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KiiiKiiiに見るK-POPの現在地。物語よりムード重視、Pinterest的な編集感覚

2026.2.24

#MUSIC

ミン・ヒジンの新レーベル立ち上げや、BTSの復帰、BLACKPINKのニューアルバム発売もアナウンスされるなど、注目の動向が目白押しな2026年のK-POP。1月にリリースされたKiiiKiiiの2nd EP『Delulu Pack』も、音楽好きの間で大きな話題となっている。セメントTHING、つやちゃん、DJ泡沫の3人が、『Delulu Pack』の魅力を紐解きつつ、K-POPの現在地について語る。座談会「What’s NiEW MUSIC」第11回。

『Delulu Pack』のPinterest的な編集感覚

—KiiiKiiiの2nd EP『Delulu Pack』が話題になっていますが、みなさんはどう聴かれましたか?

つやちゃん:クオリティ高いですよね。“404 (New Era)”とか“UNDERDOGS”とか、めちゃくちゃ完成度が高いなと思いました。決定的に新しいというよりは、近年のK-POPが築き上げてきた要素を集約して、整理し直したような印象を受けたんですよね。K-POP自体に、いろんな文化を統合していくという特徴があると思うんですけど、NewJeans感もあり、aespa感もIVE感もあって、いろんなものをごちゃまぜに統合してアーカイブ化している。それがミニマルに整理されてまとめられているのがポイントで、エディトリアル的というか、「全部盛りだけどスタイリッシュ」みたいな不思議な感じを受ける表現だと思いました。お二方はどうでしたか?

DJ泡沫(以下、泡沫):おっしゃる通りで、K-POPの特徴のひとつが、ゼロから新しいものを作り出すというより、編集能力が高いというんですかね。いろんなところから取り入れてきた要素をスタイリッシュにまとめるのに長けていて、その結果なんとなく方向性があるというのが長年の特徴かと思うんです。NewJeansもいろんなものを編集した表現だと思うんですけど、NewJeans以降の新しいものをプラスしてぎゅっと詰めたパッケージングで、「シールがいっぱい入っているバック」みたいなEPだなと思いました。

セメントTHING(以下、セメント):エディトリアル感みたいなものはすごくありますよね。ミュージックビデオが象徴的で、ホームビデオだったり、「Dance Dance Revolution」みたいなやつだったり、The Supremesみたいなシーンがいきなり出てきたり。いろんな要素を細切れにしながら、それを編集でひとつのものにしている。“404 (New Era)”という曲も、いろいろな過去のK-POPの要素を感じさせるものがありつつ、その細部のセンスの面白さで引っ張っていくみたいなところがあるじゃないですか。ビートの変化が面白かったり、選ばれているシンセの音であったり。既存のものに、見せ方、エディットの仕方で楽しく新しい質感を出していって、その作り方を隠すでもなくそのまま出している。ムードボードとかPinterestを見ているときの感覚がそのまま作品に落とし込まれたみたいに。

泡沫:まさにそれ。

セメント:そこがすごく面白くて。いまのアルファ世代とかデジタル世代の、好きなものをどんどんピンで刺していって、ブクマしていって、どんどん自分の中に取り込んでいくみたいな、そういう感覚がそのまま落とし込まれているなと思います。

セメント:EPのタイトルにある「delulu」というのは、K-POP界隈で流行っているスラングで、delusional(=妄想的な)をそういうふうにふざけて言ってるんですけど、「あなた、そんな実現するでもないdeluluを考えてるんじゃないよ」のように使われる言葉なんですね。でも同時に、そういうふうに自分を騙して騙してやっていくことで成功するんだ、という意味で、ポジティブなところで使われることもあるんです。

泡沫:日本語で言ったら虚妄、ポジティブな虚妄みたいなことですかね。

セメント:「delulu is solulu」っていう言葉があって、「虚妄の中に浸るのが解決策なのだ(delusion is solution)」という意味なんですけど、「思い込んでいれば実現するんだ」ということですよね。とにかくやっていかないとだめよ、みたいな。それをタイトルに付けているのも、「私たちはスターになれると思っています」という決意表明ですよね。そういうところも含めて、とにかく細部の面白さで引っ張っていく、そこで使われているものは全て既存のもの、というのが面白かったです。いまの世代の感覚が生でぎゅっと感じられるような、そういうEPになっていたなと思います。

