HALLEYの1stアルバム『From Dusk Till Dawn』は、圧倒的なクオリティとポテンシャルを感じさせる素晴らしい内容になっている。このインタビューでは具体的な音作りのことから、歌詞や作品の空気に表れている5人の思想まで、この豊潤な音楽が生まれた所以を探らせてもらった。
アルバムを締めくくる“Write Me a Love Song”ではこう歌われる――<“I love you” isn’t enough>(「愛してる」じゃ足りないんだ)。このインタビューの最後に辿り着いたのは、HALLEYという表現者たちの根本には「愛」を伝えたいという想いがあること。しかし、愛とは、想いとは、言葉で伝えきれないものばかりだ。だからこそHALLEYは言葉にならないものまで音の振動に乗せる。そうして作り上げられたHALLEYの音には、「音楽」でしか形容できない美しいものが詰まっている。
INDEX
僕らの真摯な音楽への愛とか、お互いへの愛とか、5人の中で育んできた愛とかをそのまま作品の中で見せられれば、ということが如実に描かれているんじゃないかなと思います。(てひょん)
―アルバム『From Dusk Till Dawn』、とても素晴らしい作品だと思いました。1枚目のアルバムにして、間違いなく、この先もバンドを象徴する代表作になると思います。何が素晴らしいかって、とにかく「音楽」としてただただ素晴らしい。
西山(Key):一番嬉しい。
清水(Dr):それ以外いらない(笑)。
―「音楽として素晴らしい」ということをより言語化しつつ、どうやってこの音やそれをまとう空気が生まれたのかを今回のインタビューで探っていきたいと思うんですけど、まず「From Dusk Till Dawn=黄昏から彼誰まで」というテーマがどういったところから出てきたのかを聞かせてもらえますか。
てひょん(Vo):僕らの生い立ちや成り立ちとかも込めてはいるんですけど、「僕たちが音楽をしている時間」というところに一番の重きがあると思っていて。本当に夜から朝まで音楽をしていて、そこで生まれてきた僕らの音楽をここに込めているという意味合いが一番強いかなと思います。
西山:そこが集まってる時間だったしね。夕方に集まって朝まで制作して、っていう。めちゃくちゃ等身大。
登山(Gt):もともと僕がコアコンセプトとかを考えるのが好きで。実は2年くらい前からHALLEYの3枚目まで考えていて、そこから逆算して「1枚目は『時間』をテーマにやろう」ということを決めていたんです。
僕は、バンド自体がひとつの人格であり作品でもあるというイメージがあって。HALLEYという作品を完成させていく過程で最初に何をやろうかを考えた時に、「じゃあHALLEYが持つ時間って何だろう」というところから、てひょんが言ったように「制作の時間」を拡張して形にしたいなと思ったんですよね。出発点としては、この時間帯が、バンドがうまくいく瞬間と密接だった体験が自分の中にあったことで。その体験を先立てるとうまくいくんじゃないかなと思って、形にしたいという考えもありました。
てひょん:でも不思議なのが、たとえば“Whim”の歌詞(<東の雲に日が灯るまで>、<昨日と同じ朝の光>など)はアルバムのことを共有する前からすでに僕が書いていたもので、HALLEYを組む前にソロで出した作品の中には“東雲”という曲もあって。他にもみんなが同じことを考えているタイミングが多くて、お互いの意思が噛み合っていたんですよね。
登山:頭の中でなんとなく12曲くらいでどの辺にどういう曲が欲しいかという構想まであって、「1曲目に“Daydream”という曲があったらいいよね」という話をしたら、ちょうどてひょんが“白昼夢”という曲を書いていたり。偶然があった1枚だなと思います。
てひょん:晴(登山)の優しいところは、最初のコンセプトシートはけっこう空っぽにしておいてくれるんですよ。骨組やアイデアの着火剤となるところだけは抑えて、他の4人が入る余地を作ってくれる。だから5人それぞれの意識が対等に反映されていると思いますね。
―今の会話だけでも、なぜ素晴らしい音楽を生み出すことができたのかをいくつか語ってくれたと思いました。ひとつ目は、5人の意図 / 糸が、偶然にも必然にも絡まり合って1本の太い意図 / 糸になっていること。ふたつ目は、「バンドというひとつの人格を大事にしている」というところですよね。きっと5人それぞれが表現者として、自分の生活や人生を音に乗せようとする意識がありつつ、HALLEYでは、HALLEYというひとつの生命体としてのバンドストーリーや日々を音にすることを意識している。だから「HALLEYで音楽を作っていた時間帯そのものを作品にする」という発想になったのかなと。
