YouTubeは、2023年夏に始動した「YouTube Music AI インキュベーター」を、3月21日(木)に日本でも開始したことを発表した。
「YouTube Music AI インキュベーター」とは、音楽制作に携わる人々が、音楽における生成AIへのYouTubeの取り組みに対して情報提供を行うプログラム。2023年にはYouTubeでの芸術性を保護する考えをまとめた「音楽AIの基本的な考え方」を制定し、アニッタ(Anitta)、ビョルン・ウルヴァース(Björn Ulvaeus)、デヴィッド(d4vd)、ドン・ウォズ(Don Was)、フアネス(Juanes)、ルイス・ベル(Louis Bell)、マックス・リヒター(Max Richter)、ロドニー・ジャーキンス(Rodney Jerkins)、ロザンヌ・キャッシュ(Rosanne Cash)、ライアン・テダー(Ryan Tedder)、ヨー・ガッティ(Yo Gotti)、Estate of Frank Sinatraなど、ユニバーサルミュージックグループ(以下 UMG)のアーティストや作詞 / 作曲家、プロデューサー等の参加が発表された。
日本では第1弾として、「初音ミク」などの開発で知られる、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社の協力が発表された。またUMGの日本法人との協働についても明らかにしている。
同プログラムの参加者には、GoogleのAIの研究部門であるGoogle DeepMindが開発した音楽生成モデル「Lyria」の早期アクセスが提供される。楽器とボーカルを備えた質の高い調和のとれた音楽の生成、アレンジ作業、そして出力される楽曲のスタイルや奏法に関する細かな設定を行なうことができるという「Lyria」。例えば、プロンプトにアイデアを入力するだけで、ジャンルを融合させたり、ビートをメロディーに変えたり、ボーカルにサウンドトラックを添えることが実現する。
さらに、UMGは、ローランド株式会社と、世界中の音楽アーティストやクリエイターを支援する戦略的パートナーシップを3月20日(水)に発表。このパートナーシップは、音楽制作におけるAIの応用についての方向性と意図を明確にしたいという両社の願いによって結ばれ、音楽とテクノロジーが交差するイノベーションの探求を目的としている。
音楽生成AIは、アーティストの制作の手助けになると共に、知識がない人々でも音楽を作ることができる未来を生み出すと期待されている。一方著作権の問題については議論の余地がある。
実際に起こった一例として、AIを使って制作されたカナダのラッパー・ドレイク(Drake)とシンガーソングライター・The Weekndのコラボ曲”heart on my sleeve”が挙げられる。2023年4月にリリースされ、TikTokで1500万回を超える再生数を記録。しかし、楽曲の制作に2人のアーティストは関わっておらず、「ghostwriter977」を名乗る人物が無断で制作したものであった。ドレイクとThe Weekndの双方が所属するUMGは、知的財産権の侵害にあたるとして、提携関係にあるストリーミング会社に警告を発し、現在は削除されている。
このように、アーティストの敵にも味方にもなりうる音楽生成AI。今回の各社の協定や取り組みが、音楽とAIが共存する未来を作っていくことが期待される。最後に、UMGとローランド株式会社が発表した「AIによる音楽創造のための原則」を引用する。
「AIによる音楽創造のための原則」
AI for Music ウェブサイト(英文) https://aiformusic.info/
私たちは、音楽が人間性の中核を成すものであると信じています。
私たちは、人類と音楽は切っても切り離せないものだと信じています。
私たちは、テクノロジーが長い間、人間の芸術表現を支え、そして持続可能な形で応用されてゆく中で、AIが人間の創造性をさらに広げることを信じています。
私たちは、人間が創造した作品は尊重され、保護されなければならないと信じています。
私たちは、責任ある、信頼できるAIには透明性が不可欠であると信じています。
私たちは、音楽アーティストやソングライター、その他のクリエイターの視点が尊重されなければならないと信じています。
私たちは、音楽に命を吹き込むことへの手助けができることを誇りに思います。