の底から現れる原始的な行為

怪しげな赤と青の光に照らされ、“Maybe Psychic”で第2部が始まると、最初に届いたのは、身体の芯を直接打つような高野諒大(Ba)の鳴らす低音だった。第1部が、音に揺らされながら身体の輪郭を失っていく時間だったとすれば、第2部は、「自分の存在が確かにここにある」と否応なく気づかされる時間。

タイトに刻まれるビートが胸の内側にある脈拍と重なる。現れては消え、消えてはまた現れる音。“Thinkingscape(思考風景)”で、音の粒は水滴のようにぽつぽつと鳴った。その小さなしずくは少しずつ集まり、やがて大きなうねりへと姿を変える。ギターが大きく歪めば、轟音の底から明確な低音とリズムが姿を現した。

高野諒大(Ba)

ライブもいよいよ終盤、“Anoyo Drive”でフロアの熱気は最高潮を迎えた。そこにあったのは、「踊る」ということよりも、存在が音に共鳴して震えるという、極めて原始的な行為に近いものだった。

「楽しいから踊る」という理由が生まれるよりずっと以前から、人間の身体には心臓があり、脈がリズムを刻んでいた。音が鳴り、身体がただ反応する。そんなプリミティブな感覚が、電気を通した現代の楽器によって再現されていく。タイトに刻まれるリズムの間を縫うように、メロディーが宙を刺す。これはダンスというより、音と身体の関係を最初からやり直すような体験だった。

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