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小袋成彬が語る自身の生い立ちや音楽との出会い、自分らしくあるための挑戦

2025.10.8

#MUSIC

さいたま市長選に出馬し、周囲を驚かせた音楽家、小袋成彬。出馬会見以来の『別所沼公園』を訪れ、自身の生い立ちや音楽との出会いから、政治に挑んだ理由、そして現在の心境を語ってもらった。

※本記事はスペースシャワーTVのアーカイブサイト「DAX」のインタビュー企画「My Favorite X」のテキスト連動版としてお送りします。

小袋成彬(おぶくろ なりあき)
1991年生まれ。埼玉県さいたま市出身、イギリス在住のミュージシャン。繊細かつ力強い歌声と綿密なアレンジスタイルが特徴的で、日本と海外の音楽シーンをつなぐ活動を展開している。立教大学を卒業後、プロデューサーのYaffleとともに音楽プロダクション「TOKA」を設立。柴崎コウやOKAMOTO’Sなど数々のアーティストの作品に携わっている。2018年に宇多田ヒカルをフィーチャーしたシングル「Lonely One」でメジャーデビュー。2018年4月発表のデビューアルバム「分離派の夏」は「第11回CDショップ大賞2019」、2021年のアルバム「Strides」は「SPACE SHOWER MUSIC AWARDS」にノミネートされた。2019年以降、活動拠点をイギリスに移し、ジタムやDreamcastmoeなど世界各国のミュージシャンとのコラボレーションを展開。2025年1月に3年ぶりとなるフルアルバム「Zatto」をリリースし、2月には初のエッセイ集「消息」を発表。2026年1月には初のBLUE NOTE公演を予定している。

同調圧力への抵抗に目覚めた野球部時代

小袋:この公園ね、別所沼公園。再来年で100周年かな。公園協議会が、この100年で溜まりに溜まったこの公園の看板を数えたんですよ。全部で314個あって、そのほとんどが「ボール遊び禁止」「お静かに」(苦笑)。日本の縮図ですね。

―公園好きですよね。ロンドンに行って「公園の良さ」に気づいた感じ?

小袋:自然は昔から好きです。ロンドンの公園には毎日行ってたし、自然の恵みを受けて体で感じることが大事だし、スポーツができる、球技ができるということも大事だと思います。ラグビーやサッカーができる、野球ができる、クリケットができる。そしてそこに人が集まってコミュニティが生まれる。そういう場所が公園ですよね。

だから俺もサッカーしに行くし、毎日散歩するし、水辺で水鳥をずっとぼーっと見てるとか、その間に歌詞を考えるとか、彼女と歩くとか散歩するとか。そういう場所が好き、そういうのが公園の役割だと思う。(近隣施設を指差し)あそこも日比谷公園みたいな屋根のあるドーム型の場所があるんだけど、「お静かに」って書いてあるから。それを変えたくて立候補したんだけど、難しいですね。

―「さいたま市に生まれたから、今の自分が在る」みたいなことって何かあります?

小袋:今でも実家はさいたま市にあるけど、小学校まで地元にいて中学から外に出たんです。多分その時から外に出て行きたかったんだと思う。環境を変えたくて東京に住んだし、イギリスも住んだし、モチベーションを出す為には環境を変えるってことが一番大事だから。どんどん殻を破って飛び出していくっていうのが、自分がすごくエキサイティングだと思ってることなので、それをずっと続けてたって感じかな。

―小・中・高と野球やってましたよね? 中学校も野球がしたくて進学したんですか?

小袋:はい。野球やって分かったこともたくさんあります。同調圧力に負けちゃダメだなって思った。高校の野球部は甲子園を目指すことが前提で全てが動いているわけですが、高2の時に「どうでもいいや」ってなっちゃって、吹っ切れたんですよね。そして、初めて3日間ぐらい野球をサボったんです。そこで「何か洗脳されてたな」って気づいて。自分がやりたいことを押し殺してたなって。その時にめちゃくちゃ世界が広がった気がしました。

そこから制服を着て通学するのをやめて、野球のバッグ(高校名が書いてあるバッグ)もやめてTOMMY HILFIGERに変えて、その格好で練習に行ったらなんか凄く心地よくて。自分らしくいることの殻を破った感じがしたし、そんな高校球児いないですよね。その辺からやりたいと思ったことに、従順になればいいなと気づきました。それは野球部だったからこそのきっかけです。

―甲子園を観てると、坊主が「当然でしょ」みたいな空気も無くなった気がしますが……

小袋:いや、まだありますよ。絶対「刈り上げなきゃいけない」っていうさ、あれも坊主と一緒じゃない? 「側頭部だけは刈り上げておけ」みたいな。だからロン毛の球児に出てきてほしいよね、安仁屋(漫画『ROOKIES』)ぐらいの。俺は応援しちゃうよ。

プロデューサーからアーティストへの変貌

―音楽との出会いはどんな形でしたか?

