弾き語りへの迷いを抱えるロックバンドbetcover!!の柳瀬二郎が、シンガーソングライター・前野健太に相談を持ちかけた。東北から新潟へ、6泊7日の弾き語りツアー『相談』。電車移動、夜通しの語り合い、そして初日の盛岡で起きた劇的な変化──。21歳差の二人が旅の中で見つけた、表現者として生きることの恐れと喜びを語り合う。
※本記事はスペースシャワーTVのアーカイブサイト「DAX」のインタビュー企画「My Favorite X」のテキスト連動版としてお送りします。
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弾き語りをやめるかどうか、悩んでいた柳瀬二郎
―お二人の出会いを聞かせていただけますか。
前野:最初は柳瀬さんから誘っていただいて、4年前ぐらいに下北の440で対バンしたんですね。本当はバンドで誘ってもらったけど、スケジュールが合わなくてソロで出演することになり、その会場で初めて一緒にライブした記憶があります。
柳瀬:僕はその前からずっとファンで、それこそに中学生の頃から聴いてました。前野さんは、僕が音源をお渡ししたら聴いてくださって、メールで褒めていただいたのを覚えてます。
前野:え? そうだっけ?
柳瀬:はい。褒めてくれました。
―他のミュージシャンから音源もらったとき、ちゃんと返事をするんですか?
前野:そうですね、ライブに誘ってもらったら聴いてから考えます。その時は頂いた音源がめちゃくちゃ良かったので、(対バン)ぜひお願いしますと返事をしました。

シンガーソングライター、俳優。1979年2月6日生まれ、埼玉県入間市出身。2007年『ロマンスカー』によりデビュー。ライヴ活動を精力的に行い、「FUJI ROCK FESTIVAL」「SUMMER SONIC」など音楽フェスへの出演を重ねる。俳優活動においては、主演映画『ライブテープ』が第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点部門」作品賞を受賞。NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』他、TVドラマ、CM、映画、舞台に出演。エッセイ集『百年後』を刊行するなど、文筆活動にもファンが多く、他アーティストへの楽曲・歌詞提供も行う。
―ちょっと意地悪な質問なんですけど、ライブに誘われてちょっとイマイチだなと思ったときはどうするんですか?
前野:僕は「あまり乗り気がしないので」とか言っちゃいますね。素直に。
―柳瀬さんはどうですか? 他の方から音源頂いたり誘ってもらった場合で、ちょっと難しいかなと思った場合は。
柳瀬:リアルにマネージャーが対応してくれています(笑)。
―まあ、そうですよね(笑)。今回の『相談ツアー』は素晴らしい組み合わせだと思ったんですけど、どんな経緯でこの企画に繋がったんですか?
柳瀬:自分は普段betcover!!というバンドをやっているんですけど、1、2年前ぐらいから弾き語りも並行してやってまして。ただ、どうも自分として上手く表現できない、上手くやれない感覚があって、もう弾き語りはやめようかなと思ってしばらくやってなかったんです。僕は石橋英子さんにも大変お世話になっているんですけど、石橋さんが夏に甲府で『シャッター節』というイベントを開催されてて。それに、僕も誘っていただいて、そこで久しぶりに演奏したんですね。前野さんも出てました。
前野:2025年の8月だよね。
柳瀬:その時になんとなく、ふっとマエケンさんとツアー旅をしたいなと思って、そんなことを言った覚えがあります。「冬の寒い時期に、北の方に、寒いところに前野さんと行きたいです」と。

東京都調布市出身のシンガーソングライター。ロックバンドbetcover!!のボーカル。全楽曲の作詞・作曲・編曲を担当。
前野:僕はその更に1年前、2024年の夏に『世界歌自慢大会』というイベントを昭島市民会館で開催して、柳瀬さんに出ていただいて。その時期には「弾き語りはもういい」と言ってたんですよ。その後、甲府でツアー旅の話が出たんだけど、その後なかなか会えずで全然進められなくて。ようやく会えたのが、去年の11月末だったよね。
柳瀬:そうでしたね。
前野:「どうする? あれやります? もう寒くなってきちゃったけど」って言ったら、「いや、やりたいです」と。分かりましたと、僕のスタッフに動いてもらって、一気に東北から新潟のスケジュールをバタバタと決めました。
柳瀬:言い出しっぺなのに何にもしていない。やりたいとしか言わずに段取り組んでもらっちゃって、すみません。
前野:(笑)

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弾き語りでツアーを回りたいというよりは、マエケンさんと旅に出たかった

