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森七菜が放つ、数秒の存在感。映画『炎上』『国宝』やドラマ『ひらやすみ』まで

2026.6.23

#MOVIE

かつての明るく天真爛漫なイメージから脱却し、近年は複雑な心情を抱えた役柄で圧倒的な存在感を見せている森七菜。2025年の映画『国宝』や『秒速5センチメートル』では報われない切ない感情を見事に表現し、『国宝』では日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞した。映画『炎上』での力強い演技に加え、次回作『藁にもすがる獣たち』では謎めいた悪女役に挑戦するなど、俳優として次々と新境地を開拓し続けている森七菜はいかにして存在感を増していったのか。

森七菜の印象的なキャリア初期作

長久允が監督した映画『炎上』で主人公の樹理恵(通称じゅじゅ)を演じた森七菜。近年活躍が目覚ましいが、ここにきて、さらに新たな姿を見せていることに驚いた。

彼女は、2017年にAmazonプライム・ビデオで配信のドラマ『東京ヴァンパイアホテル』でデビュー。その後は、オーディションで次々と役をものにしていったのだという。

筆者が彼女に初めて注目したのは、神木隆之介がスクールロイヤーを演じたドラマ『やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる』(2018年)であった。生徒役の彼女は、教師から部活動について話しかけられ、「はい」と2回言う短いシーンであっても、何かこちらの印象に強く残るような力があった。

町中で泣いているシーンもあり、その後、自殺未遂をするという重要な役柄だ。感情の表現方法には抑制が効いているのに、「このキャラクターは確実に何かを抱えてるのだろうな」という説得力があった。

声優から歌まで。多彩で多様なキャラクター

一般的には、新海誠の『天気の子』(2019年)でヒロイン天野陽菜の声を演じたこと、そして朝ドラ『エール』(2020年)のヒロインの妹役などで、注目を浴びたのではないだろうか。

同じころ、大塚製薬「オロナミンC」のCMで歌を披露したり、真面目な生徒会長なのに、放送室から自分の歌を放課後の校内に響き渡らせる明るく天真爛漫なイメージが焼き付いた。『やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる』のときのような、暗くて自分の気持ちがうまく表現できない女子高校生とは真逆のキャラクターのほうが、定着したように思った。

https://youtu.be/h0_Rzk0p54w?si=YEMEIsWeexqAGGeJ
ホフディランの楽曲をカバーして話題に
https://youtu.be/bBQAD_7zZBk?si=oEFojNQYPZVcGH3A
YOASOBIのコンポーザー・Ayaseによるプロデュース

その後は、連ドラの主演をするにしても、明るくて無垢で屈託のない女の子を演じる時代が続いていたように思う。正直、このころはそこまで森七菜に関心がなかったのだ。

近年の森七菜、広がり続ける演技の奥行き

ただ、近年の森七菜が演じる役は、個人的には誰よりも興味深くて目が離せなくなってきている。

『国宝』(2025年)でも、吉沢亮や横浜流星、高畑充希が凄みのある演技を見せている中で、実は彼女が演じた彰子という役のことが忘れられない。彼女はこの役柄で第49回日本アカデミー賞 優秀助演女優賞を受賞している。

彰子は歌舞伎一家の生まれで、吉沢亮演じる主人公・喜久雄の妻となる。しかし、喜久雄には、どうも歌舞伎界で立場を得る目的のために彰子に近づいた面があるようだ。喜久雄がスキャンダルにより歌舞伎の舞台に出られず、地方を転々としている間、彰子は献身的に彼を支えるものの、喜久雄は彰子のことをひとつも見ていない(ように見えた)。こういったことは、もしかしたら芸の世界には無意識的にありうることなのではないかとも思えたのだった。

https://youtu.be/DAiq_4YWXow?si=BLh4pKIR0PHP_zO5

映画の批評にはなるが、喜久雄は結局、小さい頃から離れて暮らしていた娘に「見られて」いることで、最後に人生が報われるような結末に向かう。彰子のことを見ていなかったものが、誰かに見てもらうことで報われるということ自体が、残酷であるし、実際にそうなったらたまったものではないが、世の中にはそういうことは存在しているのではないかと思った。