小袋:小学校2年生か3年生の頃に子供用のギター買ってもらって、そこから練習するようになって、自作のスクラップ・ブックで好きな曲の歌詞とコードを書いて、自分でファイルにまとめて練習してました。中学の文化祭でギターを弾いたり、そこからCDの貸し借りとかするようになったし、TSUTAYAで1位から10位までCDを全部借りてMDに入れてずっと聴いてましたね。

中2か中3ぐらいの時にiPodが出てからは洋楽に触れる幅が一気に広がって、Oasis、AC/DC、Iron Maidenを聴くようになりましたね。Sigur Rós、Olafur Arnaldsとかは高校ぐらいの時かな。大学1年生でブラックミュージックに目覚めて、Raphael Saadiq、Jamiroquaiにめちゃくちゃハマって、Acid JazzからのJazzanovaとかJazztronikとか、あっち系にどんどんいって。

20歳ぐらいの時James Blakeに辿り着いて、衝撃を受けました。今同じ時代で鳴ってる新しい音楽があるんだってことに気づきましたね。ちょうどDisclosureが流行り始めてて、FKA twigsが新譜出したのはその頃だったかな。そこからXL Recordings周りのワークにドハマリして、SBTRKTやSamphaが出てきて、そしてFrank Ocean、Odd Futureも。「ヤバイな、これは俺もやらなきゃ、音楽やりたい」ってなりましたね。

―ここまで聞いてると、同じ世代だから一緒の音楽遍歴ですね。

小袋:そう、同じ世代の音楽好きなら多分通ると思う。そこからだんだん、ハウスミュージックとかテクノにも触れ始めて、24~25歳ぐらいまで特に雑食でした。今でも雑食だけど、28歳でイギリスに行ってそこからレゲエとかダブとかも知って、ハウスミュージックや、テクノの本場を知って。レコード好きの連中に会って情報交換してたら、俺も相当な音楽好きなんだなってことに気づいた。ロンドンを中心にした、端の端にいるレコード好きな連中と、一緒に話が通じることの嬉しさ。そこから俺が知らなかったソウルとかブルースの世界にハマって今に至るって感じです。

―1st Album『分離派の夏』をリリースした時のインタビューで、表現者としての道を志すきっかけは、「突然雷のようなモノに打たれた」と書いてあって……

小袋:大学卒業してから、音楽があまりにも好きだったから、音楽に携わる仕事がしたくて、レコードレーベルを立ち上げたり、他の人をプロデュースしたりっていう仕事をずっとやってました。自分が何かを表現したいというよりは、自分の知識やスキルを使って、いろんな人が良い音楽を作れたら良いなと思って。それが喜びだったんですよね。でも、26歳ぐらいで突然「何か自分で残さないとダメだ」って思った瞬間があって。宇多田ヒカルさんの『Fantôme』に参加したり、トップレベルの人たちと仕事した時に、その人達のアーティスト精神に触れて、俺も何か残さなきゃって思ったんです。

そこからマインドをガラッと変えて、アーティストとしての自覚や、自分でクリエイトすることに喜びと使命感みたいなものを感じるようになりました。そもそも歌ってるだけで自分で曲作ってない人、パフォーマンスに徹してる人達の音楽に全然感動しなかったんですよね。いざ自分が作る側にまわって、自分でも感動しない音楽を作って「続かないな、この仕事」って思ってしまって。だったら自分でやろうと。

でもデビューした時は全然実力もないし、大した人間じゃないんだけど、メジャーレーベルの力のおかげで色々テレビとかも出させてもらえて、本当に良い経験をしたんだけど、同時に自分の実力のなさと世間との期待値とのギャップから「えっ?」と思うようなことが多々あって。売れようって思ったことは未だに一度もないわけ。売れようと思ったら、自分が格好よくないと思ってる人たちとも絡まなきゃいけないじゃん。会ったこともない人に嫌われなきゃいけない、その対価として大きい何かを得るんだろうけど。俺、イヤだったんだよね。嫌われたくないとかじゃなくて、格好いいやつに格好いいって言われたいので。格好いいやつに格好いいって言われることが、俺の喜びなわけ。俺がかっこいいモノを作ってるんだから当たり前じゃん。それが今でもずっと変わってないの。そしたらこんな感じになっちゃった(笑)。

現状はすごくありがたいなって思います。滅多にアルバムを出さず、2年に1回しかライブやらないで、それでも6000人の人が来てくれて。ライブでもお客さんが(スマホで)映像を撮らない、そんなコミュニティないじゃん。それはすごいことだなって思う。本当に恵まれてるなって思います。

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