かつての明るく天真爛漫なイメージから脱却し、近年は複雑な心情を抱えた役柄で圧倒的な存在感を見せている森七菜。2025年の映画『国宝』や『秒速5センチメートル』では報われない切ない感情を見事に表現し、『国宝』では日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞した。映画『炎上』での力強い演技に加え、次回作『藁にもすがる獣たち』では謎めいた悪女役に挑戦するなど、俳優として次々と新境地を開拓し続けている森七菜はいかにして存在感を増していったのか。
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森七菜の印象的なキャリア初期作
長久允が監督した映画『炎上』で主人公の樹理恵(通称じゅじゅ)を演じた森七菜。近年活躍が目覚ましいが、ここにきて、さらに新たな姿を見せていることに驚いた。
彼女は、2017年にAmazonプライム・ビデオで配信のドラマ『東京ヴァンパイアホテル』でデビュー。その後は、オーディションで次々と役をものにしていったのだという。
筆者が彼女に初めて注目したのは、神木隆之介がスクールロイヤーを演じたドラマ『やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる』(2018年)であった。生徒役の彼女は、教師から部活動について話しかけられ、「はい」と2回言う短いシーンであっても、何かこちらの印象に強く残るような力があった。
町中で泣いているシーンもあり、その後、自殺未遂をするという重要な役柄だ。感情の表現方法には抑制が効いているのに、「このキャラクターは確実に何かを抱えてるのだろうな」という説得力があった。
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声優から歌まで。多彩で多様なキャラクター
一般的には、新海誠の『天気の子』(2019年)でヒロイン天野陽菜の声を演じたこと、そして朝ドラ『エール』(2020年)のヒロインの妹役などで、注目を浴びたのではないだろうか。
同じころ、大塚製薬「オロナミンC」のCMで歌を披露したり、真面目な生徒会長なのに、放送室から自分の歌を放課後の校内に響き渡らせる明るく天真爛漫なイメージが焼き付いた。『やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる』のときのような、暗くて自分の気持ちがうまく表現できない女子高校生とは真逆のキャラクターのほうが、定着したように思った。
その後は、連ドラの主演をするにしても、明るくて無垢で屈託のない女の子を演じる時代が続いていたように思う。正直、このころはそこまで森七菜に関心がなかったのだ。
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近年の森七菜、広がり続ける演技の奥行き
ただ、近年の森七菜が演じる役は、個人的には誰よりも興味深くて目が離せなくなってきている。
『国宝』(2025年)でも、吉沢亮や横浜流星、高畑充希が凄みのある演技を見せている中で、実は彼女が演じた彰子という役のことが忘れられない。彼女はこの役柄で第49回日本アカデミー賞 優秀助演女優賞を受賞している。
彰子は歌舞伎一家の生まれで、吉沢亮演じる主人公・喜久雄の妻となる。しかし、喜久雄には、どうも歌舞伎界で立場を得る目的のために彰子に近づいた面があるようだ。喜久雄がスキャンダルにより歌舞伎の舞台に出られず、地方を転々としている間、彰子は献身的に彼を支えるものの、喜久雄は彰子のことをひとつも見ていない(ように見えた)。こういったことは、もしかしたら芸の世界には無意識的にありうることなのではないかとも思えたのだった。
映画の批評にはなるが、喜久雄は結局、小さい頃から離れて暮らしていた娘に「見られて」いることで、最後に人生が報われるような結末に向かう。彰子のことを見ていなかったものが、誰かに見てもらうことで報われるということ自体が、残酷であるし、実際にそうなったらたまったものではないが、世の中にはそういうことは存在しているのではないかと思った。
面白いのは、そのあとに出演した『秒速5センチメートル』(2025年)でも森七菜は、主人公の遠野貴樹(松村北斗)に学生時代に恋しているものの、やっぱり自分が彼を見ているほどには、彼から「見られて」いないような、せつない役であった。もっとも、こちらの「見る」「見られる」は、ティーンエイジャーの恋愛にはどこにでもある気持ちの不均衡によるものであり、『国宝』ほどの意味は持たないものではあるのだが、それでも、一生懸命「見て」いるのに、相手には「見て」もらえないときの森七菜の魅力は素晴らしいと思ったし、もしかしたらほかの人が演じたら、ここまでこのような構図に気づかなかったのかもしれないとも思った。