バラバラなものをまとめる美学

泡沫:最後の“To Me From Me”っていう曲がちょっと意外というか、昔のラジオから流れてきたみたいな曲で、この曲だけ急にレトロ感を出してきたなと思ったら、プロデュース / 作詞 / 作曲にEPIK HIGHのタブロが入ってるんですよね。

セメント:あえて統一していないんだろうなと思いました。こういうバラバラなものを好きなようにまとめているのが、私たちの美学なんです、という宣言にもとれる。デビュー曲以来のブレイクスルーだなと思いました。

—いまお話にありましたが、今作に参加しているプロデューサーやミュージシャンは、どういう方々なんでしょうか?

泡沫:本当にいろいろです。K-POPでおなじみの北欧系のソングライターの人たちも関わってますし、LDN Noiseとか。

セメント:LDN Noiseは2010年代のK-POPに現れ、数々のヒット曲を残していったプロデューサー2人組ですね。

泡沫:そうですね、SHINeeとかで有名です。

セメント:あと、Balming Tigerのオメガ・サピエン(Omega Sapien)も参加していますね。

つやちゃん:いろんなプロデューサーが関わってサウンドがばらばらなのを、まとめ上げているクリエイティブディレクターのチョン・ヘウォンの力を感じるというか、よくこれだけの統一感を持ってまとめ上げられたなとびっくりしますね。

泡沫:STARSHIP(=KiiiKiiiの所属事務所)がどういう曲作りをしているのかちょっとわからないんですけど、大手の会社だと、年次のはじめにまとめて200曲ぐらいを買ったり、いろんな人にソングキャンプで曲を作ってもらったのを、いろんなグループに振り分けたりしているらしいんです。だから、「こういうアルバムを作るから、こういうふうな曲作ってくれ」というのとは、全く違うんですよね。

セメント:そうなんですよね。だから、他人のプレイリストを覗いてるような雰囲気もあるんですよね。この並びが醸し出す雰囲気、断片から伝わってくるものを味わってください、という、高度なことをやってますよね。雑然とした雰囲気から、なにか一貫したものが感じられるという。ムードのために音楽があって、メッセージのために音楽があるわけではないのだと思います。

泡沫:まさに本当に、ムードボードを見せられている感じですよね。

—音楽的な面での面白さも話題になっているようですが、どのようなところが高い評価を受けているのでしょうか?

つやちゃん:UKガラージ風の2ステップ感のあるサウンドとか、ちょっとディープハウスっぽいサウンドを感じられる曲もあったりとか、クラブミュージックの手法、多様なジャンルアプローチがなされているんですけど、その使い方がNewJeans以降の軽やかなニュアンスでブリーチされているので、聴きやすいけど先鋭的でもあるっていう、そういったところがウケているのかなと思います。

ミン・ヒジンの新レーベル「OOAK RECORDS」はどうなる?

—最近のK-POPといえば、LNGSHOTのデビューもありましたし、ミン・ヒジンが新しいレーベルOOAK RECORDSを立ち上げることも発表されましたね。

泡沫:ボーイズグループを発表するみたいで、メンバーの情報がティーザーにチラ見せされていて、早速突き止めている人たちがいましたね。

セメント:そうですね。NewJeansを制作していた振付師とか、フォトグラファー、映像担当、作曲家とか、ものすごく多くの方が参画してるんですよね。

泡沫:チーム「ミン・ヒジン」というか、NewJeansに関わっていた人たちがかなり入っています。あと、NCT WISHとかに関わっている人の名前もあるので、SMエンタテインメント時代の人脈もあるのかもしれないです。