―「弾き語りを上手くやれない感覚」とは、具体的にどんな感じなんですか?
柳瀬:マエケンさんや友人も含めて、周りに歌を生業としている人が多かったんです。自分もそこに憧れがあったので、迫力のある歌を歌いたいとずっと思っていたんですけど、実際は自分の中で何かしっくりこなくて。そこを目指してずっとやってきたんですけど、それこそ『世界歌自慢大会』に出演させてもらった時に、「俺は歌の人じゃないな」と思いまして。
なぜかというと、元々バンドミュージックとか映画のサントラとか、歌よりも曲の方が好きで、最初は歌に対してあんまり自信がなかったんです。そんな中で、『世界歌自慢大会』の時に(他出演者が凄くて)打ちのめされまして。「もう弾き語りはいいかな。自分の出来ること、バンドで頑張っていけばいいかな」と実感しましたし、そもそも弾き語りの楽しみ方が分からなくて……そう、一番の理由は、楽しみ方が分からなかったという点ですかね。そんな悩みを、ツアー初日の盛岡でマエケンさんに相談することになりました。
前野:柳瀬さんが「もういいかな」と思ってた弾き語りを、今回はやりたいかもって思ったのは、どうしてなんですか?
柳瀬:それは弾き語りでツアーを回りたいというよりは、マエケンさんと旅に出て、色々先輩に何か教えてもらえるかも、道が拓けるかもしれないというか。いつも相談に乗ってくれてたので、もうちょっと密な時間、5日間くらい一緒にいたら何かが変わるかも、と思いまして。
前野:明らかな才能の持ち主で、すごい音楽をやられているのに、そう言われても意味が分からないな(笑)。

柳瀬:12月からこのツアーがあるから大丈夫だというか、このツアーを経たら、いろんな悩みが全ていい方向に行くんじゃないかと思ってました。実際今は弾き語りもすごく楽しくて、かなりいい方向に向かってます。
初日の盛岡は演奏前に動悸がして、ちょっと落ち込んだんですけど、その後マエケンさんに「弾き語りが楽しくないです」って相談したんです。楽しくないというか、自分の音楽のプライドを自分で傷つけてる感じがあって。もちろん真剣に誠意を込めてやってるんですけど、自分が楽しめないと人には響きませんし、「まず自分が楽しむためにはどうしたらいいんですか?」と相談しました。盛岡でライブが終わって、夜の9時から午前3時半までの6時間半、レコードが聴ける良いスピーカーがあるお店だったんですけど、そこのマスターが好きな音楽聴いていいからと、お店に居させてくれたんです。マエケンさんも「人がどうっていうより、自分がやりたいようにやればいいよ」って言ってくれて。
前野:うん、そのバーのマスターと奥様が音楽をいい音でかけてくれて、色々話して。俺からアドバイスなんてできないけど、お店やお店の人から何かヒントというか、直接的じゃないけど、そういう普段バー営業している場の装置というか、そこから何か伝わるものがあった気がします。次の日の柳瀬さんの表情が全然違ったもんね。
柳瀬:夜中3時半の時点で、「ライブがしたい、言われたことを試してみたい」って思ったんですよね。
前野:早いんですよ。そして柔軟なんだよね。頑固そうに見えるし、こだわりもあるんだけど、すごい柔軟で、次の日には前の日話したことを全て試してたもんね。
柳瀬:初日と真逆のことをしてました。
前野:その変化がすごかった。
柳瀬:2日目の演奏がすごい楽しくて、これ楽しいな、弾き語り楽しいなと。
前野:もう初日で終わったんだよね。相談ツアーがもう解決(笑)。
柳瀬:でも1日目、2日目、3日目と、悩みを1個ずつ用意してきてたんです。一個一個話したいなっていう気持ちだったので。

前野:そうだった。移動中、まだまだやっぱり(悩みが)あったんです。今回あえてスタッフを同行させず、列車の長距離切符で二人だけで移動して。時間がいっぱいあって、飲み屋でも移動でもずっと話して。呼び方もだんだん酒が入ってくると「やなちん」とか。でも次の日、朝会うと「柳瀬さん」に戻るんですけど(笑)。
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お互いリスペクトし合う、音楽と人柄。全身芸術家・柳瀬二郎におののく
―普通はそこまで一緒だとストレスも感じるんじゃないですか?
柳瀬:僕はないです。
前野:僕はあります(笑)。それは柳瀬さんだからというよりも、基本的に一人行動が好きなんですよ。だからバンドもできないし、一人で旅して一人で移動して歌って、また一人で次の街に行くという。柳瀬さんの方が集団で、バンドで動いているから慣れてるんでしょうけど、俺の方が誰かと一緒にいることに慣れてないんだと思います。あと、年齢も僕の方が21も上なんですよね。自分にはいっぱい先輩がいるわけじゃないけども、今まで良くしていただいたので、年下の子にはやっぱり先輩をやらなきゃいけないじゃないですか。初めてこの二人で、先輩として旅に、しかも相談というツアー名も付いちゃってるし、何かそれらしくしなきゃいけないと。全然そんな人間じゃないのに、っていうプレッシャーで押しつぶされそうになりました。
柳瀬:僕にとっては大先輩だから、楽です。
前野:そんなに慕ってくれる年下のミュージシャンなかなかいないし……
柳瀬:めちゃくちゃ慕われるはずなんですけど……
前野:慕われる「風」なんですよ、多分。
柳瀬:そうなんですかね。俺は無茶苦茶慕ってます。
前野:いやいや、恐縮ですよ。
―マエケンさんの音楽のどんなところが好きで、人となりのどういうところに惹かれるんですか?
柳瀬:僕、それについては直接毎日言ってました。マエケンさんの音楽の何が好きかという話を1日1回必ずしてたんです。それを凝縮して、うまいこと言えるかな……
前野:(照笑)
柳瀬:この旅で初日に気づいたんですけど、僕、歌ってる人が前面に出てくる音楽も好きなんですけど、マエケンさんはギラギラのスーツで、MCもあって、マエケンさんが前に出てるようで、歌い出すとその歌の中の人たちがグッと前に出てくる。歌ってる時、マエケンさんがいなくなるみたいな、黒子になる感じがあるから、多分好きなんだろうなと思います。僕は風景的な音楽が好きで、歌というよりは、オーケストラというか、車窓を流れる風景とか、物語っぽい音楽とか、あんまり現実にいないけど、ちょっと繋がるみたいな感覚が好きなんです。マエケンさんが歌うといろんな登場人物が出てくる。そこが一番好きなポイントなのかな。
前野:あとでお金を受け取ってください(笑)。ありがとうございます。