てひょん:そうですね、まさに。
登山:ぐうの音も出ない(笑)。
西山:それが自然体だしね。
てひょん:そう、自然体なのも重要なポイントで。僕の歌詞の書き方もそうなんですけど、かっこつけたくない。自分を大きく見せることが苦手だし、かっこよくないと思っちゃうので、僕らのありのままをいかに綺麗に見せられるかというところがありました。寝起き5秒後の顔をみんなに見せるわけにはいかないからちゃんと化粧はしつつ。自分たちができるすべてのことを詰め込むけど、虚勢とか虚栄ではない。僕らの真摯な音楽への愛とか、お互いへの愛とか、5人の中で育んできた愛とかをそのまま作品の中で見せられれば、ということが音楽で如実に描かれているんじゃないかなと思いますね。
INDEX
バンドって、現実なんだけど幻想的なところがある気がするんですよね。HALLEYでその答え合わせをしている感覚もある。(登山)
―「時間の流れ」に対して、HALLEYにはどういう考えがあって、この作品でどのように表現したのかを、もう一歩踏み込んで聞かせてもらえますか。
高橋(Ba):音楽って、スタートボタンを押してから終わるまで時間が流れていくじゃないですか。『Daze』(2023年9月1日リリースの1st EP)のアートワークでは、ビッグバンがあって地球や光が生まれて時間という概念が始まった瞬間みたいなものを表したんですけど、それと、音楽を作って、それが流れ始めて終わるまでが似ているなと思っていて。ひとつの音楽が流れ始めてみんながそれに集束していくという、セッションとか僕らがやりたいジャム的な音楽とも親和性があると思うし。自分的にはそういう意味を勝手に重ねてました。
てひょん:めちゃくちゃ素敵だな、それ。
―音楽とは時間芸術であり、HALLEYは、曲が始まってから終わるまでにどういう流れを作ってカタルシスを生むのかということを各曲でめちゃくちゃこだわっていると思うし、0.1秒、0.01秒とかの単位を調整しながらいかにグルーヴを作るかにも相当こだわっていると思うんですね。
全員:やったねえ!
清水:確かに、音楽と時間ってどう考えても切り離せないというか、一緒に存在するものではありますよね。
てひょん:時間が流れるところには人がいるわけで、人がいると感情が生まれて、感情に動かされた人間はまた生きていくわけですよね。「From Dusk Till Dawn=黄昏から彼誰まで」の時間帯は曖昧だから、迷ったり、喜怒哀楽が生まれたり、時には自分のセルフステイトメントをはっきり言える時が来たり、少し寄り道して人への愛を歌ったり、曲たちがそれぞれを語っていくというのが僕のアルバムのイメージで。12曲かけてそれぞれの紆余曲折が描かれているのがこのアルバムの聴き応えのポイントかなとも思います。だから「時間とはどういうふうに考えますか?」と聞かれると、時間は僕らが生きた今までの軌跡です、それがこのアルバムです、という感じですね。
清水:HALLEYという人格が、(バンドを)組んでからリリースまで歩んだ軌跡だよね。
登山:『From Dusk Till Dawn』は抽象概念としての「時間」で、ひとつ前のEPは「Daze」と「Days」を絡めて「日々」という単位を表していて、シングル3連作はもう1個単位を区切って「昼」(1st Sg『Set Free』)、「夜」(2nd Sg『Whim』)、「朝方」(3rd『Breeze』)にしていたんですよね。
登山:僕はバンドそのものが、現実なんだけど非現実的な側面もあるなと思っていて。たとえば、大学で会うような人たちもライブに来てくれるけど、ライブハウスという場所になっただけで、なんかちょっと変わるじゃん? ファンタジーとまでは言わないですけど……バンドって、現実なんだけど幻想的なところがある気がするんですよね。もともとバンドにそういうイメージがあったので、HALLEYでその答え合わせをしてる感覚もちょっとあって。そういうバンドの非現実性みたいなものを、作品に表象させられたらいいなとも思ってました。
だから最後の“Write Me a Love Song”は(現実に)帰ってくる時間にしようとして、弾き語りにしてみました。このアルバムを作る時に参照にしたのが『千と千尋の神隠し』で。トンネルを歩いている時間を作品にできたらいいなと考えていたんですよね。
INDEX
海外のミュージシャンが、ハウススタジオでレコーディングしている環境に近いことを俺たちもやりたかった。(高橋)
―「音楽として素晴らしい」の中には、シンプルに「音」がとてもいいという側面があるんですけど、制作はどのように進めていきましたか。市川豪人さんがエンジニアとしても編曲者としてもクレジットされています。同世代の方ですよね?