つやちゃん:ティザーの映像を見ていると、面白いですよね。おそらくAIで生成されたレコードショップが映ってるじゃないですか。

泡沫:いろんな国のレコードショップが映ってますよね。どう見ても日本かな、っていうのもありますし。

OOAK RECORDSのInstagramには現在、23本の短いティザー映像がアップされている

セメント:リアルの店舗も作って、リアルとクリエイティブを混ぜていくみたいな、そういう施策なのかなと思いました。ミン・ヒジンも「いろいろアイディアがある」みたいなこと言っていたかと思うんですけど、ライフスタイル——アイドルを売っていくというだけじゃなくて、リスナーの生活全体を設計していくみたいな動線を作ろうとしてるのかなと、一瞬考えたりしました。

泡沫:関係あるのかわからないんですけど、ミン・ヒジンのInstagramにミナ・ペルフォネンの皆川明さんが登場していて、トートバッグに皆川さんが直筆で絵を描いたりしていました。今後何かあったりするんでしょうかね……?

BTSのカムバック、BLACKPINKのアルバム……2026年K-POPのこれから

—今月末にはBLACKPINKのアルバムリリースが、3月にはBTSの復帰もアナウンスされています。

泡沫:BLACKPINKは、出るのか出ないのか……。今回こそ出るのかな?

つやちゃん:今年に入って、ちょっと2016年リバイバルがあったじゃないですか。2016年って、BTSの世界進出への加速があったりとか、BLACKPINKのデビューとか、SHINeeが『1 of 1』というアルバムを出したのも2016年だったと思うんですけど、いまのK-POPのベースとなる下地を作った時期だったんじゃないかと思っています。10年後の2026年に、その手法を突き詰めた集大成のようなKiiiKiiiがデビューしたり、ミン・ヒジンがもう1回リスタートを切ったりとか、すごく象徴的だなと思いますね。

https://open.spotify.com/intl-ja/album/71QEBJY33oG0l5rqs2kR1c

セメント:そうですね。イ・スマンも帰ってきますしね。いったいどういうことをしてくるんだろうと思います。SMからも新人がデビューするし、ミン・ヒジンのボーイグループもデビューするし、2026年ってどういう年なんだ? っていうふうに思いますね。

泡沫:ここ数年ぐらいで、新人グループのスパンが短くなっているというか、売れるまでの期間が短くなっているぶんピークが過ぎるのも速くなっているので、リリースする方もバンバン出していかないと、みたいな感じなのかなとも思いますね。

セメント:たしかにサイクルはすごく速くなってきましたよね。いったいリスナーはこの購買サイクルにどこまで経済的に付き合っていけるのか、みたいなところもあります。

泡沫:1枚のアルバムについて何パターンも(商品を)出すというやり方が、いっこうに衰えないじゃないですか。最近は日本のシステムをちょっと導入して、コンビニ限定盤とかアメリカ限定盤とか、無限にパターンが増えてるんで、ファンの人は本当に大変だなと思います。その割にはアルバム全体の売り上げはピーク時より下がっているので。

つやちゃん:日本に関しては、K-POPからFRUITS ZIPPERとか国産のグループに移り始めているリスナーもけっこういる実感があって、勢力図が変わってきてる感じがしますよね。

泡沫:周りの人を見ていても、一周回ってK-POPからSTARTOのファンになったりしています。日本の場合は、本当に選択肢がいっぱいありますからね。

つやちゃん:そうですね。供給過多かもしれない。

「物語」よりも「ムード」。2026年のK-POPの美学

—最後に、全体的な部分で、現在のK-POPシーンをどうご覧になっているか、少し聞かせてください。

セメント:変化がすごく速いので、こういう方向性があると一口に言えないところがありますが、最近「コンセプトよりムードを大切にする」みたいな雰囲気が生まれてきているなと思っています。LNGSHOTとかKiiiKiiiもそうですけれど、メッセージのためではなくて、グループを通して表現したいムードのために、曲とかMVがある、というのが、なんとなく今後の流れになっていくのかなと思います。

https://www.youtube.com/watch?v=HJgdT15UT4k

泡沫:ちょっと前までは世界的に、ストーリー性、叙事がすごく重視されていて、BTSとかはそうですよね。物語にのめり込んでファンになる、みたいなパターンが第2世代、第3世代ぐらいまでは多かったんですが、それだと(ファンが)途中から入りづらいんですよね。後追いで好きになった人が、いつでも入れていつでも出れるという意味で、ムードというのは、軽やかな感じで良いのかもしれません。