―人となりについてはどうですか?
柳瀬:本当に威張らないというか、僕みたいな20歳も下のペーペーに対して最初から低姿勢で。僕が嫌いなミュージシャンは、みんな上から来る感じがあるんですが、好きなミュージシャンって、大体ミュージシャンミュージシャンしてないんです。マエケンさんは初めてお会いした時からそんな感じでした。僕もそうなりたいなと思ってます。
―でも、前野さんは誰に対しても低姿勢なわけじゃないですよね。
二人:そうですか?(爆笑)
―この対談企画の撮影を前野さんに打診した時に、最初はトークを撮られるのは得意じゃないので遠慮します、という返事だったんです。でも、前野さんが柳瀬さんに「こんな話が来てるんだけど」って提案したら、「それは面白そうだから是非やりましょう」という話になりました、と。それって、前野さんの意思を曲げてまで、柳瀬さんがやりたいと言ってくれてるからやります、ということですから、相手のことをよほどリスペクトしてないと言えませんよね。柳瀬さんへの愛はメールの文面からも感じました。
前野:そうなんです。全くそうなんですよ。というか、全部俺が決め過ぎちゃうと面白くないというか。柳瀬さんの意思が大事なツアーになると思ったので、対談企画のオファーメールをプリントアウトして、喫茶店でようやく会った時に見てもらったら、「全然やりたいです、むしろ(ツアー最終日の)新潟に来ていただきましょう」という反応でした。
柳瀬:すみません、僕自身も新潟に縁があって、東京より旅の終着点で撮影してもらった方が鮮明に喋れるかなと、そういう理由がありました。わざわざ来ていただいてありがとうございました。
―前野さんは柳瀬さんのどんなところが好きなんですか?
前野:曲が本当にいい。いいというか、僕はすごい好き。旅の途中で柔軟に色々チャレンジしていくところとか。途中待ち時間で画材屋さんを見つけたんですよね。会場の近くだったので2人で入ったんでけど、柳瀬さんが水彩画セットのポケットパレットを買って、移動中に早速描いて。それがものすごい良くて。ライブの後に二人で話したりすると、すごく落ち込んで、もうもうダメかもしれない、みたいなになるんだけど、次の日はなんかケロっとしてるんですよ。それを見てると、柳瀬さんはやっぱり芸術家だなと。この旅で分かったのは、音楽はもちろん素晴らしいけど、柳瀬さんは全身芸術家です。
柳瀬:(照笑)

前野:っていうのが俺が6日間一緒にいて一番思ったことですね。今は音楽にどっぷり浸かってものすごい熱量でやられているけど、絵もすごくいいし、好きだって言ってた造形をやっても良いだろうし。映画音楽をやりたい、ゆくゆくは映画も撮りたい、そういうのも多分絶対面白いだろうし、もはや全身芸術家です。ダメなところも見せてくれるんですよ。初日に、もう体調悪そうだし、10時ぐらいでちょっと今日は寝ますかって言ったら、すごい真顔で「話したいんです、ここで話したいんです」と。そこからこの人やっぱりちょっと違うなっていう、全部見せてくれる芸術家・柳瀬二郎にものすごくおののいてます。俺はめちゃくちゃ普通だから、やっぱりこういう人が芸術家なんだなっていうのを、この6日間で本当に強く感じました。

柳瀬:恐縮です。
前野:本当に年とか全然関係ないです。たまたま21年早く生まれただけで、芸術家として本当にかなわないです。
柳瀬:いやー恥ずかしい。酒入ってないのにシラフでこれは。
前野:もうしょうがないよ。
柳瀬:やばいやばいです。もうしょうがない。そうですね、しょうがないと思います。