西山:実はHALLEYと出会った同じ日に彼と出会っているんですよね。
登山:デモ音源はLogic Proで作っているんですけど、最終のマスターはAbletonに起こしているんですよ。その作業をやる過程で、「もうちょっとこうした方がいいかもね」っていう意見が豪人からあるし、メンバーみたいな感じでアイデアを出してくれるので、アレンジにも名前が入ってます。
清水:HALLEYの6人目みたいな感じです。そもそもドラマーで、映秀。くんの後ろで叩いていたりもして。ドラムもうまいし、トラックメイクもやっているし。今回もドラムテックからレコーディング、ミックス、マスタリングまでやってくれました。彼は惜しみなく知識を共有してくれるんですよね。「どうやってこの音を作りましたか?」と聞かれると、豪人と彼の家の存在でしかない(笑)。
西山:クレジットに「STUDIO HALLEY」と載っているんですけど、あれ実は豪人の家です。みんなでそこに行って、ドラム以外の音を夜な夜なずっと録って。
登山:俺、6連泊くらいしました(笑)。
てひょん:ほぼ住んでましたね(笑)。
高橋:海外のミュージシャンが、ハウススタジオでレコーディングしている環境に近いことを俺たちもやりたかったし。
西山:演奏する側とエンジニアさんがめっちゃ近くて、コミュニケーションがすぐ取れる状況でやっていたことはけっこう大きいかもしれないです。今までリリースされた曲たちも、アルバムのタイミングでミックスを全部やり直していて変わっています。
―今の話から、特に手応えのある曲というと?
清水:“Lemonade”かな。
登山:俺も“Lemonade”を考えてた。
西山:僕は“From Dusk Till Dawn”だった。
―先に“Lemonade”について聞くと、みなさんとしてはどのあたりに手応えを感じていますか。
清水:そもそもレコーディング段階で、僕らの中で「この曲かっこよくね?」って何回か盛り上がった曲でもあって。ドラムのサウンドメイクも、ピアノやギターの音作りも、ミックスもマスタリングも、この曲で完成してきたというか。これを作ってアルバム全体の視界が開けた瞬間があったよね。“Lemonade”を完成させてから、必然的に“Comfy”、“From Dusk Till Dawn”とかも、「このプラグインで、こうミックスしていけば、いい温度になりそうだ」というのが見えました。俺の感覚では、マスタリングを終えて聴いた時にみんなで「これはやばくね?」みたいになった記憶がある。
全員:やばかったよね。
清水:ボーカルももちろん、ギター、ベース、鍵盤、ドラム、全部の演奏がかっこいいから。ロバート・グラスパーの『Black Radio III』とかR+R=NOWを参照して、敬愛するアーティストたちに対して「戦い」みたいなイメージがあった中で、“Lemonade”は特にコード進行とかも、そういうところを意識しながら作った曲でした。1日中『Black Radio III』と聴き比べて、ドラムのキック、スネア、ハイハットの3本勝負で「どれくらい勝ってるか」「キック、スネア勝ち。ハイハット負け」みたいなことをやってました(笑)。
てひょん:キュー・ミリオンというミックスエンジニアがいて、俺たちが参照してるほとんどの盤をその人がミックスしているんですね。だから結局、キュー・ミリオンとずっとタイマンを張ってたんだと思って(笑)。その人の音像の何がすごいって、全部粒立っているんですよ。“Lemonade”は「それぞれ5人が1本勝負」みたいな曲なんですけど、その中でもそれぞれが出るべきところはちゃんと全部聴こえるように調節できました。
清水:それぞれがかっこいいことをしてるから、かっこよさをちゃんと聴かせたいというところでめちゃくちゃ苦戦したよね。
てひょん:“Lemonade”、ベーシスト的にはどうでしたか?
高橋:きつかったですねえ。トラウマになるレベルで難しかった(笑)。一番苦戦しましたね。自分のやりたいことも入れつつ、“Lemonade”のフィールをどう混ぜていくかが難しくて。フィールはそれこそビート系のジャズに近いものがあって。でも頑張って詰め込んで帳尻合わせました。
清水:100%を目指そうとすると、ロバート・グラスパー、テラス・マーティンとか、まだまだこれから挑み続けなきゃいけない人たちが見えてきちゃうから。自分たちだったらどう言語化するんだろうというところに焦点を当てながら、自分たちのよさが見えるように、というふうに擦り合わせていった感じだよね。
てひょん:“Lemonade”を録りながらそれぞれの伸びしろも見えたし、でも今までできたものの中で一番納得のいくものでもあるし。課題と成果、両方が見えたから強い思い入れがありますね。
―“From Dusk Till Dawn”にはどういった手応えを感じているのでしょう。
てひょん:僕の感覚では、“Lemonade”はプレイヤーシップが前面に出ているけど、“From Dusk Till Dawn”はアレンジメントとか曲の構成で魅せた曲ですね。
西山:“Lemonade”は挑戦だったけど、“From Dusk Till Dawn”は「好きなものを全部詰め込んだ」みたいな曲。“From Dusk Till Dawn”は僕の好きなちょっと古いエッセンスとか、挑戦とは反対で自分の好きなもの、趣味、こだわりみたいなものを詰め込んだ感じがします。
清水:だって鍵盤は、ローズのサウンド、YAMAHA CPのサウンド、ハモンドオルガンのサウンド、アップライトも入って……詰め込みまくり(笑)。
てひょん:最後、大合唱の部分があるんですけど、あれも部屋で録って。でも男臭すぎて(笑)。裏声で録ったりしたんですけど、どうやったら女性っぽく出せるんだろうって。それもいい思い出だし、いい曲に仕上がったと思いますね。