面白いのは、そのあとに出演した『秒速5センチメートル』(2025年)でも森七菜は、主人公の遠野貴樹(松村北斗)に学生時代に恋しているものの、やっぱり自分が彼を見ているほどには、彼から「見られて」いないような、せつない役であった。もっとも、こちらの「見る」「見られる」は、ティーンエイジャーの恋愛にはどこにでもある気持ちの不均衡によるものであり、『国宝』ほどの意味は持たないものではあるのだが、それでも、一生懸命「見て」いるのに、相手には「見て」もらえないときの森七菜の魅力は素晴らしいと思ったし、もしかしたらほかの人が演じたら、ここまでこのような構図に気づかなかったのかもしれないとも思った。

夜ドラ『ひらやすみ』の助演で評価された演技力。多数の賞を受賞

NHKの夜ドラ『ひらやすみ』(2025年)の演技も忘れられない。真造圭伍の同名漫画を原作とした本作。東京・阿佐ヶ谷の平屋に住むフリーターの生田ヒロト(岡山天音)と、山形から上京し同居することになったいとこの小林なつみ(森七菜)として登場する。

NHK夜ドラのInstagramより

なつみは美大生で、周りの学生たちとうまくコミュニケーションすることができないし、漫画を描いていることを周囲に言うことを嫌がっていたりと、自意識が強くて、この年齢なら一度は通るような悩みを抱えていたりする。しかし、そんなアンバランスな姿がチャーミングでいじらしい。

このドラマ、実際の阿佐ヶ谷で撮影していて、登場人物たちの在り方なども、リアルな感覚があるのだが、一方で漫画原作でもあるので、リアルな世界と漫画的な世界が並立しているような不思議な感覚がある。

そんな中、岡山も森も、リアリティと漫画的な身体とを同時に成立させているような雰囲気が醸し出している。そして、岡山と森の演技のトーンがぴったり合致していて、そのことがこのドラマでもっとも重要なことのように思えた。演技のトーンとは、漫画における「画風」が一致しているというような感覚だろうか。

その結果『ひらやすみ』は、「FILMARKS AWARDS 2025」TVドラマ部門優秀賞、「第42回ATP賞」ドラマ部門優秀賞など、さまざまなドラマ賞を受賞し、また森は「モデルプレス ベストドラマアワード2025」助演女優部門で第1位、「第126回ザテレビジョンドラマアカデミー賞」助演女優賞、「第52回放送文化基金賞」演技賞など、俳優としてもさまざまな賞を受賞した。

『炎上』、そしてこれからの森七菜

そして2026年の映画『炎上』である。

https://youtu.be/8ZC-0kiR2Fk?si=EnlDgUcbH7NPWAq-
あらすじ:舞台は新宿・歌舞伎町。居場所を求めてSNSを頼りにたどり着いた少女・じゅじゅが出会う新たな世界。そこで彼女が見つけたものとは。

彼女が演じた樹理恵(じゅじゅ)は、家族や社会から「見られて」いない役なのかもしれない。それでも、彼女自身がインタビューで「可哀そうな子にはしたくなかった」と話しているようにに、大人からの「見られる」=守られるということは、じゅじゅの存在意義には重要ではない、とでもいうような強さが感じられた。

9月に公開される次回作、『藁にもすがる獣たち』で彼女が演じるのは「神出鬼没かつ金至上主義、夜の気配を全身に纏う謎めいた夜職悪女・し~な」なのだそうである。韓国映画版では、カンヌで主演女優賞にも輝いたことのある、チョン・ドヨンが演じた役である。チョン・ドヨンと森七菜、俳優としてまったく色合いの違うふたりだが、それでも、あの怪しい役を堂々と彼女らしく演じている森七菜の姿がすでに私の頭の中には思い浮かんでいるのである。

https://youtu.be/7sH5Zy4KhE8?si=lTAydQcCDV2CX5_b

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