セメント:感情的な同一性は、ファンダムの中ではまだ重視されていると思うんですけど、物語的な共感はどんどん薄まっている気がする。どんどん断片化されて細切れになって、その場ですぐ伝わるものがあることが重視されつつあるような気がします。

つやちゃん:泡沫さんがおっしゃった通りで、物語や文脈が複雑になっていくと、どこから入ったらいいかわからない。その点、ムードってすごく入りやすいですよね。ファッションの世界でも、たとえば「英国トラッド」と言うと、歴史が長いし、どういう文脈があるのかやっぱり勉強して入らないとなかなか難しい。一方で、最近の「バレエコア」とか「コケットコア」といった、美学重視のファッションを表すキーワードは、文脈なしに「世界観が素敵」と入っていきやすい。韓国カルチャーはそこがすごく長けているなと思っていて、たとえばCOYSEIOという韓国のファッションブランドは、ちょっとNewJeansっぽいというか、ムードを重視したコンセプトでブランド展開をしていて、そういう入口・間口の広さが既存のブランドと違うと感じています。

COYSEIOのルック

泡沫:「○○コア」という言い方って、そういう意味なんですかね? 最近KiiiKiiiみたいな雰囲気が韓国で「ロッテリアの壁紙コア」っていう呼ばれ方をしているんですよ。2000年代前半に、韓国のロッテリアの店内によく描かれていた絵があって、イギリスのジェイソン・ブルックスというイラストレーターの作品らしいんですけど、その人の絵柄、その人の描く女性というのが、KiiiKiiiやHeart2Heartみたいな最近のY2K的なイメージと近いらしいんです。それでいま「ロッテリアの壁紙コア」とか「ロッテリアの壁紙をオンニ」っていう言葉が出てきているみたいです。イラストを見ると、なるほどという感じではありました。

ジェイソン・ブルックスのリール

セメント:全体的なムードとか、ものの断片を愛好するのは、Tumblr的な考え方だなと思っています。いま初期のTumblrの美学が見直されていて、またブームになってきているんですけど、ああいう感覚でKiiiKiiiとかが作られているのかなと思うと、これも広義の意味で2010年代リバイバルなのかなと思ったりもしましたね。

あと、いまの時代の感覚ということで言うと、K-POPで人気のパン・ジェヨプという監督がいて、LNGSHOTの“Moonwalkin’”、KiiiKiiiの“GROUNDWORK”、CORTISの“FaSHioN”、IVEの“BANG BANG”などのMVを全部その監督が撮っているんですけど、彼が撮っている映像って、なんかちょっと気持ち悪いんですね。空の色が青すぎたり、人々の肌がすごくマットで、マネキンとかシリコンみたいな雰囲気が出ている。ハイパーリアル、現実であって現実じゃないみたいな感覚があるんですね。

https://www.youtube.com/watch?v=8NpCghW0Hkw

セメント:そういう美学を、ヨーロッパだとヤナ・ヴァン・ヌフェル(Yana Van Nuffel)という写真家が共有していて、彼女はジェイド(Jade)とかピンクパンサレス(PinkPantheress)、ローズ・グレイ(Rose Gray)を撮っています。共に、現実っぽいけれど現実じゃないみたいな、いまのデジタル世界に生きる若者たちの混乱みたいなものをビジュアルの中に取り込んでいる感じがすごくするんですね。そういう時代の感覚の変化を見られるのがK-POPの面白さだと思うし、今後もそういうムードとかを聴いていけたらなと思います。

https://youtu.be/l3bG0lj1yAA

KiiiKiii『Delulu Pack』

発売中

01. Delulu
02. 404 (New Era)
03. UNDERDOGS
04. MUNGNYANG
05. Dizzy
06. To Me From Me

https://kiiikiii.kr

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