『第171回芥川龍之介賞』と『第171回直木三十五賞』が発表され、芥川賞は朝比奈秋の『サンショウウオの四十九日』と松永K三蔵の『バリ山行』、直木賞は一穂ミチの『ツミデミック』が受賞した。
『サンショウウオの四十九日』は「結合双生児」として出生した双子の姉妹の杏と瞬が主人公。父・若彦はその兄・勝彦の体内で成育する「胎児内胎児」として生を受け、勝彦が1歳のとき外科手術で取り出されたのだという。そんな勝彦の訃報を受け、姉妹は父と伯父の関係性について思いを巡らせながら、意識と身体との関係性という普遍のテーマに近づいていく。
著者の朝比奈秋は1981年京都府生まれ。医師として勤務しながら小説を執筆し、2021年に『塩の道』で『第7回林芙美子文学賞』を受賞しデビュー。2023年に『植物少女』で『第36回三島由紀夫賞』を受賞。同年『あなたの燃える左手で』で『第51回泉鏡花文学賞』と『第45回野間文芸新人賞』を受賞した。
同じく芥川賞受賞の『バリ山行』は、あえて登山路を外れる難易度の高い登山「バリ山行」を描いた物語。会社の付き合いを極力避けてきた波多は、同僚に誘われるまま六甲山登山に参加する。その後、社内登山グループは正式な登山部となり、波多も親睦を図る目的の気楽な活動をするようになっていたが、職人気質で職場で変人扱いされ孤立しているベテラン社員の妻鹿が「バリ山行」に取り組んでいることを知る。
著者の松永K三蔵は1980年生まれ、兵庫県西宮市在住。建築関係の会社に勤務するかたわら小説を書き、2021年に『カメオ』で『第64回群像新人文学賞』の優秀作に選ばれデビューした。なお、『バリ山行』は松永にとってデビューから2作品目で、芥川賞は初めての候補での受賞となった。
『ツミデミック』はコロナ禍の社会を舞台に、犯罪に手を染めたり、巻き込まれた人々を描いた短編集。新型コロナウイルスというパンデミックの中で揺れ動く人々の心理を映しとった。
著者の一穂ミチは1978年生まれ、大阪府出身。2007年に『雪よ林檎の香のごとく』でデビュー。2021年に『スモールワールズ』、2022年に『光のとこにいてね』で直木賞候補となり、今回3回目の候補で受賞となった。